真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき
さ行
/
2016年07月25日
「
悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき
」(2015/製作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督・脚本:城定秀夫/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:田宮健彦/録音:小林徹哉/助監督:伊藤一平/ヘアメイク:megumi/スチール:本田あきら/撮影助手:宮川かおり・白川祐介/演出部応援:島崎真人・寺田瑛/制作応援:名田仙夫/脚本協力:城定由有子/編集:城定秀夫/音楽:林魏堂/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:古川いおり・麻木貴仁・福咲れん・田中靖教・森羅万象・久保奮迅・沢村純・杉浦友哉・岩男匡哲・飛田敦史・渋谷将・橋本雄大・伊藤三平・名田靖・佐倉萌)。出演者中岩男匡哲が、ポスターには岩尾匡哲。
スクランブルな交差点、種々様々な人間の行き交ふ文字通りの雑踏と、ブツクサしがてらカウンターを刻み続ける男。B系の交通量調査員(伊藤三平=伊藤一平)からの男女の担当を交代する申し出にも耳を貸さず、小松春生(麻木)は「千人目は俺の嫁、千人目は俺の嫁」と呟きながらひたすらに通り過ぎる女にカウンターを弾く。古川いおりが楚々とフレーム・イン、ハッと胸を打たれた小松がカウンターに目を落とすと、数字は千を示してゐた。「俺の嫁・・・・」、洩らした言葉にタイトル・イン、アバンは圧巻。
五年後、森羅万象がボスの工場―“こうぢやう”といふよりも“こうば”―で働く小松が、買ふ時は部屋にも入れる仲の立ちんぼ・ミチコ(佐倉)を振り切り帰宅した安アパートは、小松いはく“俺の嫁”こと川島真琴(古川)の盗撮写真で埋め尽くされてゐた。挙句に窓からは川島家の様子も窺へ、小松は読唇術をマスター。当然真琴が出すゴミも回収する小松は、男子一生の仕事といひかねない勢ひの出来る限りを尽し、真琴の夫婦含め全生活を把握してゐた。
妙に潤沢な配役残り、a.k.a.久保和明の久保奮迅と沢村純は、ウェーイなまゝ大人になつた小松の同僚・山田と中島。恐らく名田仙夫と同一人物か、名田靖は初登場時にミチコが捕獲し損なふリーマン、ゐれば国沢実の役。そして田中靖教が、真琴の夫で若くして部長職に就く幹也。杉浦友哉と岩男匡哲は、買物に出かけた真琴を尾行する、小松のある意味充実した休日。杉浦友哉が真琴に声をかけるも、左手薬指の指輪を見せられるとおとなしく身を引くキャッチで、岩男匡哲は衝動的に殴りかゝつたキャッチから、半殺しに返り討たれた小松に『目覚めなさい!神は死んだのか?』なるパンフレットを手渡す宗教男子、手当てしてやれよ。福咲れんは意外と狭い世間、新しい担当を森羅親方に紹介する幹也が小松の職場に連れて来る、部下兼実は不倫相手・池上麻衣、見事に着痩せする爆乳が堪らん。渋谷将は、ミチコのバンドマンのヒモ・タックン。正直、どれだけの齢の差なのか。真琴にダイヤの指輪を贈らうと、幹也と麻衣の関係をスネークする過程で―七日も無断欠勤し―工場を馘になつた小松は、如何にもヤバげな治験に手を染める。橋本雄大は、後遺症は自己責任だなどと恐ろしい事前説明を行ふ白衣。娑婆に戻つた小松が片目に眼帯をしてゐるのも怖い、百万本のバラどころぢや済まないぞ。治験のモルモット、ほか二名は殆ど満足に抜かれもせず不明、演出部?飛田敦史は、オーラス小松を上手い具合、もしくは決して捕まへはしない程度に追ひ駆ける警官。この中で田中靖教と橋本雄大と飛田敦史は、中村英児・稲葉凌一・浅野潤一郎・藤田浩らと同じ芸能事務所「アリエス」所属。
