先日、映画『シン・ゴジラ』のBlu-Ray、3枚組特別版というやつを入手いたしました。
映画本編の他に、沢山ある予告編やTVスポットを集めたものや、数々開催されたイベントの映像。また、撮影されたものの本編には使用されなかったアウト(未使用)テイクやNGテイク。プリフィズ(動く「絵コンテ」のようなもの)、ミニチュア特撮の撮影風景や完成前の途中段階でのCG映像など、好きな人にとっては垂涎ものの、お得感満載のディスクでありました。
私が特に関心を持ったのは、本編で使用されなかったアウトテイクです。そこには予想外なくらいに、「被災者」たちの動向を映したテイクが多く収められていました。
第2形態ゴジラの上陸に、恐怖とパニックで、てんでんばらばらの方向に逃げる人々。本編でも一部使用されていますが、かなり様々なヴァージョンが撮影されては、使用されなかったことが分かります。
商店街を逃げる人々。信号機が動かなくなってしまったために起こる交通渋滞。乗り捨てられた車に、あわや事故をおこしそうになる車。何が起きているのかわからず、呆然としている人たち。
そんな中、高台の神社へ逃げる人々のテイクがありました。まるで津波から逃れるかのように、高いところ高いところへ逃げる人々。
階段のところへ鈴なりになって、下で起きでいる状況を見つめる人々。「早く逃げてくださーい!」と叫び続ける人がいる。
この状況はどこかで聞いたことがある。そうです、あの3.11で、避難した方々がとった行動にソックリなんです。
アウトテイクにはこんなテイクもあります。ゴジラが去ったあとの被災地を視察する、政府要人たち。普通の商店街を歩いていくと、ある特定の一画から突然ガレキの山が広がっている。ゴジラが通った場所と通らなかった場所とがはっきりと分かれているんです。
これはまさしく、私が陸前高田や大船渡、気仙沼などでみた被災地の光景そのままでした。津波が来たところと来なかったところとの明暗がはっきりと分かれたあの光景を見た時の、胸が締め付けられるような思いは今でも忘れられません。
庵野監督は東日本大震災のことを相当意識していたようです。それは映画本編を観るだけでも十分伝わってくるものですが、こうしたアウトテイクを観ることによって、それがよりはっきりと分かりましたね。
すごく印象的なテイクもあって、それは避難所に入れず、車中泊を余儀なくされた夫婦のテイクでした。ほんの数秒ほどの、さほどに長くないテイクです。
愛犬とともに車の中でただ座っている夫婦を捉えたテイクと、もう一つ、ゴジラが機能停止した後、夫婦が車を降りて愛犬を散歩させようとする、それぞれほんの数秒のテイク。これは震災の時にも実際にこういう方々がおられたわけで、非常にリアリティがあるし、最初のテイクで不安感を、二つ目のテイクで危機が去った安心感を表すテイクとして、非常に良いテイクだなと思いました。他のテイクもそうですが、このテイクは特に、使わないのが勿体ないと思わせたテイクでしたね。
尺の問題やらテンポの問題やらで、使わなかったテイクがこんなにあった。完成した映画自体は素晴らしいものでしたので、これはこれでよかったのだろうとは思いますが、使わなかったテイクにこんな良いテイクがいっぱいあったのを知って、益々この映画が好きになったし、庵野監督の震災への想いも強く感じました。
震災後の日本において、どういうゴジラを撮るべきなのか、「今」の日本で作るべきゴジラ映画とは?あくまでエンタテインメント、面白い映画を撮るということを大前提としながら、そうしたことを問い続け、作り上げた庵野監督の意欲。アウトテイクを通して、そのことをまざまざと感じさせていただきました。
良い収穫でした。
できれば、こうしたアウトテイクを加えて新たに編集しなおした、特別編集版なんてものを作って公開してもらえると、面白いんじゃないかなあと、ちょっと思ってしまった(笑)
いやいや、大変なのはわかってます。あくまでも私の勝手な願望であります。
でもちょっとは考えてくれないかなあ……(笑)
私もきっとそうなったらパニックになると、逃げ惑うと思います…。
庵野監督の様々な思いに改めて敬服の意を表します。