遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『トランプ・フォース 戦場』 今野 敏  中公文庫

2014-04-22 09:45:23 | レビュー
 第1作でなく第2作の方を先に読む事になった。
 「トランプ・フォース」というのは、トランプの「切り札」という意味での「切り札部隊」という意味で使われている。この作品、『トランプ・フォース 狙われた戦場』として、1989年4月に扶桑社から出版された。中公文庫として再刊にあたり、改題されたもので2010年9月刊である。

 ハイデルベルグの郊外の森の中に『ゴールドの城』という大邸宅がある。その城の主人はミスタ・ゴールド。1980年代後半に、国際テロ組織のフィクサーに対抗するために、ミスタ・ゴールドが『切り札部隊』を組織した。西側の主だった首脳と何度も会談を重ねたうえで国際的な承認を得て組織化された超国家的対テロ用特殊部隊なのだ。トランプ(TRUMP)は、Task force(機動部隊)、 Rescue(救助)、 Undertake(保証)、 Military Party(軍団)の頭文字でもある。各国政府あるいは、それに準じる組織からの要請があった場合、『トランプ・フォース』はすみやかにその国に強行し、まさに切り札部隊として活躍するのである。ミスタ・ゴールドが出動指令を出す。
 『トランプ・フォース』には7人のチームリーダーが居る。1チームはリーダーを含め4人編成の少数精鋭チームである。
 この作品では2チームが協力して作戦に従事し、1チームがバックアップとして呼び出しに応じて参戦するために待機するという展開になっている。

 舞台は中央アメリカのパナマとコスタリカにはさまれた小国・マヌエリア独立共和国。サンチェス将軍という独裁者が実権を握る軍事政権国家である。サンチェス将軍に面談するために日本人3人がサンピラト空港に降り立ったところから話が始まる。日本の大手商社、丸和商事ブラジル支社長串木田昌吾、秘書室長上原俊夫、ブラジル支社営業本部長佐野次郎の3人だ。将軍の右腕であるホセ・カレロ大佐の出迎えを受けた3人は、その案内で司令部兼将軍官邸に向かう。
 サンチェス将軍は、パナマの最高実力者であり国軍司令官のノリエガ将軍の息のかかった将軍だといううわさのある軍人でもある。マヌエリアはノリエガ将軍の避難場所として、軍部の計略で独立した国だという。

 サンチェス将軍との機密商談をお膳立てしたのは上原秘書室長。上原と串木田がサンチェス将軍と極秘面談をした後、海岸にある『カリブの別荘』と呼ばれる宿泊施設に案内される。準備がととのうのに時間がかかると言われ、その別荘に彼らは滞在する。そして、3日の朝に将軍が再度面談したいということで、カレロ大佐の部下、3人の下士官が彼らを迎えに来る。日本人3人は別々のジープに分乗させられて、将軍官邸に向かうことになる。各ジープには銃座がすえられ、ミディアムマシンガンが取り付けられ、射手の兵士が1名ずつ乗っている。

 将軍官邸に向かう途中で、ジープはゲリラに襲われる。そして、串木田支社長が誘拐されてしまう。支社長誘拐が目的と思った佐野はジープ後部の銃座のマシンガンに飛びつくという行動に出てしまい、射殺されてしまう。ゲリラはサンチェス体制に抵抗する自由パナマ戦線FFPだという。

 上原室長がどこから情報を入手したのかわからないが、「トランプ・フォース」の出動を依頼したのだ。ミスタ・ゴールドの許に集まった7人のチーム・リーダーは、ミスタ・ゴールドと食事を交えながら作戦会議を行う。
 その結果、2つのチームが任務を分担協力しながら、誘拐された串木田支社長の居場所を突き止め、FFPから奪還する。この作戦の展開状況に応じて1チームがいつでもサポートできるように、バックアップ体制をとるというシナリオができる。
 
 日本政府は中央アメリカにおける日本人誘拐事件を憂慮して、サンチェス将軍に外交的に働きかける。サンチェス将軍は、カルロス大佐に命じて、誘拐された日本人の捜索と奪還に着手する。そして、FFPの討伐作戦を展開しようとする。
 トランプ・フォースのチームが串木田支社長奪還作戦が進展していくにつれて、予想外の事実が徐々に判明してくる。

