風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

吉例顔見世大歌舞伎 夜の部 @歌舞伎座(11月10、21日)

2013-12-01 18:03:37 | 歌舞伎




今年は正月休みが長いせいか年の瀬の行事(忘年会)も例年より早く、何かと慌ただしくしていたら気付けば師走。
十二月の初日も始まってしまいましたが、遅ればせながら11月夜の部の感想を。

※10日(3階10列上手)、21日(幕見)


【五段目 山崎街道鉄砲渡しの場・二つ玉の場/六段目 与市兵衛内勘平腹切の場】
雷と風雨の轟きを表す大太鼓の幕開きがカッコいい
これから何が起こるんだろう…とワクワクいたしました。

松緑の定九郎。
『四谷怪談』の直助が凄みの点でイマヒトツだったので、こういう屈折した役は合わないのかなと思っていたのですが、いやいや、とてもよかったです。
ひとつひとつの動きが美しく、ゾクっとする不気味な凄みを醸し出していました。
人けのない雨の夜に絶対に遭遇したくないタイプの人間。「どうか命だけは!」という懇願なんかまったく通じなそう。

菊五郎さんの勘平。
じわじわとくる切なさがたまらなかった。。。基本はいつものあっさり演技なだけに、余計キた。。。泣
昼の部の最後が『道行』で、夜の部の最初が庶民の家が舞台となっている所は先月と全く同じ構成で、六段目の後半など絵面は『すし屋』と瓜二つなわけですが、決定的に違うのは勘平が「武士」であること。権太と勘平。その二人が守ろうとしたものの違いを思ったとき、涙腺崩壊でございました。
勘平が守ろうとしたもの。それは愛する女房のお軽ではなく、主への忠義。武士であることの誇り。
色恋に耽って主の一大事に側におらず、猪と間違えて人を撃って後で義父だったとわかり(しかもこれも勘違い)大後悔するなど、そんなどうしようもなく軽率で情けなくて人間臭い勘平だけど、それでもやっぱり彼は「武士」なのですよね。それは意地でもなんでもなく、そうでなくなったら彼は生きてはいけないのだと思います。武士とはそういう生き物なのでしょう。
着替えた紋服の袖の紋を見る勘平の眼差し。菊五郎さんの勘平は、自身が武士であることに強い誇りと喜びを持っていることがはっきりわかります。

勘平の望みはただ一つ。主への不忠を許され、連判に加えてもらうこと。
彼はきっと、そのことだけを支えに今日まで生きてきたのだと思います。
しかし由良之助は彼の不忠を許すことなく、金を返した。
この時点で、勘平の生きている理由は失われたのです。
彼は義父を殺してしまったから切腹したわけではないでしょう。討入りに加わる最後の望みが絶たれたから切腹したのだと思います。
ですから、もしこの五~六段目の件がなかったとしても、勘平はやはり遅かれ早かれ自ら死を選んでいたろうと思います。別の形で由良之助から討入りへの参加を拒否された時点で。あるいは昔の仲間たちが討入りをし、その後切腹したことを知った時点で。
連判に加わることが許され死んでゆく最後の勘平の、静かな、満ち足りた表情。それは猟師のそれではなく、まぎれもなく武士の顔でした。

ところで。
菊五郎さん&時蔵さんって、ベストカップルでございますねぇ←いつもながら、いきなり不純ですみませぬ。
あっさり属性with妙な色気×2。
勘平とおかるの最後の別れの抱擁、すごく色っぽくてよかった。。。軽く18禁だった。。。
時蔵さんって、意外と相手を選ばない女方さんですね。
昼の部の梅玉さんともいい感じでしたし、三津五郎さんともベストカップルでしたし、映像でしか観たことないですが仁左さまともお似合いでしたし。梅枝にしても、父子揃ってエブリバディカモーンな女方なのですね(褒めてます)。
時蔵さんのお軽、『道行』に続き、勘平への愛情が強く伝わってきて切なかった。ほんとこのお軽は一途で健気だなぁ。。。
六段目を観ながら『道行』の頃のまだ明るく楽しかった二人の姿が思い出されて、切なさ倍増でございました。。。

