マキペディア(発行人・牧野紀之)

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広域処理にこだわるな

2012年05月22日 | ハ行
             朝日新聞社岩手県宮古支局長・伊藤智章(ともあき))

 震災がれきの広域処理に疑問がある。膨大な運搬費用をかけ、放射能汚染を心配する地域住民と摩擦を起こしてまで急ぐ必要があるのか。

 朝日新聞宮古支局から1㌔の宮古港にもがれきの山がある。昨年11月、東京都への運び出しが始まった。がれきの放射線量は東京の方が高いこともあるのに、反対する人たちがいる。それに比べ、「さすがは剛腕都知事」と最初は感心した。

 でも、東京に搬出するのに1トン当たり処理費4万4000円に加え、輸送費が1万5000円かかると知って考え込んだ。北海道、北陸などへ搬出すれば、さらに輸送費はかさむ。それでいいのか?

 何しろ、県外搬出予定量は岩手が57万トン、宮城は344万トンにのぼるのだ。地元処理分を含めて、経費は全額国費負担。国は2年でまず1兆円を用意している。

 環境省は「岩手はふだんの11年分、宮城は19年分ある。目標の『3年以内の処理』には広域協力が不可欠」と説明する。でも、リサイクルに回すなどしており、岩手でいえば処理が必要なのは半分以下。しかも、被災地も仮設炉などで能力を増強しており、県外に頼む必要があるのはその一部だけだ。

 3年にこだわらず、国費負担を1、2年延長すれば、県外に頼まなくても処理できる計算だ。量の多い宮城県石巻市などは、例外的に集中して広域支援すればいい。

 置き場のグラウンドや港湾の利用が制約されるというが、被災地は広大だ。阪神大震災では3年以内に処理したが、都市部と同列に考えなくてもいいはずだ。「がれきの山をみることで被災者が傷つく」という説明も聴くが、少なくとも私は現場でそういう人に会ったことがない。

 岩手県の岩泉町長や田野畑村長は「ゆっくり地元で処理し、雇用や経済に貢献してほしい」と私に話したが、現状は県が仕切り、首長の意向を反映する余地はない。

 両町村計13万トンのがれきをすべて東京に運べば、運搬費だけで20億円。同村の一般会計の3分の2に当たる規模だ。処理速度を上げるため、大事業者などによる巨大な分別プラントが稼働している。これも期限を延ばせば、もっと地元が参入できるだろう。

 仮設住宅の建設も急ぐあまり、国が費用を持ち、県が発注したところ、断熱材不足など不具合が続出した。がれき処理も同じ構図だ。現場から離れた判断を懸念する。
(朝日、2012年05月19日。記者有論)

 感想・傾聴に値する見解だと思います。

 その後の再計算で、岩手県のがれきは525万トン(内、広域処理の必要は120万トン)に増えたが、宮城県のそれは1154万トン(内、広域は127万トン)で、合計広域処理の必要量は4割減少して247万トンに減ったと伝えられました。

 しかし、事の本質は変わらず、伊藤さんの意見は生きていると思います。
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