ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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田月仙「禁じられた歌」 = さまざまな理由で禁止された韓国・朝鮮(+日本)の歌を、思いを込めて紹介した好著

2016-09-30 09:46:17 | 韓国の音楽

 <カリプソの女王>浜村美智子「黄色いシャツ」 (日本語版)のレコードを出していた(1972年)とは知らなかったなー。他にも知らなかったことが一杯。
 一応知っていたことはザ・フォーク・クルセダーズ「イムジン河」のレコードが発売中止になったおおよそのイキサツ(参照→ウィキペディア)及びその歌詞が「豊かな北から川の向こうの荒れ果てた南の故郷を眺めて嘆く」(2番)という内容ということ。(最近「当事者が「本当の舞台裏」を明らかにする」というキャッチコピーの喜多由浩「『イムジン河』物語 “封印された歌”の真実」(アルファベータブックス)が刊行されましたが未読。) 他には日本文化開放以前の韓国で五輪真弓「恋人よ」が人気だったということ。しかし、それ以前にいしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」が韓国でも不法コピーのカセットテープ等で広まり、韓国人がもっともよく知る日本の歌になったとは知りませんでした。

 この「禁じられた歌」(中公新書ラクレ.2008)という本は、在日コリアン2世のソプラノ歌手・田月仙(チョン・ウォルソン)さんが「いろんな事情」で歌うことやレコードの発売等を禁止された歌について多角的な観点から書いた好著です。

 「多角的な観点」というのは次のようなことです。
 まず「朝鮮半島 音楽百年史」と副題にあるように、1910年(韓国併合)から現代までの1世紀の韓国・朝鮮と日本の間の鳥瞰図的な歴史がおのずと見えてくる記述になっていること。
 また、田月仙さん自身がいろんな人に話を聞いたりして積極的に取材をしていること。公演等で訪れた所でたまたま会った人の話だけでなく、自らの興味・関心に沿って目的の場所や人を訪ねたり、本やレコード等の資料を求めたりもしているのです。
 たとえば「アリラン」にしても、映画「アリラン」(羅雲奎監督.1926)について2005年団成社(初めて上映した映画館)に行って映画研究家のチョン・ジョンファさんから説明を聞いたり、中国・延辺では朝鮮族の人の話を聞くだけでなく、北朝鮮レストランで歌を聴いたり、ロシア・ハバロフスクに招かれた時にはその地のカレイスキー(高麗人=韓国人)からロシア語の「アリラン」を聴いたり、ロサンゼルスのコリアタウンにある韓国人の雑貨店主からも話を聞いたり等々・・・。
 もう1つ、この本ならではの視点というのは、田月仙さん自身の歌手としての歩みが記されているるということ。この点については、小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した前著の「海峡のアリア」(2006年)の方がまさに自伝なのですが、この「禁じられた歌」でもさまざまな思い出が記されています。中でも<歴史的体験>といえるのは、1985年に平壌の音楽祭に招かれて金日成主席の前で独唱したことや長く収容所生活を強いられていた兄たちと再会したこと、あるいは1998年の韓国・金大中政権の時、日本文化の段階的開放が進められている頃に東京都の親善大使としてソウルで公演をするになった彼女は「赤とんぼ」「浜千鳥」「夜明けのうた」の3曲を歌う予定だったのが「夜明けのうた」だけは(歌曲ではなく)大衆歌謡とみなされて許可が下りず、結局「♪あーあー」という声だけで歌ったこと等々。

 このように多彩な内容が、とても読みやすい文章で書かれていることも私ヌルボが良書という大きな理由で、高校生にもぜひ読んでほしいと思います。(「海峡のアリア」の方が<感動本>ですが、コチラは新書で入手しやすいので・・・。)

 私ヌルボ、これらの「禁じられた歌」を「禁じた」のは誰かということで分類・整理してみました。次の通りです。

[Ⅰ] 日本の統治期
 ・民族の独立・抵抗を内包した歌・・・「鳳仙花」
[Ⅱ] 戦後の韓国
 ・「倭色」歌謡=日本的歌謡は放送禁止に・・・「椿娘(トンベクアガシ)」
 ・日本の歌
 ・北朝鮮の歌、南から北朝鮮に渡った「越北作家」の歌
 ・「運動圏」の歌=軍事政権に反対する民主化運動の側の闘争の歌・・・「朝露(アチミスル)」
 ・「親日派」の作詞家・作曲家・歌手による歌・・・上記の「鳳仙花」「故郷の春」の作曲者・洪蘭坡(ホン・ナンパ)「哀愁の小夜曲」で知られる歌手南仁樹(ナム・インス)
[Ⅲ] 戦後の北朝鮮
 ・体制の<理念>に合わない歌等、多数
[Ⅳ] 戦後の日本
 ・本書では上記の「イムジン河」だけですが、森達也「放送禁止歌」(知恵の森文庫)(←オモシロイ!)には実にいろんな事例が集められています。多くは差別用語やワイセツな表現等による問題を避けたいメディア側の自主規制のようですね。

 これらの政治権力による歌への禁圧や「親日派狩り」等に対して、いうまでもなく田月仙さんは批判的に書いています。彼女が国境を越えて活動を通して国際的な視野を身につけているからということもあるでしょうし、もしかしたら日本で生まれ育った在日だからこその「ふつうの見方」なのかもしれません。

 ところで、この2008年刊行の新書を私ヌルボがなぜ今再読してこのブログ記事を書いたのかというと、実は北朝鮮での2つの「禁じられた歌」について韓国のニュース記事を読んだからです。その2つの歌については(またもや)次回に続くということにします。
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韓国内の映画 NAVER映画の人気順位 と 週末の興行成績 [9月23日(金)~9月25日(日)]

2016-09-27 22:03:05 | 韓国内の映画の人気ランク&興行成績
 公開初日or2日目に映画を観るのは最近あまりないことですが、いくらなんでも「君の名は。」のようなことはなかろうと25日観に行ったのが<ハドソン川の奇跡>。やっぱりイーストウッド監督にハズレなしです。主人公、そしてイーストウッド監督からも思い起こされるのは<矜持(きょうじ)>という言葉。あえて欠点( ?)をあげるとすれば、きちんとしすぎていることかな?

