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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/23(土)第12回東京音楽コンクール/本選弦楽部門/優勝は坪井夏美/ワンランク上の質感で他を圧倒

2014年08月24日 02時29分52秒 | クラシックコンサート
第12回東京音楽コンクール 本選 弦楽部門

2014年8月23日(土)17:30~ 東京芸術劇場コンサートホール 自由席 1階 A列 14番 2,000円
指 揮: 梅田俊明
管弦楽: 新日本フィルハーモニー交響楽団
【演奏者と曲目】
笹沼 樹(チェロ)★ハイドン: チェロ協奏曲 第2番 ニ長調 作品101 Hob.VIIb:2
吉江美桜(ヴァイオリン)★メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
坪井夏美(ヴァイオリン)★グラズノフ: ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品82
高宮城 凌(ヴァイオリン)★グラズノフ: ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品82

 第12回東京音楽コンクールの弦楽部門本選会を聴く。今年の弦楽部門はヴァイオリン3名・チェロ1名が本選に進んだ。弦楽部門の応募者は意外に少なく、52名(ヴァイオリン32名、ヴィオラ15名、チェロ5名)。CD審査・非公開により予備審査を通ったが43名(ヴァイオリン25名、ヴィオラ14名、チェロ4名)が第一次予選に臨み、そのうち公開審査の第二次予選に進むことができたのは9名(ヴァイオリン3名、ヴィオラ3名、チェロ3名))であった。そして今日の本選に進んだファイナリストは上記の4名である。
 本選の課題曲に指定されていた協奏曲は、ヴァイオリンがメンデルスゾーン、サン=サーンス、グラズノフ、ベルクの4曲、チェロはハイドン第2番、シューマン、サン=サーンス、チャイコフスキー(ロココ風の主題による変奏曲)の4曲であった。ヴァイオリンの4曲はちょっと少なく、偏った(?)選曲であったせいか、2名がグラズノフを選ぶことになってしまった。ピアノ部門では課題曲の協奏曲が34曲もあったのとは対照的であった。
 今年は東京文化会館が改修工事中のため、本選会の会場が東京芸術劇場コンサートホールに移った。音響が格段に良いことや、座席がゆったりしているのも嬉しい。自由席だが早めに並んで無事最前列を確保したわけだが、このホールはステージが高くないので、最前列でも見やすく、音のバランスも悪くない。そんな意味でも今年は期待していたのである。
 このブログを書いている時点では、すでに審査結果は発表されているのだが、例によって独断と偏見に若干の客観性を加えて、演奏順に見ていこう。

●笹沼 樹さん(チェロ/19歳/学習院大学文学部2年在学中/桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマコース在籍中)
【曲目】ハイドン: チェロ協奏曲 第2番 ニ長調 作品101 Hob.VIIb:2
 笹沼さんは背が高くイケメンで、髪の毛にパーマをかけて(?)ちょっとカッコイイ。演奏も体格に似てか大らかな感じであった。ハイドンのチェロ協奏曲第2番は、2011年の第80回日本音楽コンクール/チェロ部門の本選会の課題曲だったために、その日4回も聴いた想い出の曲(?)である。すっかり覚えてしまった曲ではあるが、オーケスラの定期演奏会などではなかなか聴ける機会がない曲でもある。
 第1楽章が始まって、主題の提示部が長く続き、やっとチェロが登場する。この瞬間の印象は大切な評価ポイントとなるようである。笹沼さんの出だしの印象は「軽い」というものだった。第1主題は低音域ではないが、チェロの持つ重厚感が感じられなかったために音域の問題ではなく、軽く感じてしまった。これはやはり緊張していたのかもれない。曲が進むにつれて、楽器が豊かに鳴りだし、その要素は徐々に薄れていった。しかし全体の雰囲気として明るい音色と軽めの印象は、彼の持ち味なのだと思う。それと、軽快な音楽の中で、チェロがほんのわずかに遅れ気味という印象もあった。協奏曲なのだからソロ楽器が引っ張り気味の方がテンションが高くて良いと思うのだが・・・・。まあ、トップバッターという緊張感もあるだろうし、若さによる経験値の少なさなどを考えれば、素晴らしい演奏だったと言えるだろう。カデンツァはしっかりと弾き込んできたようで、芯のしっかりとしていてカタチがはっきりとした演奏だった。
 第2楽章の緩徐楽章は、抒情的な主題をチェロが大らかに歌っていて素晴らしい。カデンツァでは深みのある音色が出ていた。
 第3楽章は軽快で優雅なロンド主題に対して、笹沼さんの明るい音色がピッタリ合っている。一方で高音域の速いパッセージなどでは音程に怪しいところがあったりもする。今後の課題といったところか。
 全体の印象は、明るく屈託のない音色なのは良いが、軽い印象が強く重厚さか不足気味。大らかでスケール感のある演奏は好印象だが、速いパッセージでの音程の不安定さは改善の余地あり、といったところだ。

