MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

思い込みはほどほどに

2021-10-21 18:22:55 | 健康・病気

今月のメディカル・ミステリーです。

 

10月16日付 Washington Post 電子版

 

Her unexplained jitteriness and weight loss were telling clues

彼女の原因不明のイライラと体重減少は手がかりを教えてくれていた

By Sandra G. Boodman, 

 ほぼ10年間に渡って Sherrill Franklin(シェリル・フランクリン)さんは捉えどころのない障害と闘ってきた。彼女は意図しないまま体重が 22ポンド(約10kg)減った。顔は紅潮し、頸部は汗ばみベトベトして気持ちが悪かった。さらにどういうわけかイライラした。フィラデルフィアから西に1時間のところにある田舎の地域に住んでいる Franklin さんは時々、めまいの発作にも悩まされた。

 気になる新たな症状が出現したため彼女が行った病院で専門医が血液検査を行って初めて彼女の体調が悪かった理由が明らかになった。その医師は彼女が受診した20何番目かの医師だった。

 Franklin さんは無駄に過ごした年月を後悔し、それまでの自身の経験が、誤った想定の不幸な連鎖、機会の逸失、そして、人を惑わす情報への誘導であったと考えている。

 「大変費用がかかったし、惨めでした」と彼女は言う。医師らが、彼女の病気の考えられる原因を繰り返し見逃してきたようであったことに彼女はうろたえている。そして、彼女自身の行動が、図らずも診断の遅れが長引いたことの一因となった可能性があると考えている。

「私はこれから先、元通りになれるかはわかりません」自身の病気について Sherrill Franklin さんはそう話す。「長い長い道のりだったので」

 

 「起こったことを経験したことで多くを学び、その理由を知りました。他の人たちにも学んでいただけることを望んでいます」と彼女は言う。

 

Lyme again? またライム病?

 

 2008年春、博物館の店の商品を製造するビジネスを経営している Franklin さんはライム病(スピロヘータの一種 Borrelia [ボレリア] 属細菌によって引き起こされるダニ媒介性感染症)の治療が必要となったことがあった。彼女には古典的な bull’s eye rash(慢性遊走性紅斑)がみられ、かかりつけの内科医の診療所のナース・プラクティショナー(上級看護師)は標準的治療薬、すなわち一連の経口抗生物質を処方した。

 当時56歳だった Franklin さんは半信半疑で、すっきりしなかった。今回が初めてのライム病発症ではなかったからである。21年前、妊娠中に治療が不十分だったダニによる咬傷でその後2年間苦しんだ。彼女によると、彼女には3週間の抗生物質の経静脈投与が必要であったことを知ったのは、初めてライム病を発見したエール大学の医師に連絡を取ったときだったという。その後彼女は治療を受け完全に回復した。

 2回目のライム病の診断から数週間のうちに、彼女は、神経の高ぶり、筋力低下、さらには発汗などの様々な症状に苦しんだという。これらの症状は最初の時に経験したものとは異なっていたことから、Franklin さんは異なるライムの菌株に感染したのではないかと考えた(12種類以上存在する)。

 一方、彼女の主治医は代謝疾患の可能性を疑い、内分泌専門医への受診を勧めた。彼女が受診したフィラデルフィアの専門医は「私の症状すべてに苛立ち、辟易としたようでした」と Franklin さんは思い起こすが、結局その医師には原因がわからなかった。

 それからの2年間、Franklin さんの内科医は彼女を感染症専門医や内分泌専門医に紹介した:彼女自身も他の何人かの専門医を見つけた。ある医師は彼女の症状は閉経が原因であるとした;他の医師は、甲状腺の機能障害があるとして、甲状腺が炎症を起こしているときにみられる機能の低下や亢進が原因となって生ずる症状の変動を治療すべく様々な量の薬を処方した。

 しかし自身の症状はダニに関連するものであると Franklin さんは徐々に確信するようになった。そして医師らが原因を特定できず有効な治療薬も処方できないように思われたことでその思いは強くなっていった。

 「私は慢性ライム病なのだと思いました」ライム病の活動家となった Franklin さんは言う。「頼りとするところがわかりませんでした。そのため長い間その道を進んで行ったのです」

 “慢性ライム病”の存在や治療は、近年の医学において最も論争を起こしている問題の一つになっている。

 連邦衛生当局は、明確な定義がされておらず誤解を招く恐れがあるこの曖昧な疾患の診断を行わないよう警告している。そして、当局はその治療に用いられる立証されていない危険な治療を行わないよう強く警告している。中でも重要なものは、“ライムに通じている”専門医によって処方される数ヶ月から数年にわたる静脈投与の抗生物質である。これにより一部の症例で重症化したり、死に至ることもあったからである。

