風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

芸術祭十月大歌舞伎 昼の部 @歌舞伎座 (10月10日) 

2013-10-20 03:16:22 | 歌舞伎




今月の舞台を観ながら、私は思いましたよ。
歌舞伎座には確実に神さまがおられますね。一人じゃなくていっぱい。
それはきっと、過去にこの舞台に立ってこられた人達ですよ。
その人達が、いま同じように身を削って舞台の上にいる役者さん達を、高いところから見守ってくださっているのだと思います。

というわけで、鑑賞から10日もたってしまいましたが、昼の部の感想でございます。


【鳥居前】
うわ、菊之助の義経…!

美しい。。。。。。。。

眩しすぎて目に毒だわ。。
若々しくスッキリとした気品と、明るさと、優しげな情もあって、こんな義経ならそりゃあ静も付いていっちゃうよねぇ~と納得させられる麗しい義経様。

今回は前から6列目の席で菊ちゃんと目が合いまくりだったのですが(わかってますよ、錯覚ですよ)、シッカリ見つめ返してこの眼福な眺めを堪能させていただきました。
この「私のために演じてくれてるのね!」な贅沢感を味わわせてもらうための1万8千円ではなかろうかと、本気で思う今日この頃。滅多に買えませんけど。
でもこの勘違い席は、お目当ての役者さんが他にいる場合には、かえって観にくいのですよね。5月の花子のときはやっぱり菊ちゃんと目が合いまくりでしたが、そんな菊ちゃんの視線をガン無視で玉さまばかりを目で追っていたため、それは心苦しかったものです(はいはい、わかってますよ、全部錯覚です)。
他に今までにこの勘違い魔法をかけてくれた役者さんは、梅玉さん、菊五郎さん、時蔵さんなど。ひじょ~に残念なことに、仁左さまはこの魔法をなかなかかけてはくれませぬ。。玉さまや吉右衛門さんもないなぁ。視線はこっちを向いているのに私のことは見ていない、みたいな。。ああ、切ない片思い。。

以上、ひたすら菊ちゃんの美しさに目を奪われた『鳥居前』でございました。
…って、まったく参考にならない感想ですみませぬ。。
松緑の忠信も、亀三郎の弁慶も、梅枝の静もよかったのですけれど、私には菊ちゃんの存在感が圧倒的すぎたのでございます。。。


【渡海屋/大物浦】
これはもう、吉右衛門さんの知盛に尽きる。。。
すごく良かった。本当に良かった。正直、今までに観た吉右衛門さんのお芝居の中で一番感動したかもしれない。
渡海屋の男ぶりといったら
その芸の余裕!
今月仁左衛門さんからも、菊五郎さんからも強く感じたことですが、なんでしょう、この芸の余裕から滲み出る艶は。
もちろんご体調を考えれば余裕なわけはないのですが、そんなことは微塵も感じさせず、といって余分な力みも一切なく。気負いなく演じられる役の魅力と、役者自身の魅力が、最高の配分で混ざり合った結晶を目の前で見られる歓びといったら!
歌舞伎の芸ってこういうものをいうのだなぁ、歌舞伎の感動ってこういうところにあるのだなぁ、とあらためて感じさせてもらえました。

相模五郎(又五郎さん)と入江丹蔵(錦之助さん)を追い返す場面では、その台詞まわしと一挙手一投足に聞き惚れました、見惚れました。いい男だぁ。。
そして海戦に出る前に典侍の局(芝雀さん)に言う挨拶がまた、見惚れます、聞き惚れます。
「沖の提灯松明が一度に消えたら我が討死の合図と心得、お覚悟を」と最悪の事態について説きつつ、戦に臨む緊張感の中に、待ち望んだ一門の無念を晴らす機会をついに得た歓びが溢れていて。
うまいなぁ。
こんな演技、この人以外には出来ないのではないかしら(いや、仁左さまにも出来る気がする。観てみたい)。
吉右衛門さんをこんなに美しいと感じたのは初めてだわ。衣装も美しいけれど、それを着ている吉右衛門さんはもっと美しい。

芝雀さんがまた、泣かせるのですよ。
『渡海屋』でのお柳→典侍の局への変化もそれは見事で、『大物浦』で安徳帝が「いまぞ知る」の句を詠む場面では、生まれたときから乳母として帝の側にい続けてきた女性の心情が溢れ出て……。常に気高く凛としている女性なだけに、こういう場面には一層泣かせられる……。女方さんってすごいなぁ…。
この安徳帝の子役も、首や手のゆったりとした傾け具合や話し方が子供ながらに帝で、感動を倍増させてくれました。

そして血まみれになって花道を戻ってくる知盛。
輝かんばかりに出立した数刻前との差が……切ない……。
けれどいま帝は義経の手に渡り、帝から「我を供奉し長々の介抱はそちが情」の言葉を承って、典侍の局も命を絶ち……。
知盛の目から闇がすぅと消えてゆく様は、すこし『俊寛』のラストを思い出しました。
そして――。
「昨日の仇は今日の味方。嬉しやなぁ…、心地よやなぁ…」
っこの表情…!!
吉右衛門さん…(><)!!!

