はい、というわけで見てきました「仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル」。
仮面ライダーオーズは放送当時はリアタイでは見ておらず、ゼロワンで仮面ライダーに復帰したときに過去作も見ておこうということで見始めて完走済み。
さて、本放送から10周年となる本作なんですが……うーん……これは今まで見てきた作品の中でダントツの賛否両論な作品かもしれません。
「いいところと悪いところが両方ある」というよりは、「作品の一番のウリの部分がいい側面と悪い側面を同時に持っている」というかなんというか、そんな感じ。
どういうことかをこれから書いていきます。
なお、今回の感想はネタバレ反転でお送りしましょう。
↓ネタバレゾーン開始↓
えー、オーズ本編でも非常に重要な要素である映司とアンク。
当然ですが、今回の映画でも映司とアンクの関係が大きな柱となっています。
それに関してはもうはっきり伝わったのでそこは良かったと思うんですよ。
しかし本作、映司とアンクという柱、より具体的に言うならラストのあのTV最終回のリファインとも言うべきシーンは非常に良かったものの、それ以外の敵キャラや設定などが全部映司とアンクのシーンを描くためのお膳立てになってしまってます。
それ自体はまだいいんですよ。何を描きたいのかを中心核として作品を作ること自体は普通ですし、描きたいものがはっきり視聴者や読者に伝わるのは重要なことです。
しかしながら本作は、軸となる映司とアンク以外の部分があまりにもハリボテ過ぎる。
例えば本作の敵である古代オーズ、「強い敵」「映司の死因」以外の属性がなく、敵キャラとしての魅力以前にあまりにも作中での役割に欠けている。
それは今回復活したグリード4人組にも言えることで、彼らはせっかく全員そろって再登場したのに、まったくストーリーに絡まず早々に退場してしまいます。
ほかのキャラに関しても、あまりに映司とアンクという軸を前面に出そうとするあまり作品上の役割が薄く、あるいはまったくなく、登場しているだけ。
さらに今回の舞台は2021年となっており、古代オーズの侵略により世界は滅亡の危機に陥っています。そしてかつてオーズとともに戦った人々はレジスタンスとして戦っているという設定。
しかしながら本作はあくまでカメラを映司とアンクに据えているので、スクリーンに映し出される世界が非常に狭く、モブや群衆がまったくと言っていいほど出ないのでもう主要キャラしか生き残ってないような様相。このせいで作品世界自体のハリボテ感が非常に強い。
このように、映司とアンクという屋台骨はあるものの、それ以外がないので作品自体の構造がないに等しいんですよ今作。
つまりそれはストーリーもないに等しいということ。
事実本作は、キャラクターは行動しているもののその方向性の統制が取れておらず、さらに前述の通り世界を俯瞰した視点も一切ないため、「何をどうしたからどうなった」という「話が進んでる感」がまったく感じられませんでした。
ただ唯一、この作品の制作側がもっとも描きたかったであろう「TVシリーズ最終回での映司とアンクの立場を入れ替えたラストバトル」は非常に良かった。逆に言えば本作で良かったのってそこしかないんですが……。
もちろんキャストの演技自体は非常に良かったし、特に映司を演じる渡部秀氏、アンクを演じる三浦涼介氏の役への没入度は凄まじく、もう完全に「役を演じている」という域を超えていました。
両氏の火野映司役、アンク役へ、そして仮面ライダーオーズという作品への入れ込みようは十分知っているので、今作の二人のやり取りは胸に迫るものがありました。
……と考えると、本作の魅力って「キャストの熱演」であって、それ以外の部分はキャストの魅力に比べるとあまりにも空虚なんですよ。
本作のもうひとりの敵である人造グリード・ゴーダも、本編中のほとんどの場面で映司に取り付いている状態なので、映司とアンクを主軸としているにも関わらず本物の映司とアンクが触れ合う時間はほんのわずか。さらに映司は肉体的にはすでに死んでいるので、偽物キャラが出てきたときのお約束である「本物VS偽物」ができないし、そもそも本物の映司、本物のオーズの活躍シーンがあまりにも少なすぎる。
そして多くの人に賛否両論を巻き起こしたであろう、映司の明確な死。
まずその死因というのが「古代オーズに襲われそうになった少女をかばって重傷を負った」なんですが、映司にこの行動を起こさせた行動原理というか彼のトラウマである「被災地にいた少女を助けることができなかった」は、実はTVシリーズですでに取り上げられ、解決しているんですよね。
なので、映司の死因としてこれは不適当です。さらに言うなら、本作の新キャラである古代オーズはこの死因を成立させるためだけに機能してるため、脚本の都合で存在しているキャラに過ぎません。
もう一つの映司の死因である「アンクを復活させたこと」に関してはあまりにも説明不足。絵面から「残り少ない自分の命を振り絞ってアンクのメダルに分け与えた」という解釈は可能ですが、その行動は時間軸的に本編の外で行われているんですよね。なのでストーリー上での配置が悪い。
個人的には、見ていて映司の死自体ではなく、そこに繋がる理由付けが雑。
これは個人的な解釈なんですが、作中でももっとも巨大な欲を抱いている火野映司という人物が持っていたもっとも大きな欲が「アンクを復活させること」だったんじゃないですかね。
その欲を満たした=自分の命と引き換えにアンクを復活させた映司は、もっとも大きな欲を満たされた。
本作における映司の死は、死というよりも「成仏」に近いものだったんじゃないでしょうか。
でもやはり、それにしたって「自分の命と引換えにアンクを復活させる」という行動に至るまでのルート構築があまりにも不十分なんですよ。本作は作品としての構造があまりにも杜撰で、あまりにもキャスト側に魅力を負担させている。
本作は映司というキャラクターをどうにか楽にしてあげたくてこうしたというような好意的な解釈もできますが、それにしたってもう少しどうにかならんかったのか。
本作の総評としては、「コマに描かれた一枚絵を見るとすごくいいんだけど、連続したマンガとしては見ることができない」ってところでしょうか。
↑ネタバレゾーン終了
正直なところ、視聴者はもちろんキャスト側からの愛着も大きく、あんなにきっちり終わった作品の10周年記念がこれというのはなんだかなあ……という感じです。
これ、見終わったあとに寝込んだ人いるんじゃないかなあ……。