ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

地球星人

2021-06-30 10:56:16 | 本のレビュー

村田紗耶香の「地球星人」を図書館で借りて、読む。

村田さんの作品は、「コンビニ人間」しか読んだことはないのだが、今度の「地球星人」もシュールな味わいで、とても面白かった。

主人公は、自分を「ポハピピンポボピア星」からやって来て、地球人の間にまぎれて暮らしているのだと感じている少女、奈月。彼女は家族からも周囲の人からも「なんとな~く」疎外感を感じているのだが、自分によく似ていて、どこか植物質な感じのする従弟由宇と、幼い恋をする。だが、二人は会えるのは年に一回の夏、過疎地すれすれの山奥の祖父母の家で親戚一同が集まる時だか。

由宇も自分を宇宙人だと信じていて、自分の母星へ帰るための宇宙船を待っている。

彼らは自分たちの結びつきをより確かなものとするため、結婚式まであげるのだが、それが大人達にばれて、引き裂かれてしまう。ここまで読んで、次はどうなることかと思っていたら、あっという間に年月が飛んで、草深い「秋級(あきしな」の田舎から、千葉のニュータウンに場所も飛び、奈月はすでに結婚までしている。

しかし、大人になった今も、人間社会には溶け込めないものを感じている奈月。彼女にとって、人のいる社会は、「人を生産することを、無言のうちに強制する」人間工場であるのだ。自分が部外者であることを知られることを恐れつつ、その反面、人間工場の部品として生きるよう洗脳してほしいと願っている奈月。

彼女が伴侶に選んだのも、ネットのサイトで出会った、「肉体的接触をいっさい、おことわり」の青年。二人の奇妙な生活は、外には普通と見せかけながら、平和(?)に営まれているのだが、そこへ無人となった秋級の家に、従弟の由宇が一人住んでいると聞いた時から、はっきり不穏な旋律を奏で始める。

職を失った都会育ちの夫が、「今まで話に聞かされていた秋級の土地に行ってみたい。田舎は僕の憧れなんだ」と言いだしたことから、奈月は夫と共に、数十年ぶりに、山奥の家に足を運ぶのだが、そこで待っていたのは、由宇だった――。

どうですか? なかなか面白そうな話でしょう? この僻地の一軒家に勢ぞろいした三人は、互いに反発したり、好意を持ちあったりしながら、ついには「自分は、人間工場の部品ではない。ポハピピンポボピア星人なのだ」という認識を新たにし、裸で暮し、近隣の土地から野菜などを盗んで暮すようになる。実言えば、奈月は小学生の時、自分の通っていた学習塾の先生から、こっそり性的虐待を受けていたという過去を持っていた――その復讐のため、ある夜、先生の家に忍びこみ、先生を惨殺した。

その真相を数十年ぶりにかぎつけた、先生の両親が復讐のため、秋級の地までやって来たのだが、奈月たちは逆に彼らを殺してしまう。ちょうど腹が減ってたまらなかった奈月や由宇たちは、先生の両親の死体を「豚を解体するように」ノコギリで処理し、料理して食べてしまうのだ。

「……地球星人の肉はおいしかった」と結ばれている文……この素晴らしきショッキングな展開。ここまで来たら、異星人になるというより、人間やめなくちゃいけないよ///

これまで似た小説を読んだことがないためもあるのだけれど、とても面白かった。文章も密度が濃いとかアクが強いというのではなく、けっこうさらさらと読める。村田紗耶香――この作家って、本当にユニークな感性をしている。「コンビニ人間」といい、本人は一体、どんな人なのだろう?

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アデンアラビアというお店

2021-06-23 09:44:36 | アート・文化

このところ、ずっと「アデンアラビア」という言葉が、頭から離れない。もちろん、ポール・二ザンの書いた素晴らしき名作の名前ではあるのだけれど、

アデンというエキゾチックな語感。それがアラビアという砂漠や香料、椰子の茂る土地と組み合わされると、何ともうっとりさせられるイメージを運んでくれるのだ。

そんなことをつらつら思っていたら、広い日本には「アデンアラビア」をそのまま店名としたカフェもあることを、ネットで知った。そのお店は、岐阜県は多治見市というところにあるらしい。

上が、そのお店の写真なのだが、やっぱりカフェというより、昔なつかしき「喫茶店」を彷彿させるウッディーなムード。でも、行って見たいなあ……このコロナ禍がおさまったら、ふらりと立ち寄ってみたい。

とりたてて、アラビアを連想させる内装ではない――しかし、イエーメンの都市「アデン」を冠した名前をつけられたお店。ここから、わたしの妄想が始まるのだが、きっと若かりし頃、二ザンの「アデン、アラビア」を読んで深く感動した初老の店主が、この名をつけたのではないだろうか?

