見もの・読みもの日記

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2017年11月@西国大旅行:道成寺で秘仏拝観

2017-11-21 00:25:45 | 行ったもの(美術館・見仏)
 週末旅行の発端は、九州国立博物館の『新・桃山展』がどうしても見たいと思ったことだった。1泊2日で、ついでに寄れるところは?と考えたのだが、福岡周辺にめぼしい候補がない。ふと思いついて調べたら、羽田(空路)→関空→和歌山(県立博物館)→関空(空路)→福岡→泊。翌日、九博→福岡(空路)→羽田という週末ツアーが可能と分かった。これで行こうと思っていたら、直前の金曜日に休暇が取れそうな雰囲気になってきた。そこで土曜日の羽田→関空をキャンセルし(手数料1,000円という良心的LCC)、金曜は京都で国宝展観覧後、和歌山で1泊した。さて、土曜日。

天音山道成寺(和歌山県日高郡)

 和歌山を訪ねたのは、県立博物館の『道成寺と日高川』展が目的で、本当は展示を見てから現地に行きたかったのだが、時間の関係で、道成寺を先にした。朝、和歌山から紀勢本線で1時間ほどの道成寺に向かう。前日はさわやかな秋晴れだったのだが、この日は冷たい雨。夏物の布靴を履いていたので、足元がびしょ濡れになってしまい、草鞋で旅をした昔の人の苦労を思いやる。道成寺に到着したのは朝の9時半頃で、雨の境内にはまだ参拝客の姿がほとんどなかった。

 現在、本尊千手観音が県立博物館に出陳中のため、秘仏の北向観音が南側に遷されて公開中と聞いてきたが、その本堂はあとにして、境内の隅の「拝観受付」の看板が出ている建物に行ってみる。宝仏殿である。ご朱印をいただき、拝観したい旨を告げると、お坊さんが奥に入って行って、収蔵庫の照明を付けてくれた。ひろびろした四角形の部屋の三辺にさまざまな仏像が並んでいる。右側には、ちもっさりした感じの持国天(奈良時代)、顔が横に平たい十一面観音(平安時代)、地天女に支えられた兜跋毘沙門天(平安時代)、兜のいかめしい多聞天(平安時代)など。よく由来の分からないガンダーラ仏(?)なども混じる。

 正面の三尊は、釈迦如来坐像を中尊に、左右に文殊菩薩(剣と巻物を持つ)と普賢菩薩(蓮華を持つ)の立像。慶派を思わせる堂々とした体躯、脇侍は髪を高く結い上げた宋風。これって釈迦三尊か?という疑問は口に出さない。左側には、広目天(平安時代)、増長天(奈良時代)、創建の伝説に登場する宮子姫(髪長姫)の小さな像は近代ものらしかった。中央には、日光・月光菩薩を従えた千手観音像。9世紀の作だというが、スラっとした長身で健康的な力がみなぎり、新しさを感じる。豪華な天蓋つき。こちらが宝仏殿の本尊だという。

 宝仏殿にはもう一部屋、ふかふかの絨毯を敷いた大きな広間がある。以前、訪ねたときは、ここで道成寺縁起の絵解きを聞いたことを思い出した。奥に横長の厨子があって、安珍像と清姫像をお祀りしている。安珍は僧侶というより山伏姿で、清姫は白い被衣をかぶっている。

 もうひとつ宝仏殿の見どころは、「道成寺縁起」をテーマにした各種芸能(能、歌舞伎、文楽、舞踊など)の舞台写真と絵画が所狭しと並んでいること。特に玉三郎とか六代目歌右衛門とか名優の艶姿は、歌舞伎好きにはたまらないだろうと思う。個人的な見どころは、歌舞伎座で使われていた大道具の鐘が寄贈されて展示されていたこと。横溝正史『獄門島』を思い出さずにいられないが、一見して芝居用と分かる、けばけばしい緑色に塗られていた。これではトリックに使えない。

 ゆっくり宝仏殿を見終わって、念のため受付で「本堂も拝観できますか?」とお尋ねしたら「はい、10時からです」とのお返事。このとき、9時55分くらいだったので、山門の下で雨を避けながら、しばらく待つ。10時近くなると、宝仏殿から鍵を持ったお坊さんが歩いてきて、本堂を開扉して灯りをともしてくれた。「どうぞ」と促されて、堂内に入る。



 須弥壇の中央には大きな仏像の半身(腹から胸あたり)。残念ながら顔のあたりは紫の垂れ幕(中央を少し絞っている)で隠されている。扁平な印象の胴。胸元で合掌する腕は逞しく太いが、脇手は不釣り合いに細い。ふだんはこの位置に本尊千手観音がいらして、背中合わせに秘仏の千手観音(北向観音)がおいでになる。あとで本堂の裏にまわってみたら「33年に一度、春33日間だけ公開されます。前回は平成17年(2005)でしたので、次は平成50年(2038)になります」旨の説明板が設置されていた。実は、私は2005年にも拝観に来ている(※記事)。そのときはご尊顔も拝しているのだが、よく覚えていない。なお、本堂の裏には念仏堂があって、五劫思惟阿弥陀如来像(江戸時代)がひっそりお祀りされていた。

 10時に本堂が開いた頃から、団体客が到着して、少し境内が賑やかになった。雨も小降りになり、短い商店街を通り抜けて帰る途中、むかし、少し離れた蛇塚を見に行ったことなどを少しずつ思い出した。実は、今回の特別公開は秘仏の「撮影可」だそうで、SNSなどに写真が流れているが、私は「堂内撮影禁止」だと思って撮ってこなかった。代わりに、参道の「お食事処あんちん」の看板が可愛かったので載せておく。



 長くなってしまったので、和歌山県立博物館の『道成寺と日高川』レポートは次回に続く。
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