風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

歌舞伎座新開場こけら落 十二月大歌舞伎(12月5日)

2013-12-08 22:12:19 | 歌舞伎




三津五郎さん、仁左衛門さんに続き、福助さんも長期療養ですか…。
先月10日はお声が掠れていてしんどそうだったのでお風邪かなとは思っておりましたが、脳内出血とは…。
命あっての物種、健康あっての芸です。襲名など延期すればよろしいのです。
とにかく今はしっかりお休みされて、療養くださいませ。。。

さて、今月は行かない予定だった歌舞伎座ですが、急遽戻りで購入した昼の部を鑑賞→上野のターナー展へ→再び東銀座で七段目から幕見、というハードスケジュールを強行してまいりました。

…なんと申しますか…。
二ヶ月連続同演目というかけ方をしたのは「さあ存分に観比べてください」という意味だと思うので、今回は思い切り比べて構わないのだとは思いますが、マイナスな感想は一切読みたくないという方は、以下はご覧になりませぬよう。。。
あくまで超初心者の勝手な覚書であることをご了解くださいませm(__)m

※昼の部:3階3列中央、七段目&十一段目:幕見


【大序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場 / 三段目 足利館門前進物の場・松の間刃傷の場】

染五郎も菊之助も海老蔵も、とても頑張っているのは伝わってきたのですが。。。
先月の役者さん達が何気なく演じているように見えたものが、実は全然「何気ない」シロモノではなかったのだということが、今月の舞台を見てわかりました。ほぼ同じ台詞、同じ動きのはずなのに、こんなに違うのかと。。
歌舞伎って本当に一筋縄ではいかない芸なのだなぁ、と妙な感動をしてしまった。
しかし芸の深みは父ちゃんズに適わないとしても、大序~三段目のピリピリした緊張感は若手なだけに期待していたのだけれど、、、それも先月に及ばず。。

巳之助の直義。
ごめん、みっくん。。。 弱い。。。 同じ舞台の花形に比べて若いせいもあるかもしれないけれど、先月の七之助が同じく大御所に囲まれて健闘していたことを考えると。。

染五郎の若狭之助。
人形身の伏せ目の顔が、とても美人さんでした。
全体的に若い短気さが出ていて良かったのですが、どういえばいいのか、、、「芸」が表に出てしまっているように感じたときが時折。内側からの短気さに見えないというか。。。顔立ちのせいかしら。でもそれなら梅玉さんはもっと不利だったはずだし。うーむ。。。

菊之助の判官。
人形身のとき一人だけあまり頭が下がっていなかったので、お人形さんに見えなかったです^^;
それと、割とふつうに短気な判官なので(仮名手本のおっとり判官というよりリアル判官に近い感じ)、美しい割に悲痛さが少なく、刃傷→切腹→討入りに先月より共感しにくかったな。。 悔しさや怒りは沢山伝わってきましたけれど。。 この感じ、7月のお岩さんを思い出すわ。。
菊ちゃんは先々月の義経先月の巡業が素晴らしかったので、私も期待しすぎたかも。。でも悪くはなかったですよ。大序で一番良いなと感じたのは菊之助でした。特に幕切れは、お父さんと同じくとても美しかった。

海老蔵の師直。
師直ってあんなにニラミあったっけ…(拍手起きてた…)。
こせこせした師直がなかなか面白かったですが、個人的にはもうちょっと重みのある演じ方の方が好みかなぁ。
それと、ただ座っているときなどに緊張が途切れるのか、手持無沙汰そうに視線が彷徨っていることが時々あり(素に戻ってた感じ)、そのため顔世に執着している気持ちが私にはあまり感じられませんでした。自分の見せ場のときはちゃんとそれらしき演技をしているのですが、それがずっと続いていないというか…。

刃傷前の判官と師直の山場は、二人ともちょっとうるさく感じました…。
声を張り上げる=迫力、熱演ではないと思うの…。これは今月の他の役者さん達にも感じたことですけれど。
しかし声を上げれば上げるほど客席からの拍手も増えるという……。皆さん、ああいう安易でわかりやすいだけの演技を本当に観たいのですか…?


【四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場・表門城明渡しの場】

三段目に続きピィンと張りつめた空気がもうひとつで、別に通さん場にしなくてもよいのでは?と思ってしまった。。

でもここの菊ちゃんは、菊五郎さんと違うタイプの良さがありました。力弥との対面は、菊五郎さんは情感たっぷりで優しさで力弥を包み込むようだったけれど、菊ちゃんは飽くまで凛としていて、これはこれで武士らしくて素敵だった。

この四段目で一番気になったのは、判官と由良之助の間に気持ちの交感が見られなかったことです。
先月の二人がものすごく濃密だったせいもあるけれど、それにしても菊ちゃんと幸四郎さんは、それぞれがそれぞれのしたい演技をバラバラにしているように見えた…。菊ちゃん判官は由良之助を待ってはいるのだけれど、それは別に幸四郎さん由良でなくてもいい感じで、「由良之助を待ちわびている」演技を熱演しているだけに見え…。同様に由良之助も判官の元に駆けつけて涙を流しているのだけれど、それは別にこの判官でなくてもいい感じで……。万事そんな風なので、「形見…仇…」で二人で遠くを見つめるところも、同じ気持ちを共有しているのではなく、それぞれが勝手に思い入れしているようにしか見えず、これではどんなに熱演されても感動できませぬ。。。