 今日(27日)は久しぶりの青空。家を出ると今シーズン初めてのキンモクセイの香りが漂ってきました。
 例年この時期になると、ぼちぼち<コリアン・シネマ・ウィーク>の情報が出てくるのでは? 10月後半の催しだからまだ早いのかな?
  [9月28日午後3時の追記] 韓国文化院のサイトで<コリアン・シネマ・ウィーク 2016>の記事が今載りました。→コチラです。上映スケジュールや作品紹介等々。私ヌルボのコメントはまた来週。

 昨年は8月に開催された<新大久保映画祭>。今年は11月3~7日なのか。しかし、→公式サイトを見ると8作品中6作品はもう観てるし、ちょっと以上に期待感が沸いてこないなー・・・。
 そして<東京フィルメックス>は11月19日~27日とちょっと先で、上映作等はまだよくわかりませんが、→コチラの「中央日報(日本語版)」の記事によると韓国映画「私たち」は招待されているとのことで、これは期待大!
 あ、<東京国際映画祭>というのもあったか。ここらへんは→シネマコリアをご参照くださいということで。そのtwitterの方(→コチラ)。韓国映画ファンの方々はちゃんとフォローしましょう。

 昨年特別上映会で観たセウォル号関係のドキュメンタリー「ダイビング・ベル」が10月1日から横浜のシネマ・ジャック&ベティ(→コチラ)で公開。例の釜山国際映画祭の紛糾のモトとなった作品です。昨年見逃した方はどうぞ。
   
「朝鮮日報」9月23日掲載の「封切映画 ぴったり10字評」 (ハングル文も訳文も10字です。)
。)  「ウルフパック」
   映画で育った子供たち ★★★☆


 「僕一人で休暇」

   かくも切ない執着とは・・・ ★★★

 「僕一人で休暇」は韓国のロマンス。カンジェ(パク・ヒョックォン)の趣味は写真を撮ることですが、独りで楽しむ趣味なので妻(キム・スジン)は不満を募らせています。済州島に独り写真を撮りに行ったカンジェは、そこで仲良く見える家族にカメラを向けると、そこにいたのは初恋の相手シヨン(ユンジュ)。シヨンを忘れられなかったカンジェは、10年間彼女を追い、ひそかに見守り続けていたのでした。その後会社にも家にもシヨンの姿が見えなくなり、不安になったカンジェはシヨンの家のベルを押してしまいます・・・。「ウルフパック」は以下の記事の中で紹介しています。

         ★★★ NAVERの人気順位(9月27日現在上映中映画) ★★★

     【ネチズンによる順位】
             ※評点の後の( )は採点者数
①(1) Bringing Tibet Home ~故郷を引き寄せて~(韓国等)  9.39(75)
②(2) 影たちの島(韓国)  9.38(87)
③(4) KING OF PRISM by PrettyRhythm(日本)  9.30(1,042)
④(5) 私たち(韓国)  9.23(926)
⑤(7) オーヴェという男  9.12(1,274)
⑦(-) 映画 ビリギャル(日本)  9.12(245)
⑧(8) マイケル・ムーアの世界侵略のススメ  9.03(145)
⑨(-) 国家代表2(韓国)  8.79(4,587)
⑩(-) ニュースの真相  8.76(174)

 今回の初登場は⑦と⑩の2作品です。
 ⑦「映画 ビリギャル」は、私ヌルボ観てないのでなんとも・・・。設定自体にほとんど興味がわかなかったので・・・。<ぴあ映画生活>に「頭の悪い女子高生が頑張って慶大に合格する話。へー、だから何?」というクチコミがありましたが、そこまではけなしませんが・・・。(慶大合格よりも、達成感・自信感が得られるのはいいと思います。) 韓国題「불량소녀, 너를 응원해!(不良少女、おまえを応援する)」です。原題の語感までは翻訳不能か?
 ⑩「ニュースの真相」は、日本でも8月に公開され、現在も上映中。韓国題は「트루스」です。

     【記者・評論家による順位】
             ※評点の後の( )は採点者数
①(-) キャロル  8.96(13)
②(1) アガシ(韓国)  7.68(18)
③(2) 私たち(韓国)  7.66(14)
④(4) 密偵(韓国)  7.50(12)
⑤(5) ナショナル・ギャラリー 英国の至宝  7.50(4)
⑥(6) ディーブ  7.35(5)
⑦(7) トンネル(韓国)  7.21(14)
⑧(-) ウルフパック  7.20(5)
⑨(8) ヒッチコック/トリュフォー  7.17(6)
⑩(9) 影たちの島(韓国)  7.14(7)