★現時点で暫定1位(当たり前ですね)。

●吉江美桜さん(ヴァイオリン/18歳/桐朋女子高等学校音楽科3年在学中)
【曲目】メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
 課題曲の4曲を見れば、まだ高校生の吉江さんが選べるのはメンデルスゾーンしかなかったのだろう。この曲はヴァイオリンを本格的に勉強する人中誰でも早い時期から練習していると思われるし、逆に聴く側の私たち(審査員も含めて)も知りすぎている曲である。何しろ世界のトップ・クラスの演奏家からアマチュアの演奏まで、年に何回かは必ず聴く。私が直近で聴いたのは、今年2014年3月、諏訪内晶子さんのソロ、ヴァシリー・ペトレンコさんの指揮するオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演。つまり、そういう演奏と常に比較されてしまう曲なのだ。だから、ついつい聴く側もハードルを高くしてしまう・・・・。
 吉江さんの演奏は、全体にとても丁寧で、すべての音符がはっきり聞こえるというような、律儀なものであった。楽器は十分に鳴っていたし、音がよく出ていて、音程もしっかりしている。しかも音色も澄んでいて嫌味がない。素直でとても良い演奏だと思う。つまり、良い意味で教科書的、悪い意味でも教科書的なのである。ここからがこの曲を選んだことの不幸が始まる・・・・。
 まず、解釈と表現が平らに感じる。楽譜は忠実に再現しているが、吉江さんはこの曲で何を言いたかったのか、どんな音楽を表現したかったのか、伝わってこない。この曲は、そのまま弾いても、どんなに上手く弾いても誰も褒めてくれない曲なのである・・・・。繰り返すが、彼女の演奏が良くなかったと言っているわけではない。コンクールの課題曲の演奏としては、完全に及第点だと思う。これからもっともっと時間をかけて磨いていけばよい。ただ、聴衆の一人として、あまりにも聴き慣れたこの曲を聴くにあたって、今日の吉江さんの演奏は、平凡に「聞こえてしまう」のである。

★前半終了時点で、暫定1位=笹沼さん、2位=吉江さん。

●坪井夏美さん(ヴァイオリン/20歳/東京藝術大学音楽学部3年在学中)
【曲目】グラズノフ: ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品82
 この曲については若干説明をしておく方が良いかもしれない。ロマンティックでとても美しい曲なのだが、演奏機会はあまりない。私が最後に聴いたのは2010年5月、東京都交響楽団の定期演奏会でのこと(小泉和裕さんの指揮、ジェニファー・ギルバートさんの独奏)。つまり4年ぶりなのだ。先ほどのメンデルスゾーンとは好対照である。
 一応3楽章構成になっているが、3つの楽章は続けて演奏される。第1楽章は短く4分くらいしかないが2つの主題を持つ自由なソナタ形式。第1主題は怪しげな雰囲気、第2主題は官能的である。第2楽章は10分以上の長さがあるが前半は極めて甘美でロマンティックな緩徐楽章でメロドラマの映画音楽のよう。後半は第1楽章の2つの主題をモチーフにしたカデンツァで構成される。第3楽章は6分弱くらいでイ長調の快活な主題によるロンド。独奏ヴァイオリンには、あらゆる高度な技巧が散りばめられている。カデンツァから第3楽章にかけては重音奏法が多用されてかなり技巧的になるが、全体としてはむしろロマンティックな曲想の表現力も重要になってくる。要するに、とても難しくて美しい曲なのである。
 坪井さんは、2012年の第81回日本音楽コンクールで第3位に入賞した。その時の本選会ではバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番を演奏している。その時の印象と比べれば、この2年の間に著しい進化を遂げたと言っていいだろう。
 第1楽章はすぐに独奏ヴァイオリンが入ってくるが、その最初のフレーズを聴いただけで、ゾクッとした。深めのヴィブラートを効かせて、旋律が悩ましく歌う。変幻自在にニュアンスを変えて、旋律線にそって強弱もテンポも微妙に揺らぐ。そうまさに、揺らぐといった感じで、官能の波に漂うように、ヴァイオリンが甘美で濃密な音楽を奏でていく。第2楽章に入ると、より一層官能的に歌うようになった。正確な音程や質感の高い濃厚な音色など、技巧面も申し分なし。音量がやや小さめにも感じたが、それを補うだけのダイナミックレンジを持っているので、表現の幅も広い。協奏曲としての存在感も素晴らしい。第2楽章後半のカデンツァで見せた技巧も素晴らしいもので、重音の連続やフラジオレット、高速パッセージも正確で安定していて文句なし。
 第3楽章の明るいロンド主題には色彩感のある陽気な音色が飛び出してくる。中間部の抒情的な曲想にはまた美しく官能的な音色が出てくる。曲想に応じた演奏スタイルや音色の変化が実に多彩だ。思わずBrava!!(叫びはしなかったが)
 コンクールの本選会で聴く演奏のイメージではなかった。ごく限られたリハーサルしか与えられないコンクールの場で、ここまで質の高い協奏曲が聴けるとは。普通はコンクール向けになりがちで、押し出しを強く、輪郭を強調した、(審査員の先生たちに)聴いてくれー!! というような演奏が多くなってしまうが、今日の坪井さんの演奏は、もっと深いところで音楽的に作られていたように思う。ひとつひとつのフレーズや旋律が、自在に変化させられるほど緻密にコントロールされている。そのような技巧の上に、美しい音楽が乗っていた。明らかにワンランク上の印象であった。