そんなすっかり乾いてしまった私の心をウェットにしてくれたのは、七之助の顔世さま。
これはよかった。愛する人を亡くした心の空洞が伝わってきて、纏う空気が未亡人そのもの。かつ、大名の妻の雰囲気もあり。七之助って本当に薄幸な役が似合うねぇ。
腰元達の目が痛くなるような真っ白な衣装も、顔世の哀れさを際立たせています。

幸四郎さんの由良之助。
すみません、感想は控えます。。たぶん個人の好みの問題です。。

亀蔵さんの薬師寺、染五郎の石堂。
軽かった。。。(毒舌御免!)

以下、先月と違った主な箇所の覚書。
・顔世の出が、先月は判官の遺体を駕籠に乗せた後だったけど、今回は前。
・焼香の香りが三階席までいっぱいに匂ってきて楽しかった♪ 一階より三階の方が香りが届くのかな。 
・吉右衛門さん由良は焼香の後に背中で悲しみを表現していたけれど、幸四郎さんはここはさらりと流していた。
・門外。吉右衛門さん由良は提灯の枠を門の下に置いて引き道具と一緒に片付けていたけれど、幸四郎さんは元の場所に枠を残して花道へ。門は遠ざかっているのに枠だけ同じ位置にあるのは少々不自然なので、私は門と一緒に遠ざかる方が好みですかね。視覚的にも美しいし。まぁ些細なことですが。


【浄瑠璃 道行旅路の花聟】

菊ちゃんの判官と、この玉三郎さん&海老蔵の落人が観たかったので、夜の部ではなく昼の部を買ったのですが。
二人が不思議なほど恋人同士に見えませんでした。。。
外見の話じゃないですよ(玉さまの外見は永遠の花形!!)。情感的な話です。
勘平はまぁ状況が状況なので百歩譲ってお軽への愛情が見えなくても構わないのですが、お軽に「勘平スキスキ」な感情が薄いのは……うーん……。
玉さまの華やかさも貫録も流石でしたが、玉三郎さんが海老蔵をリードしているのが表に出てしまっていて、残念でしたが私の心に響く道行ではありませんでした。。

先月との違い。
時蔵さんは紫の矢絣だったけど、玉三郎さんは紫の地に刺繍模様(といえばいいのかしら・・・)。どちらもお似合いでしたが、矢絣の方は衣装としては地味かな。

結局昼の部は先月の仮名手本がいかに良かったかの確認作業のようになってしまい、モヤモヤした気分のまま歌舞伎座を後にすることに。とてもそのまま家に帰る気になれず、上野へ行きターナー展を鑑賞。ここですっかり気持ちがリセットされ、これが数々の素晴らしい舞台を観てきた今年の観劇納めになるなどあり得ぬ!と再び東銀座へ。




七段目開始の30分前でしたが、ぎりぎり幕見で座ることができました。しかも私的最高の席(上手の通路の上)。


【七段目 祇園一力茶屋の場】

昼の部であまり感動することができなかったのは、神様が私にこの七段目を観せるためだったのだろう、と本気で思いました。
だって――。


玉さま


玉さまのお軽!!!
可愛い!艶やか!華やか!健気!いじらしい!切ない!でもオモロい!
玉さまの魅力全開
夜の部でこんな玉さまが見られるとは、昼の部で帰らずに七段目を見て本当によかった。。。。。

出の瞬間から玉さまオーラ全開。
すべてが計算し尽くされた美しさ。なのにその計算をまったく感じさせない。“美そのもの”が目の前に。
ここからラストまで、殆どオペラグラスを下ろすことができませんでした。
背景の桃色の壁がとてもよく似合う。
団扇で顔を隠したお姿のなんと風情のあること。
団扇を気だるく煽ぐ艶やかさも、首から肩への華奢な線も、手摺に寄りかかる姿勢の絵のような美しさも、梯子からのピョンッっていう飛び降りも、両手をすとんと下ろしたペタンコ座りも、テテテ…な女の子歩きも、花道での怖がり方も、すべてがどうしようっていうくらい可愛い。
ペタンコ座りで甘えるように顔を傾けて立役を見上げる玉さまは、いつもながら殺人的です。
しかし玉さまのスゴいところは、可愛らしいだけでなく、これぞ立女形な貫録!
先月の吉右衛門さん由良と同様に、何度心の中で「立派だなぁ…」と呟いたことか。。。
七段目を引っ張っていたのは、間違いなくこの玉さまだったと思います。
そしてさらにスゴいところは、その貫録と矛盾しない軽み!
こういう可愛いらしいだけでなく、ちょっと気が強くてトんでる面白い玉さまが大好き!
そしてそして、最後にはちゃんと泣かせてくれる。。。
玉さまもまた、間違いなく世界遺産でございます。

