マグロチャンピオンの料理道場

人気バラエティー番組、TVチャンピオンの「マグロ料理人選手権」優勝者が、本格料理を分かりやすく教えるブログ。

肉の鮮度保持とガス置換包装

2011年08月02日 | 中国 食の安全性
前回は、中国の市場に出回っているインチキ肉のことを書いたが、一般消費者は色の綺麗な肉があれば思わず手を伸ばしてしまうだろう。

我々の料理店の場合には日系の食材問屋からの仕入れが多く、多少価格が高くても」トレーサビリテー」のしっかりした商品しか買わないが、一般の消費者は食品を買う時に不安も多いと思う。

そんななか、先日、近くのデパートの食品売り場で下記のようにパッキングされた豚肉を見かけた。

日本語で「新鮮です・無害です・優良品質です」と書かれているし、豚肉専門家、肉品品質検査合格のシールも貼られているのでなんとなく安全なような気もする。

ただ、気になったのは左下のシールだ。ブルーのシールの一番上に「美国快楽工充気保鮮包装」とある。

こういうパック包装の場合には、鮮度や色を保つ為にパック内の空気を「窒素」や「酸素」や「二酸化炭素」に置き換えることがある。これを「ガス置換包装」とか「ガス充填包装」という。

しかし、このシールを見る限りは、パックの中にどんな気体が入っているのかは表記されていない。

また、このシールの中央には「CRYOVAC」とあるが、米国の大手総合化学メーカー・WRグレース社の食品を包装する材料の開発部門で、食品トレーや、パック等、さまざまな包装資材を開発して販売している。

この名前をどこかで聞いたことがあると思っていたのだが、やっと思い出すことができた。

調理法の中には、「クックチル」や「真空調理」という方法があり、病院やホテルの宴会などで、大量の食事を一度に供給する場合に食中毒が起こらないように、食品をプラスチックフィルムの袋に入れ真空包装したまま加熱調理して、次に急速に冷却後(90分以内に3℃)に、食品の凍結点のやや上の温度(ー2℃から0℃)で保管する。
必要な時には、その食品を袋のまま再加熱し、開封して盛りつける調理法だ。

この「クックチル」や「真空調理」に付いては、自分は日本でこれらを日本で初めて勉強する「新調理システム協会」の会員だったこともあるので、別の機会に詳しく説明するが、この「CRYOVAC」の担当者が「クックチル」や「真空調理」の将来性に気が付き、その改良には包装材料のみならず調理、包装、冷却、等の総合の過程の開発が必要なことから米国の厨房機器メーカーのGROEN社の協力を求め、現在のクックチル方式を開発して米国ノースカロライナ州のチェリー病院で初めて実用化したのだ。

さて、話をガス置換の話に戻すが、中にどんなガスが入っているのか?は蓋を開けてみて臭いを嗅いでみたが、特に異臭はしなかった。

もしかしたら、何のガスも使用されてないのかも知れない。

ただ、「CRYOVAC」はOSフィルムという (即効性酸素吸着フィルム)を開発していることが分かった。

メーカーのHPの商品紹介によると、酸素吸着機能を通じて、好気性菌の繁殖、酸化による風味、色調、栄養素の劣化を遅らせます。と書いてある。

即効的に酸素を除去することにより、食品内のカビや好気性菌の繁殖を抑えます。
フィルム内の酸素吸収剤が食品の色や風味、栄養分の保持を助けます。

どのようなメカニズムでしょうか?
このテクノロジーは、酸素吸収性のポリマーを透明なフィルムとして押出し、消費者からはその酸素除去による食品の品質保持機能が見えないようになっています。クライオヴァックがパテント保有する紫外線照射装置を使い、包装時にフィルムを活性化させ酸素吸収を開始させます。


つまり、パック内の酸素を減らすことにより、日持ちが向上するという訳だ。

もしかしたら、今回買ったパック入りの豚肉にもこのOSフィルムが使用されているのかも知れないが、パックには何も記載されていないので定かではない。

ただ、今回、パック内の空気を「窒素」や「酸素」や「二酸化炭素」に置き換える「ガス置換包装」の話をしようと思ったのは、何かの「ガス」が充填されていると聞いただけで、まるで条件反射のように拒絶するお母さん方も多いので、ガス置換包装のことを正確に知ってもらいたかったからだ。