梅玉さんの義経がまた、こんなに大きな知盛を受け入れる透明な優しさがあって、素晴らしいのよ…(号泣)
知盛にあの台詞を言わせるには、この義経でないと!
海に身を投げる知盛を下手から見守る表情も、すごく良かった。
そして義経もまた、兄頼朝に追われている身なのよね…。

安徳帝を連れて義経が去った後、一人残った弁慶が吹く法螺貝は、海に沈んだ知盛と、そして数多の平家の人々への、鎮魂の意味が込められているのだと思います。
ここの歌六さん、雰囲気があってよかったなぁ。
歌六さんのブログによりますと、この法螺貝は下座に任せてしまうのが通常で、実際に自分で吹く役者は珍しいのだとか。
ここは役者さん自らが吹かないと興醒めでしょう!
台詞と同じかそれ以上の意味をもつ、とっても大事な音なのですから。
毎日楽屋で練習されているという歌六さん、アッパレです。
将来この役を演じる可能性のある若手さん達も、今のうちから練習しておいてほしい。
ところで、「ぽわぁ~♪」っていう綺麗な音が出る前の「しゅ…ふしゅぅ~…」という空気が抜ける音、これって法螺貝では多かれ少なかれ出てしまう音なのですね。たまたまこの数日後に別の場所で法螺貝を聴く機会があったのですが、やはりこの音が出ていたので、あれは別に歌六さんの失敗というわけではなかったのだな…と確認できました^^;


【道行初音旅】
そんなこんなで前幕の感動がなかなか去らず、あっという間の20分間の休憩が終わり、『道行初音旅』。
ネットでほとんど良い評判を聞かなかったこともあり、まぁ気楽に楽しもう~♪と観始めたのですが。

まずは板付の静御前。
藤十郎さんがとても若々しい可愛らしさで、おどろきました。
なんともいえない華やかでふんわりした春らしい空気が漂っていて、とってもいい感じ

そして鼓を打つと、スッポンから菊五郎さんの狐忠信がせり上がってきますよ。

………

ちょ…・・・

…か…・・

かっこいい…!!!

これはなにごと!?
四の切のあの超キュートなキチュネとはまるで別人な、男ぶり炸裂な狐が目の前に!
き、菊五郎さんに初めてそういう意味でドキドキした。。
いや待て。
こんな男ぶりを私は前にも見たことがあるぞ。いつだったか…・・
そう、あのyoutubeで観た若き日の菊五郎さんだ!
はじめて今の菊五郎さんとこの↑菊五郎さんが同一人物だと実感いたしました。

71歳で、仁左さまのようなほっそり体形でもないのに、ノックアウトさせられるこの色気。。。
すごすぎる、菊五郎さん。。。
以前は「女遊びは芸の肥やし」なんていう言葉は役者の都合のいい言い訳にしか聞こえなかったけれど、この菊五郎さんを見たら、やっぱり歌舞伎役者は遊んでなんぼなのかもしれん・・・と本気で思ってしまった。

インタビュー「主従関係は忘れちゃいけませんが、道行の題名が付いていますし、前の(『渡海屋』『大物浦』の場の)重い空気を変えるのがこの場ですから、お客さまをウキウキした気分にさせることが大事」と仰っているとおり、舞台上の菊五郎さんのおおらかで楽しそうなこと。
その表情を見ているだけで、ウキウキ気分でいっぱいになれました

また菊五郎さんの狐忠信が、藤十郎さんの静ととっても合っているのです。
過去の上演記録を見ると時蔵さんや菊之助の静ともこの道行を踊っているようですが、それでは「あっさり属性×あっさり属性」になってしまうではないの。
この「あっさり属性×こってり属性」のカップルが生み出す独特の空気感が、たまらないのに。
忠信と静が恋人のように踊る場面はドキドキする色っぽさと華やかさで、「ご両人!」という掛け声が本当にピッタリだった。
それに菊五郎さんの人を食ったような雰囲気は(褒め言葉です)、後輩や息子の静と組むよりも、年上の先輩の静と組む方がその魅力がより引き立つように思うのです。
…しかしよく考えてみると『喜撰』の時蔵さんはすんごく大人な色気があったので、もしああいう雰囲気なら、菊五郎さん&時蔵さんはか~な~り観たいかもしれない…!18禁っぽいけど…!

鼓を両手に抱えて後ろの静に取られまいとするような振りのところも、愛嬌があって可愛らしかった*^^*

團蔵さんの藤太。
こういう役もお上手ですねぇ。
舞台の奥の菊五郎さんも楽しそうに見てた、笑。

最後の花道の引っ込みの狐六法も雰囲気たっぷりで、『渡海屋/大捕物』と全く種類は違うけれど、同じくらい大きな感動をもらえた『道行初音旅』でした。
こんな粋な軽みと芸の深みに溢れた道行を、今度はいつ観られるのだろうか。


※10月25日千穐楽昼の部の感想

※歌舞伎美人インタビュー:中村梅玉

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