風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

『御存鈴ヶ森』 @歌舞伎座(4月21日)

2019-04-22 23:50:30 | 歌舞伎




菊五郎さんと吉右衛門さんによる『鈴ヶ森』。
ああ、見逃さないでよかった  
悪くはないだろうとは思っていたけれど、正直これほど素晴らしいとは思っていなかった(ゴメンナサイ)。
この演目を観るのは、杮落しでの梅玉さん&白鸚さん以来。
今回の『鈴ヶ森』はなんていうか「人と人との運命の出会い」とはこういうことか、という重厚なドラマが感じられて、でも決してリアルすぎるわけではなく、歌舞伎の美しさと楽しさと華やかさとおおらかさがしっかりあって、でも闇と凄みもちゃんとあって。
いやあ本当に、観にいってよかったなあ。。。。。。。
そしてこういう鈴ヶ森を次に観られるのはいつになるのだろう、次に観られる日はくるのだろうか、とやっぱり思ってしまうのでありました。。

吉右衛門さんの長兵衛、かっこよかった あの大物感!権八を籠の中から眺めているときのあの余裕っぷり!はあ、かこいい。。。こういうお役の吉右衛門さんがほんとうに好き。江戸っ子!鬼平!…って以前吉右衛門さんの幡随長兵衛を観たときの記事を読み返したら全く同じことを書いていた。鬼平!って笑。
「悪を倒すだけでなく、悪の中に善を見出し、弱い者を同じ人間と見て助ける。そんな鬼平みたいに生きられたらいいなと、憧れます」
インタビューより)

これに惚れない人いる
対する菊五郎さんも、存在感はしっかりあるのに貫録を消しているのが素晴らしかったなあ。「白井・・・」の文に気まずげな権八と、その文を提灯の火で燃やす(本火)長兵衛。ここのお二人の空気。。。。。ああ。。。。。
お二人とも身体的な衰えは避けられないけれど、それがお芝居の質と決してイコールにならないのが歌舞伎の良さだよねえ。
最後にぱッと照明がついたときの華やかさ、上手へゆったりと歩いてゆくお二人のスッキリさ、大きさ。
歌舞伎って素晴らしいなあ。

又五郎さん(飛脚早助)、こういうお役が本当にお上手。「〇に井!〇に井!」。左團次さん(東海の勘蔵)、楽善さん(北海の熊六)と並んで、今回は脇も厚い!

ところで私の祖父母は白タクや柄の悪そうなタクシーの運ちゃんのことを普通に「雲助」と呼んだりしていて(祖父は大正、祖母は昭和一桁生まれ。今では完全に差別用語なのでしょうね)、他にも歌舞伎に出てくる今は使われない言葉を普通に使ったりしています。思うに江戸時代から昭和初期(戦前)あたりまでは明治維新だなんだと大きな時代の転換はあっても、庶民の日常はさほど大きくは変わっていないのではなかろうか、と。そして私の世代はまだ祖父母からの影響でそういう言葉や習慣にぎりぎり親しんでいるけれど、これからの令和世代は日常の延長線上としてではなく完全に別個の時代劇やファンタジーを観るように歌舞伎を観るようになっていくのかもしれないなあと思ったりするのでした。
と、平成最後ぽくまとめてみた笑


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『実盛物語』 @歌舞伎座(4月13日)

2019-04-17 23:11:54 | 歌舞伎




仁左衛門さんが初めて実盛を演じたのは1972年、26歳の時だった。それは子供の頃からせりふをよく真似していたという憧れの役。「先輩方の素敵な舞台を拝見すると、パァーっと華やかになさっているんです」。実盛は思慮分別に富み、情理をわきまえた人物。時代物に登場する典型的な“爽やかで格好いい侍”の役どころだ。その華やかさを舞台に現出させるには技術が必要で、それを習得するには年月がかかる。「初役のときは、がむしゃらにやっていたら最後まで声がもちませんでした」と笑い、「せりふというのは言葉ではなく、心を伝えなければなりません。それをお客様の耳にスーッと馴染んでいくように届けなければならないのです」と、実盛という人物を演じる難しさを語る。・・・
実盛という人物の潔い生き様や作品の魅力について改めて訊ねると、意外なことに「あまり深く考えたことはない」という答え。「そうしたことにこだわってばかりいると、芝居がこせこせしてしまいます。芝居や役によってその度合いは異なりますけれども、このお役は掘り下げすぎるのはよくないですね」・・・「演目によっては深く掘り下げなければいけませんが、こういう演目は、ご覧になる方にもドラマや理屈ばかりを追い求めるのでなく、歌舞伎独特の雰囲気というものを味わっていただきたいですね。歌舞伎には役者の華で魅せる芝居というものもあるのです」。

