Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/3(日)ラ・フォル・ジュルネ〈第2日〉気になる公演を4つ/小林沙羅のバッハとシューマンを聴く

2015年05月03日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2015(「熱狂の日」音楽祭 2015)
~PASSION 恋と祈りといのちの音楽~


2015年5月3日(日)東京国際フォーラム

 毎年ゴールデンウィーク恒例の音楽祭、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2015」が開催された。今年は第11回に当たり、テーマ設定やら企画内容が大幅に変更され、装いも新たに開催された・・・・・ようである。これまでは作曲家や地域をテーマに掲げていたが、今回は「PASSION 恋と祈りといのちの音楽」というやや抽象的なものに変わった。これだと音楽的には「何でもあり」になってしまうが・・・・。
 今年は、5月の2日~4日の3日間にわたり、東京・有楽町駅前の東京国際フォーラムを中心に開催された。有料公演は3日間で合わせて135。基本的には1公演が休憩なしの45分で、5,008席のホールAから110席の相田みつを美術館まで、様々なサイズの8つのホール・会議場・会議室などで開催された。それらの他にも、東京国際フォーラム内でも地上広場での無料コンサートや、有料公演のチケットを持っている人だけが入れる地下展示ホールの特設ステージでの無料公演などが1日中開催されている。また、近隣の地域(東京駅周辺の丸の内地区や有楽町駅周辺の帝国ホテルなど)の18会場では様々な無料コンサートが開かれている。無料コンサートはオープンスペースを活用するので、特設の座席以外は立見となり、PA装置を使用したりもするので、クラシック音楽を聴くにはいささか・・・という環境だが、これは音楽祭ならではのものだ。
 有料公演の方は、テーマとの関わりが私たちにはピンと来ないような気がするが、どういうわけかJ.S.バッハの楽曲がかなり多く採り上げられていた。「祈り」の音楽ということのようだ。逆にこのようなテーマ設定だと純音楽の取り扱いが難しくなってしまい、例えば交響曲がほとんどプログラムに載っていないというようなことが起こってくる。

 さて今回のラ・フォル・ジュルネは、私にとってはあまり魅力的な内容にはなっていなかったので、中日の5月3日、一日だけに絞り込んで聴くことにした。有料公演を合わせて4つ。それでも普通のコンサート2回分のボリュームとなる。今年は大ホールは避けて、濃密な音楽空間を堪能できるようにスケジュールを考えたが、小さな会場での公演はチケット取りが難しいので、毎年のことだが、苦労した割りにはなかなか思い通りにはならなかった。

■公演番号222 12:15~13:05 ホールB7 7列 20番 3,100円
指 揮: ロベルト・フォレス・ヴェセス
ヴァイオリン: イレーヌ・ドゥヴァル
管弦楽: オーヴェルニュ室内管弦楽団
【曲目】
J.S.バッハ: ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 BWV1041
J.S.バッハ: ヴァイオリン協奏曲 第2番 ホ長調 BWV1042
J.S.バッハ: ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048

 苦手のバッハではあるが、ヴァイオリン協奏曲という好きな分野であるので聴いてみることにした。ソロを受け持つイレーヌ・ドゥヴァルさんは初めてお目にかかる人だが、フランスの若手である。オーヴェルニュ室内管弦楽団というのももちろん初めてだが、こちらは21名からなる室内オーケストラ。とはいうものの曲目の関係からか、登場したのは弦楽合奏+チェンバロである。7列目のセンターで聴いたので、決して遠くはないのだが、会場のホールB7は、フラットな床で音がスッポ抜けてしまう会議場のようなホールなので、音量が頼りなく、聴いていても今ひとつハッキリしない。ドゥヴァルさんのヴァイオリンも、第1ヴァイオリンと同じパートを弾いたりソロを弾いたりするので、どちらかというとオーケストラと渾然一体となってしまっていたようだ。音色をはじめとする特徴を聴き取るには至らなかった。演奏としては、第1番よりも第2番の方がメリハリが効いていて良かったように思う。
 3曲目のブランデンブルク協奏曲第3番は、かなり昔に演奏したことがあり、暗い過去の苦い思い出の曲なのだ。バッハが苦手になった原因かもしれない。久しぶりに懐かしい思いで聴いた。演奏は弦楽合奏9名+チェンバロで、合奏の方は古楽の落ち着いた音色が優雅でアンサンブルも美しかったが、第2楽章のチェンバロのカデンツァがかすかに聞こえる程度だったのが惜しかった。