仁義を通し心中も辞さない覚悟らしい、主戦場たるVシネ戦線については手が回らない以上臆面もなくさて措いてのけるとして、必殺のデビュー作「
味見したい人妻たち
」(2003/主演:Kaori)。松浦祐也の助監督残酷物語「
妖女伝説セイレーンX 魔性の誘惑
」(2008/脚本:高木裕治・城定秀夫/主演:麻美ゆま)と、十年ぶりの衝撃「
人妻セカンドバージン 私を襲つて下さい
」(2013/主演:七海なな・吉岡睦雄)。ともに漫然とした出来映えの、城定夫名義による「
桃木屋旅館騒動記
」(2014/主演:西野翔)、「
わるいをんな
」(2015/主演:めぐり)を経た上での、城定秀夫大蔵上陸作!特段も何も全く新規参戦なり電撃移籍、あるいは大復活の報は聞こえて来ない2016夏現在、城定秀夫の最後の切り札感は依然比類ない。明けた今年も七海なな主演の新作を―既に一本―発表し、OP PICTURES+にも食ひ込んだ城定秀夫がオーピーに常駐して呉れさうな気配は一旦喜ばしい限り、とはいへ。問題といふほどの問題でもなければ残念といふには言葉が過ぎるにせよ、極大なる期待を呼び、現に公開後の世評も頗る高い一作ではあれ、そこまでギャースカワースカ騒ぐに値する、大傑作といふ訳では必ずしもない。妙な贔屓筋を従へる、山内大輔より余程面白いとは思ふけれど。
中盤火を噴く、劇中世界が裏返る大転換には一旦度肝を抜かれ、かけつつ。そこから先、とりわけ最終盤は案外一本調子。大人しく栃木行くんだ、それどうせ“本物の旦那”も追つ駆けて来るだけだろ、どうせ根無し草だし。昼間の淑女の相と夜の娼婦ぶりまでは申し分ないものの、本性を現し決然と牙を剥いてみせるには、主演女優にソリッドさかエッジが些か不足気味。個人的には時任歩の顔を想起したものだが、近年でも上回るタレントはほかに見当たるのではなからうか。超絶の完成度に震へる小松宅の美術には感嘆させられる反面、「セカンドバージン」に於ける高低差を活かした画や背景に巨大なコンビナートを背負つた土手のロングといつた、大スクリーンでなほさら映える、決定力を撃ち抜くショットにも特段お目にかゝれはしなかつた。高嶺の花が葱を背負つて手元に飛び込んで来る据膳よりも、寧ろ小松を定点観測するミチコの存在こそが最大のファンタジーであるやうにも思へる。確かに捨てられた者同士が、タダ同然の対価で情を交す件はかなり危なかつたけれど、それでも滂沱と決壊させられるには至らず。ミチコが小松に投げたクソみたいな自己啓発応援歌が、結局虚空に放たれ終ひなのは冷笑的な悪い冗談のつもりなのか、それともギリッギリのリアリズムか。何れにせよ、そこでダサさを被弾してなほ、エモーションの首根つこを掴む。ナベは概ね常備する肉を切らせて骨を断つ覚悟が、今回今作には見受けられなかつた。裸映画的には闇雲に改名を繰り返す、ex.
大塚れん
こと福咲れんの濡れ場が一度きりなのが当サイト的には激越に惜しいのだが、その点に関しては、城定秀夫がそもそもピンクの女優部三本柱フォーマットを窮屈と首を縦に振つてはゐないゆゑ、潔く諦めるのが吉といつたところか。要するに何がいひたいのかといふと、だからさ、いゝ加減名前の脊髄反射で映画を観るのはやめにせんか。思考停止だか同調圧力だか知らんが、云十年一日で同じ悪弊に明け暮れるのがそんな楽しいか、この期にさういふ段でもねえだろがよ。
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