 ⑧「ウルフパック」だけが今回の新登場です。サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門を受賞したアメリカの作品です。ある日ニューヨーク・マンハッタンに、腰までの伸びた髪、顔に仮面をかぶったまま不安そうに見回しながら怪しい行動を見せる少年が現れました。驚くべきことに、その15歳の少年ムクンダ・アングロは、家の外に初めて出てきたと言い、また自分を含め7人兄妹が家族以外の人と話をしたこともないと告白します。低所得者用アパートに住む彼らは両親の教育方針により彼らは14年間アパートから出ることを許されず、その間5千本以上の映画を見てお気に入りの作品の真似などをして遊んだりしていたとか・・・。たまたまこのドキュメンタリーの撮影が入ったことで、兄弟たちは外へ出る機会を増やしていくのですが・・・。今年5月観た「ルーム」もそうでしたが、いまもどこかで長く監禁されている人が何人もいそうな気がしますね。オフィシャル・トレーラーは→コチラ。韓国題は「더 울프팩」。日本公開は未定のようです。あ、Netflixで見られるとのことです。

         ★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績9月23日(金)~9月25日(日) ★★★

         「密偵」が3週連続トップ
【全体】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・週末観客動員数・・・・・累計観客動員数・・・・・・累積収入・・・・上映館数
1(1)・・密偵(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9/07・・・・・・・・・・・458,767 ・・・・・・・・・・・6,895,161 ・・・・・・・・56,657・・・・・・・・・1,105
2(2)・・ベン・ハー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9/14・・・・・・・・・・・191,514 ・・・・・・・・・・・1,226,406 ・・・・・・・・10,118 ・・・・・・・・・・653
3(3)・・マグニフィセント・セブン ・・・・・・・9/14・・・・・・・・・・・104,731・・・・・・・・・・・・・880,101 ・・・・・・・・・7,331・・・・・・・・・・・543
4(19)・・アイアムアヒーロー(日本)・・・・9/21・・・・・・・・・・・100,632・・・・・・・・・・・・・147,120 ・・・・・・・・・1,272・・・・・・・・・・・263
5(4)・・古山子、大東輿地図(韓国)・・・・9/07・・・・・・・・・・・・49,613 ・・・・・・・・・・・・・948,879 ・・・・・・・・・7,631・・・・・・・・・・・394
6(28)・・ブリジット・ジョーンズの日記・・9/28 ・・・・・・・・・・・41,226 ・・・・・・・・・・・・・・47,411・・・・・・・・・・・416・・・・・・・・・・・349
       ダメな私の最後のモテ期
7(新)・・ハドソン川の奇跡 ・・・・・・・・・・・9/28・・・・・・・・・・・・41,118・・・・・・・・・・・・・・43,135・・・・・・・・・・・400 ・・・・・・・・・・・343
8(5)・・アリス・イン・ワンダーランド・・・・9/07・・・・・・・・・・・・30,897・・・・・・・・・・・・・502,167 ・・・・・・・・・4,066・・・・・・・・・・・267
       ~時間の旅~
9(6)・・ロック・ドッグ ・・・・・・・・・・・・・・・・・9/14・・・・・・・・・・・・29,861・・・・・・・・・・・・・204,326 ・・・・・・・・・1,610・・・・・・・・・・・314
10(新)・・対決(韓国) ・・・・・・・・・・・・・・・・9/22・・・・・・・・・・・・15,981・・・・・・・・・・・・・・23,089 ・・・・・・・・・・・180・・・・・・・・・・・366
     ※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。

 秋夕の連休が終わって客足激減は致し方のないところか。「密偵」もかなり勢いが鈍りましたが、3週連続トップで累計700万人は目前に。
 今回の新登場は6・7・10位の4作品です。
 6位「ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期」は、人気シリーズの第3作。テレビ局の敏腕プロデューサーになったブリジット(レニー・ゼルウィガー)ですが、独身のままでいつしかアラフォー。ある日彼女はハンサムで性格もいいIT企業の社長ジャック(パトリック・デンプシー)と出会い、以後急接近。その一方でかつて愛した男マーク(コリン・ファース)とも再会し、結局2人の男性の間で揺れ動く彼女・・・。韓国題は「브리짓 존스의 베이비」。日本公開は10月29日です。
 7位「ハドソン川の奇跡」は、日本では少なくとも公式日程では韓国より先に9月24日に公開れてます。韓国題は「설리:허드슨강의 기적」と、「ハドソン川の奇跡」」の前に主人公の名前サリーが入っています。原題はその「SULLY」だけなんですけどね。
 10位「対決」は、韓国のアクション。就活中といっても就職はとうにあきらめたと達観力している(?)のプンホ(イ・ジュスン)は、タイマンゲームで小遣いを稼ぐのが楽しいという若者。しかし兄のガンホ(イ・ジョンジン)はそんな弟がナサケなくてしかたないという刑事。そのガンホが、ゲームで出会った同士がタイマンゲームで起きた殺人事件を捜査していて現場に出動しますが、残忍な手口で相手にやられてしまいます。プンホは兄の復讐のために犯人を追いかけ、ゲーム会社のCEOハン・ジェヒ(オ・ジホ)にたどり着きますが・・・。原題は「대결」です。

【多様性映画】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・・・・週末観客動員数・・・・累計観客動員数・・・・累積収入・・・上映館数
1(5)・・アイアムアヒーロー(日本)・・・・・・・9/21・・・・・・・・・・・・・100,632・・・・・・・・・・147,120 ・・・・・・・・・・・1,272 ・・・・・・・・263
2(3)・・カフェ・ソサエティ・・・・・・・・・・・・・・・9/14・・・・・・・・・・・・・・15,415 ・・・・・・・・・・・94,022・・・・・・・・・・・・・788 ・・・・・・・・120
3(新)・・ボーン・トゥ・ダンス ・・・・・・・・・・・・9/22・・・・・・・・・・・・・・12,631 ・・・・・・・・・・・16,515・・・・・・・・・・・・・113 ・・・・・・・・176
4(1)・・ロビンソン・クルーソー・・・・・・・・・・9/07・・・・・・・・・・・・・・10,371 ・・・・・・・・・・127,690・・・・・・・・・・・・・981 ・・・・・・・・128
5(18)・・映画 ビリギャル(日本)・・・・・・・・・9/21・・・・・・・・・・・・・・・7,617 ・・・・・・・・・・・11,030・・・・・・・・・・・・・・89 ・・・・・・・・128

