ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

多角的に見る韓国映画「暗殺」(ネタバレほとんどナシ) ②昨年来日本統治期を背景とした作品が増えている

2016-05-24 09:11:54 | 韓国映画(&その他の映画)
 → ①<進歩系>映画と<保守系>映画

 昨年(2015年)から日本の統治期を背景にした韓国映画が目立っています。韓国メディアでも、昨年5月に「中央日報(日本語版)」(→コチラ)、7月に「ハンギョレ(日本語版)」(→コチラ)がそのことを記事で取り上げました。
 具体的には、次のような作品です。※[ ]は韓国での公開月

[6月]
「京城学校:消えた少女たち」(イ・ヘヨン監督)・・・・1938年京城近郊の寄宿女学校。生徒が一人二人と異常な症状を見せ、そして痕跡もなく消え始める、というミステリー&ホラー。
[7月]
「暗殺」(チェ・ドンフン監督)・・・・独立運動組織メンバーによる「親日派」暗殺計画。
[12月]
「大虎」(パク・フンジョン監督)・・・・1920年代、日本軍高官(大杉漣)の意を受けた最後の朝鮮虎狩猟作戦と往年の名猟師の物話。

 上記の新聞記事は、「日帝強制占領期を背景にした映画は失敗する」という忠武路(映画街)の昔からの俗説をこれらの作品は打破できるか、という点に注目していました。結果はというと、「京城学校:消えた少女たち」の観客動員数は35万人と惨敗。「大虎」は158万人でしたが、チェ・ミンシクを主演に据え、純制作費140億ウォンを投じたことを考えれば期待を大きく裏切る結果となりました。その点「暗殺」は韓国映画歴代5位(→コチラ参照)の180億ウォンという巨額純制作費をかけましたが、損益分岐点の600万人を大きく上回る1270万人動員という大ヒットを達成しました。

 上記のような日本統治期関係の作品公開の背景としては、2015年が1945年の「光復」から70年目の節目に当たるということもあったでしょう。
 しかし、今年(2016年)に入っても、次のような1920~40年代を背景にした作品が相次いで公開されています。

[2月]
「東柱」(イ・ジュンイク監督)・・・・ 28歳で短い生涯を終えた詩人尹東柱(ユン・ドンジュ)の人生をほぼ事実に沿って描く。(一部「誇張」や「独自解釈」もありますが・・・。観客動員数は現在115万人で、興行的にも成功。(私ヌルボも観ましたが、良い作品だと思います。)
「鬼郷」・・・・1943年14歳の時「連行」されていった少女たち。「実話」を基に作られたという話題の「慰安婦」映画。観客動員数300万人をを超えるヒット(現在352万人)となったことはニュースとして報じられました。

[4月]
「解語花(ヘオファ)」(パク・フンシク監督)・・・・タイトルは「言葉がわかる花」の意味で、つまりは妓生のこと。1940年代の妓生養成所の券番で一緒に成長した2人の妓生の歌にかける人生と愛。ハン・ヒョジュチョン・ウヒの共演という点は個人的には惹かれますが、観客動員数45万人で興行的には失敗作。

[6月]
「アガシ」(パク・チャヌク監督)・・・・サラ・ウォーターズの歴史ミステリー「荊の城」の翻案。幼い頃父母を亡くした貴族(日本人)のアガシ(お嬢様)と朝鮮人の下女の話。先日終わったカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、関係の情報がいろいろ流されていました。その中で、監督が「日本に魅せられた人たちの心理を描いた」と語ったとのこと。(→コチラ参照。) 「反日じゃないですよ」と言いたいのか?とか日本におべっかを使っている?とか勘ぐらず、そのまま受けとめてよさそうです。
 ※この作品の原作(創元推理文庫)はホントにおもしろいです! 未読の方ぜひ読んでみて下さい。(前作の「半身」も。)

[公開日未定]
「密偵」(キム・ジウン監督)・・・・抗日武装団体(「テロ」組織)義烈団が素材。おっ、ソン・ガンホが主演か。
「徳恵翁主」(ホ・ジノ監督)・・・・コチラはソン・イェジンパク・ヘイルが主演。高宗の王女で、旧対馬藩主・宗家の当主宗武志伯爵の夫人となった徳恵翁主(トクヘオンジュ)の悲運の人生を描く。
「鳳梧洞(ポンオドン)戦闘」(キム・ハンミン監督)・・・・鳳梧洞は中国吉林省の地名。1920年の洪範図(ホン・ボムド)将軍が率いる独立軍が日本軍を打ち破った戦闘を描く。
「ハルビン」(ヤン・ユノ監督)・・・・ 伊藤博文を狙撃した安重根の人生を描く。

 ・・・うーむ、こうして見ると、やっぱりほとんどが「悪辣な日帝」と関係ありといってよさそう。大虎が主役(?)の「大虎」も、「京城学校:消えた少女たち」も、日本統治の横暴なこととか「闇の部分」とかが描かれていたりとか? そうじゃなさそうなのは「解語花」くらいかな? 「アガシ」もまあそれほど関係なさそう?(しかし・・・)

 さて、上記のように日本の統治期という時代設定の韓国映画がなぜこのところ目立って増えているのか?ということなのですが、実はここまでの記事はその「本論」の前書きのつもりで書き始めたものなのです。しかしすでに長くなりすぎたのでここでひと区切りつけて、その「本論」は続きで、ということにします。

 → ③韓国では、日本統治期の見方が変わりつつある(?)
 → ④判別がむずかしい<史実>と<虚構>の間
 → ⑤韓国でようやく知られ始めた金元鳳(キム・ウォンボン)と義烈団
 → ⑥「日本軍により3469人が殺された事件」というのは何だ?


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
サラ・ウォーターズの『荊の城』 (スウ)
2016-06-11 08:06:38
毎回、読むだけ読んで、コメントもしておりませんが、ヌルボさんのブログを楽しみにしている者です。記事の本題には関係ないのですが、サラ・ウォーターズの『荊の城』、ヌルボさんが「ホントにおすすめです!」とビックリマークまでつけてらしたので、気になり、読みました。あんまり、推理小説やミステリーが好みではないので、おもしろく感じられるのか半信半疑でしたが、とてもおもしろかったです!文字を読むスピードがどんどん加速していく感覚と、それに伴って、小説世界の中にどんどん引き込まれ、読み終わった後は放心状態(はちょっと言い過ぎかもしれませんが…笑)、ともかくすごいものを読んでしまったと圧倒されました。読書のために徹夜をしたのはいつ以来?本を読むって、こんなに楽しかったけ?とびっくりしました。ビックリマークをつけてオススメしてくださったヌルボさんに、感謝です。
返信する
オススメした甲斐がありました^^ (ヌルボ)
2016-06-11 14:19:12
いやー、物事に動じない(鈍感な?)性格で、文章にもあまり「!」をつけない(?)私ですが、この本については「!」をつけて大正解だったですね(笑)。

この10年くらいは韓国関係の本の比率が増えて元々好きなミステリーとかSFはあまり読まなくなってしまいましたが、毎年の話題の書は極力読むことにしていて、「荊の城」もその1つです。

なお、その他のオススメ本については<高校生にすすめる本360冊>カテゴリーの(18)~(20)あたりをご参照下さい。
返信する

コメントを投稿