海老蔵の平右衛門。
今月彼が演じた三役の中で、この平右衛門が一番良かった。海老蔵って、こういうちょっと情けない感じの役が意外と合うんですよね。玉さまともちゃんと兄妹に見えました。
本当に昼の『道行』と同じ二人か?と思うほど、二人とも華やかで眩しかった。
ただやっぱり時々平右衛門ではなく海老蔵に見えてしまいましたが。
そして今回の舞台を観て、ものすごーーーーーく仁左さま@平右衛門、玉さま@お軽、吉右衛門さん@由良さんで七段目を観たいっ(><)と思ったのだけれど――。
2007年にやっているんですね!?
……2007年か……。2008年なら日本にいなかったから仕方ないと思えたのに……

結局、先月今月と計3人のお軽@七段目を観たわけですが、同じ台詞同じ動きをしているのに三人三様全く性格の違うお軽で、とても興味深かったです。

幸四郎さんも、四段目よりこの七段目の方が良かった。酔っぱらったフリして唄うように台詞を言うところ、雰囲気ありました。
そうそう、仲居の中に小山三さんがおられて、拍手が起きていました。台詞もしっかりされてて、役者さんの休演が続く中で、その元気なお姿にこちらも元気をもらえました。なんか、歌舞伎っていいなぁ、と感じた。

先月との違い。
・幸四郎さん由良は、吉右衛門さん由良と比べて本心を表に出していることが多かったです。例えば身請けを喜ぶお軽に「それほど嬉しいか?」のところは、吉右衛門さんはそっと苦しい表情を見せるにとどまっていたけれど、幸四郎さんははっきりと不憫な気持ちを表現。蛸を口にするときも、吉右衛門さんは平然とした顔で口に入れるけれど、幸四郎さんは葛藤をかなりはっきりと表現していました(あんなに顔に出したら九太夫に気づかれるのではないかしら…)。好みの問題ですが、私はやはり吉右衛門さんの演じ方の方がしっくりきました。仇討ちの覚悟を固めている以上、内心の動揺を表に出さないくらいのことはどんなに苦しくてもやってのける、そんな由良之助の方がカッコいいし、由良之助は自分だけでなく浪士数十名の命も預かっているわけですから、それぐらいの覚悟はあってほしいなぁ、と。


【十一段目 高家表門討入りの場・奥庭泉水の場・炭部屋本懐の場】

先月との一番の違いは泉水の立ち回り…でしょうか。
私、獅童は好きなのですけれども…・・、平八郎が全然武士に見えませんでした…。
また松也と獅童の息が合っておらず(これは今後良くなるのかも)、とても迫力不足な立ち合いに…。動きも美しくないし…。の割にやたらと声を上げて「迫力ありますよ!」アピールをしているので、客席から拍手は起きるのですが、例によって私は「皆さんこういうわかりやすい迫力が好きなのね…」となんだか醒めてしまった…。

その他、先月との違い。
・浅葱幕が落ちたとき力弥は既に裏門にまわっている設定なので、始めに舞台にいる人数が先月より少ない。
・師直が発見されて駆けつけるとき、吉右衛門さんは下手から、幸四郎さんは上手から。
・師直の首を斬った後、先月はそのまま鬨を上げて終わりだったけれど、今月は判官の位牌の前に首を置き、仇討ちが成ったことを報告。


以上、今月は玉さまのお軽が観られただけで、8000円も全く惜しくはなかったです!
もっかい幕見行きたい。

※東京新聞インタビュー:玉三郎、師走は「おかる」 華やか「道行」哀愁「遊女」を





ずっと以前、玉三郎さんにお会いしたとき、七段目のおかるを見ることは、日本人が四季折々を楽しむことと似てないかしら、と言った言葉が心に残っている。遊女になり切ったはずのおかるが、兄平右衛門に会った途端にあの草深い藁葺屋根に暮らしていたころの妹の顔になる。素朴な田舎娘に戻ったおかるが、後光が射すようだ、と兄に褒められて悦に入り、また廓の女の顔になる。一人の女がこの一幕でパラッパラッパラッと、四季の移ろいのような顔を見せるのが面白い、ということだった。


(関容子 『芸づくし忠臣蔵』より)




写真は、上野公園の黄昏時の銀杏と、飛行機雲。
ターナーは玉三郎さんもお好きな画家とのこと(エッセイ「風景画の前で」)。
一見何気ないけれど、よく見ると細部まで完璧な美、というところが玉三郎さんの舞台と重なるように思いました。
ところでこのエッセイ↑、41歳のときに書かれているんですね。。。なんというか、、、毎日ぼんやり生きてる自分をちょっと反省。。。


私たちはこの世に生まれ、現実を一身に浴び、天から吊りさがった一本のデカダンスという糸に引っ張られ、人生を送っているような気がします。

(5代目 坂東玉三郎)


※12月19日の感想(七段目、十一段目)

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