天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

荻原浩『砂の王国』

2016-10-07 17:26:33 | 

男A=山崎遼一。主人公。大手証券会社からはじき出された路上生活者。
男B=錦織龍斎。路上生活者の先輩で、占い師。著書もあり文才もあり、人の表情を読む天才。
男C=ナカムラ。沖縄出身らしい謎の大男。ファッション系雑誌に登場してもいい風貌を持つ。障害があり人の気持ちがわからない。人の表情を読まない天才。

うらぶれた山崎は龍斎の<黙って座ればぴたりと当る>の人を籠絡する能力に感嘆。またナカムラのコンビニへ行っても店員に好意を持たれるずば抜けた風貌に驚嘆。
なけなしの金で万馬券を買い300万円を当てたもとでに、二人を使って宗教を興すことを考える。
ルックスの秀でたナカムラを教祖に、龍斎の人の心理、事情をすばやく読む能力を師範代として、自分が運営する。
「大地の会」と名付けた宗教は当たって会員がどんどん増える。
200、300、500人と会員が増えていくあたりでは主人公は興奮して高揚する。
しかし1000、2000と増えていくと組織運営に疲れてくる。
人は増えると誰それは誰それより上位でないといけないというピラミッドが生じる。また、
教祖の生い立ちの秘密など隠しておきたい事実を内部告発する者も出て、対応に苦慮するようになる。

酒を食らっても眠れずこの組織を解体したいと思うようになる。
これに気づいた教祖、師範代が企画・運営者を逆に追放にかかる。

「砂の王国」は巨大組織にいて挫折した男がゼロからまた自分の大きな組織を創り上げて運営していく話である。
けれどうまくいけばいくほど自分はそこにいなくてもいいと感じてしまう。この感情が「砂」なのであろう。
男は何をすれは自分らしく納得できるのか。そんな命題を突きつけてくる。

荻原浩のものは短篇集をふくめこれで7冊読んだのであるが、男と女の関係を軸に分析すると、『四度目の氷河期』が少年少女の相思相愛を書いたために未来があっていちばんハッピー。
『明日の記憶』のテーマは主人公のアルツハイマーであり病気そのものから逃げようのない悲劇であるが、あり得ないようなうるわしい女が登場する妻恋ものの側面がある。そして『砂の王国』は自分が創った大きな組織(人間関係)にくたびれて結局、逃げた妻をどこかで追い求めるニュアンスがある。
つまりこの作家は一人の女と実生活においてきちんと関係を築き育んでいくことができる性格であろう。生活の中に支えてくえる女を置きたいタイプの作家と思われる。
その点で週刊誌に男向け人生論、処世訓を書くことのできる伊集院静と似た資質を持つ。谷崎潤一郎もあの粘着質の気質で一人の女と家庭を育むことができた。荻原浩は粘っこくなく一人の女を思慕し続けられる性格であろう。
これに反して、太宰治、辻仁成、西村賢太は妻帯する重さに耐えられない作家である。

主要テーマと関係ないところで荻原さんの一人の女への意識を強く感じたのである。いや一人の女性への思慕というのがこの作家の本質であるような気がする。
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