 今回の新登場は3位と5位の2作品です。
 3位「ボーン・トゥ・ダンス」は、プロのヒップホップダンサーを目指す若者の熱き戦いを描いたニュージーランド映画。地元のダンスチームに所属している青年トゥはプロのヒップホップダンサーを夢見ていました。ある日彼は全国的なダンスチームであるK-Crewのオーディションを受けるのですが、それを裏切りと思って地元チームや親友からは反発を受けてしまいます。複雑な状況の中、トゥはK-Crewのリーダーの彼女に思いを寄せてしまって・・・。この複雑な状況で動く心。トゥが下した決断とは・・・。韓国題は「뉴 스텝업: 어반댄스」。日本では10月1日にDVDが発売されます。
 5位「映画 ビリギャル」については上述しました。
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多角的に見る韓国映画「暗殺」(ネタバレほとんどナシ) ④判別がむずかしい<史実>と<虚構>の間

2016-09-23 19:50:42 | 韓国映画
 → 多角的に見る韓国映画「暗殺」(ネタバレほとんどナシ) ①<進歩系>映画と<保守系>映画
 → 多角的に見る韓国映画「暗殺」(ネタバレほとんどナシ) ②昨年来日本統治期を背景とした作品が増えている
 → 多角的に見る韓国映画「暗殺」(ネタバレほとんどナシ) ③韓国では、日本統治期の見方が変わりつつある(?)

 前回の記事から3ヵ月以上も経ってしまいました。なんと言うか、・・・なんとも言えません。じつは、このシリーズの本論というべき部分はここからなんですけどね。つまり今までは序論。(←なんてこった!) まあその、今回のテーマ自体がむずかしくて・・・(汗)

 で、今回のテーマの<史実>と<虚構>の間なんですが、映画では巧く「接ぎ木」されているわけだから、ふつうの韓国人でも見分けがつかない点が多々あります。いや、それよりも映像化されると、なんとなくフィクション部分も事実と思われそうなので、それが心配
 
 てなわけで、一応わかりやすいところで、主な登場人物が実在する人物か否かについて。

 まず、チョン・ジヒョンハ・ジョンウイ・ジョンジェ等の人気俳優が演じた登場人物は皆架空の人物、イ・ジョンジェが扮したヨム・ソクチンという人物は廉東振(ヨム・ドンジン.1902〜50)(→ウィキペディア)がモデルという話が・・・。名前も似てるし、そういうことでしょう。経歴等は重なる点もある程度かな?
 
 1911年の冒頭シーンで登場する寺内正毅はもちろん初代朝鮮総督。そして李完用は朝鮮を日本に売った親日派、というよりも第1の売国奴!として有名。またこのシーンの舞台のソンタクホテル(Sontag Hotel.손탁호텔)(右画像)も徳寿宮の裏手(西)に実在したホテル。
 ※このホテルの名は支配人のドイツ人女性アントニット・ゾンタクの名前から命名。彼女は閔妃(明成皇后)・高宗と密接な関係があり、露館播遷を仕切ったりもした人物で、このホテルも高宗の力添えで1902年建てられたが1923年に撤去し新築。しかし朝鮮戦争で焼失した。
 ・・・というわけで、人物と建築物は実在。でも冒頭シーンで展開される<活劇>はフィクションです。
 またこのシーンで「この映画では李完用が流暢に日本語を話すが、実際の李完用は日本語があまりできなくて、常に通訳に依存しなければならなかった。ただし英語は非常に流暢で、日本の官僚とはだいたい英語で会話したという」と指摘しているのは<ナムウィキ>の「暗殺」の項目(→コチラ)。

 登場する歴史上の人物で、一番知られている人物が金九。李承晩が批判されてアメリカに戻った後の大韓民国臨時政府のリーダー。(1940~47年は主席。)
 私ヌルボ、今年6月に龍山からわりと近い孝昌(ヒョチャン)公園に行ってきました。
 公園の入口付近の横断幕を見ると・・・。
 「孝昌公園に誰がいらっしゃるかご存知ですか? 大韓民国国民なら知っていなければなりません!」と記されています。
 公園内には金九だけでなく、李奉昌(イ・ポンチャン)等、他の独立義士たちの墓もあります。
 そしてこの建物は・・・。
 金九についての資料・事蹟等を展示している白凡記念館。おりしも校外学習で見学に訪れた女子高の生徒たちが10時の開館を待っていました。(「白凡(ペクボム)」は金九の号。)

 映画の最初の方で、その金九の登場シーンがあります。1933年、場所は中国の杭州。なぜ杭州なのかというと、1919年上海で結成された臨時政府は、満州事変以降の日本の侵略によって32年以降は光復(終戦)時の重慶まで各地を転々としていて、32~35年は杭州にあったから。
       
 白凡記念館の階段。これによると1933年に嘉興に移っていますが・・・。
 そして、この杭州のシーンで金九と話をしている人物が金元鳳(キム・ウォンボン.김원봉)。(特別出演のチョ・スンウが儲け役!)
 おー、彼こそがこの記事のメイン!・・・のはずだったのに、もう字数が・・・。