★3曲終った時点で、暫定1位=坪井さん、2位=笹沼さん、3位=吉江さん。

●高宮城 凌さん(ヴァイオリン/21歳/桐朋学園大学音楽学部4年在学中)
【曲目】グラズノフ: ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品82
 後半は、世にも珍しい出来事だが、グラズノフのヴァイオリン協奏曲を2回続けて聴くという、おそらく二度とできない体験となった。そのことが高宮城さんには振りに働いたかもしれない。同じ曲を2回続けて聴けば、良くも悪くも違いは明瞭に表れてしまう。審査員の先生方は客観的な判断ができるだろうが、素人の私などは絶対に前の演奏に引っ張られてしまう。つまり、客観評価でなく相対評価をしてしまうわけだ。つまり、坪井さんの演奏に比べて高宮城さんは・・・・・ということになる。何しろ4年ぶりに聴くグラズノフなのだから、高宮城さんの演奏を先に聴いたらまた印象の違ったものになった可能性はある。
 結論を言えば、高宮城さんの演奏は、スコアに忠実で、正確な技巧と、楽曲に真正面から取り組んだ、正統派の演奏なのだと思う。音色も美しいし、音程も正確。高度な技巧もちゃんとこなしていた。つまり吉江さんと同じで、良くも悪くも教科書的なのである。コンクール向けというよりは、卒業試験向けといったイメージだろうか。では聴く側の私たちの心の琴線に触れるものがあるかといえば、疑問符が湧いてくる。美しい曲を上手く弾いているのだけれども・・・・。ちょっと辛口に具体的に言うと、表現が平板で、抑揚に乏しく、メリハリも少ない。音色にも変化が少なかった。
おそらく坪井さんの方がアタマの中にロマンティックな感情が湧き出ていたのではないだろうか。

★全曲が終了した時点で、1位=坪井さん、2位=笹沼さん、3位=高宮城さん、4位=吉江さん、というのが私の採点であった。
 坪井さんがダントツで、2位=該当なしで、以下繰り下げでも良いかな、とも思ったくらいである(勝手なことばかり言って、スミマセン)。聴衆賞への投票は、もちろん坪井さんに◎。

 さて、本選会の結果は、会場では20時30分頃に発表されたはずである。会場に残って待っていれば、表彰式まで見られたのだが、結果はすぐに分かるので、早々に帰宅することにした。自宅に着くより早く、21時23分58秒付けで届いた東京文化会館メールマガジンに、今日の弦楽部門・本選会の結果が発表されていた。

第12回東京音楽コンクール 本選 弦楽部門 審査結果

 第1位 坪井夏美(ヴァイオリン
 第2位 笹沼 樹(チェロ)
 第3位 吉江美桜(ヴァイオリン)
 入選 高宮城 凌(ヴァイオリン)

 聴衆賞 坪井夏美(ヴァイオリン)

 結果は概ね私の採点通りである。吉江さんと高宮城さんが逆になってしまったが、その理由も本文に書いたとおり、メンデルスゾーンの演奏には厳しい評価をするクセがあるからで、審査員の先生方が客観的に採点評価したものの方が正しいのだろう。
 あくまで私の個人的な感想というレベルの話だが、今回の「第12回 東京音楽コンクール 弦楽部門」は、本選会を聴く限りでは、坪井さんがワンランク上の印象でダントツ1位だという印象だった。これで坪井さんは来年2015年1月12日に開催される「第12回東京音楽コンクール 優勝者コンサート」に出演することが決まった。このコンサートのチケットは昨日発売開始されていて、今日も会場で販売していたが、実は最前列のソリスト正面を確保済みである。5ヵ月後に、さらに進化した坪井さん会えることに期待しよう。

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