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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/28(水)チェコ・フィル/庄司紗矢香のメンデルスゾーンVn協奏曲とビエロフラーヴェクの「運命」

2015年10月28日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団/2015年・日本公演
Czech Philharmonic Japan Tour 2015


2015年10月28日(水)19:00~ サントリーホール・大ホール S席 1階 1列 19番 19,000円(会員割引)
指 揮: イルジー・ビエロフラーヴェク
ヴァイオリン: 庄司紗矢香*
管弦楽: チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
スメタナ: 連作交響詩『わが祖国』より「シャールカ」
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64*
ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
《アンコール》
 メンデルスゾーン: 交響曲 第5番 ニ長調 作品107より第3楽章
 スメタナ: 歌劇『売られた花嫁』3つの舞曲から「スコッチナー」
 ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第10番 ホ短調 作品72-2

 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の2年ぶりの来日公演ツアー。率いてくるのは、お馴染みの音楽監督・首席指揮者のイルジ・ビエロフラーヴェクさん、ツアーに同行するソリストはヴァイオリンの庄司紗矢香さんとピアノのダニール・トリフォノフさんである。今回の来日ツアーは、昨日10/27富山、今日10/28東京(サントリーホール)、10/29福岡、10/30東京(サントリーホール)、11/1名古屋、11/2浜松、11/3横浜、11/4東京(NHK音楽祭)というスケジュールで、6都市で8公演が行われる。持ってきた曲は、協奏曲はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、メイン曲はチャイコフスキーの交響曲第5番とベートーヴェンの交響曲第5番「運命」、そして定番のドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。これらの組み合わせを変えて、各会場で演奏される。一方、NHK音楽祭ではスメタナの『わが祖国』全曲がプログラムされていて、他の会場ではこの中から1曲がコンサート序曲として組まれている。
 チェコ・フィルの公演は、前回の来日の時も1回聴いた。2013年11月、ミューザ川崎シンフォニーホールで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ピアノは河村尚子さん)とドヴォルザークの「新世界より」などを聴いている。こうしてみるとプログラムもあまり代わり映えがしないようである。
 その前の来日が2011年の3月で、ツアー中に東日本大震災が発生して日本中が大混乱に陥り、ミューザ川崎の天井崩落で中止となった公演に出演する予定だったのが庄司さんだったという因縁もある。そんなこともあって、チェコ・フィルと庄司さんの日本での共演は、今回のツアーが初めてなのである。

 1曲目はスメタナの連作交響詩『わが祖国』より「シャールカ」。『わが祖国』の全曲演奏の時でもなければあまり聴く機会のない曲だろう。演奏の方は、チェコ・フィル独特ともいえる若干泥臭さのある弦楽のアンサンブルが なかなか良い味を出していた。何しろ最前列のコンサートマスターの真下で聴いていたので、第1ヴァイオリンが大きく聞こえてくるのはやむを得ないところだが、木管が聞こえづらいのには閉口した。弦楽セクションの影に完全に隠れてしまっているからなのだが、クラリネットはまだしもオーボエの演奏は抑揚に乏しく平板に聞こえた。ビエロフラーヴェクさんという指揮者は何回も聴いているが、意外に掴み所がなく、巨匠と呼ばれる割りにはあまり個性が感じられない。ご本家のご当地ものだけに、いかにも、といった感じのスタンダードさで、ある意味では洗練されているがゆえにスラブ系の土俗的な雰囲気が少ないということになる。良いことなのか、悪いことなのか、どうもこの指揮者は何が特徴なのかが、今ひとつよく分からないのである。

