MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

制御不能な私の左足

2018-02-23 22:40:31 | 健康・病気

2月のメディカル・ミステリーです。

 

2月19日付 Washington Post 電子版

 

One day, a serious athlete couldn’t walk straight. Doctors were stumped.

ある日、まじめなスポーツウーマンがまっすぐ歩けなくなった。医師らは困惑した。


By Sandra G. Boodman,

 「何やってんの?」Laura Hsiung(ローラ・シーアン)さんがメリーランドにあるハンドボールのコートをゆっくりと走っていたとき彼女の友人たちはそう尋ねた。彼女は足首を故障したかのように左足の外側で歩いていたのである。

 Hsiung さんは自身も同じ事を疑問に思っていたことを思い出す。正常に歩いていたかと思うと、その後突然歩けなくなることがあったのである。

 「私には見当がつきませんでした」と Hsiung さんは言う。「足首を捻挫したようなことはありませんでした。しかし左足がとにかく正常に機能しなかったのです」

 それからの2年間、Hsiung さんは整形外科医、足治療医、さらには神経内科医と相次いで専門医を受診したが、彼らは誰一人として、彼女の奇妙な歩行を引き起こしている原因を説明することができなかった。

 彼女は手術を受けたが効果はなく、この障害に対して次第に自暴自棄になっていった。しかし彼女の右側の足にはその症状を見ることはなかった。

 「医師からは異口同音に『あなたの病気の原因はわかりません』と言われました」Montgomery 郡に住む Hsiung さんは言う。さらに彼らのほとんどは、推定される原因を解明することに関心がないようだったと彼女は言う。

 

Laura Hsiung さんは、歩行機能を障害する病気を発症後、理学療法準学士を取得した。彼女は現在、負傷兵士の治療に取り組んでいる。

 

 失望と不安を抱えたまま2年近くが経過した後、ある理学療法士への受診が最終的に診断につながり、その後、Hsiung さんのまれな症状の軽減に有効となる治療が行われた。

 2人が会ったのは2度しかなかったが、その理学療法士と出会えた影響は、Hsiung さんの人生の新たな一面を活性化する効果をもたらし、彼女が考えていた中年期の転職を後押しする結果となったのである。

 

Thinking about every step 一歩一歩を考える

 

 生まれてこのかた、Hsiung さんはスポーツウーマンだった。体操選手としての彼女の技量は University of New Hampshire のスポーツ奨学金を彼女にもたらした。彼女は熱心なランナーでもあり、30歳代になってもバレーボール競技に出場した。

 ハンドボールコートでのあの2010年のエピソードの後、彼女が最初に受診したのは Montgomery 郡の足治療医だった。彼は足首のレントゲン写真を撮影したが、異常は何も認められなかった。その医師は“全身性脱力(generalized weakness)”と診断し、当時46歳だった Hsiung さんを理学療法士に紹介した。

 彼女は6ヶ月の間、定期的にその理学療法士を受診した。彼は彼女の歩行を正常化させることを期待して足首のテーピングを試みた。また、ストレッチ運動の治療計画を指示し、彼女の靴に特注の矯正具をオーダーした。しかしこれらの方策はいずれも効果がなかった。

 歩行時 Hsiung さんの左足は外側への回転を繰り返したが、これは回外(supination)と呼ばれる動きである。「足首は痛むし、つま先は丸まるので、一歩一歩考えなければなりませんでした。なぜなら、私は常に修正しようと努めていたからです」そう彼女は思い起こす。

 彼女の祖父がパーキンソン病にかかっており、病初期に下垂足(foot drop)を起こしていた。これは足の前側を持ち上げることが難しくなる状態である。

 Hsiung さんは、他の症状はなかったものの自身の症状がパーキンソン病の初期の徴候ではないかと心配した。

 彼女は、著しい関節の摩耗によって引き起こされる疼痛のために両膝の関節置換術を受ける必要があることを承知していた。

 「手術で良くなる可能性があったことから、私は前に進み、膝の置換術をすべきだと考えました」と彼女は言う。

 2011年3月、Hsiung さんは両膝の人工関節置換術を受けた。その手術により彼女の膝の機能は非常に改善したが、彼女の奇妙な歩行は持続した。「私はこう思いました。『うわっ、やばい、治ってない』」