 ということで、金元鳳については次の記事に回すことにします。ふー。
 その代わりに、上述の<ナムウィキ>の「暗殺」の項目(→コチラ)と、→コチラ)の韓国記事に書かれていたこの映画と史実をめぐるトリビアの主なものを列挙しておきます。

○チョン・ジヒョン等の話す言葉が現代口語で、植民地時代に合っていない
○上記の冒頭の<活劇>シーンと一応ダブるのは、1910年12月27日、安重根のいとこの安明根(アン・ミョングン)寺内正毅総督暗殺を計画したが事前に発覚し逮捕された事件。つまりあんな<活劇>はなかった。
○満州韓国独立軍の駐屯地でのアン・オギュン(チョン・ジヒョン)の服が新品のようにキレイすぎ、飢えていた痕跡もない。また独立軍は1921年6月の自由市惨変(→ウィキペディア)で壊滅し、東北抗日聯軍(→ウィキペディア)も1936年中国共産党の指導の下に結成されたことを勘案すれば、中隊レベル(140人程度)が満州に駐屯することも難しい。とても日本軍と交戦をする状況ではなかった
○アンオギュンたち3人が記念写真を撮った場面で壁にかかっていた太極旗は光復以降の太極旗で、当時のものではない。
○アン・オギュンたち3人が京城駅に到着した時。午後6時の時報とともに国旗(日章旗)下降式を行うといったことはなかった。(「国際市場で逢いましょう」の1場面を想起させる。) 駅構内の放送が不自然、というか、当時はそのような放送設備はなかったはず。また京城駅駅名の英字表記がKEIZYOとなっているが、日本の駅名表示方式(ヘボン式)ではKEIJÔが正しい。
○三一独立運動の時はわからないが、1930年代に日本の軍人が京城の街中で民間人を即決銃殺する場面は論外。いくら日本軍人でも殺人罪で処罰されるだろう。
関東軍の旭日旗が陸軍ではなく海軍の旭日旗になっている。
○いくら輸入車が多かったにしても、すべての車両が左ハンドルというのは問題。日本軍のトラックまで左ハンドルということはないだろう。


 ・・・いやー、細かなところまでチェックを入れる人は日韓ともにけっこういるものです。旭日旗の陸軍と海軍の違いなんて、日本人のどれくらいが知っているのだろう? あ、ヌルボのサークル仲間諸氏は知ってそうだな。
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韓国内の映画 NAVER映画の人気順位 と 週末の興行成績 [9月16日(金)~9月18日(日)]

2016-09-21 19:28:50 | 韓国内の映画の人気ランク&興行成績
 この夏、韓国映画業界は期待の大作が次々にヒットしてずいぶん盛り上がりました。8月末から今月にかけてその総括記事が各紙に載っています。
 9月19日の「朝鮮日報」の記事(→コチラ.韓国語)は見出しからして「今夏だけで観客3600万人・・・韓国映画が完勝した理由は」ですからねー。7~8月の総観客数5568人中、韓国映画は3611万人で65%を占めたとのこと。自国映画占有率が20~40%くらいで推移している仏・伊・英の各国と比較したグラフも載っています。まあ以前から全世界で自国映画のシェアが50%を越える国は米国、インド、中国、日本、韓国の5ヵ国だけなんですけどね。で「完勝の理由」というのは大企業(ロッテとCJ)が映画業界に参入し、後発のショーボックス、NEWも含め4大配給会社の競争が好結果を生んでいる(製作方式・運営の透明化等)とのこと。ただ、近ごろは観客動員1千万人を超える<大当たり(テバク)>映画は増えているが、300~500万人程度の<中当たり(チュンバク)>が減っているのが残念とか。

 その今夏の<大当たり>映画ですが、これまで本ブログでも紹介してきた次の画像の4作品です。
 上段左が「釜山行き」、右が「仁川上陸作戦」、下段左が「徳恵翁主」、右が「トンネル」と、7月20日の「釜山行き」を皮切りに以後この順で4週続けて順次公開されました。
 これらについて9月7日の「朝鮮日報」に「今夏の韓国映画ビッグ4、最終勝者は?」という見出しの記事がありました。(→コチラ.韓国語)。右の表はその記事の中にあったものの一部。<最終勝者>は、観客動員数で唯一1千万人超えた「釜山行き」が「おもしろさ」でも他を圧倒して文句なしといったところ。「韓国初のゾンビ映画」ということですが、韓国社会の実相とある意味相性がいいのかも。あのセウォル号事件で船が沈みつつあるのに「だいじょぶだからそのまま部屋にいなさい」と放送されたのと似たようなことは昨年のMERSコロナウイルス蔓延や、今回の地震騒ぎの中でもある高校でもあったそうだし・・・。以前→コチラで紹介したチョン・ユジョンの「28」という伝染病蔓延パニックを描いたホラー小説とも関連性がありそうです。
 他の3作について。「仁川上陸作戦」は<クッポン(국뽕)>(=過度の愛国主義)映画といわれてました。たまにこの手の作品は登場し、それなりに集客力はあるようです。「徳恵翁主」は、対馬の元領主・宗家の当主と政略結婚し、生涯の大半を心の病とともに送った悲劇のお姫様(高宗の娘)を独立運動の支援者のように描いた<歴史歪曲>が一部で取り沙汰されました。突然の崩落事故でトンネル内に閉じ込められた男の話「トンネル」も、救出劇だけでなくやはり政治やメディアの対応も含めたパニック映画。事実に基づく「チリ33人 希望の軌跡」とは雰囲気は違う感じ。・・・って、私ヌルボ、以上4作品全然観てないんですけど。(無責任!)
 あ、一番印象に残った俳優は「トンネル」のハ・ジョンウを抑えて「釜山行き」のマ・ドンソクというのは「!」 たぶんどちらも日本公開ありそうな感じ。早く観てみたいものです。「仁川~」は日本公開どうかな? 「徳恵翁主」はなさそう?

