鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1266~串田孫一の緑の色鉛筆

2016-10-21 12:20:18 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「緑の色鉛筆」です。

昨年から始まった平凡社のSTANDARD BOOKSシリーズ。
その中の一冊、中谷宇吉郎の「雪を作る話」を以前、読みました。
世界で初めて人工雪を作ったことで有名な中谷宇吉郎のエッセイ集。
寺田寅彦の弟子であることから、文学的な科学エッセイは読みごたえがありました。

今回読んだ串田孫一の「緑の色鉛筆」。
本来、串田孫一を知る世代ではありませんが、「博物誌」シリーズで偶然出会い、ファンになりました。
最近読んでいませんでしたが、STANDARD BOOKSシリーズの中で見かけ、読むことにしました。

40代から80代という長ーい期間に書かれたエッセイがいろいろ収められていました。
面白かったものをいくつかご紹介します。

しゃっくりとためいきについて考察したエッセイには、しゃっくりを我慢したために命を落とした青年の話が出てきました。
お得意様との食事に緊張した青年がしゃっくりを止めるために息を止め、それが過ぎて気を失い、そのまま絶命したという嘘のような本当の話。
たかがしゃっくりと侮ってはいけません。
ちなみに先日、医者が書いたしゃっくりの止め方を読んだのでご紹介します。
舌を引っ張る、両耳に指を入れ強く押す、という2つの方法は呼吸に関わる神経を刺激するのでしゃっくりを止める効果があるそうです。
お試しあれ。

次に、アリジゴクの巣についてのエッセイには感心させられました。
小学校二年生の女の子が、夏休みの自由研究?で、アリジゴクの巣の形の違いについて考察したことが書かれていました。
直径が大きくて浅かったり、直径が小さくて深かったり、その違いはどこからくるのか?
少女は巣の砂で山を作ってみたそうです。
そうすると直径が大きくて低い山、直径が小さくて高い山、という違いがあることを発見しました。
巣の形の違いは砂の質の違い(湿り気、粒の大きさ、素材など)によるものだったのです。
誰にもわかりやすい実験を思いついた少女の聡明さに感心させられました。

もうひとつ、嘗めるという言葉には、試みるという意味があるという話。
人類が多岐にわたる食材を食べるようになったのは、恐る恐る嘗めるという行動を繰り返してきた結果であろう。
ここから「嘗める=試みる」という図式が成立したのだろう。
というようなことが書かれており、ナルホドと感心させられました。
ちなみにgoogle検索で「嘗める、試みる」をキーワード検索すると、上位で英語・ドイツ語・ロシア語でも同じ単語で両方の意味があると出てきました。
もしかすると世界共通かもしれません。

最後は雀の話。
ある年の初夏、薪ストーブの煙突を通って雀が落下してきました。
ストーブのふたを開け、救い出した雀はススで全身真っ黒。
つぶらな瞳だけが輝いていました。
水浴びをさせ、ごはん粒を与え、空に帰しました。
それから毎日、雀の落下が続いたそうです。
時には一日に4羽も!
最後の方には、煙突のススが無くなったようで、汚れていない雀が出てきたそうです。
薪ストーブの煙突掃除は一仕事。
これは雀の恩返しだったのでしょうか?
北国・札幌で生まれ育った私でさえ聞いたことがないエピソード。
きっと自然を愛する串田の心が、雀たちに伝わったのでしょう。

このような素敵なエッセイが40編。
知識、情報を闇雲に伝えるだけの本とは一線を画する、穏やかで豊かな発想を楽しむ上品なエッセイ。
そう、これが串田孫一の魅力です。


コメント
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