 次に彼女が向かったのは、疼痛治療を専門にする麻酔専門医だった。「悪い原因はわからないと彼は言いました」と彼女は思い起こす。

 彼女は先の足治療医のところに戻った。彼は彼女の左足首の良性腫瘤であるガングリオン嚢胞を切除する手術を提案した。これが関節を障害している可能性があると彼は考えたのである。

 その手術は 2011 年11月に行われた。しかしやはり効果は見られなかった。

 翌月、歩行障害を専門とする医師である整骨医(osteopath)を受診したがこれも有効ではなかった。

 彼女が次に受診したのは神経内科医だった。彼は神経機能を評価する筋電図検査とともに Hsiung さんの腰部と足首のMRI検査を行った。すべては正常だった。2012年6月、Hsiung さんは7人目の医師となるワシントンの整形外科医を受診した。この医師は足と足首の疾病を専門としていた。

 彼の回答は情けないほど聞き覚えのあるもので失望する内容だった。彼は“左足関節の不安定性”と診断したが、その原因が何かはわからなかった。

 その整形外科医は、Hsiung さんに理学療法士の John Jowers 氏を受診するよう勧めた。彼はその医師と一緒に働いている人物だった。「John なら奇妙な症状に対処してくれる、そう彼は私に言いました」

 

Running backward 後ろ向きに走る

 

 突然の症状について Hsiung さんから説明を聞いた後、Jowers 氏は彼女の歩行をより正確に解析するために彼女がトレッドミル上を歩くのを録画することにした。彼女の足の横と後ろから、その動きがカメラに収められた。

 筋力の低下が原因でないことは明らかだった。「Laura さんにはしっかりした筋力があり協調性も保たれていました」と彼は指摘する。

 しかし Jowers 氏は別の事実を発見した:彼女が後退するときや横に一歩踏み出すときには、彼女の足は正常に機能していたのである。

 「これが整形外科的疾患でないことは実に明らかでした」と Jowers 氏は言う。その一つの理由として、彼女が自身の動作に集中することによって足を制御することができないように見えたからである。彼女の問題は神経学的な疾患である可能性があると彼は考えた。

 Jowers さんによると、およそ数年前に医学生涯教育で学んだことのある、あるまれな疾患を思いついたという。動作特異性局所性ジストニア(task-specific focal dystonia)と呼ばれる運動障害は、特定の筋肉の反復使用、もしくは酷使の後に起こりうる;その原因は不明だが、遺伝的要因や環境的要因の結果と考えられており、運動を統制する脳の局所における機能不全を反映している可能性がある。

 この疾病を持つ患者では、不随意な筋肉の収縮、あるいは制御できない運動が前触れなく起こる。著述家がこれを起こすこと(この場合書痙 writer's crampと呼ばれる)があり、ピアノやギターなどの楽器を演奏する人たちや(音楽家ジストニア musician's dystonia)、ランニングなどのスポーツに関わっている人たちにも見られる(反復運動ジストニア、あるいはランナーズジストニアとして知られる)。

 「皆さんがこれを見ることは恐らくないでしょうが、万が一に備えて、心の片隅に留めておいて下さい」そのときインストラクターが聴講者に向かってそう話したことを Jowers 氏は覚えている。

 この疾病はまれで、100万人当たりおよそ7~69人が発症する。演奏が障害されるほど重症のジストニアに見舞われるのは音楽家の約1%であり、その中には名ピアニストの Leon Fleisdcher や故 Glenn Gould がいる。

 反復運動ジストニアの最近の研究では、同疾患は整形外科的疾患や、さらには精神的疾患としばしば誤診されることがわかっている。

 11月には ランナーズジストニアを持つ28歳の Justine Galloway さんが後ろ向きに走ることにより、ちょうど6時間ほどでニューヨークシティマラソンを完走したが、後ろ向きに走ることが彼女の脳を正常に活動させているようである。

 この疾患は治癒不能である。ボトックスの注射やパーキンソン病の治療に用いられる薬剤であるレボドパ levodopa などの治療が症状を軽減させることがわかっている。