この段は、他の配役も皆さんとてもよかったです。
魁春さんのお才。廓の女のしなやかで強かな空気が素敵でした。
又五郎さんの弥五郎。勘平への同情の気持ちが滲み出ていて、温かかった。しかしこの二人侍は、四段目の上使二人と記憶がごっちゃになって困る…。立ち位置も同じで、両方左團次さん出とるし…。
東蔵さんのおかや。まるで勘平の母親のような温かさで、勘平を責めるときも悪意ではなく「なぜ…」という大きな悲しみが伝わってきて、哀れだった。この話で一番気の毒なのは、このおかやだと思います。。
團蔵さんの源六。「冗談言っちゃいけねぇや」。重たい空気を一言で変えてしまう飄々さ、お見事でございました笑!


【七段目 祇園一力茶屋の場】
吉右衛門さん
四段目に続き、なにこれなにこれなにこれ!!!
由良さまぁ~~~~~~~~(><)!!!!!

もっとも、10日夜の吉右衛門さんはとてもお疲れのご様子で、いささか精彩を欠いた由良様でございました。しかし21日は絶好調で、10日とはまるで別人のように生き生きした由良様@七段目だったのでございます。これこそ吉右衛門さんの本領!
なので以下は21日の感想。

一力茶屋で遊ぶ吉右衛門さん、なんていい男なのでしょう。。。
吉右衛門さんの色気って、ニザさまや菊五郎さんとはまた違うタイプの色気で、たまらない。。。
お酒に酔って畳の上にしどけなく横になる二代目。なんて絵になるのかしら。。。祇園の茶屋の夜の空気そのもの。。。
そこに平右衛門がオレンジ色のお布団なんてかけてあげちゃうものだから、もう可愛さ倍増ですよ!
吉右衛門さんって『土蜘』でもそうでしたが、こういう可愛らしい色合いがほんにお似合いです。
酔って寝ている振りして願書を扇子ですっと落とすところも、可愛くて可愛くて。。。
平右衛門の東下りを認めようとしないのは、心底を見極めようとしているだけでなく、小身者なのだから主のためにその命を落とす必要はない、できるだけ多くの血は流したくない、という由良之助の優しさもあったのではないかなと感じました。
お軽が身請け話を素直に喜んでいる姿に、そっと苦しげな表情を見せるところも、とても心の温かい人なのだな、と伝わってくる。
大きくて、優しくて、頼りになって、そして男の色気もある由良様。。。結婚したい。。。
また、この由良之助があの四段目の夜に一人涙を流し判官の血を飲んだ由良之助なのだと思うと、今遊興に耽っている彼の心の奥にあるものに、胸が締め付けられる思いがいたしました。。。

梅玉さんの平右衛門。
こんなお兄ちゃんが欲しいなぁ、というような優しいお兄ちゃんでした(妹殺そうとしますけど)。
平右衛門の役っていいですね。優しいだけじゃなくて、どこかカッコいいし。妹相手でも、二人のやりとりに思わずときめいてしまった。ここの脚本、絶対に狙ってますよね。
東下りに加えてもらえることになったときの梅玉さんの喜び様、よかったなぁ!このときの客席からの拍手、はっきりと「よかったねぇ平右衛門^^!」という気持ちの拍手だったもの。
ですが同時に、これほど嬉しそうな平右衛門の姿にすこし切なくなってしまいました。。
だって、いつか死ぬために喜んでいるようなものじゃないですか。
五~六段目に続いて、武士というものの哀れさを感じないではいられませんでした(平右衛門は足軽ですが気持ちは武士、ですよね)。

福助さんのお軽(10日)。
明らかにご体調が悪そうでしたので色々書くのは憚られますが…、一言で言うと、完全に”遊女”なお軽でした。それはそれでよいのだけれど、気になったのは纏う雰囲気がふてぶてしく見えてしまったといいますか(具合が悪く頑張られていたからかもですが)、五~六段目の健気なお軽と結びつかず。。。
この日は吉右衛門さんも本調子じゃなかったので、いつかお二人のご体調が万全のときにぜひもう一度この組み合わせを観てみたいです。
福助さん、襲名もありますし、どうぞお大事になさってください。。。