(片岡仁左衛門 The New York Times Style Magazine: Japan, APRIL 28, 2019)

この演目は以前菊五郎さんで観たことがあるけれど、例によって演じる人が違うと印象も違うものですね。
菊五郎さんの実盛は立派で堂々とした印象だったけれど、仁左衛門さんは華やかで軽やか(ちょっと上方ちっくだったけど笑) 中盤の白旗を持った見得など美しくて惚れ惚れしてしまった。
実盛物語って私的には少々タイクツな部類の演目なのだけど(ファンタジー入ってるところなどは好きですが)、ニヤニヤできる演目でもあり。この日は妙にドスのきいた8〇3さんですか・・?な大向こうさんが、ラストの花道の七三で「待ってました!」「たっぷりと!」。ほぉ、やはりここはニヤニヤポイントということでOKなのかとニヤニヤ観ていたら、なかなか歩き出さないお馬さんのたてがみをそっと撫でるニザさまの美しすぎる仕草というまさかの不意打ち・・・ ニヤニヤどころじゃないですよ。はあ。。。本当に華やかな役者であるなあニザさまは。。。”役者の華で魅せる芝居”と自ら仰るだけある”花の人”ニザさま(そういうタイトルの本があるんですよ~ニザさまファン必読!)。おさすがでございます。

太郎吉は、先月に続いて仁左衛門さんと共演の眞秀くん。
「かかさまの敵!」場面は「実盛が悪い人じゃないことくらい見ててわからんかね?」とツッコミたくなる場面なのだけれど、今回はそうならず。眞秀くんって落ち着いてるのに無邪気というか嫌味がないというか、とても楽しそうに舞台にいるのよね。この腹の据わり方はさすがはしのぶさんの息子さん。

九郎助の松之助さんもとてもよかったのだけれど、途中で台詞がとんで幕見席まで聞こえるプロンプが。こんなにガッツリなプロンプはニザさまが四谷怪談をやった竹三郎さんの会以来だなあと思っていたら、あのときも松之助さんだったのだった

今回、井戸の底に向かって小万の魂を呼ぶ場面がなかった気がするのですけど(小万の遺体に直接呼びかけてただけだったような)、気のせいかな。私の意識がとんでた・・?

次回のニザさまは6月の忠兵衛
の前に5月の和史くんの初舞台のジブリの祝幕にもちょっと惹かれる。12月のナウシカ歌舞伎はすんごい楽しみ(菊ちゃんがんば!) って今気づきましたがナウシカは歌舞伎座じゃなくて新橋演舞場なのか。

平成最後の歌舞伎は昼の部の『鈴ヶ森』を観たいのだけれど、観られるかな。爽やかなニザさまで平成最後でもそれはそれでよいのだけれど。





歌舞伎美人より。ああ、とても素敵だ

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『盛綱陣屋』 @歌舞伎座(3月23日)

