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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

成長しない原因とは?

2011-09-05 19:12:34 | 健康・病気

お待ちかね?
メディカル・ミステリーの紹介です。

8月30日付 Washington Post 電子版

Medical Mysteries: A tiny baby who didn’t grow メディカル・ミステリー:成長しなかった小さな赤ちゃん

Tinybaby
両親の Lisa Simonson McElhinney さん、Brad McElhinney さんとメリーランド州 Brunswick の自宅でくつろいでいる Morgan McElhinney ちゃんは 9才で体重が45ポンド(20.4kg)しかない。

By Sandra G. Boodman
 その産科医は何か重大な異常があることにすぐに気づいた。
 Morgan McElhinney ちゃんは5ポンド(2,258g)を少し上回る体重で頭部は異常に長く細かった。彼女の筋肉の緊張は心配なほど低く、泣き声は異常に弱かった。Frederick Memorial Hospital の医師たちは生まれた赤ちゃんを母親の Lisa Simonson McElhinney さんに短時間だけ抱かせたあと、新生児集中治療室に急いで移した。

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Morgan McElhinney ちゃんは意思の疎通に iPad に似た器具を用いている。この少女は話すことができないがすぐれた記憶力を持っていて多くのことを理解しているようだと母親は言う。この母親は、娘の稀な疾患に対する関心を高める団体の創設に尽力した。

 「数日間はほとんど会うことができませんでした」2002年6月、彼女の4人目の子供の出産直後のことをMcElhinney さんは思い起こす。ほぼ1週間の入院の後、この赤ちゃんは自宅に帰ったが、どこに異常があるのかについては不明だった。初期検査では代謝性疾患など明らかな原因は見つからなかったのである。
 「私たちは心配でした」Frederick でアパートを経営している McElhinney さんは言う。「楽観的になろうとして『たぶんこの子はそんなに悪くない。恐らくこの子はただ早すぎただけで、成長すればこの状態を脱することができる』と言ったものです。専門家でさえ最初は楽観視しようとしていたのです」と彼女は言う。
 McElhinney さんとその夫 Brad さんが娘の異常の本当の理由を知ることができたのはそれから5年以上経ってからのことである。そしてその事実は、McElhinney さんの気持ちを揺るがし他の家族の支援を目的とする新たな努力に彼女を惹きつけた新たな悲しみの波をもたらした。
 現在46才になる McElhinney さんによると、何となく異常を感じた最初の徴候は彼女の陣痛が始まる直前に起こったという。その時、この胎児は、足が先となっている逆子の状態から頭が先となる適正な位置に向きを変えたのである。
 それは異様なことに思われた。妊娠がかなり進んでいるこの時期に胎児があれほど劇的に体位を変える十分な余地はないはずだった。恐らくこの胎児は予測時期より早く生まれようとしているのだろうと彼女は考えた。医師の計算による2週間ではなく1ヶ月早いのではないだろうかと思い、彼女はそれほど心配しなかった。McElhinney さんは前の結婚以来 7才から16才までの3人の子供を産んでいたし、今回の妊娠もこれまで通り問題なかったからである。
 5ポンド3オンス(2,353g)とMorgan ちゃんの出生体重が低かったことが最初のショックの一つだったと、5フィート10インチ(177.8cm)と長身の McElhinney さんは言う。彼女のそれまでの子供たちは出生時約8ポンド(3,629g)の体重があったからである。
 数ヶ月後、Morgan ちゃんの異常が予想以上に深刻であることが明らかになってきた。「私たちが彼女に食べさせたり、おむつを替えたりしたとき異常を感じたのです」と、McElhinney さんは思い起こす。「彼女は私たちの誰にも反応を示しませんでしたし、彼女の手足はクラゲのようだったのです」McElhinney さんと夫は彼女が自閉症なのではないかと心配したが、その懸念は彼女が大きくなるにつれ手で羽ばたくような奇妙な運動を繰り返し始めたころからさらに増大した。
 Morgan ちゃんの体重の増加障害もまた同じように心配で、多くの専門家の一人に紹介をしてもらうことになったが、彼からも答えは得られなかった。生後7ヶ月になっても、彼女は寝返りを打つことができなかったが、これは正常なら生後数週でできる子もいる。ちょうどそのころ Morgan ちゃんには国家プログラムの支援のもとで早期介入治療が開始された。
 時を同じくして、ちょっとの間 McElhinney さんの希望が高まることがあった。Morgan ちゃんがひどい近視であることが医師によって発見されたのである。「視力は発達にとってかなり重要です。ですから、矯正用眼鏡を一度試してみることを希望しました」と、McElhinney さんは言う。しかし、視力が回復しても大きな変化は見られないようだった。
 それからほどなく Morgan ちゃんの両親は彼女を Johns Hopkins Hospital の神経内科医のもとに連れていった。 Morgan ちゃんの脳には生下時の損傷や構造的問題は見られず脳性麻痺は除外された。彼の診断は『global developmental delay(総合的発育遅延)』だったが、それは原因説明というよりも症状記載に過ぎないように思われた。
 「私は非常に不満でしたが、その病院が何か過ちを犯したわけではないことは少なくとも理解していました」と、McElhinney さんは言う。分娩中に Morgan ちゃんに異常を来たすような何かが起こったのではないか、あるいは何らかの形で自分に責任があったのではないかと彼女は懸念していた。「しかし、診断がつかなければ何を期待すべきなのか、またそれにどのように対処するのがベストなのかがわからなかったのです」
 Morgan ちゃんは生後15ヶ月となり、支えなしに座り始めるようになっていた(ほとんどの赤ちゃんがそうできる時期よりほぼ1年遅れていた)ころ、その神経内科医のもとに2度目の受診をしたが依然として解明されなかった。医師らは自閉症やいくつかの稀な染色体異常を除外したが、根本的な原因を特定できなかった。