 「朝鮮日報」の「封切映画 ぴったり10字評」は先週掲載されませんでした。

         ★★★ NAVERの人気順位(9月20日現在上映中映画) ★★★

     【ネチズンによる順位】
             ※評点の後の( )は採点者数
①(1) Bringing Tibet Home ~故郷を引き寄せて~(韓国等)  9.42(72)
②(3) 影たちの島(韓国)  9.38(84)
③(4) ドロップ・ボックス(韓国)  9.32(90)
④(5) KING OF PRISM by PrettyRhythm(日本)  9.30(920)
⑤(6) 私たち(韓国)  9.24(911)
⑥(-) 一死覚悟(韓国)  9.16(240)
⑦(7) オーヴェという男  9.12(1,264)
⑧(-) マイケル・ムーアの世界侵略のススメ  9.03(115)
⑨(-) サフラジェット  8.96(425)
⑩(8) 劇場版 響け!ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~(日本)  8.92(106)

 入れ替わりや順位変動はありましたが、本ブログ新登場の作品はありません。

     【記者・評論家による順位】
             ※評点の後の( )は採点者数
①(2) アガシ(韓国)  7.68(18)
②(3) 私たち(韓国)  7.66(14)
③(4) ドロップ・ボックス(韓国)  7.66(1)
④(5) 密偵(韓国)  7.50(10)
⑤(6) ナショナル・ギャラリー 英国の至宝  7.50(4)
⑥(8) ディーブ  7.35(5)
⑦(9) トンネル(韓国)  7.21(14)
⑧(-) ヒッチコック/トリュフォー  7.17(6)
⑨(-) 影たちの島(韓国)  7.14(7)
⑩(-) 釜山行き(韓国)  7.10(17)

 コチラのランキングも入れ替わりや順位変動はありましたが、新登場の作品はありません。

         ★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績9月16日(金)~9月18日(日) ★★★

         「密偵」の独走が続く
【全体】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・週末観客動員数・・・累計観客動員数・・・累積収入・・・上映館数
1(1)・・密偵(韓国)・・・・・・・・・・・・・・9/07 ・・・・・・・・・2,061,343 ・・・・・・・・・6,048,476 ・・・・・・・・49,974・・・・・・1,368
2(44)・・ベン・ハー・・・・・・・・・・・・・・9/14・・・・・・・・・・・594,486・・・・・・・・・・・897,235 ・・・・・・・・・7,564・・・・・・・・717
3(新)・・マグニフィセント・セブン・・9/14 ・・・・・・・・・・391,115・・・・・・・・・・・679,524 ・・・・・・・・・5,752・・・・・・・・579
4(2)・・古山子、大東輿地図(韓国)・・9/07 ・・・・・・・・297,608・・・・・・・・・・・852,257 ・・・・・・・・・6,896・・・・・・・・536
5(3)・・アリス・イン・ワンダーランド・・9/07 ・・・・・・・・134,291・・・・・・・・・・・447,619 ・・・・・・・・・3,639・・・・・・・・392
       ~時間の旅~
6(46)・・ロック・ドッグ ・・・・・・・・・・・9/14・・・・・・・・・・・119,044・・・・・・・・・・・168,601 ・・・・・・・・・1,337・・・・・・・・399
7(4)・・月光宮殿(韓国) ・・・・・・・・・9/07・・・・・・・・・・・・48,067・・・・・・・・・・・138,018 ・・・・・・・・・1,047・・・・・・・・275
8(8)・・ロビンソン・クルーソー ・・・9/07・・・・・・・・・・・・42,447 ・・・・・・・・・・114,860 ・・・・・・・・・・・885・・・・・・・・181
9(5)・・おもちゃが生きている・・・・9/07・・・・・・・・・・・・42,281・・・・・・・・・・・131,232 ・・・・・・・・・1,026・・・・・・・・216
10(34)・・アイカツ!ミュージックアワード・・9/14・・・37,470・・・・・・・・・・・・61,382 ・・・・・・・・・・・417・・・・・・・・344
       みんなで賞をもらっちゃいまSHOW !(日本)
     ※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。