 2010年7月、Franklin さんは、回転性めまいと、深刻な疾患の前兆である可能性があるリズミカルにシューという音、あるいはドンドンという音がするいわゆる pulsatile tinnitus(脈動性耳鳴)の症状で耳鼻咽喉科を受診した。彼は画像検査を依頼したが正常であり、動脈瘤や、脳内の血管の異常な塊は除外された。その医師は Franklin さんに、甲状腺の異常が耳鳴に関係しているかもしれないと説明した。甲状腺の機能亢進は頻脈や心臓の動悸をもたらす可能性があり、彼女の耳に反響する音を説明することができた。別の専門医は pheochromocytoma(褐色細胞腫)の精査を Franklin さんに行った。これはまれな副腎腫瘍で、発汗の原因となりうる。しかし検査では異常な所見はみられなかった。

 2011年には Franklin さんは22ポンド(約10㎏)体重が減っていた;彼女は 167㎝で体重118ポンド(53.5kg)だった。彼女の家庭医は心配し、彼女に Ensure(エンシュア、経腸栄養剤)を飲み始めるよう勧めた。「彼の診察室で泣き出し、助けを求めたことを覚えています」と彼女は思い起こす。「私は動揺しており、彼も何をすべきかわかりませんでした」

 彼女の内科医は大きな中西部のメディカルセンターを受診する手伝いをすることに同意したが予約を確保できなかった。

 その後の5年間、彼女は、ライムの専門医、感染症専門医、内科医、および内分泌専門医の間を行ったり来たりした。Franklin さんによると、大概は受診の最初にライム病について言及していたという。ライム病に関係ない医師の反応は、不信を募らせたるものから、全く冷ややかなものまでみられた。

 クリーブランドの感染症専門医は Franklin さんに、彼女の症状は閉経に関連しているものと考えていると告げた。フィラデルフィア地区の内分泌専門医は、彼女は全く健康であると断言した。デラウェアとニューヨークの医師らは彼女が mast cell activation syndrome(肥満細胞活性化症候群)かもしれないと考えた。これは顔面紅潮をもたらすアレルギー反応であるが、その後それは除外された。

 3人のライム病の専門医から処方された治療薬、その中には、3週間のコースの静脈投与の抗生物質が含まれており、これによってFranklinさんに9,000ドルの費用がかかったが、健康状態の改善に何ら寄与しなかった。

 

A telling symptom 手がかりとなる症状

 

 心臓の動悸が2017年1月に本格的に始まった。Franklinさんが初めてかかっていた内科医にその症状を話すと、その医師は不安症状だとしてそれを無視した。彼女の年齢から、その医師が骨密度検査を行ったところ骨粗鬆症が明らかとなった。

 9月21日には動悸は無視できないものとなった。「昼食を食べても動悸は治まりませんでした」と Franklin さんは思い起こす。

 夫が彼女を急病治療センターに連れて行くと、そこのスタッフにより心電図が行われ、救急車が呼ばれた。Franklin さんは、不規則な頻脈である atrial fibrillation(AFib、心房細動)の状態だった。運ばれた病院で、心拍を調整する薬と、AFib の結果起こりうる脳梗塞を予防する薬が開始された。

 一週間後、彼女は再発を起こしその病院に戻った。今回は一人の内分泌専門医によって thyroid stimulating immunoglobulin(TSI、甲状腺刺激性免疫グロブリン)の検査が行われた。Franklin さんによると、この検査はこれまで行われたことがなかったという。

 その結果は確定的でありそのまま診断につながった。Franklinさんの TSI値が異常に高かったのである。この数値の上昇は甲状腺機能亢進症の最も多い原因となっている Graves’ disease(グレーブス病)の特徴である。

 Graves’ diseaseは免疫系が甲状腺を攻撃するときに発病し、過剰な甲状腺ホルモンを産生が生じる。このホルモンは、身体のエネルギー利用を制御し、ほぼすべての臓器に影響を及ぼす。

 19世紀のアイルランドの医師 Robert Graves(ロバート・グレーブス)の名前に由来する本疾患は200人に1人が罹患すると考えられており、その大多数は女性である。その原因は不明だが、甲状腺疾患の家族歴に反映されるように遺伝子の組み合わせの他、ウイルスやストレスなどの環境要因が関与していると考えられている。