 この作品の読みどころは、中央アメリカの複雑な政治情勢を背景にしながら、ストーリーが構成されていることと、誘拐された人の奪還作戦がどのように展開されていくかというそのプロセスである。そして、さらに、意外な事実が判明してくるに及び、トランプ・フォースがどう作戦を変更し、新事態に対処していくかというところだろう。
 後は本書をお読みいただき、原題『狙われた戦場』の意味も考えていただくと良い。

 最後に、この作戦に従事するトランプ・フォースのプロフィールを簡単にご紹介しておこう。こんな構成の連中が、どうその持ち味を発揮するのか。著者が発揮させるのかが読ませどころである。武闘シーンは著者のお手のものと言えよう。

ホワイト・チーム 上原室長と面談し、支社長奪還を直接進めるチーム
 ミスタ・ホワイト: リーダー兼チームの教官
 佐竹 竜: 元商社マン。津軽半島の最北、青森県三厩村出身。家伝『源角』という
   拳法を修得し父から皆伝を得ている。源氏直系の末裔。英・仏・西語を話す。
 ワイズマン: 元アメリカ陸軍特殊部隊員。傭兵として紛争地帯で戦闘。
 李 文華(マーガレット・リー): 香港出身。元英国情報部香港支部の工作員。7ヵ国語OK
   内家拳三門(形意拳、太極拳、八卦掌)を体得。
バーミリオン・チーム マヌエリアに潜入し情報探索を進めるチーム
 ミスタ・バーミリオン: ラテン系南米人。
 ジョルディーノ: シチリア島出身者の子孫。南米育ち。ジャングルを熟知。
 ロペス :元空手の南米チャンピオン。
 リョサ :元ニカラグァ革命軍所属。ナイフ使いの達人。

ブラック・チーム  支援部隊としてロサンゼルスで待機。
 ミスタ・ブラック: 日本人
 ハリイ   :アイルランド系アメリカ人。元米海兵隊員。 
 ジャクソン :イギリスからの入植者の末裔。元米陸軍に所属。
 シュナイダー:ドイツ系アメリカ人。元米陸軍に所属。特殊任務に従事。狙撃の名手

 戦闘プロフェッショナルの集団が縦横に活躍する。まさに「切り札」である。
 おもしろいストーリー展開に仕上がっている。


 ご一読ありがとうございます。


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中南米絡みの事実情報をネット検索してみた。この作品の背景理解として、一覧にまとめておきたい。

ニカラグア年表 その1 :「ラテンアメリカの政治」
ニカラグア年表 その2 :「ラテンアメリカの政治」
ニカラグア年表 その3 :「ラテンアメリカの政治」
ニカラグア年表 その8 :「ラテンアメリカの政治」
エルサルバドル年表 :「ラテンアメリカの政治」
 1978年5月に、現地合弁企業で松本不二雄社長の誘拐・殺害事件発生の事例あり。
ホンジュラス年表    :「ラテンアメリカの政治」
パナマ年表  :「ラテンアメリカの政治」
 
コントラ :ウィキペディア
イラン・コントラ事件 :ウィキペディア

マヌエル・ノリエガ :ウィキペディア
パナマ侵攻 :ウィキペディア
 
サンディニスタ民族解放戦線 :「公安調査庁」
コントラ  :「公安調査庁」
レコンパス :「公安調査庁」
民主革命同盟(ARDE)  :「公安調査庁」
ファラブンド・マルティ民族解放戦線  :「公安調査庁」
民族抵抗武装軍(FARN) :「公安調査庁」
グアテマラ民族革命連合(URNG) :「公安調査庁」
11月29日民族解放運動(MLN-29) :「公安調査庁」
 
国際テロ組織 世界のテロ組織等の概要・動向  :「公安調査庁」
 
コルトXM177  :「MEDIAGUN DATABASE」
ポーランド Wz63 :「MEDIAGUN DATABASE」
M16自動小銃 :ウィキペディア
ウージー :ウィキペディア
M79 グレネードランチャー :ウィキペディア
 

 インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

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