 9月14~18日は秋夕で5連休とあって映画館に足を運んだ人が多く、全体的に数字が増えていますが、とくに「密偵」は週末だけで200万人を超えて独走状態。累計でも600万人突破。この勢いがどこまで続くか注目。
 今回の新登場は2・3・6・10位の4作品です。
 2位「ベン・ハー」は、もちろんアカデミー賞11部門を受賞したあの1959年のウィリアム・ワイラー監督作品のリメイク。あれを観た感動を知る人は、どんなに巧く作っても超えられないと思うのでは? 私ヌルボもその1人。「ベン・ハー」と聞いただけであのミクロス・ローザ作曲の美しいテーマ曲が甦ってきますぞよ。韓国題は「벤허」。日本公開は来年です。
 3位「マグニフィセント・セブン」は、「七人の侍」のリメイクというか、いや「荒野の七人」のリメイクか。西部劇だし・・・。やっぱりハリウッドは作品の素材が払底してるのかな? 志村喬→ユル・ブリンナー、そして半世紀以上経って今度はデンゼル・ワシントンか。彼ももう60代か、ふうん。最初に観た「遠い夜明け」は本当に感動的だったな・・・。と、これまた感懐に耽ってしまいます。韓国題は「매그니피센트 7」。日本公開は来年1月27日です。
 6位「ロック・ドッグ」は、アメリカ・中国合作のアニメ。主役はワンちゃんのボディ。臆病な羊が集まって暮らす雪の村の警備犬ボディは 歌っている時が一番幸せ。 お父さんのカンパと狼から村を守っていたある日、たまたま空から落ちラジオを拾うと世界的トップスターのアンガスの声。それに勇気を得て町に行き、紆余曲折の末に偶像アンガスに会ったものの喜びも束の間、みすぼらしい姿の彼は門前払い。さらに雪の村を狙うオオカミの群れの標的にされて追われして踏んだり蹴ったり。まあそこからの逆転はお約束ですから、たぶん。
韓国題は「드림 쏭(ドリーム・ソング)」。日本公開はない、かな?
 10位「アイカツ!ミュージックアワード みんなで賞をもらっちゃいまSHOW !」は、「2012年にデジタルカードゲームとしてリリースされ、テレビアニメ版も子どもたちから人気を集めている」というもので、女子小学生を中心に人気なのだそうですけど、私ヌルボ今初めて知りましたがな。遠い世界だなー。<アイカツ>は何かと思ったら<アイドル活動>のことなのか、はあ~・・・。韓国題は「아이엠스타 뮤직어워드」です。

【多様性映画】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・・・・・週末観客動員数・・・・累計観客動員数・・・・累積収入・・・上映館数
1(2)・・ロビンソン・クルーソー・・・・・・・・・・9/07・・・・・・・・・・・・・・42,447 ・・・・・・・・・・114,860・・・・・・・・・・・・・885 ・・・・・・・・181
2(1)・・おもちゃが生きている ・・・・・・・・・・9/07・・・・・・・・・・・・・・42,281 ・・・・・・・・・・131,232・・・・・・・・・・・1,026 ・・・・・・・・216
3(8)・・カフェ・ソサエティ・・・・・・・・・・・・・・・9/14・・・・・・・・・・・・・・33,641 ・・・・・・・・・・・56,796・・・・・・・・・・・・・493 ・・・・・・・・188
4(3)・・最悪の1日(韓国) ・・・・・・・・・・・・・・8/25・・・・・・・・・・・・・・・4,050・・・・・・・・・・・・75,797・・・・・・・・・・・・・600 ・・・・・・・・・36
5(6)・・アイアムアヒーロー(日本)・・・・・・・9/21・・・・・・・・・・・・・・・3,689 ・・・・・・・・・・・10,332・・・・・・・・・・・・・・72 ・・・・・・・・・22

 また先週のデータと矛盾が・・・。いまだに理由がわからず。
 5位「アイアムアヒーロー」だけが初登場ですが、日本映画でもこれは未見なのでなんとも・・・。ゾンビ映画というと「釜山行き」の方に意識が向かってしまうもので・・・。韓国題は「아이 엠 어 히어로」です。
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「貧困のため」よりも大きな理由は? 韓国の海外養子、赤ちゃんポストをめぐる事情②

2016-09-20 16:36:05 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 1つ前の記事では「Twinsters ~双子物語~(트윈스터즈)」というドキュメンタリー映画と、それに関連して韓国の海外養子について「近年減ってきてはいるが課題は依然多く、また新たな問題も生じている」といったことを書きました。

 今回は、それと関連して「ドロップ・ボックス(드롭박스)」というもう1つのドキュメンタリー映画を紹介します。今年5月から韓国で上映され、観客・映画評論家から非常に高い評価を受けているアメリカ・韓国合作の作品で、監督はアメリカのブライアン・アイヴィー監督です。
 タイトルの「ドロップ・ボックス」とは、2009年ソウル市冠岳区蘭谷洞にある主サラン共同体教会に設けられた韓国最初の赤ちゃんポストのこと。日本で熊本市の慈恵病院というカトリック系の病院に「こうのとりのゆりかご」という名称で赤ちゃんポストが開設されたのが2007年ですからその2年後です。つまり諸事情のため育てることのできない新生児を親が匿名で特別養子縁組をするため韓国では最初に設置されたものです。(※一般的には<ドロップ・ボックス>ではなく<ベイビー・ボックス(베이비박스)>という。)
 この作品はそこのイ・ジョンナク牧師の話です。といっても、内容は彼の日常よりも子どもたちに重点が置かれています。薬を服用していた女子中学生が産んだ子供とか、障碍を持った子供とか・・・。
 (※ベイビー・ボックスはその後もう1ヵ所京畿道軍浦市のセ(新)カナアン教会に設置され、現在はその2ヵ所とのこと。)

 実はこの映画も私ヌルボは観ていません。しかしいろいろ関連情報を探して読んでみると、国際養子の問題とも関連する諸問題があることが見えてきました。
 まず驚いたのは「2009年の開設以来約800人の命を助けた」というその数の多さです。日本では2007年の運用開始から8年間で合計112人とのこと。ということは、なんと日本の約10倍にもなるではありませんか!
 (ここで「なんだ、海外養子の多さといい赤ちゃんポストといい、韓国人はずいぶん無責任だな」と<嫌韓>方面に直行するのは早計に過ぎます。)

 右の表を見ればわかるように、この韓国のベイビー・ボックスに託された赤ちゃんの数は最近とくに急増しています。以下その背景を探ってみました。

 上述のように、この「ドロップ・ボックス」という映画に対する評価は高く、<NAVER映画>でネチズン90人の平均評点が9.32、観客の評点は9.91に上り、コメントも好意的なものばかりです。しかし世論は必ずしもベイビー・ボックスに肯定的なものが大多数とはいえないようです。つまり「赤ちゃんを捨てることを助長するような環境を作ってはいけない」というのがその理由です。

