天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

川柳のおもしろい出題

2022-06-16 14:09:31 | 川柳
「印象吟句会」を主宰する島田駱舟さんから「銀河」No.259が届いた。島田さんは毎月都内の区民会館のような会場で句会を催し、その結果は小冊子にして送ってくださる。感染症対策で出席者を減らして投句者を増やすなど経営に苦慮しているようである。
先月は、出席者23名、投句者115名であり、「久しぶりに20名を超える出席でより句会らしい雰囲気が味わえました」とのこと。
小生が島田さんの主宰する川柳を注目するのは出題の多様性とおもしろさである。
ひとつ紹介する。

                    

「東京中央美容外科」のロゴマークである。

これを見て何か発想して句を作ることを目指す。以下にあげるのが優秀な作品ということである。
出席者の部、投句者の部に分かれている。選者は、渋川渓舟さん。

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出席者の部
【五客】
倦怠期ハートに角が立って来る 平野さちを
艶っぽい鍵穴君の指紋待つ ささきのりこ
私の返事はグラデーションの奥 ささきのりこ
爺婆も仲直りにはグータッチ 内田閑礫
輪になって踊る日を待つ万国旗 茂呂美津
【三才】
心臓が虹色になる君のハグ 内田閑礫
メルヘンの太巻き中心はハート ささきのりこ
プリズムに虹が四角に三角に 安藤紀楽
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投句者の部
【五客】
このままで付かず離れず居ましょうね 金井塚夢子
隣人と世界平和のまずはハグ 岸井ふさえ
街は春パステルカラー闊歩する 川名洋子
寄り添えばハートがひとつ見えて来る 坂本喜十郎
七曲りして人生の先が見え 成島静枝
【三才】
もういいかい春の迷路で子らの声 瀬田明子
虹色のリボンでハートラッピング 瀬田明子
手をつなぐ世界平和へ一歩ずつ 伊東志之 
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「ハート」と「ハグ」という言葉が目立つ。俳句で兼題に「紫陽花」が出たらこれから離れることはできない。けれど「印象吟句会」は印象を言葉にすればいいのである。何を書いてもいいというのは俳句では考えられない自由さである。
俳句をやっている者がこの川柳グループで句を作ると、その何を書いてもいいというのがかえって身を縛るような気がする。「自由であることは自由であることに呪われている」と言ったサルトルの名言がよみがえる。それはここに挙げた作品のなかで、「ハート」と「ハグ」という路線が結構多いことに言える。
もっと飛んでもいいのではという気がしたが、こういう言葉遊びもある。


                                
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美帆の姉とは呼ばせない金メダル

2018-02-27 15:27:03 | 川柳

金メダル二個取った高木菜那選手


表題の句は、本日の「よみうり時事川柳」、片山一弘選の句で作者は、篠崎宏貴さん(富士見)。並選であったがぼくは秀逸にしたいほど気に入った。

高木美帆は中距離のエース。短距離の小平奈緒と日本女子スピードスケートを牽引する両輪と多くの国民が認識していただろう。彼女に姉がいて結構滑れることをぼくはパシュートを見てやっと知った。結構どころか前の大会では妹をおさえて姉の菜那が代表入りした。
しかし国民の多くは「美帆の姉」と思っていたはずだ。
そんな高木菜那にとって「マススタート」は自分のためにあるような新種目であった。小回りの利く栗鼠みたいな可愛い姉が輝いた。
出来のいい妹の陰で姉の葛藤はすごかったであろう。したがって「美帆の姉とは呼ばせない」は憂さを一気に晴らしたこれ以上ない表現であろう。
ぼくを手を打って喜んだ。これは日本人の多くの思いであろうし、高木菜那の本心でもなかろうか。こういう川柳はほんとうにおもしろい。

G20儲かりまっかが合言葉  夏目三四郎
この句は前の句と同じ欄にある。
ぼくはこの会合で誰かが言ったらしい「儲かりまっか」を知らないので味わえない。時事川柳は事実が細かすぎるとついていけない人が増える。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここから紹介するのは時事川柳ではない傾向の川柳。
高知市発行の『川柳木馬』は、穿ち、当てこすり、揶揄といった可笑しみを狙うだけでなく、詩情というような概念も視野に入れている。したがって表現が多彩である。
『川柳木馬』の2018冬号からいくつか取り上げる。

山椒魚だかおばあさんだか顔洗う  萩原良子
きれいな池で顔を洗っているおばあさんだろう。おばあさんが山椒魚に見えるといっているのである。あざとい見方だが川柳はこれでいい。

ガムシャラをあばら骨からつまみ出す  岡林裕子
「ガムシャラ」ははやる気持ち、焦る心理といったことだろう。あばら骨がガムシャラという言葉と引き合う。

ストレスが十字路旋回している  山本三香子
「十字路」を出して「ストレス」を視覚化したのがおもしろい。旋回は言い得て妙。


朝顔の奥の湖から秋立ちぬ  萩原良子
これは「朝顔」「秋立ちぬ」といった俳句用語を不用意に使っていてその本意がわかっていない。

夏色のピンであの日を留めている  岡林裕子
具体性のない「夏色」がわからないし、「あの日を留めている」とよがるのも困りもの。

体から孤独零れて秋深し  山本三香子
陳腐。「孤独」でなければまだどうにかなるかもしれないが……。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

次は『銀河』2018/2月号。
このグループは、オブジェの映っている写真など出された題に応える形で句を作る。

島田駱舟選
積み上げるほどに亀裂の民主主義  髙木道草
国会で議論を積み上げている。しかしやればやるほどまとまりがつかず、時間と金がかかるシステムを斜めから見て巧妙な味つけ。

主流派の殿にいるドアボーイ  山口早苗
ドアボーイのいるホテルは一流。そこへ出入りする人は主流派のトップ。「殿にいる」は見事な措辞。

小さい嘘ずしりずしりと効いてくる  伊藤こうか
はじめは気にせずついた嘘が後から大きく傷口を広げることはよくある。そのへんの事情をうまく言葉にした。

ミサイルで安倍さんと組む北のドン  阿部勲
この句は安倍首相の軍備増強、ミサイル強化戦略を皮肉っているのだろう。それは北朝鮮の軍備拡大と同じ土俵に乗ることになる。それでいいのですか、という抗議めいた気配がある。けれどそれを「組む」で片づけるには川柳では荷が重すぎないか。

兄弟の真ん中辺にある差別
  平野さちを
この句は、高木菜那・美帆姉妹の間の葛藤のようなことを意図していると思われるが、なにせ抽象的すぎて、はっとしてわからないもどかしさ。

脱帽の数を巨人が積み上げる
  佐藤孔亮
脱帽の数を積む、は日本語表現として正しいのか。それに巨人は童話に出てくる大男なのか、それとも讀賣ジャイアンツなのか、理解に苦しむ。



川柳界においてその流派は実に多彩、その多彩さは俳句の比ではない。中には川柳本来の皮肉、諷刺、あてこすりなどのおかしみから離れ(嫌い)、ひたすら詩情を求め、時事川柳やサラリーマン川柳を敵視する流派さえある。
しかし川柳であまりむつかしいことを狙うとおもしろくない。詩は俳句に任せておけばいい。すかっと胸に飛び込んできて、おっ、いいねというのが川柳であると小生は考える。
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