 2度目の受診の際、Jowers 氏は、この疾患が彼女の足の症状を引き起こしている可能性があると考えていると Hsiung さんに説明し、神経内科医への受診を勧めた。

 2、3ヶ月後、Hsiung さんはマンハッタンのジストニアの専門医を受診し、Jowers 氏が疑っていた診断が確定した。

 「ついにこの症状の病名が得られて安堵しました」と Hsiung さんは言う。「でもそれを治すことはできないのです」

 彼女はレボドパの内服を始めたが、それにより歩行は正常化した。Hsiung さんはさらに、ハイキングコースのような起伏のある地形を歩く方がショッピングモールを歩くよりはるかに楽であることを発見した。

 Hsiung さんのこの2年間の苦難、そして彼女の病気の解明にほとんど興味を示さなかった多くの医師に対する強い失望が、人生を変える方向に彼女を駆り立てた

 28年間携わった法関連ソフトウェアを売る仕事を 2014 年に退職、そして Montgomery 大学の2年半のプログラムに登録し理学療法準学士の学位を取得した。

 Hsiung さんによれば、自身が何年にもわたって悩まされてきたスポーツ関連外傷や、Jowers 氏の支援により知り得た経験から、この仕事に惹きつけられたという。彼女は Jowers 氏のことを“症状の原因が何であるかを解明するために進んで時間を割いてくれた唯一の人物”と表現する。

 この2年間、Hsiung さんは Bethesda にある Walter Reed National Military Medical Center のクリニックで負傷した兵士の治療に当たってきた。「あの経験が自分を、より優れた療法士にしてくれたと思っています」と彼女は言う。

 現在 Rockville にある Launch Sport Performance に勤務している Jowers 氏はつい最近まで Hsiung さんと連絡がとれていなかった。自身が施した治療の結果が一因となって二人が同じ領域で働くことになったことを彼は知らなかった。

 「このことを聞いて私は大変嬉しく思いました」と Jowers 氏は言い、彼女の転職に自身の貢献があったことを知ったとき“心を揺さぶられたように”感じたと付け加える。「Laura さんはそれに対する見方を変え、そこから前向きなものを作り上げたのです」

 

 

 ジストニアについては

“ NPO 法人ジストニア友の会”のHP

ご参照いただきたい。

 

ジストニア (dystonia)は、

中枢神経系の障害による不随意で

持続的な筋収縮にかかわる運動障害の総称と定義される。

自分の意思と関係なく、無意識に筋肉が硬直し、

姿勢異常を来したり、全身あるいは身体の一部が捻れたり

硬直、痙攣が引き起こされる。

このうちある特定の動作をするときにジストニアの症状が

出現するものを動作特異性ジストニアといい、

代表的なものに字を書くときだけ手の痙攣が起こる書痙がある。

職業に関連する場合、職業性ジストニアと呼ばれる。

音楽家が楽器を演奏できなくなったり、

スポーツ選手では、ピッチャーが投げられなくなったり

ゴルファーがパットを打てなくなるといったものである。

最近よく耳にする“イップス”と、このジストニアとの

関連性が指摘されている。

病理学的には脳に明確な異常が認められないことから

本症の原因はまだ不明であるが、

プレッシャーなどの心理的影響や遺伝的素因の関与も

示唆されている。

同じ動作や姿勢を反復的、かつ高頻度に繰り返すことで

脳の神経機能に何らかの障害がもたらされると考えられる。

 

ジストニアは未だに症例が少なく治療法は確立されていない。

根治療法はなく対症療法によって症状の緩和を目指す。

薬物治療としては、抗パーキンソン薬、抗不安薬などが

用いられるが、効果が見られない場合も多い。

不随意運動を起こしている筋肉に対して

筋緊張を低下させる注射を行うボツリヌス療法や

神経ブロックが行われることもある。

薬物の効果が見られない難治例では、

大脳基底核の一部(視床)を凝固する定位脳手術や

大脳基底核に電極を埋め込む脳深部刺激術が選択される。

 

これまでは、心因性のものと片付けられてしまっていたり、

整形外科的治療(手術)が行われたケースも多く、

本疾患に対する十分な啓蒙が求められる。

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