 Graves’ の症状としては、意図しない体重減少、イライラ、動悸、頻脈、あるいは心臓の不耐症などがみられる。一部の患者ではグレーブス眼症と呼ばれる眼病変がみられる。Franklin さんにはみられなかったが眼症では眼球突出が認められる。Grave’s disease の治療には3つの方法がある:①甲状腺機能を低下させる放射性ヨードの内服摂取、②甲状腺の切除手術、そして③薬物治療、である。

 治療されないまま放置されると Graves’により骨粗鬆症、AFibが起こり、時に心不全に陥る。

 「新規に発症した AFibのほとんどの患者では甲状腺機能が調べられます」今回の検査を依頼し診断した内分泌専門医の Christopher Bruno(クリストファー・ブルーノ)氏は言う。

 「通常、Graves’ disease はきわめて単純明快な診断になります」と付け加える。「Franklin さんの場合、多くの他の疾患を探るために精査が行われ、これら多くの専門医を受診してきました」このことが異常な診断の遅れにつながった可能性があるという。

 「未診断の Grave’s を抱えて、10年間ずっと彼女が歩き回っていたかはわかりませんが、少なくとも1、2年間はそういう状態でした」それによって、AFib とおそらく骨粗鬆症が引き起こされたと彼は言う。

 ライム病への彼女の執着が、このような結果を招いた要因の一つになっていた可能性があると考えていると Bruno氏と Franlin さんはともに言う。

 Bruno 氏によるとライム病が Graves’ disease を引き起こしていた可能性があるかどうか Franklin さんが彼に尋ねたという;彼は、両者には関係はないと彼女に説明した。

 「それらは二つの独立した経過です」と彼は言う。

 Franklin さんによると、今、あまりに多くの専門医を受診したことで明らかになるどころか混乱を招くことになったと考えているという。他の医師が言ったことを新しい医師に話さなければ良かったと思っている。また、自身のカルテをごく当たり前に共有しなければ良かったとも考えている。「彼らはこう思うのでしょう、『オッケー、何人かの専門医がすでに彼女を診ている、彼女はグズグズ言う人間なのだ』と」そう彼女は言う。

 自分を“頭のいかれたライムの女”と片付けた医師もいただろうと彼女は思っている。

 振り返って見れば、医師らに「これは他に何の可能性がありますか」と尋ね、そして彼女が取るべき次の手段について訊いた方が良かったのではないかと彼女は考えている。自身の甲状腺機能の変動があったにも関わらず、受診した内分泌専門医の誰一人として彼女が Graves’ かもしれないと考えなかったことに Franklin さんは今でも不思議に思っている。

 2018年、薬物療法では彼女の甲状腺機能を安定化できなかったため、Franklin さんは甲状腺を切除する手術を受けた。これにより彼女の健康状態は劇的に改善した。彼女には AFib の再発はみられておらず、骨密度も改善した。

 「私はこれから先、元通りになれるかはわかりません。あまりに長い道のりだったので」と彼女は言う。

 

 

 

 

 

この患者、経過中に何度か甲状腺の異常が疑われたようであるが、

結局最終診断にはなかなかたどり着けなかったということなのだろう。

 

グレーブス病(あるいはバセドウ病)については下記サイト等

ご参照いただきたい。

杏林大学医学部付属病院

日本小児内分泌学会

 

甲状腺は頸の前面で鎖骨のすぐ上に、蝶が羽を広げたように

気管の両側に存在する大きさ15~20gの内分泌器官である。

甲状腺は、食べものに含まれるヨウ素から甲状腺ホルモンを産生する。

甲状腺ホルモンは各器官に作用し、主として代謝を活発にし、

体温調節をしたり基礎代謝を上昇させたり、

成長や発達を促したりするなど重要な役割を果たす。

この甲状腺ホルモンの合成・分泌が過剰になり

血液中のホルモン値が上昇している状態を甲状腺機能亢進症という。

バセドウ病(グレーブス病)は

甲状腺機能亢進症を引き起こす代表的な病気で

自己免疫疾患の一つである。

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、

甲状腺機能亢進による症状、すなわち動悸や息切れ、手の震え、多汗、

全身倦怠感、体重減少、眼球突出など全身に様々な症状を引き起こす。

20歳から50歳代に多く、女性が男性の3~5倍多い。

高齢者にも発症するが、症状が典型的でなく診断が遅れることがある。

バセドウ病という病名は、この病気を1840年に発表した

ドイツ人医師 Karl Adolph von Basedowの名前からつけられたが、

英語圏では1835年に本疾患を報告したRobert James Gravesの名前に

ちなんでグレーブス病と呼ばれることが多い。

 

