鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1256~塩狩峠

2016-09-28 12:29:36 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、塩狩峠です。

三浦綾子の「塩狩峠」が発表から今年で50年と知り、読むことにしました。
著者は「氷点」「泥流地帯」など有名作品が多い北海道出身の作家ですが、読んだことがありませんでした。
前から何かの機会に一冊くらいは読もうと思っていましたので、良い機会でした。

AMAZONの内容紹介を引用します。
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結納のため、札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車は、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れて暴走し始めた。
声もなく恐怖に怯える乗客。
信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた……。
明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らを犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、生きることの意味を問う長編小説。
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青年がその身を犠牲にして列車の乗客たちを救ったという実話を元にした小説。
とても興味がありましたが、「主人公がキリスト教を信仰していた」という但し書きを読むと、どうも宗教色が強そうで敬遠したい気もしました。
ただ50周年、北海道出身作家というキーワードを考えると、今回を逃せばもう読む機会は無いかもしれないと思い、何とか読み始めました。

実際に読んでみると、さすがに実力作家のロングセラー小説。
面白い。
読みやすい。
登場人物たちの心情がよく理解できる。

気が付けば、毎日、時間の許す限りページをめくっていました。
残念だったのは古い版の文庫本だったために活字が小さくて、オッサンの目には少々こたえたこと。
やっぱりオッサンは最新の大きな活字の本を買わなくちゃダメ、と後悔しました。

さて本書の感想などを少々。

文明開化により日本文化が軽視され西洋文化が持てはやされた時代にあっても、キリスト教はヤソ教と呼ばれ、白い目で見られていたのですね。
人々の心ってそんなに急には変わらないということでしょう。
そんな逆風の時代にキリスト教を信仰した人々は強い信念を持っており、後世の人々にとって見習うべき人々でした。
本書に登場するキリスト教徒たちの真っ直ぐな信仰心は神々しいほどです。
信仰の有無にかかわらず、信じるに値する素敵な人々でした。

また当時は結核で多くの人が命を落とす時代でもあったことを改めて実感しました。
今でこそ抗生物質で完治できる病ですが、当時は死病。
患者のことを話すことさえタブーとされた様子が描かれています。
そんな中、栄養のある食べ物をよく噛んで食べて養生をすること、という名医のアドバイスを守り、主人公のフィアンセは健康を取り戻します。
これは結核からカリエスまで発症した患者としては奇跡的なことだったでしょう。
愛の力が起こした奇跡、というキリスト教の教えにつながる感動的な出来事を描きたかったのでしょう。

明治末年の札幌が詳しく描かれていたことも興味深かったです。
当時の札幌には医師が30人しかいなかったと書かれていて驚きました。
その後に人口は4万人、と書いてあり、それなら仕方がないと納得。
190万都市も110年前はそんなに小さな町だったのですね。

本書は、いろいろな人々との関係に悩む青年の葛藤を描いていました。
キリスト教徒でなくても、ひとりの人間として得るものが多い素敵な作品でした。
発表から半世紀を迎えて再び脚光を浴びる作品というのは、やっぱり名作ですね。
思い切って読んで本当に良かったです。




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