‘Am I ever going to know?’ 「知ることのできる日が果たして訪れるのだろうか?」

 「私たちは早期介入プログラムによって彼女の発達が進む努力をひたすら続けました」と、McElhinney さんは言う。Morgan ちゃんがゆっくりながら進歩している限り、それが成すべき最善のことのように思われた。特に長期化する家族の一員の難局には少なからぬ心遣いと援助が必要だった。
 「フルタイムの仕事をし、他に3人の子供がいたことは厳しい状況でした」と彼女は言う。医師から必要だと言われていた支援をきっちりと Morgan ちゃんに受けさせることに全力を注ぐことにし、彼女と夫は診断の追求をあきらめることに決めた。
 しかし Morgan ちゃんが5才となった2007年の秋、彼女の診療にあたってきた地元の神経内科医から、家族に対して、発達障害の子供たちを治療しているバルチモアにある Kennedy Krieger Institute の専門医を受診するよう勧められた。
 2008年1月、McElhinney さんは膨大な診療記録を持って Morgan ちゃんを Kennedy Krieger に連れて行った。「どうでしょう!病気が何であるかがわかることになるかしら?」その時のことを彼女は思い出す。
 詳細な家族歴を聴取され、いくつか検査を受けた後、McElhinney さんが5年間待ち望んでいたことがついにそこの発達小児科医から伝えられた。「病気が何であるか判明したようです。ただし確定診断には Hopkins の遺伝学者による確認が必要となります」そう言われたことを彼女は思い起こす。
 Morgan ちゃんは Cohen syndrome(コーエン症候群)の診断基準の多くを満たしていた。これは1973年、カナダの医師 Michael Cohen によって初めて記載されたきわめて稀な遺伝的疾患である。現在までこの疾患の患者は世界中でわずかに1,000例ほどしか確認されていないが、正しく診断されていない例がさらに多くいるだろうと医師たちは推察する。
 ウェブサイト Genetics Home Reference によると、Cohen syndrome は VPS13B 遺伝子の変異で生ずるが、この遺伝子は細胞内のたんぱくのソーティングに関与している可能性がある。この症候群には重症度に差があるがそのほとんどの患者で、成長障害、発達遅延、精神発育遅滞などの知的障害、筋の低緊張が見られ、生下時の頭囲が正常より小さい。心臓欠損や失明の原因となる網膜異常も起り得る。ほとんどの患者で両親それぞれから受け継いだ同遺伝子の二つの欠損コピーを持っている。
 本症候群に対する治療法はない。本症候群は、遺伝的欠損の永続化を招きやすい外部との婚姻がまれな特定の集団において発症頻度が高い。そのような集団としては、アーミッシュ派の人たち、フィンランド人を先祖に持つ人々、Irish Travellers と呼ばれるアイルランド系遊牧集団、あるいは隔絶されたギリシャの島の住民などが挙げられる。
 「私はこの病気が何であるのか見当もつきませんでした」と、祖先が確かにフィンランド人である McElhinney さんは言う。「『これって本当にそうなの?』と、私は思いました。私たちの家族は自分たちの受け継いできたものを誇りに思っていました。いきなりお腹を蹴られたような感じでした」
 彼女のケースを担当した遺伝学のフェローVinayak Kottoor 氏によると、医師らが最初から Cohen syndrome を念頭におくことはなかったという。
 「Morgan ちゃんには他の稀な遺伝疾患の所見がいくらか見られていました。それで幅広く考えていたのです」と彼は思い起こす。「しかしこれは確かにリストの上位にありました」300の異常や疾病からなる電子化データベースにMorgan ちゃんの情報が送りこまれ作成されたリストの最上位にこの症候群が入ったことから彼らはさらに強い確信を持つこととなった。
 現在は Johns Hopkins School of Medicine で医学部の講師をしている Kottoor 氏は VPS13B 遺伝子のスクリーニング検査を勧めた。しかしこの家族の入っていた保険会社は、それが彼女の治療を左右するものではないという理由でこの5,800ドルの検査の支払いを拒否した。そこで Kottoor 氏はこの家族が支払うことのできる額300ドルでこの遺伝子の一部を検査してくれる Gaithersburg の研究所を見つけ出した。確定診断をつけるにはそれで十分だった。
