【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「九月に降る風」:上池袋三丁目バス停付近の会話

2009-09-23 | ★草63系統(池袋駅~浅草雷門)

ここに駐車場あるわよ。
だから?
あなたのバイクもここにちゃんと停めたら。
バイクなんてどこに停めたっていいだろう。
だめだめ。そういう軽々しい意識でいるから事故がなくならないのよ。
「九月に降る風」の高校生たちも、軽い気持ちでバイクに乗ったらあんな大事件になっちゃったもんな。
そう、台北郊外に暮らす高校生たちの情景を描いた台湾映画「九月に降る風」。その中でいちばんの事件といえば、バイクの事故。
この映画、無為に過ぎていく時間を描いただけのありふれた青春映画なんだけど、それがとても懐かしい感触をもたらすのはどうしてなんだろうな。
1996年の台湾の話なんだけど、どうにも日本的な郷愁を誘ってしまう。
意識してそういう特別な風景を切り取っているわけでも、ことさらドラマチックな盛り上げを用意しているわけでもなのに、忘れていたものを思い出させるような、胸をえぐる瞬間が確実にある。
侯孝賢から連綿と続く台湾青春映画の特色としか言いようがない。
侯孝賢の「恋恋風塵」もビデオボックスで観る映画としてしっかり出てくるし。
「恋恋風塵」は青春映画のジャンルでは映画史上の1、2を争う大傑作だもんね。あのみずみずしい感覚を継承したいっていう意思の表われなんじゃないかしら。
オーバーに言えば「恋恋風塵」をほうふつとさせるような瞬間が何か所も出てくる。
学校の屋上に佇む女子高生とか、壁を相手にキャッチボールをする男子高校生とかでしょ。
教室の机とか、列車に座っている姿とかな。
そういう何気ない情景が心震えるほど懐かしいのよね。
懐かしいというより、普遍的な青春の姿を目の当たりにしているっていうことなんじゃないか。
とにかく、静的な映像が印象的。
青春という時間は風のように失われていくから、一瞬、一瞬がいとおしいのかもしれない。
それをすくいあげる手腕が侯孝賢を思い出させる。
「恋恋風塵」に比べ、主人公たちの容姿が今風に垢ぬけているところが全然違うけどな。
でも、みんな個性的でよかったわよ、あの男子生徒たち。
九月って台湾では卒業とか入学のシーズンらしいけど、「九降風」という原題も素直で悪くない。
「恋恋風塵」もタイトルからして秀逸だったけど、台湾映画ってタイトルからもみずみずしい風が吹いてくるのね。
監督はこの映画が長編デビュー作になるトム・リン。
老練な侯孝賢にはまだまだとても及ばないのは事実だけど、映画に新人らしいすがすがしさが表われていて、今後を期待させることは確かよね。
気をつけて観続けていきたい監督だ。
ついでに、バイクに乗るときも気をつけて。



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ふたりが乗ったのは、都バス<草63系統>
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