■公演番号243 14:15~15:00 ホールC 1階 1列 21番 3,100円
指 揮: 井上道義
ソプラノ: 小林沙羅
ソプラノ: 熊田祥子
メゾ・ソプラノ: 相田麻純
テノール: 靍畠伸吾
バ ス: 森 雅史
管弦楽: オーケストラ・アンサンブル金沢
合 唱: 松原混声合唱団
【曲目】
J.S.バッハ: カンタータ BWV147より「心と口と行いと生活で」、
       コラール「主よ、人の望みの喜びよ」
J.S.バッハ: マニフィカト ニ長調 BWV243

 2公演続けてバッハというのも個人的にはかなり異例のことだと思う。こちらの公演は小林沙羅さんが出演するという理由で選んだもので、正直に言えばこの分野に関してはほとんど知識がなく、まったくの素人である。前半のカンタータでは、「心と口と行いと生活で」でのトランペットの活躍が鮮やかな音色を出していて印象的だった(ちょっとアブナイところもあったが)。「主よ、人の望みの喜びよ」はあまりにも有名な曲なのでさすがに知っているが、このように本来の形で聴くのは久しぶりだ。合唱がややまったりとしていて、和声の響きが鈍い感じがしたが、これはホールのせいかもしれない。最前列で聴いていたので、もう少し引き締まって聞こえてもよいはずなのだが・・・・。
 「マニフィカト」は全12曲からなる宗教曲で、管弦楽と合唱の曲と、歌手たちによるアリア、デュエット、トリオとの組み合わせとなる。
 ところが、オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏が安定を欠き、どうもドタバタした印象である。弦楽と管楽器がバラバラになってしまい座りが悪い感じである。金管のリズムが曲に乗っていないという印象だ。それに伴って合唱もバタバタしているようだ。全体にリハーサル不足という印象だ。
 ソプラノIIを受け持った熊田祥子さんはちょっと緊張してしまったのか、第2曲のアリアでは調子が出なかった。第3曲ではソプラノIの小林沙羅さんが、貫禄の(?)安定した歌唱で演奏をぐっと引き締めた。伴奏のオーボエ・ダモーレ(?)の典雅な響きと、澄んで真っ直ぐな沙羅さんの声が面白い対比を作っていた。第5曲のバスのアリアでは森 雅史さんが落ち着いた調子で淡々と歌った。バロックの歌唱法についてはよく知らないので、あまり突っ込んだことは言わないことにしよう。第6曲のアルトとテノールのデュエットは、メゾ・ソプラノの相田麻純さんが安定した強さを発揮していたのに対して、テノールの靍畠伸吾さんがやや軽過ぎる感じがした。第8曲のテノールのアリアでは高橋さんの歌唱・・・・音程がちょっとふらついていたような。第9曲のアルトのアリアでは、相田さんがしっかりした歌唱を聴かせてくれた。第10曲ソプラノI、ソプラノII、アルトのトリオでは、熊田さんも調子を取り戻してきたが、やはり沙羅さんの安定度は抜群であった。
 合唱は最後の方ではかなり良くなってきたが、最後まで歌詞が揃わないところもあり、全体的に今ひとつな感じじであった。オーケストラも最後まで・・・・。

■公演番号264 15:30~16:15 G409 3列 23番 2,100円
ピアノ: シャニ・ディリュカ
【曲目】
シューマン: 蝶々 作品2
ワーグナー/リスト編: イゾルデの愛の死
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57「熱情」
《アンコール》
 ショパン: ワルツ 第9番 作品69-1「告別」

 シャニ・ディリュカさんはスリランカ人を両親に持つモナコ出身のピアニスト。国際的に活躍している人だ。ラ・フォル・ジュルネでは、震災のあった年の2011年に、庄司紗矢香さんとのデュオで聴いたことがある。今回はリサイタル、しかもわずか153席のG409という小部屋なので、サロン・コンサートの趣だ。
 シューマンの「蝶々」では、気まぐれな感じがよく出ている多彩な色彩と表情を持つ表現が素晴らしかった。ワーグナー/リスト編の「イゾルデの愛の死」は、一転して不協和音を重厚に響かせ、重量級の音を出す。複雑な和声と無限旋律を解きほぐすような、構成力のしっかりとした演奏だったと思う。
 ベートーヴェンの「熱情」ソナタは、全体にキレ味が鋭く、強めの打鍵が重厚さとクッキリと明瞭な解釈を浮き彫りにしている。小さな部屋でのピアノの鳴らせ方を心得ているらしく、決してうるさくは感じさせない程度に最大音量を叩き出している。ダイナミックレンジを広く確保するために、弱音を抑え込んで、メリハリをきかせるのも見事であった。第2楽章などはテンポよりは強弱で旋律を抒情的な歌わせるなど、表現力の幅も広い。

