写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

巨大アーチ

2012年05月29日 | 季節・自然・植物

 昼過ぎ、サンデッキで新聞を読んでいた。「お父さ~ん、お客さんよ~」。玄関の外から奥さんの大きな声が聞こえた。誰だろう、外に出て見ると裏の団地に住む顔なじみのOさんであった。「どうしました?」「いやいや、私の里から面白いものを持って帰ったのですが、ちょっと大きすぎて使えないので、お宅ではどうかと思って」という。

 話を聞いてみた。「錦町に兄が住んでいる。溶接機を使って鉄棒製の大きなバラのアーチを作ってはみたが、バラ作りは難しい。いるなら持って帰れといわれた。幅は2.3m、奥行き0.5m、高さが2.1mもあるため、2つに分断して軽トラで持ち帰った。庭に置いてみたが、いかにも大きすぎる。使わないので、欲しければ上げますよ」という。

 Oさんの後に付いて、奥さんと現物を見に行った。家の前の道路に置いてある。「うおっ、おおきいな~」、第1印象であった。「でも、これくらいあった方が、つるバラを巻きつけるにはいいと思うけど」と奥さんはまんざらでもなさそうな顔をしている。「じゃあ、もらおうか」。我が家に引き取ることが決まった。

 1時間後、溶接して一体となったアーチが、軽トラに乗せられてやってきた。重さは2人で抱えられるくらいだ。バラ園の前に置いてみると、そんなに大きくは見えないが、やっぱり大きいか? 庭の真ん中に仮置きし、まずは塗装である。赤い錆止め塗装を開始。奥さんにも刷毛を持たせて下の方を、、私が脚立に乗って高いところを塗っていく。刷毛で丸棒を塗っていくのは結構厄介なことが分かった。

 1時間後、きれいに塗りあがった。離れた所から椅子に座って眺めてみた。思っていた以上に立派なアーチになっている。明日は上塗りをするが、さて何色がいいのか。グリーン、白、黒、赤、青? 色を決めるのは奥さんの権限。私は下請けでただ塗るだけ。小さな家と菜園があるだけなのに、毎日他力的に、何やかや仕事が舞い込んでくるこの季節ではある。バラ園も華やかなピークが過ぎた。今日は空もどんよりとしていて、やがてやって来る梅雨を思わせるような朝だ。


座り話

2012年05月28日 | 生活・ニュース

 夕方の散歩から帰ったとき、つるバラが巻きついているラテスの一部が壊れているのが目についた。ドリルを持ち出して直した。家に入ろうとした時、後ろから声がかかった。「このつるバラはよく咲いていますね」。

 振り返ってみると、60数歳の小柄で、髪は短く刈り上げた精悍そうな顔の男が笑顔で話しかけてきた。ウオーキングシューズを履いて散歩の途中らしい。初めて見る顔であった。バラのことは奥さんの所掌なので詳しい説明は出来ず、話を合わせるくらいにしておいた。

 私の興味はその男にあった。「お家はどちらなんですか?」と聞くと、私の散歩コースにある比較的新しい住宅街の一画であった。「あっ、ガレージに置いてある車のナンバーが○○○○と数字がそろっている、あの家ですね」と言うと、そうだという。私の観察眼に驚いた様子。

 庭の手入れがよく、植木や草花が所狭しに植えてあるおしゃれな家だ。散歩しているとき、いつも横目でこの庭を愛でながら通り過ぎていた。車のナンバーにもこだわりがありそうだ。どんな人が住んでいるのだろう? そんなことを思いながら眺めていた家の人であった。

 単身赴任で転々とし、定年となった昨年戻ってきたという。故郷は遠く、岩国には顔見知りはいない。自治会のメンバーに入れてもらい、これから地域のために少しでもお役に立ちたいと前向きである。山登りが趣味だという。北は利尻・礼文、南は屋久島までのいろいろな山に登っている。もちろん岩国近郊の私が登ったことのある山も制覇済みという健脚である。

 そんな話をしていたら奥さんがコーヒーを入れてくれた。ガーデンチェアに座って現役時代の話を聞いた。海上自衛官だったという。私の知らない興味ある体験談が次から次へと出てくる。短い時間ではとっても聞ききれない。7時半、辺りも薄暗くなってきた。「今度は我が家でお話しましょう」と言われて、この日は別れた。気のいい元気な人と知り合いになれ、散歩中の楽しみが一つ増えた。


面積効果

2012年05月23日 | 生活・ニュース

 その昔、駅前の飲み屋街を歩いていると、派手な大きな文字で「改装オープン」と書き、店の装いを一変させて、新たにスタートする店があった。入ってみると、店内はきれいに改装されてはいるものの、ママもホステスさんも以前のまま。改装オープンといいながら、中身は相変わらずであった。

 それと似たようなことではあるが、4月の初めから家の外壁の取り替えという改装工事をやった。5月の半ば、1.5か月もかけてやっと完了した。期間中、雨が降ったり、連休があったり、はたまた板金部分に思いがけない雨漏りが発見されたりで、予定外の工事が加わっての工期は大幅延長と相成った。

 その間、入ってきた職人さんは、足場、サイディング、大工、板金、シール、塗装、産廃処理屋さんなどで、入れ替わり立ち替わりの大工事。毎日10時と3時には奥さんはお茶やお菓子を出すなど忙しい。工事中は遊びに出ることも出来ず、工事をじっと見守るだけの1.5か月がようやく終わった。

