見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2017年2月@関西:茶碗の中の宇宙(京都近美)、日本の表装(京大)など

2017-02-17 23:52:13 | 行ったもの(美術館・見仏)
 レポートが遅くなってしまったが、先週末は関西に出かけた。金曜日に東京で仕事が終わった後、新幹線で京都入り。雪の影響が心配だったが、幸い、京都市内は粉雪で済んだ。しかし、夜になると底冷えしてつらかった。

京都国立近代美術館 『茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術』(2016年12月17日~2017年2月12日)

 16世紀後半、楽家の祖・長次郎に始まり、一子相伝により継承されてきた楽焼の歴代作品を通観する。3月から東京国立近代美術館に巡回すると分かっていたが、素通りできすに見に行ってしまった。会場は、楽家が最も大切にする「黒」を基調とし、闇の中に展示品が浮かび上がる幻想的な雰囲気。入るとすぐ、三つの黒楽茶碗(全て長次郎作)が並んでいた。右から、黒の極み「俊寛」、四角い造形の「ムキ栗」、そして左端の茶碗に目をやると、上からの照明で、口縁部が丸い金色の輪のように見えた。闇に浮かぶ天使の輪のようだった。銘は「万代屋黒(もずやぐろ)」。以前見たとき、黒茶碗にしては黄色っぽいなと思ったのだが、照明の効果で、こんなふうに素敵に見えるとは。

 照明は、当然ながら茶碗の前面を明るく照らしている。その結果、裏側は影になる。「万代屋黒」の展示ケースをぐるりとまわりながら気づいたのだが、実は裏側から見た方が、黒が引き立って美しいような気がする。また側面から見ると、光の当たっている部分と影になった部分の色味の落差が面白かった。黒茶碗は、光を当てないほうがいいなあというのが、今回の私の感想。

 長次郎の茶碗だけで14件(?)も出ていて、むちゃくちゃ凄かった。黒茶碗「シコロヒキ」好きだわ~。景清にちなむというのが、すごく分かる。「禿」は黒になりきれない黒茶碗という感じ。「一文字」も赤らしくない赤茶碗。長次郎の赤楽茶碗をこんなに見たのは初めてで、どれもよかった。「白鷺」も「二郎坊」もいい。手の存在を強く感じる。

 以下、代々の当主の作品が並ぶ。三代・道入(ノンコウ)の茶碗の前で、おばちゃんグループが「お茶が美味しそうよね~」と話していた。確かに薄手で飲みやすそうだと思う。そして、華やかで文化的でモダン。光悦の茶碗もたっぷり眺めることができて眼福だった。黒楽茶碗「雨雲」は裏からの眺めがよかった。前面の裏側に、稲光のようなひびが深く入っているのだ(照明の加減で気づいた)。

 その後の代々の作品もそれぞれによい。茶碗だけでなくて、四代・一入の赤楽獅子香炉とか、五代・宗入の黒楽獅子香炉とか、十一代・慶入の鵞鳥大香炉とか、面白かった。そして、十五代・吉左衛門の作品はざっと60件ほど、会場の半分くらいのスペースを占めている。茶碗のほかに、土で焼いた茶入や花入や水差もあった。東南アジアのネイティブアートとコラボレーションした展示コーナーも面白かった。

京都大学総合博物館 平成28年度特別展『日本の表装-紙と絹の文化を支える』(2017年1月11日~2月12日)

 紙と絹に書かれた(描かれた)東アジアの絵画や書がなぜ傷むか、どうやって傷まないようにするか、傷んだものをどう修復するか。特に表装を用いた文化財修理を分かりやすく紹介する。ちょうど大学院生の方(女性)の展示解説を聞くことができた。

承天閣美術館 生誕300年記念『伊藤若冲展:後期』(2016年12月15日~2017年5月21日)

 まだまだ続く若冲ブーム。前期ほど目をひく作品は出ていないが、若冲の伝記資料がいろいろ出ていたのは、さすが縁の深い相国寺で面白かった。『祖塔旧過去帳』は月命日ごとに関係者の名前が記された帳面(折本?)で、十日の項に「寛政十二年庚申九月 動植画寄進 斗米庵若仲居士」の記載がある。「若冲」ではなく「若仲」。となりが常憲院殿(徳川綱吉)なのも面白い。ほかにも『役者寮日記』には、若冲が高倉通四条上ル問屋町に所有していた屋敷を、死後、町内に譲り、その家賃料の一部を永代供養料として相国寺に収める予定だったことが記されている(この契約は、天明の大火で若冲が困窮したため解除となる)。また『参暇寮日記』には、大病を患った「若仲」のもとに、相国寺から見舞いの菓子箱が送られたことなども記されている。第二展示室にあった指図(地図)からは、若冲の寿蔵(生前墓)が松鴎庵という塔頭にあったことが分かった。

 作品で目についたのは、常州草虫画みたいで、あまり若冲らしくない『牡丹百合図』。初公開の『鸚鵡牡丹図』。水墨の『山水図』は、画面の真ん中から下へ太い墨の線が下っていて、その上に小さく屋根や木々らしきものが乗っていて、あ、山水画なのか、と気づく。『蕪の図』には仙厓義梵の賛がついていた。『群鶏蔬菜図押絵貼屏風』は何度見てもニワトリがかわいい。セサミストリートのキャラみたいに動き出しそう。

京都文化博物館 総合展示『日本の表装-掛軸の歴史と装い-』(2016年12月17日~2017年2月19日)

 薄い紙や絹といった脆弱な材料で作られた絵画・書跡類を保管し鑑賞するための掛軸(表装)という工夫について考える。「保存の工夫」という観点と「装飾」の観点が混じっているのは、少し分かりにくかった。個人的には表装の「美」をテーマとした展覧会が見たい。本展で、陽明文庫に伝わる近衛家熙の表装をいくつか見ることができたのは嬉しかった。
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