■無料公演 16:30~17:30 展示ホール 無料
《丸の内フェスティバルシンガーズ&市川交響楽団有志》
指 揮: 岸本祐有乃
ソプラノ: 津山 恵(アイーダ)
メゾ・ソプラノ: 杣友惠子(アムネリス)
テノール: 上本訓久(ラダメス)
バリトン: 岡本敦司(アモナズロ)
管弦楽: 市川交響楽団有志
合 唱: 丸の内フェスティバルシンガーズ
バレエ: 世良留実バレエ教室
【曲目】
ヴェルディ: 歌劇『アイーダ』(抜粋)

 次の公演まで時間が空いていたので、ちょうどタイミング良く地下展示ホールの無料公演に滑り込んだ。何とこの特設ステージでオペラをやってしまうとは。上記のメンバーを見れば分かるように、歌手陣はプロである。逆にオーケストラと合唱とバレエはアマチュアだ。どんなものに鳴るのかと思いきや、4名の歌手陣だけでなく、合唱団のメンバーも3名のバレリーナも皆、本格的なアイーダ用の衣装を着けての登場である。お金かけているなァ・・・・無料コンサートなのに。この試みにはBravo!である。
 演奏の方は、アイーダ役の津山 恵さんとラダメス役の上本訓久さんが熱演。素晴らしくドラマティックな歌唱を聴かせてくれた。オーケストラと合唱は、まあこんなものだろう。ところが、音が四方に散らばってしまう八角形のステージのためPAを入れていたようで、客席の最後列(つまりステージ正面側)で聴いていたのに、歌手の声ばかりが聞こえてきてオーケストラの音が飛んでこない。ミキシングがちょっといただけなかったようだ。

公演番号282 20:30~21:20 相田みつを美術館 3列 26番 2,600円
ソプラノ: 小林沙羅
ピアノ: 伊藤 恵*
【曲目】
シューマン: ああ、紳士のみなさま(「愛の春」作品37-3)
シューマン: ズライカの歌(「ミルテの花」作品25-9)
シューマン: 花嫁の歌I、II(「ミルテの花」作品25-11、12)
シューマン: ジャスミンの茂み(歌曲と歌 第I集 作品27-4)
シューマン: わたしの庭(歌曲と歌 第III集 作品77-2)
シューマン: ミニョン「ただ憧れを知る人だけが」
      (ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスター」にもとづくリートと歌 作品98a-3)
シューマン: 子どもの情景 作品15(ピアノ・ソロ)*
シューマン: 牛飼いの娘(レーナウの6つの詩とレクイエム 作品90-4)
シューマン: 森への憧れ(ケルナーの詩による12の歌曲 作品35-5)
シューマン: 捨てられた女中(ロマンスとバラード第4集 作品64-2)
シューマン: ばらよ、かわいいばらよ!(6つの詩 作品89-6)
シューマン: ことづて(歌曲と歌 第III集 作品77-5)