しっとりしたサンドイッチやステーキ、甘いケチャップのからむナポリタンスパゲッティが作られてゆく厨房。そのカウンターにはひっそりと「アデン、アラビア」の本が置かれているのかもしれないな。

 

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梅雨の日曜日

2021-06-20 16:30:46 | ある日の日記

昼下がり、離れでティータイム。今日は、電器屋さんに、故障していた掃除機を二つ取りに行った帰り、パティスリーに寄って、シュークリームを二つ買ってきました。

ちょっと、テーブルの上がごちゃごちゃしているけど、紅茶と一緒に頂いたシュークリームーー美味しかった

最近、ヒッチコックの映画を立て続けに見ているのですが、「断崖」はあまり、傑作とは呼べないなあ、と思ったりしています。

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縛り首の木

2021-06-19 16:52:40 | 映画のレビュー

映画「縛り首の木」を観る。主演は、永遠の二枚目ゲーリー・クーパー。共演は、「白夜」や「カラマーゾフの兄弟」にも出ていたマリア・シェル。

実は、寡聞にしてこの映画のタイトルすら知らなかった私――でも、とても面白かった! こんなに面白く、好みにかなう映画を観たのは久々と言えるほどで、おかげでその日一日、とても充実していました。

これは、ジャンル的には、「西部劇」。西部劇って、やはり荒っぽく、何かと言うと、銃を取り出し、容赦なく人を殺すシーンが出て来るもの。そして、出て来る人物は、無法者の面影を背負ったヒーロー。

この「縛り首の木」もその典型から外れてはいず、主演のゲーリー・クーパーは、どうやら暗い過去を背負っているらしい流れ者の医師(ジョー・フレイル)。彼が、砂金を泥棒しようとして、撃たれた青年ルーンを拾い上げ、その罪を黙ったやる代りに、診療所の助手に雇うところから、物語がスタートするわけですが、何と言っても、ゲーリー・クーパーが格好いい!  あたかも死に急いでいるかのような、虚無的な雰囲気を漂わせている医師を好演しているのですが、彼の苦み走った美貌がまさにはまり役。

地の果てと言ってよい、西部へやって来た彼の前に広がっているのは、一攫千金を狙うべく各地からやって来た、人々が住む集落。多分、ゴールドラッシュ時代の西部というのは、本当にこんな風景があったのでしょうね。

そこでクーパーは、金のない家族からは無報酬で診療するなど、情に厚い面を見せますが、「赤ひげ」的善意の医師かと思えば、さにあらず。夜になると、酒場へ出かけ、荒っぽい賭け事に時間を潰しています。そこで、彼の過去がぼんやりと語られているのですが、「ずっと遠くの街に、腕の良い医師が住む大邸宅があった。だが、そこで彼の妻ともう一人の人間が燃え落ちた屋敷から発見された」という、何とも陰惨なもの。

事実、クーパーは酒場で「もう一度、家を焼くつもりか」と荒くれ男から因縁をつけられなどしています。

そんなある日、馬車が強盗たちに襲われ、たった一人娘が生き残る。その娘エリザベスを、集落の人々を手を分けて探すのですが、砂漠で発見された彼女は重い火傷を負い、視力も失っていました。そのエリザベスを治療のため、ジョーが診療所の隣の小屋に連れ帰る――というのが、前半のストーリー。

名医であるジョーの治療のおかげで、エリザベスは焼けただれた火傷も治癒し、視力も取り戻した訳ですが、彼女の求愛をすげなく撥ねつけるジョー。しかし、彼女は「この集落で暮す」と宣言し、ルーンと共に出て行ってしまいます。二人が計画したのは、砂金を見つけること。しかし、そのための設備費をこっそり出していたのは、ジョーだった……エリザベスが金鉱を発見するなどの大ドラマがあったかと思えば、最後は縛り首の木で処刑されようとしていた彼を金鉱の利権と引き換えに救ったのが、彼女だというハッピーエンドなのが、爽やかな後味を残しています。

              

「俺は、縛り首の木の下で、新しい愛を知った」というナレーションが流れ、エリザベスのもとに跪くクーパーのクローズアップ……実に、素晴らしい!!

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