写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

親の目線

2017年04月19日 | 生活・ニュース

 数年前から、定期的に検診で通っていた歯科医院を変えて、開院したばかりの医院に行くようにした。歯のX線写真を撮った後、右下の奥歯の根元に歯周病で膿がたまっているので、歯茎を切開して取り除いたほうがよいと言われた。

 「その手術って、痛いですか?」と聞くと、40歳くらいのまだ若い医師は「麻酔をかけてしますので痛みはありません。30分くらいで終わる簡単な手術です」と、いとも簡単そうに言う。少し悩んだが、次の週、手術をしてもらうことにして帰ってきた。

 手術当日、朝一番に出かけた。先生と顔を合わせた途端「左奥歯でものを嚙むとき、ときどき圧迫感を感じる時がありますが、もしかして左下の奥歯が悪いのではありませんか」と気になっていたことを聞くと、X線写真を再確認した後「いいえ、右下の歯です。左下の歯は一部当たりの強いところがありますので、あとで削っておきましょう」ということで、右下の奥歯の手術が始まった。

 「はい、麻酔注射をします」と右下の歯茎に注射をしているようであるが、腕の注射と違ってチクリとするような痛みは全くない。5分くらい放置した後、「さあ、始めます」と言いながら先生がやってきた。舌の先で右奥歯の辺りを探ってみると、触った感覚がはっきりと分かる。

 これって、麻酔が効いていないのではないかと思い、「先生、麻酔は効いていないのではないでしょうか。感覚がありますが……」と聞くと「いいえ、大丈夫です。効いていますよ」と優しく答えてくれる。いよいよメスを入れての手術が始まったが、痛くもなんとも感じず、口を大きく開けているだけの間に縫合までの全てが無事終わった。

 「1週間後に抜糸しますので来てください」と言われ、しびれの残る右奥歯を舌でそっと労わりながら帰ってきた。歯の手術なんて久しぶりであったが、まだ若い医者に向かって、「左右を間違っていないか」とか、「麻酔の効きは大丈夫か」とか、いらぬ質問をしたことを少し反省はした。

 医者とはいえ我が息子と同年配の男とあれば、そんな基本的なことさえ確認したくもなる「親の目線」、分かっていただけますよね。