 この公演が今年のラ・フォル・ジュルネの最大の目玉、と個人的には位置付けていた。今を時めく小林沙羅さんのリサイタルである。しかもピアノは伊藤恵さんという豪華版。そしてプログラムはシューマンの歌曲。ロマン派の抒情的な曲は沙羅さんに良く似合う。
 しかしわずか110席の1回公演ではチケットを確保するので精いっぱいであった。先行抽選は友人達にも協力してもらったが全員落選。先行発売と一般発売はいずれも秒殺で完売という状況の中では、自力で取れただけでもラッキーだったということだろう。祈りのPASSIONが通じたようだ。
 この枠は50分取っていた。全体を3部構成にして、前半は沙羅さんによる歌曲を7曲、後半には5曲を歌い、間に伊藤さんのピアノ・ソロで「子供の情景」を挟む形にしていた。
 沙羅さんの歌唱は、とくに今日のようにシューマンを歌うような時は、天使のごとき清らかさになる。あくまで透き通ったキレイな声質は天性のものだとしても、一途な研鑽による歌唱のテクニックは最近グングン磨きがかかってきている。音程は極めて正確だし、伸びやかで張りのある発声も素晴らしい。ドイツ語の発音もとても美しい。そして、表現力もまた素晴らしい。曲の内容によって声の表情が変化する。幸せな愛の歌を歌う時は少女のようにとても愛らしくなるし、哀しみをこらえて歌う時は切なそうに声も翳る。憧れを歌うときは明るく華やぐような声になる。とくに今日のような狭い部屋では、声を張る必要がないし、またシューマンの歌曲は沙羅さんにとっては声域も合っているのであろう。自然体の歌唱でありながら、情感が滲み出てくるようであり、テクニックではなく、心が歌っている。表現者として一段階昇ったように感じられた。沙羅さんにBrava!!を送ろう。
 伊藤さんのビアノについても触れておこう。まず沙羅さんの伴奏では、ぴったりと寄り添うように、とても柔らかなサウンドでの演奏であった。明るい色彩感と軽めのリズム感がとても素敵で、ロマン派の歌曲の伴奏としてはこれ以上望むことはないだろう。一方、ソロで演奏した「子供の情景」では、同じく角のない柔らかなタッチのサウンドではあったが、表現の幅というか、自由度が高くなり、ピアノの音に豊かな情感が宿るようになる。子供を見守る大人の優しい心遣い、その温もりが感じられる素敵な演奏であった。

*   *   *   *   *

 今年のラ・フォル・ジュルネは1日だけの参戦だったが、それぞれのコンサートの出来不出来はともかくとして、いろいろと考えさせられた点があった。
 この音楽祭は、ルネ・マルタンさんの発案でナントで始まったものが世界に伝播し、日本にも導入されたものである。今年で11回目を迎えた。発案者・企画者の趣旨は尊重すべきとは思うが、一方で日本での独自性があまり感じられないのも確かだ。この10年で、音楽祭の方法論は十分に学ぶことができたと思う(主催者側だけでなく来場者側も)。ならばこのイベントの成功を、日本のクラシック音楽界の発展・繁栄に結びつけて行かなければもったいない。ところがどうもラ・フォル・ジュルネに訪れる多くの人たちが、いつものクラシック音楽のコンサートに足を運ぶようにはなっていないような気がするのだ(もちろん統計的なデータなどではなく、直感でしかないが)。
 今回の開催を見て気がついたことがいくつかある。まず一番気になったのは、日本人の有力な演奏家の出演がかなり少なかったことだ。オーケストラなどは、東京のプロ・オーケストラが参加していない。ビアニストもヴァイオリニストも・・・・。ルネ・マルタンさんの人脈で毎回来日する演奏家や団体も、とくに一流のメンバーばかりではない。ならば逆に世界で活躍している日本人の演奏家を大勢呼んで、身近に演奏を聴かせてもらう機会を増やすべきだ。そうして身近な音楽ファンを育てていく方が良いと思う。
 テーマの設定もいささか気になる。11回目からテーマ設定の方法を変えたのは良いとしても、ここにも日本ならではの独自性が感じられない。日本で「祈りのPASSION」といってもまったくイメージが湧かないというのが本音だ。これまでの作曲家別・地域別の方が分かりやすかったことは確かで、10年も経ったのだからまた繰り返しても無駄にはならないし、一般向けにはもっと「名曲」が多くなるようなテーマの方が分かりやすくて良い。
 有料公演のチケットが今年からちょっと値上げになった。これは消費税率が上がったことの影響もあるのかもしれないが、音楽祭の趣旨としてはどうなのだろう。音楽仲間達は皆、ラ・フォル・ジュルネは高いという。1枠45分のコンサートは通常の半分のスケールだ。では、ラ・フォル・ジュルネのチケット料金を2倍にしてみれば単純に比較できるが、この料金にして、この出演者達のチケット料金を考えると、サントリーホールのコンサートや、紀尾井ホールのリサイタルなどと比べても割高感がある。再考の余地はあろう。安くして客を集めるという意味ではなくて、お祭りなんだから、せめて世間の相場よりはちょっと低めにしたら? という程度の発想なのだが・・・・。
 いろいろと気になることを書いてしまったが、結局は来年もまた行くのだろうか。そろそろこちら側もマンネリには感じているのだが・・・・。

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