去る4月8日から10日にかけて、今年(2011年)で第8回目となる「九州ハイエンドオーディオフェア」が福岡市博多区石城にある福岡国際会議場で開催された。一時は震災の影響で実行も危ぶまれたらしいが、どうにか例年通り開かれたのは嬉しい限りだ。
今回の目玉企画のひとつは「Net Audio最前線!」である。評論家の山之内正を迎え、近年にわかに脚光を浴びているネットワークを利用したオーディオシステムの紹介と実演が行われた。インターネット回線およびパソコンと音楽データを格納するサーバーなどから構成されるネットオーディオは、講師の山之内によれば「オーディオソースがレコードやCDなどの回転系メディアから脱却する、エポックメイキングな方法論」であるらしい。
以前のフェアでも紹介されたスコットランドのLINN社のDSシステムを手始めとして、iPadやiPhoneを機器の制御用として使う方式が披露された。また、音楽データの取扱を簡便にするソフトウェアや、複数のオーディオシステムをLANで繋いで音の出方を一括管理するメソッドなども紹介されている。少なくとも、CD数千枚・数万枚分の音楽データを容易に整理・コントロールできるという意味では、ネットオーディオは導入する価値があるだろう。
しかし、この催しでは私が一番知りたいことを教えてはくれなかった。ネットオーディオで扱われる元の音楽データは、とどのつまりがCDなのだ。ネット上でダウンロードできる音楽ソフトは圧縮音源であり、CDよりも音は悪い。もちろんLINN社などが提供する高音質ソフトも出回ってはいるが、それは絶対数が足りない。だから多くは市販CDからデータをコピーして、HDDをはじめとする各種メモリーに読み込ませるしかない。ここで問題になるのは、CDからコピーされネットオーディオにて再生されるサウンドのクォリティと、普通にプレーヤーから再生される音とでは、どちらが上質であるのか・・・・ということだ。
講師の山之内は「ほぼ同等。またCDからリッピングされた音楽信号の再生の方が優れていることもある」などと言っていたが、そんなことは直ちに信じられない。両者の聴き比べから始めるべきだったと思う。
もしもCDからリッピングされた音楽信号の再生が、CDプレーヤーを使用する従来型の再生よりも音質面で総体的にいくらかでも劣るのならば(現時点ではその可能性は高いと思う)、私にはネットオーディオを導入する理由はない。人生は長いようで短い。そのなかで音楽に浸ってリラックスできる時間はほんのわずかだ。その貴重な時間を、せっかく手持ちのCDがあるのにわざわざパソコンに読み込んで、結果としてCDプレーヤーよりも落ちる音質に付き合わなきゃならない道理なんか、どこにもない。
いくらネットオーディオはCDを取っ替え引っ替えする必要がないといっても、簡便性だけではオーディオは語れないというのも、また確かなのだ。
大枚叩いてネットオーディオを導入するより、上質なCDプレーヤーを揃える方が、私にとっては(今のところ)合理的な選択である。もちろん、レンタルしてきたCDをバックアップするにはパソコンの助けが要る。でも、そんな音源はBGM的に聴くか、iPod等に放り込んで外出先で楽しむという使い方しかしない。つまりはメインの音源ではない。お気に入りのソースとしっかり対峙するには、やはり出来るだけ良い音質で聴きたいものだ。
断っておくが、私もネットオーディオにも可能性はあると思う。将来ネット上にCDを凌駕する高品質な音楽ソースが溢れるようになれば、私も嬉々としてシステムを導入するだろう(笑)。会場ではMARANTZのネットワークプレーヤーがデモされていたが、同社は米アップル社と機器の共同開発をしているという。IT業界とオーディオ業界との提携で、また何か新しい方向性が見えてくることも大いに考えられる。期待を込めて、推移を見守りたいものだ。
(この項つづく)