ノエルのブログ

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ジェシージェームズの暗殺

2023-01-14 22:51:55 | 映画のレビュー

映画「ジェシージェームズの暗殺」のDVDを見る。実いうと、これで2回目。

最初見た時は、「何か凄い映画を見たな」という感じで、はっきりとした印象が定まらなかったのだが、再び見終わっての感想——実に、素晴らしい、そしてビターな味わいのウェスタンもの。

ジェシージェームズという名前を、寡聞にして知らなかったのだが、実はビリーザキッドと並ぶ、西部のアウトローらしい。いわく、世界で初めて銀行強盗をした犯罪者。兄と一緒に、ギャング団を組み、列車強盗など幾多の犯罪に手を染めていた。

これだけなら、単なる違法者だが、ジェシーは、ハンサムであり、強盗をする際にも、労働者や女性に手荒なことをしなかったということから、義賊として、伝説に残るヒーローとなったらしい。

映画は、このジェシーを天下のブラピが演じるというのだから、それだけでも興味深々。物語は、ジェシーのギャング団に、ロバート・フォードという若者が、仲間として入り込むことから始まる。この時、ロバートはまだ二十歳という若さで、子供の頃から、義賊ジェシーを熱烈に賛美していたのだ。 ギャング団には、ロバートの兄のチャーリーも加わる。

このままいけば、ジェシーを首領とする無法者の活劇が見られると思うでしょう? しかし、ことはより、複雑にねじくりかえるのだから、面白い。

ブラピ演じるジェシーは、この時34歳という男盛りで、賛美者があまたいようというのもうなずけるカッコよさなのだが、気さくで陽気な反面、眉ひとつ動かさずに、殺人を犯す非情さも併せ持つ。 今までどんな役を演じていても、どこか軽やかな持ち味だったはずのブラピが、この役では陰りを帯びた、すごみを感じさせる。

やっぱり、役者っていうのはすごいなあ……。 

しかし、この映画での主役は、実はタイトルともなっているジェシーではなく、彼を裏切り、暗殺するロバートと言っていいのだ。強いあこがれが、一人の若者の内で、どんな風に憎しみへと変わり、彼が偶像を裏切る卑怯者となっていったかを、ロバート役のケイリーアフレックスが、その視線や表情の一つ一つに浮かび上がらせて、圧巻である。

司法当局と取引し、ジェシーを暗殺することを決意するロバート。そして、彼は兄のチャーリーと共に、ジェシーの家で彼のふいをついて、銃殺する。

そして、これが時代がうかがえて興味深いのだが、当時犯罪者の死体は写真にとられ、人々が見に来たのだそうな。ジェシーの死体は氷漬けにされ、アメリカ中を回って、娯楽の対象となったらしい。それだけ、ジェシーを断罪する気持が強いのかといえば、あにはからんや。

ジェシーの暗殺の一部始終を、これまた素人劇にして、観客に見せてまわったロバートに対して、人々の視線は冷たかった。彼に「卑怯者!」と叫び、自分たちの共同体から遠ざけようとする。

「自分は、若すぎて、民衆の心理がわからなかった」とロバートも自覚するのだが、彼の末路は、裏切り者がみなそうであるように寂しいものだった。 酒場を開くも、人々は彼に話しかけようとはせず、かつてのロバートと同じように義侠心にかられた男が、彼を暗殺した時も、人々の同情をひくことはなかった。(この、ロバートを殺した男が、人々の嘆願書で、釈放されたというのに)

仕事場である酒場で、突然、背後に暗殺者がやって来る。向けられた銃口に向かって振り向いたロバートの冷めた目と顔のクローズアップと、そこに流れるテロップーー

「彼が最後の言葉を発する前に、その目からは光が失われた」

何という、鮮やかなラストシーンだろう。役者も、映像も、脚本もすべて、素晴らしい! 

これほどまでの演技を披露するのだから、ただ者ではないと思ったのだが、やっぱりゲイリーアフレックスは、アカデミー主演男優賞のオスカーを獲得していた。やっぱりね。

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