ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

時生(トキオ)

2017-06-09 21:39:33 | 本のレビュー
  
  「時生」東野圭吾 講談社文庫

これも、図書館で借りてきた本。今まで出版された東野圭吾の本は、ほとんど読んでいるんじゃないかと思うのだが(つまり、結構ファン)、この本はまだ手をつけていなかった。なぜか、というと、冒頭シーンからして、難病の息子が今にも死んでしまいそうだという悲しいシーンから始まるのだ。
あらすじ紹介のところをざっと読んでも、不治の病を患う息子(まだ、17歳の少年にすぎないのに)に最期の時が訪れそうになった時、その父親である主人公が、自分の若い時に息子――トキオに会っていたという不思議な思い出を語りはじめる、というストーリー。
時を超える、という一種のSFで、こういうのがとても好みのはずなのに、今までどうしても読む気がしなかった。なぜって、エンターティメント小説が悲しくあってはならない、という思いこみがあったから。
大体、年端のいかない少年が病気で死ぬなんて悲しすぎる。

しかし、そんな思いこみをこの際、取っ払って思いきって読むことにした。結果は、やっぱり面白い!

「やっぱり、希代のストーリーテーラーねえ」とページを繰る手がとまらず、真夜中まで読みふけってしまった。さすがに、くたびれて三分の二以上読んだところで眠ってしまったのだけれど……。

主人公の宮本拓実は、二十年前、浅草の花やしきでトキオと名乗る不思議な若者に会ったことを思い出す。彼は、拓実の「遠い親戚のようなものだ」と名乗り、その後をくっついて歩く。自分のことを色々知っている、この若者は誰なのか? 
拓実の方でも、トキオに不思議な親愛感が湧いてきて、二人はやがてともに行動するようになる。複雑な成育歴を持ち、自堕落に生きてきた拓実の前から、突然恋人の千鶴が消える――彼女はどこへ行ったのか? そして千鶴を追う拓実たちの前に立ちふさがっていたのは、大がかりな犯罪網だった――というのが大まかなストーリー。

難病で若くして死なざるを得なかった息子が、そのいまわの際、過去へタイムスリップして自分の父親と出会う――これだけでも、十分ファンタジックな魅力たっぷりの物語になるはずなのだが、そこにミステリーの仕掛けやアクションを持ってくるのが、さすが東野圭吾。
物語の設定や、文章の語りはリアリティを感じさせるというより、ただひたすら面白い! 勢いやはずむようなリズムがあって「読ませる」のである。


「人は、未来のためだけに生きるのではない」。これは、トキオが何度も語る言葉だが、彼を待つ運命や、過去・現在・未来を包括する壮大な時間に思いをはせたら、人間の生とは、その場かぎりのものではない、という信念が生み出されるのかもしれない。
この本を読了した後、お茶を飲むために立ち上がったのだが、「人の運命って、メビウスの輪のように、どこかで未来や過去につながり、決して終わりのないものかもしれない」なんて思ってしまった。
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1 コメント

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Unknown (神崎和幸)
2017-06-10 17:41:45
こんにちは。

自分も「時生」読みましたよ。
面白いですよね。
終わり方を本当に良かったと思いました。
そのうえ親を思う気持ちが上手く表現されていると感じましたよ!

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