2019-04-03 00:21:34 | 歌舞伎




楽直前に、『盛綱陣屋』を幕見してきました。

仁左衛門さんの盛綱を拝見するのは、杮落し以来6年ぶり。
ニザさまの盛綱が素晴らしいのは重々承知していたけれど、あらためて素晴らしすぎて、もはや神々しすぎて、まともな感想を書けないです。。。。。。。。私ごときが安易に言葉にしてはいけないレベル。。。。。。。。。。
仁左衛門さんが盛綱にしか見えなかった。いま目の前で物語が起きているようにしか感じられなかった。
そして前回観たとき(2013年4月)の記事を読み返したら、同じことを書いていた笑。
あらためて、盛綱は仁左衛門さんの”ニン”であるのだなあ、と心の底から感じたのでした。
最初から最後までぜんぶ素晴らしくてどこがいいとか言えないけれど、やっぱり終盤の小四郎(勘太郎)との絡みは泣いたなあ。。。ていうかニザさまも泣いてたよね。。。
これ前回も泣いたところだけど、仁左衛門さんははっきりと小四郎に向けて「高綱の首に相違ない」って言ってあげるんだよね
そしてそれは当然自分の命を引き換えにした言葉なわけで(だから後で切腹しようとする)。でも盛綱は時政を裏切ることに対して逡巡はしても、自分の命のことなど一切考えていない。今回の舞台で強く感じたのは、そんな常に当たり前に命をかけて生きている人間の高潔さ、清廉さ、そして人間的な優しさ。そういったものが仁左衛門さんの盛綱からあまりに自然に感じられて、仁左衛門さんが盛綱そのものにしか見えなくて、それゆえ神々しくさえ感じられてしまったのでありました。
歌舞伎役者ってすごい。。。。。。。。。。。
そしてとても自然に、仁左衛門さんも命をかけているのだな、と感じた。

脇も皆さん素晴らしかった。
秀太郎さんの微妙。盛綱&高綱の母親である厳しさと、孫への情と、その加減がとてもとても素晴らしかった。松嶋屋兄弟はやっぱり最高だ。
雀右衛門さんの篝火も、子への愛情が強く感じられてよかったなあ。
孝太郎さんの早瀬、左團次さんの秀盛、歌六さんの時政、錦之助さんの信楽太郎、猿弥さんの伊吹藤太、皆さん安定感抜群の素晴らしさ。
そして子役二人!
小四郎の勘太郎くん。ひさしぶりに見たら勘三郎さんに似ていて、勘九郎に似てるというのが本来なのだろうけれど、仁左衛門さんとの場面ではやっぱり勘三郎さんを思い出してしまって、ただでさえ涙涙の場面なのに、二重の意味で込み上げてくるものが・・・・・。という裏事情を別にしても、その演技だけで泣いた。お見事!
小三郎の眞秀くん。こちらも盛綱の子らしい品の良さと、華やかさと、落ち着きが感じられてよかった。この子達の将来が楽しみ

私の隣は一人で観に来ていた外国人×2だったのですが、字幕ガイドを読みながらすごく真剣に観てくれていて、最後は大拍手をしていました
いいお芝居は国境を超えるよね。
日本人の若い女の子たちは興奮したように「世の中にこんなに感動するものがあったとは」と話していました。
いいお芝居は世代を超えるよね。

そして先程知ったのですが、6月はニザさまの封印切!!!ずーーーーーっと観てみたいと思っていたニザさまの忠兵衛!!!
嬉しい!!!!
と思うと同時に、友人にも観せてあげたかったな、と強く思ってしまいます。
なにより今回の盛綱を観せてあげたかった。仁左衛門さんの盛綱は私が知る限りで、友人が一番感動していたお芝居でした。杮落しの舞台も何度も観に行っていた。千穐楽の日は花横の最高の席をとっていて、ちょうどその日は盛綱の後に上演された幸四郎さんの弁慶が1100回を数えた日だったので引っ込みの場面では友人もテレビに映っていて。楽しかったなあ。。
それでも、友人の一周忌を迎えた3月に友人が大好きだった仁左衛門さんが盛綱を6年ぶりに演じてくださって、嬉しかったです。
仁左衛門さん、ありがとう。


※4/9追記
「登場人物それぞれには立場というものがあり、そのうえで互いに思い合っています。ですからお客様には“仁左衛門の芝居”ではなく、“そこにいる登場人物”をご覧いただきたいというのが私の願いです。そして、物語を現場で目撃しているような気持ちになってくださったらうれしいですね」
(片岡仁左衛門 The New York Times Style Magazine: Japan, MARCH 12, 2019)

ニザさま~~~~~!現場で目撃しているような気持ちにガッツリなりましたよ~~~~~!!

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