はい、夏休みシーズンに入りましてまた色々と新しい作品が上映されますサンサン劇場。
今回見てきたのはこの2作。
2作とも「犬王」の監督を務める湯浅政明監督の作品。
わたくし人形使いは湯浅監督の熱心なファンというわけではなく、作品も直接監督している作品は見たことがないという状態でしたが、なんとなくアンテナに引っかかるものを感じたので視聴。
調べてみると、劇場版クレヨンしんちゃんシリーズの原画や絵コンテを担当されているのだとか。
あの思いっきり絵を崩した大胆なコンテには魅力を感じていたので、今回の直接監督作品も楽しみにしていました。
ではまず「夜明け告げるルーのうた」の感想から。
ダゴンじゃねーか!!
オタクには海からなんか来る話は全部クトゥルフ神話として認識します。竜宮城はルルイエ。
ポーニョポーニョポニョダゴンの仔。昏い深海(うみ)からやってきた。
本作の骨子は、東京から田舎の港町に引っ越してきて暮らしている少年・カイと人魚の少女・ルーの出会いを描いたひと夏の冒険という、夏休みシーズンに相応しい内容なんですが、要所要所に不穏要素が多すぎないかこれ。
特に「人魚に噛まれると人魚になる」だの「日光を浴びると燃える」だの絶対それ人魚じゃなくてもっと深淵(ふか)いとこにいる「なにか」だろ!! 助けて!!
ルーが保健所に集められてた犬を噛みまくって全部人魚にするシーンはユーモラスに思えるけど冷静に考えると完全にパンデミックだぞあのシーン……。
そもそも人魚の少女ルーの描写にも、いわゆる一般的に「人魚」と聞いて想像するようなイメージとはかけ離れた特徴が散見されます。
明らかなインスマス顔、片言喋り、海水と一緒に移動する・海水を操る、なんかエフェクトがかかった声と、むしろ人魚要素のほうが少ない気が……。
そして、人魚にとって非常に重要な要素である「足」に関しても、本作では非常に特異な描写がなされています。
本作では「人魚は音楽に引き寄せられる」という設定があるんですが、ルーは音楽を聴くとほとんど本能的かつ無自覚に踊りだし、踊り始めると下半身が人間のそれになるという描写があります。これがまた象徴的に使われており、この設定によって「人魚と人間が一緒になって踊りだす」という絵が成立するんですね。しかもそのシーンはタップダンス、つまり両足がないと成立しないシーンになっているという……。
本作はいわゆる説明的なセリフなどがあまりないフィーリング重視の作品なんですが、だからといって構成がいい加減なわけではありません。
むしろ、これだけフィーリング重視の作風で各種設定や小道具の使い方がかっちりハマっているといるので、作品の勢いが衰えないのがすごい。
特に上手い!と思ったのはカイのもとにルーが残したウロコの使い方と、カイの祖父が漁を行う傍らで副業として行っていた傘張りの傘の使い方。こういう「ここでそれ持ってくるか!」と思わせられる構造的な上手さがある作品は好きですしそこにシビれるあこがれる。
次、「マインド・ゲーム」。
なんだよこのインフルエンザで熱が49℃出てるときに見る夢みたいな映画……。(呆然)
最近の塚口では「TITANE」や「メモリア」といった難解というか今まで見たことがなかったタイプの作品が数多く上映されていますが、本作はその中で、否、今まで見た映画の中でもっともブッ飛んだ作品でした。なにこの酔っぱらいの妄想をそのまま映画にしたみたいな作品は……。
本作を一言で表すなら、「ゲージツがバクハツしてる感じの作品」でしょうか。「芸術が爆発」ではない点に留意されたし。
わかる人にはわかる例えで言うと、「プリルラの3面が103分続く」でしょうか。わかれ。
いちおう話の筋としては、「ヤクザに殺された主人公が神様の力を借りて生き返る」というものなんですが、その表現の仕方があまりにもゲージツ過ぎる。
実写とアニメーションが入り交じる画面、頻繁に変化する作画、サイケデリックな色彩と音楽。完全なドラッグムービーです。
見てると、主人公である西は回り回って自分を殺したヤクザ二人組の片方になったといったような、輪廻転生もしくはループ構造な作品であるということは感じ取れたんですが、とにかく画面がエキセントリックで見ててなんだかヤバめの白い粉でもキメてる気分になってきました。
また、作中ではなんだかいわゆる意識高い系のスピリチュアルな発言が多いので、カルト系新興宗教の洗脳ビデオかなんかにも見えてきました。ヌーヌーはあなたをすくいます。
作中で印象的だったのが、冒頭で殺されてしまた西があの世へ行って神さまに遭遇するシーン。
神さまは一定の姿や声を持たず、一歩歩くごとに姿を変えていきます。これがいかにも人間が認識しきれない上位存在といった感じで好き。
はっきり言って本作はあまりにもゲージツ方向にブッ飛んでる作品なので、解釈するのはなかなか難しいです。しかし、あえてジャンル分けするなら、本作はある種の寓話、あるいは宗教的説話のような気がします。
いやー強烈な作品を見てしまった……。