実は「ガス置換包装」された食品は身近にたくさんある。

食品名と、どんなガスが使われているのか、その目的を書いてみよう。

ガス置換に使用されるガスの種類はおおむねN2(窒素)、CO2(二酸化炭素)、CO(酸素)の3種類だ。

緑茶   N2    香気保存、ビタミンの保持

ナッツ類 N2又はCO2+N2 酸化防止、虫害防止  

削り節  N2    変色防止、香気保存

ハム類  N2+CO2 変色防止、腐敗防止

ウインナー CO2又はCO2+N2 カビ防止、腐敗防止

半生菓子 N2又はCO2+N2  カビ防止

スナック菓子 N2  酸化防止、虫害防止

この他にも、コーヒーには香気保存に「N2」が使用されたりする。

それぞれのガスの特徴をうまく利用して、空気中の酸素を他のガスに置き換え、酸素による好ましくない変化を阻止しようとするのが「ガス置換包装」の目的だ。

それぞれのガスの特徴について書いてみよう。

①窒素ガス(N2)
窒素ガスは空気中78%を占めており、無味・無臭・無色の不活性ガスで無害で無毒である。
ガス置換包装では、空気中の酸素を除去するのが目的。

②二酸化炭素ガス(CO2)炭酸ガスともいう
水にも油にも溶け、液体では炭酸によって微酸性を呈で食に影響することがあるが、窒素ガスにはない静菌・防虫作用がある。カビの発生を抑える効果があり、ハム、ウインナーソーセージ、和洋菓子、等の腐敗、防虫に効果を発揮する。袋内の二酸化炭素濃度が30%以上から効果が期待でき、50%以上ではほとんどのカビを防止できる。

③酸素ガス
牛肉やマグロ等、肉のきれいな赤色は、酸素と結合した「オキシミオグロビン」によるもので、きれいな赤味を発色させるために酸素を封入する。

そして、上記の3種類のガスをいろいろな組み合わせで混合したガスもある。

④混合ガス
二酸化炭素は、窒素ガスに比べて、プラスチックフイルムをよく透過しやすい為に、フイルムを透過しにくい窒素ガスと、二酸化炭素ガスの混合ガスを使用することも多い。

酸素ガスと二酸化炭素ガスの2種類のガスを使用して、酸素ガスで肉類の発色をきれいにし、二酸化炭素ガスで保存性をだす。

このように、肉の「ガス置換包装」には、酸素と二酸化炭素の混合ガスがコンシューマーパックの中に充填される場合が多いが、酸素が70~80%と二酸化炭素が20~30%の組み合わせが一般的である。

ガス置換包装をした物と、しない物を同じ期間保存した場合には、カビ、細菌、変色に大きな違いがあり、ガス置換された物がより安全なのは明確だ。

ただし、一番、懸念されるのが「COガス」一酸化炭素ガスをガス置換包装した商品が出回ることだ。

日本でも一時、「COマグロ」が話題となり、ずいぶん市場に出回ったが、マグロだけではなく牛肉にも応用できる。

一酸化炭素ガスの食品への使用は、このガスが添加物として日本では認められていないことと、腐敗しても色が変わらないことから「COマグロ」の販売は、日本では1994年に禁止され、中国でも「COマグロ」の販売は既に禁止されているが、中国の安い食べ飲み放題の日本料理店では現在も使用されていて、たまに見かける。


ずいぶん昔のことになるが、フィリピンやインドネシアの「マグロ加工工場」で、この「COマグロ」の生産現場を見学したことがある。

下記が「COマグロ」の写真だが、赤というより鮮やかな「ピンク」色だ。

もし、食べ飲み放題の日本料理店に行って、このような色のマグロが出てきたら絶対に食べない方がよい。

次回は「COマグロ」についての話をしよう。


もしよろしかったら下記をクリックお願いします。
   ↓
人気ブログランキングへ







最新の画像もっと見る

コメントを投稿