芝雀さんのお軽(21日)。
こちらは、吉右衛門さんが本調子だったせいもあるのか、安心して見ていることができました。
梯子を下りるのを怖がっているところも、可愛らしかった。筋書写真の吉右衛門さんのお顔の上機嫌なこと!
梅玉さんとも相性よく、本当の兄妹のようでした。
意外でしたが、芝雀さんってこういう廓の色っぽさも出せるんですね。下品ではない遊女の気だるさが出ていて、雰囲気ありました。

しかし再び由良様が登場すると、目は由良様に釘付け。
前半の紫のお召物も、後半の鶯のお召物も、両方ともお似合いで素敵です!
立派だなぁ。艶やかだなぁ。鮮やかだなぁ。
九太夫に詰め寄る台詞まわしの素晴らしいこと…。もう聞き惚れて、見惚れて……。。
そして最後の「水雑炊」。すごい!!
吉右衛門さんというたった一人の役者が見せる舞台の大きさ、華やかさ。
一階席から四階席まで、劇場中の空気を一人で支配してしまう役者のオーラ。
これぞ歌舞伎!!!
最高です!!!!

あと七段目は鷹之資君の力弥に大拍手でした。
歌舞伎のお客さんは温かくていいなぁ。
みんな応援してるんですね^^

そうそう、21日の見立ては「お父さん達の癒し 壇蜜」(二重舞台の階段のぼって、一段、二段、だんみっつ)で、吉右衛門さん、本気で大ウケしてて、次の台詞が言えなくなっちゃうんじゃないかと心配になったほど。笑顔全開で大喜び、笑。


【十一段目 高家表門討入りの場・奥庭泉水の場・炭部屋本懐の場】
まぁ朝11時から夜9時まで客を拘束する以上(強制はしてないけれども)、この討入り場面を見せないわけにはいかないのでしょうね^^;
正直、それまでの段の中身の濃さに比べるとオマケという感は否めませんが、そうはいっても一日通しで見てくるとやっぱり最後はこれで〆めたい気持ちも確かにございます。The忠臣蔵な場面ですものね。
明かりを落として、浅葱幕が落ちると舞台上に四十六人(より少なかったけど)が勢揃い。
さすがにこの光景は圧巻で、テンション上がります。
吉右衛門さんは体格が立派なので、こういうときも舞台映えしますねぇ*^^*
景気よく降る雪の演出もとても綺麗。
歌昇の喜多八&錦之助さんの平八郎の泉水の立ち回りが、切れも速さも迫力もあり、見た目も美しく、とても見応えがありました。カッコよかった!
ただ仕方がないのかもしれませんが、一日通しで観てきた客としては、師直はやっぱり左團次さんで観たいところ。無理な話なのはわかっておりますけども。。。
結局なんのかんの言いつつも、20分間、思いきり『忠臣蔵』な雰囲気を楽しませていただきました♪
やっぱり十一段目はあった方がいいですね。


以上、もう今回の『仮名手本』は四段目と七段目の吉右衛門さんの由良之助で、大大大満足!!!でございます。
先月の知盛とともに、ずっと心に残る舞台になると思う。
ですが先月に続いてこれだけのものを見させられると、なんだか不安にもなってしまいます。。
2月は絶対にお休みされて、初孫の和史ちゃんとご自宅でゆっくり過ごされてください!
瓔子さん、実家に赤ちゃんと一緒に帰ってあげてね。。。
でもその前に、1月の九段目、楽しみにしております♪


※昼の部の感想

※東京新聞インタビュー:中村時蔵
※東京新聞<評>:「菊吉」に平成の精華

※東京新聞インタビュー:吉右衛門、初の全段「大星」 古典ロケット打ち上げたい
「全段通す夢が叶った」という吉右衛門さん。仁左衛門さんのご休演はご休演として、今年一年頑張った吉右衛門さんへの歌舞伎の神様からのご褒美かもしれませんね。

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