ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

大いなる陰謀

2008年05月06日 | 映画レビュー
 イラク戦争での失態を挽回するために起死回生の作戦を練った上院議員の「陰謀」の結末やいかに?! ワシントン、カリフォルニア、アフガン、この3つの場所で同時に起きる出来事を活写して、アメリカの「今」を批判する社会派作品。んんん~、ちょっと生真面目に作りすぎて面白みに欠けるのではないでしょうか。

 ワシントンDCでは共和党のホープたるアーヴィング上院議員(トム・クルーズ)がベテランジャーナリストのジャニーン・ロス(メリル・ストリープ)を執務室に呼び出していた。彼女に特別に特ダネを提供するというのだ。それは、対テロ戦争に勝利するための、アフガンでの奇襲作戦だった。

 その同じ時刻、カリフォルニア大学では歴史政治学者マレー教授(ロバート・レッドフォード)が教え子のトッド(アンドリュー・ガーフィールド)を研究室に呼び出し、なぜ最近講義に欠席続きなのか、と問いただしている。

 そしてさらに同時刻、アフガンではタリバンの根拠地を占拠せんと空軍の奇襲作戦が実行に移されていた。その作戦のために選ばれた精鋭二人はマレー教授の優秀な教え子だったのだ。



 物語はこの3つの場面を並行して描く。なんといっても秀逸なのはトム・クルーズとメリル・ストリープの丁々発止の会話劇だ。3つの場面とも、二人ずつの登場人物が語り合う会話劇の体裁をとるが、とりわけ上院議員とジャーナリストの食い付き合いは緊迫感に満ちた演出で魅せる。

 教授対学生の研究室の場面は切り返しが頻繁で煩わしい。ロバート・レッドフォードとアンドリュー・ガーフィールドという新旧のイケメン対決でなかなか退屈させないが、会話の中身にそれほど惹かれるものがない。ただしこの場面、教師が見ればかなり身につまされるものがありそうだ。せっかく目を掛けた期待の学生がその期待を裏切るとき、教師はいかに学生を説得するのか。かつての教え子で優秀な学生二人が、ともにマイノリティ出身であったために研究者の道を捨てて志願兵となった経過を語る苦渋の大学教授、マレー。このマレーを演じるロバート・レッドフォードが監督しているために、わたしにはどうしても、彼が語る言葉が観客に対する説教のように聞こえてしまう。このあたりが、いかにも生真面目で鼻白んでしまう部分だ。せっかく面白い題材なのに、そこまで真正面から啓蒙的に切り込まんでもええんちゃう、と思ってしまう。

 ただし、この物語はラストシーンで結論を出したりはしない。そこまでやるともう完全に白けるのだけれど、さすがにレッドフォードはうまく問題を宙づりのままで映画を終わらせた。「あとは自分で考えなさい」、と観客に訴えかけるラストシーンで、ジャーナリストのジャニーンはアーリントン墓地の無数の墓碑を眺めて涙を流す。わたしたちはその累々たる死の意味をまだつかみそこねているのだ。

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LIONS FOR LAMBS
アメリカ、2007年、上映時間 92分
監督: ロバート・レッドフォード、製作: ロバート・レッドフォード、マシュー・マイケル・カーナハン、脚本: マシュー・マイケル・カーナハン、音楽: マーク・アイシャム
出演: ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズ、マイケル・ペーニャ、デレク・ルーク、アンドリュー・ガーフィールド