 2曲目は庄司紗矢香さんをソリストに迎えてのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。もちろんこの曲と庄司さんがお目当てで最前列の席を取っているので、何かが起こることを期待していたのだが・・・・。結論から言うと、意外に平凡だったような気がする。
 第1楽章は、最初の主題の提示部分、つまり掴みの部分で聴衆の心を掴むめるかどうか、一瞬の勝負だと思うが、庄司さんのヴァイオリンは素直にすーっと入ってきて、哀愁が濃厚に漂う音楽世界へ誘う、といったイメージが希薄な感じがした。もちろん演奏は上手いし、ディテールに至るまで細やかに描かれていて、そういう意味では申し分ない。一方で、テンポ設定もスタンダードでインテンポに近く、抑揚やメリハリにねちっこさがない解釈になっている。庄司さん独特のピーンと張り詰めたような緊張感の高い演奏で、どこかでハッとするような煌めきを見せてくれることを期待していただけに、やや拍子抜けである。カデンツァから以降はちょっと無理をしたのか少し荒っぽさが見えた。
 第2楽章は最近の演奏の中ではテンポが遅い方に入るだろう。その分だけ、主題の抒情的な旋律が良く歌い、ロマン主義的な雰囲気を描き出していた。庄司さんのヴァイオリンは、ひとつひとつのまとまったフレーズではディテールまで丁寧に歌わせていて素晴らしいのだが、中間部辺りはやや一本調子になっていたような気がする。
 第3楽章になると庄司さんのヴァイオリンに高い緊張感に伴う鋭さが増してきて、力感が漲ってくる。ところが今度はオーケストラ側が力が抜けた感じになってしまい、どうもうまく咬み合わない。結局、終盤かにコーダに入るあたりでやっと両者のパワーが合わさってスリリングな展開になっていった。
 全体を通してみても、どこか緊張感や盛り上がりに欠けるイメージが残ってしまい、聴いている方としてはちょっと不完全燃焼気味であった。ビエロフラーヴェクさんのまったりとした風情が庄司さんを飲み込んでしまった・・・・そんな印象である。庄司さんのクラスのソリストは、このあまりにも解釈し尽くされた名曲に対しても、何らかの新しいアプローチを見せて欲しいところだが、今日の演奏は普通に「上手い」だけで、それはそれで世界の一級品としての「上手さ」なのだが、「だから?」という疑問が口を突いて出てしまう、そんな要素を残した演奏だったのではないだろうか。

 後半はベートーヴェンの「運命」。これがまた何とも言いようのない演奏であった。ビエロフラーヴェクさんらしいと言えばそれまでなのだが・・・・。
 第1楽章は、かなりスタンダードなイメージ。中庸のテンポ設定で、あまりにも「普通」の演奏過ぎるのである。スコアに忠実と言ってしまえばソレまでだし、教科書的と言うこともできそう。巨匠の音楽らしい堂々たる佇まい、というほどでもないし・・・・。要するに平均的で、キチンと演奏していることは間違いないが、指揮者の個性もオーケストラの特徴も曖昧で、いったい何が言いたかったのかが分からないのである。
 第2楽章も中庸のテンポで、メリハリも付けて頑張って演奏している(?)のだが、いささか感動に乏しい。よくよく聴いてみると、どうも木管群に色気が足りないようである。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットのどれをとっても音色に艶や深みがなく、楽譜通りに吹いているだけ、といった印象だ。
 第3楽章のスケルツォは、やや遅めのテンポになるだろうか。ホルンの主題提示も迫力はあるがあまり上手いとは言えない。トリオ部分のフガートは、コントラバスが後方雛壇の最後列に1列に並ぶ配置であったため、低音部の出所が分散してしまい迫力不足になった。
 第4楽章は冒頭の金管群の咆哮をテンポを落とし主部に入ると速度を上げて推進力を高めていく。それは良いのだが、その後がインテンポで・・・・またまた「普通」の感じ。主題提示部はスコア通りにリピート。2度目の方が推進力があった。展開部の終わりの方ではピッコロが暴走気味。スケルツォ主題の回帰を経て再現部。コーダに入っても推進力が増してくる感じも少なく、カタチの上では盛り上がっていくのだが、なぜか魂を揺さぶるような感動が伝わってこないのであった。
 私自身も「運命」については思い入れが強い方なので、どうしても辛口になってしまうのだとは思うが、どうやらビエロフラーヴェクさんとは相性があまり良くないようである。演奏自体がスタンダードすぎて面白味を感じさせてくれない。どうもあのアクのない感じが音楽をつまらないものにしているような気がしてならないのである。

 アンコールは3曲も。
 メンデルスゾーンの「交響曲 第5番」より第3楽章は、哀しげで抒情的な息の長い主題をちょっと渋めの弦楽が美しく聴かせる。木管が聞こえにくいのは席位置が原因だから、それを補って聴くとすれば、これはなかなか素敵な演奏だ。
 スメタナの歌劇『売られた花嫁』3つの舞曲から「スコッチナー」は、オーケストラが目が覚めるほどに色彩的になり、活き活きとして輝き出す。踊り出したくなるようなリズム感だ。お国ものだとこうも変わるもの?? これはスコアに忠実な演奏では決してない。こんな演奏は日本のオーケストラでは絶対にできないだろう。
 最後は、ドヴォルザークの「スラヴ舞曲 第10番」。哀愁と郷愁に満ちた旋律が弦楽の何ともいえないご本家のサウンドで描かれていく。こちらも絶品だ。

 結局、チェコ・フィルの演奏は、お国ものは文句なしに素晴らしいが、ドイツものはいささか・・・・。これがビエロフラーヴェクさんと私との相性の問題なのだとしたら、仕方のないことだが、他の皆さんはどのように感じたのだろうか。

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