ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

落下の王国

2008年11月30日 | 映画レビュー
 劇中語られる作り話があまりにも荒唐無稽でストーリーとして成り立っていないため、途中でついていけなくなり、寝てしまった。脱物語の物語として見れば面白いのかもしれないが、やはり思想や哲学をついつい求めてしまうわたしの性癖からすると、この「オリエンタリズム変奏曲以外何もない物語」には耐えられない。しかし、物語の二重構造のメタ部分に着目すれば、それなりにつじつまが合っているから不思議な後味を残す。

 この作り話には元ネタがいくつかありそうだ。シンドバッドの冒険かはたまた…と書き出して、はてな、具体的には浮かばない(汗)。

とにかく縦横無尽に場面が変わる全世界の世界遺産ロケが圧巻です。撮影にどれくらい時間がかかったのかとその苦労は画面を見ているだけでも十分伝わってくるが、やはり4年かけて撮り溜めたのだとう。4年もかかったら5歳の子役が大きくなってしまうと心配だが、子役の場面だけ先に撮影を終わらせて後から4年がかりで世界中のロケ地を回って撮影したとか。

 物語の舞台は1915年のロサンゼルスにある病院。映画スタントマンのロイは撮影中の事故で半身不随になって入院している。そこにふらふらと現れたのは腕を骨折して入院中の5歳の少女アレクサンドリア。自殺を考えているロイはおとぎ話で少女をつなぎ止め、彼女を利用して服毒自殺しようと考える。アレクサンドリアに劇薬を取って来させるために手懐けようとあれこれと荒唐無稽なお話を始めるのだが…

 ロイの暗い物語にアレクサンドリアが異議を申し立ててお話は随所で変更を加えながら、世界中を舞台に展開する。このおとぎ話の華麗なこと! 世界遺産13カ所を含む24カ国以上でのロケは眩暈がするほど美しい。ロイが語るお話はどれもこれもネガティブですべてが悲劇に終わる。そのお話を聞きながらアレクサンドリアは涙を流して「そんなお話はイヤ」と訴える。この二人の会話の自然で愛らしいこと。そして、お馴染みの世界遺産、万里の長城とかタージマ・ハールとか、アンコール・ワット、ローマのコロッセオ、エジプトのピラミッド等々も様々なカメラアングルで絵画的に撮られているため、その美しさに見とれてしまう。

 しかし、美しい映像とは裏腹にロイが語るお話は陰惨で、その内容がアレクサンドリアに恐怖と悲しみを植え付ける。ロイの暗い自殺願望が物語を一層暗くて支離滅裂なものへと落とし込んでいく。悪い提督によって抑圧される「原住民」、農場で酷使される黒人奴隷、といった「主人と奴隷」あるいは「抑圧者と被抑圧者」という物語はロイの劣等感が生んだものでもある。女優である恋人を主演男優に奪われたという衝撃と絶望が紡ぎ出す物語からはロイの再生は望めそうもない。さて、この若者と少女の現実の物語はいったいどのような結末を迎えるのだろう? 

 最後に、サイレント時代のアクションシーンの数々がエンドレスに流れる。これがまた圧巻。ロイとアレクサンドリアの語る勇壮な童話のめくるめく世界は、映像ファンに向けたターセム監督の贈り物。映画でなければできない作品がまさにこれ。ぜひ映画館で見て欲しい映画です。と言いながら、もう上映は終わってしまいました、残念。

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落下の王国
THE FALL
インド/イギリス/アメリカ 、2006年、上映時間 118分
製作・監督: ターセム、脚本: ダン・ギルロイ、ニコ・ソウルタナキス、ターセム、衣装デザイン: 石岡瑛子、音楽: クリシュナ・レヴィ
出演: リー・ペイス、カティンカ・ウンタルー、ジャスティン・ワデル、ダニエル・カルタジローン、レオ・ビル、ショーン・ギルダー