内的自己対話-川の畔のささめごと

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世界への愛のための批評 ― ジャン・スタロバンスキー文学芸術論集『世界の美しさ』

2017-04-22 23:59:59 | 読游摘録

 昨年ガリマール社の « Quarto » 叢書の一冊として Jean Starobinski, La beauté du monde. La littérature et les arts が刊行された。百点余りのエッセイからなる文学芸術論集である(1340頁)。巻頭には、編者 Martin Rueff による « L’œuvre d’une vie » と題された二百頁近い伝記的エッセイが据えられている。父親の代から始まるきわめて詳細なもので、その中には多数の写真も収録されている。
 論集のはじめには、スタロバンスキーが 1992年に発表した « La littérature et la beauté du monde » が論集全体の序論として置かれている。
 論集本体は大きく文学と芸術に分かれ、前者は詩と散文に、後者は絵画・彫刻と音楽にそれぞれ分けて編集されている。しかし、前者約七百頁のうちで散文の占める割合はその十分の一ほどに過ぎない。詩、絵画、音楽については、それぞれの分野の専門家による解説文が付されている。
 文学芸術の分野でのスタロバンスキーの広大な批評領域を一望することができる本書は、編者による « Pour tout l’amour du monde. Au large abri du ciel » と題された後書きによって締め括られている。
 批評(la critique)はなぜ必要なのだろうか。それがなお必要であるとすれば、それは人間たちの巨大な砂漠の中で私たちの眼差しを方向づけるためであり、その「眼を持つ」ために私たちはジャン・スタロバンスキーを必要とするだろう。そして、それはよりよく生き続けるためなのだ。そう編者は後書きの最後の段落に記している。そして、その後書きはこう結ばれている。

Face à la beauté du monde et à tout ce qui ne cesse de la menacer, nous avons la critique. La critique, pour tout l’amour du monde.

世界の美しさとそれを脅かし続けるあらゆるものを前にして、私たちは批評を持っている。批評を、世界への愛すべてのために。











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