 政府もまたベイビー・ボックスに否定的です。というのは、子どもの権利条約ハーグ国際養子縁組条約に示された「子どもが自分の親について知りたいと思うのは当然の権利」という理念を重視して前の記事でも記したように養子縁組特例法(2012年)を制定し、養子縁組に際しては出生届等の手続きを義務づけたわけですから、そうした必須の手続きを経ないベイビー・ボックスは認められないというものです。ただ法的な問題等のため強制的な閉鎖には乗り出していませんが・・・。

 ところが、依然として未婚の母に対する差別が深刻な社会で養子縁組の手続きのハードルを高くすると、当の未婚の母はベイビー・ボックスの他にどんな選択肢があるのでしょうか?
 なんらかの形で赤ちゃんを「遺棄」するか、自分あるいは子どもの命を絶つといったはるかに悲惨なことになってしまいそうです。
 ※ここで私ヌルボ、업둥이(オプトゥンイ)という言葉があることを初めて知りました。(主として子どものいない老夫婦等の)家の前に捨てられた赤子のこと。「ふつうその家で育てられることになる」そうです。しかし、この頃は人間の赤ちゃんよりももっぱらイヌやネコについて用いられている言葉のようです。

 さて、「依然として未婚の母に対する差別が深刻な社会」と書きましたが、具体的にはどのようなものでしょうか? 
 たとえば2013年4月の「ハンギョレ」の記事(→コチラ.韓国語)。
 (たぶん役場の窓口で、担当職員が)「子供のお父さんは? え、未婚の母ですって?」と声を高めると、人々の視線が突き刺さった
・・・とか、
 1人で出産の準備のために役場と保健所を行き来していると、行く先々で「なぜシングルマザーになったのですか?」という質問が続いた
・・・等々。
 統計庁の調査資料によれば2000年に11万7千人だったシングルマザーは2010年に16万6千人余りと5万人近く増えましたが、2009年に430人の未婚の母を対象に行った調査では、彼女たちに対する偏見・差別は「非常に深刻=30.7%、深刻=58.3%、ほとんどない=9.0%、全然ない=2.0%」と全体の9割は「深刻だ」と答えています
 この「ハンギョレ」の記事では、4月の臨時国会で包括的差別禁止法が可決されれば、シングルマザーも差別と偏見から保護を得るようになり、ある組織の代表は「法が成立すると、教育課程の中でも未婚父・母の家を多様な家庭の1つの形として提示したり、企業は未婚の母をむやみに解雇できなくなり、10代の未婚の母は学校から追い出されず学習権を保証される等、制度が改善されるだろう」と予想しています。
 ところが2016年1月の「女性新聞」の記事(→コチラ.韓国語)を読むとあいかわらず厳しい状況は続いているようで、仕事に就いている人は51%に留まっています。シングルマザーであることを理由に就職できなかったり、あるいは保育施設の問題で仕事と育児の両立が困難だったり・・・。そのうえ公的な支援が不十分なこともあって経済的に追いつめられている人が大半のようです。
 日本でも幼い子どもを抱えて働く女性の問題がクローズアップされましたが、韓国の場合は差別・偏見、公的支援のレベルの問題等もあってさらに過酷な状況のように思われます。

 先に<嫌韓>方面の人に「海外養子」に出されたり赤ちゃんポストに託される子どもの数だけで韓国を非難するのは早計と書きました。ヌルボ思うに、批判するとしたらその数ではなく、シングルマザーに対する偏見・差別ですね。

 前の記事と続けて韓国の海外養子と赤ちゃんポスト関係の記事をいろいろ読み、考えたことを書きました。その中でもう1つ見逃してはならない事実を知りました。それはどちらのケースもその子どもたちの2割以上が障碍児ということです。「なんなんだ、この数字は!?」という驚き+憤りが・・・という反応は当然でしょうが、この件についてもいずれ何らかの形で背景を探ってみたいと思います。

★[付記①]
 日本財団が行っているプロジェクトの1つに<ハッピーゆりかごプロジェクト>があります。特別養子縁組や里親制度の普及をめざすというものですが、そこのサイト内に「韓国の未婚母支援、養子縁組を学ぶ旅」と題した2回続きの記事が掲載されています。その①(→コチラ)は「未婚母支援の団体でインタビュー」、その②(→コチラ)は「ベビーボックスと養子縁組機関でインタビュー」という内容で、その②では「ドロップ・ボックス」がある主サラン共同体教会を訪ねて取材した内容をいろいろ具体的に記しています。
 その①ではエランウォン(園? 院?)というシングルマザー支援施設を取材しています。民間団体による支援等は韓国の方が進んでいる面もあるようですね。調べてみるとエランウォンは1960年エリノア・ヴァン・リロップ(韓国名パン・エラン. 1921~2015)というアメリカ人女性宣教師が韓国で初めて開設した未婚母子支援施設とのことです。

★[付記②]
 日本の赤ちゃんポストをめぐっては、NHK<クローズアップ現代>の2015年5月の記事(→コチラ)参照。

※養子問題とか出生の秘密というと韓国ドラマではおなじみのネタですが、それも上記のような歴史的社会的状況とと関係がありそうですね。

※もしかしたら、未婚男女(とくに10代)の性意識・性行動」といったことも関係ありそうですが、そこまで知ら減るとなると収拾がつかなくなりそうなのであえて踏み込みませんでした。
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