ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

村上春樹present白石加代子「雨月物語」

2023-10-01 16:15:35 | アート・文化

先月の28,29日と東京へ行ってきた。いつものように、銀座の「ホテルモントレ・ラ・スール銀座」に泊まる。

今回の目的は、新宿の大隈記念講堂で行われる村上春樹と白石加代子の朗読と対談会に出席するため。夜の19時から行われた朗読会に参加。

   

講堂正面に掲げられた看板が、これ。その名の通り、広い講堂内が、ほぼ満員。

「へ~」と思いながら、指定された座席に着席したのだけれど、今夜朗読されるのは、上田秋成の名作「雨月物語」から選ばれた短編

「吉備津の釜」。

 岡山の吉備津神社に今でもある「吉備津の釜」は吉兆を告げることで有名な釜。良きことを告げる時は激しくなり、凶事と予言する時は、そよとも鳴らないのだという。

この話では、浮気症の男と結婚することになった娘の親が、吉備津の釜で吉兆を占ったところ、釜はまるで鳴らなかった。それでも、結婚をごり押しし、娘は男と結婚するのだが、案の定、男は別の女と心安くなり、妻を欺き、彼女のお金まで奪って、逃げていく。

夫から裏切られた妻は、悪霊となり、夫の愛人を呪い殺し、夫にも魔の手が伸びる――と、こういう話。あまりにもオーソドックな怪異談だが、そこはさすが秋成。言い回しや、文章の古風な様が、ひたひたと肌に染み込むような、怖さを醸し出す――はずだったのだが……。

今回、目の前の舞台の椅子に座って、朗読してくれた白石加代子さんの熱演にもかかわらず、そう怖くない。というか、そう面白くない。それよりも、白石さんの白塗りのメイクや、真っ赤に塗られた唇💋、張り上げる声音や、扇子を手に持って振り回す様子などの方が、よっぽど妖怪じみて、怖かったです(-_-;)。

後で見ると、白石さんは、市川崑監督の横溝正史シリーズの映画の常連なのだそう(「悪魔のてまり歌」とかね)。もともと怪奇が得意な女優さんなんだわ……。納得。

そして、トークのために、舞台に出てきた村上春樹。神宮外苑の開発への反対や、白石さんの「百物語」へコメントしていたが、あまりのトークの面白くなさに、思わず脱力してしまった。高齢のためかもしれないけど、外見にもオーラや雰囲気が感じられないのだ。

実物の村上春樹って、こんな人だったのか……。昔、大江健三郎の講演会に出席した時、大江さんは朗々と喋っていたのに。

村上春樹は書くことは素晴らしいけど、トークの才能はないなあ

そして、これが印象に残っているのだが、私の隣の席に、ちょっと風変わりなおばあさんが座っていた。この人も、昔の卒業生なのかな、と思ったのだが、真っ白なザンバラ髪を後ろで一つにまとめ、布の袋のようなバッグを一つ持っている。

多分、東京の人で、散歩のついで、という感じで、このイベントに来られたのだろう。そのおばあさんは、朗読の最中、おもむろにバッグから、小さなビニールの袋を取り出した。

見ると、その中にはお菓子にふりかけるアラザンのような、丸い銀色の玉がぎっしり入っている。おばあさんは、その玉をいくつも手に取り、口の中に放りこんだ――それを見たとたん、「あっ、仁丹だ!」と心の中で、叫んでしまった私。

 

よく考えると、仁丹なんて、祖父母も身の回りに居た年配の人も、誰も服用していなかった。それにも関わらず、一発でそれが仁丹という代物であることを直感した私。

今では思い出せない、遠い記憶のひとひらのように、仁丹の玉から発せられる、漢方薬臭いような、そのくせ、ハッカの香りのする匂いまで、鼻先に感じられそうだったのだ。

何か、レトロでいいね。

   

上の写真は「松屋銀座」の「カフェ キャンティ」で食べたバジリコのパスタ。 バジルがたっぷり使われた緑!の色合いに感激! 美味しかったです!  

 

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3 コメント

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Unknown (ルー)
2023-10-03 22:45:56
こんばんは。東京にいらしたのですね。私は、神奈川に住みながら、横浜の外れの実家に行く以外は、どこにも行っていません。新橋の病院には行きますが、銀座には、コロナ以来行っていません。松屋のキャンティも行ってみたいです。伊東屋文具店にも行きたいです。
ノエルさんのブログと初めて出会ったのは、その病院で手術をした後です。ベッドの上で、ノエルさんと初めてお会いしました。不思議なご縁です。「耳をすませば」が結んでくれたご縁です。術後で、不安がいっぱいのときに、ノエルさんのブログが癒やしてくださいました。
ところで、村上春樹さんと白石加代子さんの講演にいらしたとのこと。憧れの村上春樹さんは、どんな方なのでしょうか。村上春樹さんの新作を娘の夫が、貸してくれましたが、難解です。ノーベル賞を獲れるといいと思っています。早くコロナやインフルエンザが収まってくれるといいです。おやすみなさい。
お久しぶりです🌄 (ノエル)
2023-10-05 09:41:01
ルーさん、おはよう。
返事が、遅れてしまいました💦。すみません。
実は、先月末、東京から戻って以来、疲れが出たのでしょうか。ノエルの散歩やパソコン教室に行く以外、なんとなく過ごしてしまったのです。(年とったんだろうなあ)
私も若い頃は、渋谷とかの街の方が好きだったのですが、今は銀座を歩く方が落ち着きます。伊東屋では、白うさぎのポストカードと、市松模様とツリーが使われた、和洋折衷のクリスマスカードを買いました。
伊東屋にも、折からの日本ブームで、欧米人の観光客がたくさん訪れていました。
そうした人向けに、こんな和洋折衷のカードがたくさん売れているみたいです。
メッセージを読んで気づいたのですが、ルーさんも、村上春樹の新作「街とおその不確かな壁」を読まれたのですね。
私は、この作品がとても面白く、読み終わった後、もう一度再読までしてしまったくらいです。文章や作品世界が、うっとりするくらいステキでした。

どうぞ、コロナが完全に終わり、ルーさんが早く、気軽に外出できる日が、来ますように!

p.s
ルーさんは、クエンティン・タランティーノの映画など、お好きですか?
Unknown (ルー)
2023-10-08 22:51:17
こんばんは。クエンティンタランティーノの映画は、観たことないです。パルプフィクションとかですよね。CSI科学捜査犯で、タランティーノが脚本か監督をしたエピソードは観たことがあります。内容は、忘れましたけど。私は、恐がりで、サスペリアとかフェミニアとかは、観たことがないのですが、CSIやクリミナルマインドは、スカパー!で観ています。アメリカの刑事物は、大好きです。おやすみなさい。

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