新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

性懲りもなくカタカナ語論を

2021-06-11 09:42:45 | コラム
あれは日本語だと思って遣っているに違いない:

昨日だったか、街角でテレビ局に問いかけられた普通の女性が「~をメインにしています」と言ったのを聞いた。近頃をこのように何かの専門家でも、議員でも、テレビタレントでも、運動選手でもない一般的な人たちが、自然に英語擬きの言葉を使うことが多くなってきた。例えば「メイン」もその一つだが、他にも「シンプル」、「ハードル」、「トラブル」、「チャレンジ」、「ポジティブ」等々があると思う。嘗ては(と表現すべきかな)安倍前総理は好んで「ウイン・ウイン」を使われていたが、これなどはかなり高級編ではあると思う。浅学非才の私などは一度も使えたことがなかった。

何度でも繰り返すが、「何処でどのようにカタカナ語を使われてようと勝手であり、私にはそれを阻止する権利もなければ権限だったない」のだ。だが、何処かに巣食う英単語の知識が非常(最初は異常にと入れてしまったが)に豊富な製造業者どもが次から次へと新語を創造するので、「これ、これ」とばかりに皆様がついつい真似をして使ってしまうのだろう。だが、使う前に何卒一度辞書、それも可能ならばOxford(電子辞書には必ずと言って良い程入っているが)を見て貰いたいのだ。それは、それぞれの単語には英語ならではの使い方があるから言っておきたいのだ。

例えば、この「メイン」即ちmainには形容詞として使う場合には「必ず名詞の前に置く」となっているのだ。勿論、この単語には名詞としての使い方はあるが、形容詞の意味の「主に」ではなく「水道・ガスの本管」を意味している。厳格なことを言うと「後に名詞を持ってこないで『主として』のつもりで使っても構わないが、それは基本的に英単語を理解できていないと告白しているのと同じなのだと知るべし」となる。ただ入試等の試験のために単語だけを教えるか覚えてしまうと、こういう中途半端な結果になると承知して欲しいのだ。

その点ではwin-winにも同様な問題がある。これも「必ず名詞の前に置く」とOxfordには出ている。念の為に意味は「交渉事なので双方が満足できる」である。例文まで挙げておくと“Both of us were in a win-win situation.”という具合だ。言いたい事は安倍前総理のように単に「ウイン・ウイン」と、恰も名詞のように言われたのは間違いとまでは批判しないが、好ましい語法ではないということだ。もっと言えば「単語だけを教え込み記憶させる英語教育には問題がある」のである。

上に挙げた例も最早そのまんま日本語化してしまっていると思う。即ち、猫も杓子も最早英語の単語だとは認識していなくて、日本語の一部だとでも誤解しているのではないか。これは困ったことだと思っている。日常使っているが儘に英作文や英会話などで使ってみると、バッテンが付いてしまうかも知れないのだ。私などは、最早simpleの本来の使い方が解らなくなってOxfordを引いた程だった。そこには“not complicated; easy to understand or do”が最初に出てくる。即ち、これが本来の使い方だった。ジーニアスには「単純な、簡単な;わかりやすい」と出ている。

「トラブル」などは最早万能選手の如きだ。マスコミでは「揉め事」、「故障」、「困難」、「事件・事故」も全て「トラブル」を使って表現している。ここでもこの日本語の表現に悩まされて、Oxfordに訊いてみた。最初に出ていたのは“a problem, worry, difficulty, etc. or a situation causing this”とある。ジーニアスには「心配、苦労、悩み、人にとっての心配事」が出てくる。カタカナ語は随分拡大解釈して、小難しい漢字の熟語を置き換えるために創造されたようだ。

「ハードル」も多用されている。これには障害物競走の障害物の意味の他に、Oxfordには“problem of difficulty that must be solved or dealt with before you can achieve ~”ともあるから、カタカナ語として比喩的に使われているのも満更おかしくはないようだと、初めて確認できた。でも、日本語で話し合っているのだから、何もここまでして確かめなければわからない英単語を使って、詳細な説明を省こうとしなくても良いだろう。「こういう問題点等を解決してから」のように語るのが本筋だと考えるのは誤りかと、自信を失いかねない。

最後に趣を変えて「ポジティブ」=positiveの発音を。これはローマ字読みしたのだろうが、どの辞書を見ても、カタカナ表記を試みると「パーザテイヴ」で「パー」にアクセントが置かれている。カタカナ語にしてしまう前にというか、そうするときには「実は英語本来の発音は『パーザテイヴ』ですが、一般の方には難しいかと思って「ポジティブ」にしました」と但し書きでも付けておくと良いだろぅ。

しかし、そうすると「ボデー」だの「ホリデー」だのと但し書きをつける必要を生じるカタカナ語が無数にあって、大仕事になってしまうかも。何しろ「ミッション・インポッシブル」なんてのもあるのだから。「ミッション」は兎も角、次は「インパサブル」が最も原語に近いのだから。