原因

甲状腺からの甲状腺ホルモンの分泌は、

脳下垂体から分泌されている甲状腺刺激ホルモン(TSH)により

調節を受けている。

バセドウ病では、甲状腺にあるTSH受容体に対する抗体、

すなわち TSH受容体抗体(TSH receptor antibody : TRAb)が

何らかの原因で作られ、

それにより甲状腺が刺激され甲状腺機能が亢進する。

バセドウ病の原因はいまだ完全には解明されておらず、

遺伝因子、環境因子、あるいはその両方の関与が考えられている。

原因となる遺伝子はまだ特定されていない。

遺伝因子以外の要因として精神的・肉体的ストレスや

喫煙、過労、出産などの関与が示唆されている。

 

症状

バセドウ病により甲状腺ホルモンが正常より高くなると、

甲状腺機能亢進によるさまざまな症状が出現する。

甲状腺ホルモンにより新陳代謝が活発になりすぎるため、

常に運動しているような状態になり体が消耗する。

代表的な症状として頻脈、心気亢進、手の震え、体重減少、

多汗、眼球突出などがある。

なかでも、びまん性甲状腺腫大、頻脈、眼球突出が

典型的3徴候(メルセブルグの3徴)と呼ばれている。

そのほか、不整脈(心房細動)などの循環器系の症状、

食欲亢進、軟便または下痢、肝障害などの消化器症状、

脱力、筋力低下などの神経・筋症状がみられる。

バセドウ病の原因である抗体により、

バセドウ眼症という眼球突出を見ることがある。

心不全や骨粗鬆症、不妊や流産などの原因となることもある。

男性ではまれに低カリウム血症から脱力がみられることがある。

 

検査

問診と甲状腺の触診、採血と甲状腺超音波で診断する。

甲状腺ホルモンであるFT4(フリーT4、サイロキシン)や

FT3(フリーT3、トリヨードサイロニン)の血中濃度が高値で、

甲状腺刺激ホルモンであるTSHが低値であれば、

甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)と診断する。

さらに抗TSH受容体抗体(TRAb)を測定して陽性であれば、

多くがバセドウ病の診断となる。

甲状腺超音波検査では、甲状腺はびまん性(全体的)に腫大し、

甲状腺内部の血流の増加が確認される。

バセドウ病の診断には、甲状腺機能亢進症の原因となりうる

抗不整脈薬のアミオダロンやインターフェロン、抗癌剤などの

薬剤の影響、腫瘍や炎症などを除外する必要がある。

 

治療

治療は甲状腺ホルモンの分泌を抑制し正常化することを

目標とする。

①薬物療法

薬物療法にはチアマゾールやプロピロチオウラシルなどの

抗甲状腺薬と無機ヨウ素による治療法がある。

多くの場合、抗甲状腺薬のチアマゾールから開始するが、

ホルモン値が正常となるまでには1~3ヶ月かかるため

即効性のある無機ヨウ素を併用する場合もある。

動悸、息切れなどに対してはβブロッカーを投与する。

なお抗甲状腺薬には副作用に注意する必要がある。

副作用には皮膚のかゆみや発疹などの軽症副作用と、

無顆粒球症(白血球の中の顆粒球の減少)、重症肝機能障害、

MPO-ANCA関連血管炎などの重症副作用がある。

抗甲状腺薬で副作用が出た場合や、

甲状腺機能を早く正常化させる必要がある場合は

無機ヨウ素による治療が行われる。

無機ヨウ素による治療は、重篤な副作用がなく即効性がある反面、

長期服用で効果がなくなるというエスケープ現象が知られている。

②放射線治療(アイソトープ治療)

放射性ヨードのカプセルを服用する治療である。

原則として18歳以下の若年者には用いられない。

この治療では抗甲状腺薬による副作用や手術による合併症を

回避できることから欧米では良く選択される治療法となっている。

しかし、日本においては放射線に対して抵抗感があり、

また治療できる施設が限られているので積極的には

用いられていない。

③手術療法

手術療法は、抗甲状腺薬で重篤な副作用が出た場合、

腫瘍を合併している場合、TSH受容体抗体が高く難治な場合、

あるいは出産に不安のある妊婦やバセドウ眼症が高度な患者などに

適応がある。

手術には甲状腺を少し残す亜全摘と全摘とがある。

亜全摘は再発率が高いのに対し、全摘では術後甲状腺ホルモンを

永続的に服用する必要がある。

確実な治療効果が得られることから全摘が選択されることが多い。

 

古くから知られている頻度の高い病気であるが、

発症にストレスが関与している可能性があるなど

いまだに謎の多い病気である。

 

 

 

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