 「診断は何に取り組めばよいかというアイデンティティーを家族に与えてくれます」と Kottoor 氏は言う。いまだに彼にとって Morgan ちゃんはこれまでに見た Cohen’s syndrome の唯一のケースであると言う。「サービスを手に入れる権利を強固なものにしてくれる可能性があります。さらに遺伝子疾患の研究が進展したときには新たな治療法の選択肢が与えられるかもしれません」
 2008年6月、検査により、一つの遺伝子に遺伝学者が “the Finnish mutation” と呼んでいる異常を Morgan ちゃんが持っていることが明らかになった。恐らくそれは母親から受けたものだ。Brad McElhinney さんもいくらか Pennsylvania Dutch の血を受け継いでいることから、Morgan ちゃんが2つの欠損遺伝子を受け継いでいたかもしれないが、300ドルの検査では second mutation(もう一つの遺伝子変異)の検索は行われていない。McElhinney さんは「自分と夫でたまたまそういう運命に当たってしまった」と考えている。医師たちは彼らがそれぞれ欠損遺伝子を持っていると考えているが、それぞれの親族には Cohen syndrome に似た病気の患者は見られていない。
 病気が判明したことで安らぎと落ち着きがもたらされた。治療法はないため、対処法としては身体的症状と発達遅延へ取り組むことになる。
 Morgan ちゃんは中等度の障害であると Kottoor 氏は見なしている。9才ながら 45ポンド(20.4kg)の体重で用便のしつけはできていない。母親によると彼女は tall toddler に似ているという。話すことはできないが彼女は愛想が良く、iPad に似た器具を用いて意思の伝達をする。彼女は記憶力が良く、多くのことを理解しているようだと McElhinney さんは言う。
 「Morgan が話すようになれないなんて最初は受け入れられませんでした」と彼女は言う。「それは大変困難なことでした。『一体何を考えてるの?』と思ってしまうのです」
 この疾患についてさらに多くのことを知りたい、他の親たちと接したいという気持ちから、McElhinney さんはオハイオ州 Middlefield にある DDC Clinic に連絡をとった。そこは稀な遺伝病の治療を専門に扱っている。そこの医師たちは近隣の小さなアーミッシュ派の人たちのコミュニティで20例以上の Cohen syndrome を診断していた。Morgan ちゃんの診断から数ヶ月後、McElhinney さんと Morgan ちゃんはオハイオで行われた会議に参加し他の家族と会うことができた。
 「子供たちはよく似ていました。自分の子とよく似たそれらの子供たちを見ると、何とも表現しがたい気持ちになります。それは安堵感であり、ほとんど喜びに近いものです」と、彼女は思い起こす。「その集まりは娘が溶け込むことのできた初めての場でした」
 その翌年、彼女は Cohen Syndrome Association の設立に尽力した。これは、本疾患の関心を高めることを目的とした国際的なオンライン支持団体である。「私たちは実際に相互支援をしています」と McElhinney さんは言う。彼女は援助や情報を求めている家族から毎週連絡を受けている。「私は Morgan に起こったことを阻止することはできません。でも他の家族を支援することはできるはずです」そう彼女は言う。

1973年カナダの Cohen が初めて3症例を報告。
第8染色体上の VPS13B 遺伝子の変異が原因。
中等度~高度の精神発育遅滞、
小頭・小顎で外下がりの眼瞼・密集した歯を持つ
特徴的な顔貌、
近視、早期に発症し進行する
視力障害(網膜ジストロフィー)、
白血球減少、筋の低緊張、過可動性の関節、
などを特徴とする。
一般に Cohen syndrome では
精神発育遅滞が認められるが
Morgan ちゃんに見られるように
愛想が良く情愛的な子供が多いと言われる。
治療法はない。早期の介入、理学・作業・言語療法で、
発達障害、関節弛緩および低緊張筋に対処する。
日本人ではさらに稀と考えられる疾患である。
Cohn syndrome の詳細はこちら(in English)。

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