元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「在りし日の歌」

2020-06-15 06:59:17 | 映画の感想(あ行)

 (原題:地久天長)時制をバラバラにして配置する手法は、あまり好きではない。効果的なポイントで数回実施するのならば許されると思うが、映画の半分以上をそのやり方で押し切っているというのは、愉快ならざる気分になる。3時間を超える長尺だが、時制を正常に展開させればあと30分は削れると思った。とはいえ、キャストは健闘しており、映像も悪くないので観て損したという気にはならない。

 中国北部の都市で国有企業の工場に勤めるヤオジュンとリーユンの夫婦、一人息子のシンシンの3人家族は、同僚のインミンとハイイエンの夫婦、そしてンシンと同じ生年月日の息子ハオの一家と親しく付き合っていた。ところがある日、シンシンが川で溺れて死んでしまう。ショックを受けたヤオジュンとリーユンは、故郷を捨てて南方の町に移り住む。そこで養子を取りシンシンと呼んで育てるが、2人に馴染めない“新しい息子”は、家を出て行ってしまう。80年代から2000年代までの激動の中国社会で、出会いと別れを繰り返して懸命に生きていく夫婦の軌跡を追う大河ドラマだ。

 前述の通り、ランダムに飛ぶ時制は観る者を混乱させる。各シークエンスが時系列的にどのポジションに位置するのか絶えず推量せねばならず、これがけっこうプレッシャーになる。だが、主人公たちが体験する出来事が実にハードであることは十分窺える。

 一人っ子政策のためにシンシンの死後は子供を儲けることが出来ないまま、リーユンは子供を産めない身体になってしまう。社会主義経済が行き詰まり、優秀な労働者として表彰された工員たちも、容赦なくリストラされてゆく。親しい者もいない南部地方の町では、周囲の好奇の目に晒されるばかりだ。さらには、終盤近くになるといくつもの感動ポイントが並べられ、ドラマは盛り上がる。ラストは予想出来るが、それでもグッとくるものがある。

 ワン・シャオシュアイの演出は時制云々を除けば市井の人々の生活を丹念に掬い上げている点で、かなり訴求力が高い。特に家族で饅頭を食べるシーンはホッとする。主役のワン・ジンチュンとヨン・メイの演技は素晴らしく、長い年月を過ごした彼らを最後まで違和感なく表現している(本作品で第69回ベルリン国際映画祭において最優秀男優賞&女優賞を受賞)。チー・シーやアイ・リーヤー、ワン・ユエン、ドゥー・ジャンといった脇の面子も地味だが手堅い。キム・ヒョンソクの撮影、ドン・インダーの音楽、そして時折流れる「蛍の光」のメロディが実に効果的だ。
コメント
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