 全てが終わり、家を覆っていたシートが外された。離れた所から初めて全景を眺めて見た。「おっ、中々いけてるじゃないか!」。奥さんと2人、思わず顔を見合わせて満足げににんまりとする。新築してから25年ぶりのリフォームである。傷んでいた個所は全て補修してもらった。これでまた安心して住むことができそうだ。

 外壁の一部を取り換えたが、ひとつ不思議な現象に出くわした。既存の白いサイディングとは違って、同じく白色系ではあるが、ややベージュがかったものを選んだ。小さなサンプルで見たものとは違って、外壁に貼り付けたものを眺めて見ると、思っていた色よりも明るく見える。

 これは「色の面積効果」といい、 同じ色でも大きな面積と小さな面積とでは色の見え方が違ってくる。面積が大きくなると、より鮮やかに、明るく感じられる。住宅の外装色などでは顕著に現れ、明るい色はより明るく、鮮やかに 見えるという。

 しかし、出来上がった外観は悪くはない。思っていた色とやや違ったというだけである。こんなこともありながら工事は無事完了。この年になって色の道をまた一つ学んだ。この道はいつか来た道、いやいや、なかなか奥が深いワイ。


日食観察

2012年05月22日 | 生活・ニュース

 5月21日午前7時半を、外に出てじっと待った。全国各地それぞれで何十年ぶりに金環日食が見られる時刻である。思い起こせば子供の頃、ガラスをローソクの煙で曇らせたり、色のついた下敷きをかざして日食を仰ぎ見たことがあった。

 あれからうん十年が過ぎた。何日も前からテレビで「金環日食をみんなで観察をしよう」との声かけが始まっていた。観察するにあたっては、眼の保護について、あれこれときめ細やかに注意を喚起している。裸眼ではもちろん、ローソクで曇らせたガラスや下敷きなどは何をか言わんや。そこは専用の「観察メガネを買って見て下さい」と説明していた。

 そんなある日、近くのコンビニへ行き店を出ようとした時、「金環日食メガネ」と書いたものが箱に入れられて置いてあった。手に取ってみると結構な重さを感じるしっかりとした作りの品物であった。「買ってみようかな」と思って値段を見ると、なんと1,480円と表示してある。ちょっと高い。買わずに店を出た。

 1回使ったら用をなさないようなものは、せいぜい数百円程度にしてほしい。そんなことがあって、何の準備もしないままに当日の朝を迎えた。テレビでの実況をきれいな画面で見るもよし。しかしこの際、やはりこの目でじかに観察してみたい。天体ショーの本番を目の前にして慌てて家にある引き出しという引出しを開けて適当な小道具を物色した。

 あったあった。子供が使っていた濃い緑色の下敷きが出てきた。「下敷きなどではいけません。眼を傷めます」と何度もテレビでは言っていたが、ここはひと工夫して観察することにした。7時半、ショーは佳境に入った。くだんの下敷きを太陽に対して大きく斜めに構えると、まったく光は見えない。そこから少しずつ正対する方向に向けていくと、くっきりと金環に近い日食が観察できた。

 まずは観察大成功。2、3回、ちらっと見るくらいなら、こんなもんで何ら問題はない。眼に対する害は、明るさと観察時間にも依るのだろう。何十年前に比べると日食観察のしかたも、随分厳格になってきた。観察の仕方くらいは、自分で考え自分で判断をすればいい。自分流の古式流儀で観察しながら、こんなことを思った。今朝、まだ眼は痛くない。
  (この写真はなんでしょう。金環日食に見えませんか?)


デッキで朝食を

2012年05月17日 | 生活・ニュース

 半世紀前の1961年、オードリー・ヘプバーン主演で「ティファニーで朝食を」という映画が上映された。ニューヨークを舞台に、自由奔放に生きる女性をヘプバーンが演じた。題名は「ティファニーで朝食を食べるご身分」という例えのようで、ティファニーとはニューヨーク5番街にある高級宝石店のこと。日本でいえばさしずめ「銀座で朝食を」というところか。

 ヘプバーンも、この映画の題名も主題歌「ムーン・リバー」もよく知っているが、映画を見たことはない。この映画の舞台となったティファニーの支店が日本にもあるが、そんな高級な店に入ったことはない。それでも街で店の名前を見付けたときには、いつも「ティファニーで朝食を」という映画の題名を思い出す。 

 ニューヨークの5番街、いつかは行ってみたいと思わせる場所である。洗練された街にある「ティファニー」で朝食をとるという行動がなんとなくおしゃれで、真似ごとでもいいから一度はこんなことをやってみたいと常々思っていた。

 朝食前の今朝、新聞を広げていたとき「見て見て、今朝はこんなにたくさん採れたわよ」と、奥さんがにこにこしながらテーブルの上に両手いっぱいのイチゴを置いた。ここ数日、毎朝こんなことが続いている。菜園に植えている30本のイチゴの苗が成長し、毎朝たくさんのイチゴを提供してくれる。

 イチゴ大好きの奥さんが早速「今朝はこれでサンドイッチにしましょう」といいながら、トーストの上に薄切りのイチゴを敷き詰め、コンデンス・ミルクをかけている。窓の外を見ると久しぶりに朝日が眩しい。「こんな日はデッキで朝食しない?」を合図に、デッキの緑陰にテーブルを移動させる。「デッキで朝食を」、か……。

 高級宝石店ならぬ、板敷きのデッキの上でコーヒーとイチゴでの朝食。これはこれで一興。イチゴトーストを食べながら頭の上に目をやると、ヤマボウシの白く小さな十字の花が気のせいかプラチナに見えてきた。