評価 (3点/5点満点)
この本では、読書が脳にどんな効能をもたらすのか、そのとき脳内では何が起こっているのかについて、エビデンスとなる研究結果とともに、分かりやすく解説しています。
本書の最後は、以下の言葉で締めくくられています。
『読書は、人の複雑な脳や心理から生まれる総合的な力を高めることにつながる活動だと思います。いわば「人間力」の源泉なのかもしれません。読書を捨てるということは、人を捨てるということではないかと私は思っています。』
著者は、DSの脳トレシリーズの監修も務めた、東北大学教授の川島隆太さん。
読書が脳に与えるメリットとともに、スマホ・タブレット使用の弊害についても述べています。
【my pick-up】
◎活字中心のほうが脳は働きやすい
小説や新聞記事のように活字が中心のものを読むと、前頭前野を含めて脳が全体的に働きやすいということが実験からわかっています。写真やイラスト、マンガが中心の雑誌や書籍を読んでいる読者の脳活動を調べると、「思考の脳」があまり働いていないのです。さまざまな計測データを見ると、活字を中心とした本を読んだほうが、脳の全身運動になると言えます。この謎については、まだ誰も科学的に説明できてはいません。
◎読書は紙の本が良い
心理学的な実験では、全く同じものを読んでも、紙の本とデジタル機器で読んだときでは語彙の習得や文章の理解、応用力の習得が異なり、紙の本で読んだときのほうが明らかに優れているのです。多くの心理学者が指摘するのは、ほとんどのデジタル機器がマルチパーパスな設計になっているということです。私もこの指摘には同意します。汎用端末は、本を読む以外にもさまざまな機能を有していて、インターネットや電話の回線とつながっています。すると、何かに集中しているときに「割り込み」が生じやすくなるのです。
◎脳を音読でウォーミングアップ
毎日、勉強をする前に2分間だけ音読をしてみてください。脳の準備運動になり、その後の学習で脳が全力で働けるような状態になります。集中力が増し、学習スピードが上がるので、学習の効果が自然に上がっていきます。また、音読を毎日繰り返すことによって、ファートランスファー効果も期待できます。つまり、記憶力などの脳の認知機能を音読で上げることができれば、脳がより学習しやすいものに変わっていきます。音読をすることで、直接的にも間接的にも学習効果を上げていくことができるのです。その結果、学習の目標に早く近づくことができるでしょう。
◎本の「読み聞かせ」と脳の関係
我々の実験や調査のデータを見れば、そんな忙しい日々の中でも、なんとかして読み聞かせに時間を割くと、子育てが楽になるということが明示されています。もう一歩の努力が、結果的に親と子の双方を楽にするのです。発達心理学では、読み聞かせで子育てストレスが減るのは、親子の愛着関係が強化されるからだと解釈されています。子どもの「緊急避難基地」ができて子どもの心が安定するようになったから、子どもの問題行動が減り、親のストレスが減ったという説明のされ方をするときもあります。親子が強い結びつきをもっていれば、子どもが外でいやなことを経験しても、子どもは家に帰って親のもとで安心し、また普段の生活に戻ることが可能になります。
◎スマートフォンはボーッとしているときよりも脳活動が下がる
さまざまな場面でスマートフォンを使っているときの前頭前野の活動を調べる実験をしました。やはり、脳はあまり活動していませんでした。特に、動画を見ているときの背外側前頭前野の活動は低く、何もしないで一点を見つめてぼんやりとしているときよりも低い状態でした。不思議なことに、スマートフォンを使って動画を見ると、情報処理をほとんどしていないボーッとしているときよりも脳活動が下がるのです。これは少し専門的に言うと、脳活動が「抑制」されているという現象が生じていた、ということを示しています。
また、スマホ・タブレットを毎日のように長時間使っている子どもたちは、脳の発達が抑制され、学習しても学力を高めることができません。