フランクフルト放送交響楽団 2012年日本公演
2012年6月6日(水)19:00~ サントリホール・大ホール S席 1階 1列 20番 17,000円(会員割引)
指 揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ピアノ: アリス=紗良・オット*
管弦楽: フランクフルト放送交響楽団
【曲目】
リスト: ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調*
《アンコール》
リスト: ラ・カンパネラ
ブラームス: ワルツ 第3番
マーラー: 交響曲 第5番 嬰ハ短調
《アンコール》
ブラームス: ハンガリー舞曲 第5番
ブラームス: ハンガリー舞曲 第6番
すっかのお馴染みのパーヴォ・ヤルヴィさんは毎年来日するが、オーケストラは彼が音楽監督を務めている団体が交替でやって来るようになっていて、今年2012年はフランクフルト放送交響楽団の日本ツアーだ。5月31日の札幌を皮切りに、6都市8講演を行う(その内ひとつは非公開)。同行するソリストはピアノのアリス=紗良・オットさんとヴァイオリンのヒラリー・ハーンさん。用意されている曲目は、協奏曲がリストのピアノ協奏曲第1番とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、管弦楽のみの交響曲としてマーラーの交響曲第5番とブルックナーの交響曲第8番。以上の組み合わせを変えて、各会場でプログラムが組まれている。ツアーも後半になり、今日の東京での公演は、リストとマーラーの組み合わせだ。
ヤルヴィさんの来日公演も毎年聴いているが、今年は協奏曲をお目当てにして、今日は最前列、明日は2列目という、いつものような席を確保した。アリスさんの協奏曲は、これまでに、2011年1月に東京交響楽団との協演でリストの1番を、2010年3月にロイヤル・ストックホルム・フィルと、2010年9月には日本フィルとの共演でチャイコフスキーの1番を聞いている。このリストとチャイコフスキーは、カップリングでCDがリリースされているのはご承知の通り。要するに彼女の得意の曲というわけだ。
1曲目。ステージ上を跳ねるような軽快に足取りで登場したアリスさんはウワサ通りの裸足だ。今日は最前列なので、目の前で裸足のペダリング…。これは後で語るとして、まずは曲の方から。
結論を先に言ってしまえば、途方もなく素晴らしい!! これはひょっとして歴史的名演かも…と思えるくらいの素晴らしい演奏だった。昨年聴いた時のリスト、あるいはCDの演奏と比べても、格段の進化を遂げている。大きな手で豪快にピアノを鳴らす時のスケールの大きさ、消え入るようなppに込められた非常に細やかな表情、分散和音の流れるようなパッセージ…。どの部分を取っても、あるいは全体を眺めてみても、なんて豊かで繊細な演奏なのだろう。アリスさんは美しい音色を聴かせるタイプのピアニストではない。スケールの大きな演奏で、曲全体をご自身の個性で膨らませて聴かせるタイプだと思う。そしてそのスケールがさらに一段と大きくなって帰ってきたようだ。
また、演奏している時の表情がとても豊かになった。とくに目立ったのは楽しそうな表情だ。鍵盤を見る目つきはキラキラと輝き、まるでそこにいる誰かと対話しているようだ。もしかすると彼女は、その時リストと音楽について議論していたのかも…。かつてはよく見られた、感情移入された緩徐楽章などで、上空を仰ぐような姿勢をとることも今日は少なかったようだ。目の前の音楽と常に向き合っているという印象だった。
アリスさんといえば、デビューCDがリストの「超絶技巧練習曲集」だったこともあって、ヴィルトゥオーソ・ピアニストというイメージが強かった。とにかく良く回る指で、ガンガン弾きまくる。また多少のミスタッチなど気にも止めずに、自由闊達に豪快に引きまくる、そんなイメージが強く、実際にスケールの大きな演奏をするという印象を持っていた。もちろん今日の演奏でも、ピアノの振動が直接身体に伝わってくるほど、強奏部分のパワーと迫力はモノスゴイものがあった。ところが、ふっと訪れる弱音の部分に、ハッとするほどナイーブな、産毛にそっと振れるような繊細で柔らかなタッチから紡ぎ出されるひとつひとつの音符に込められたニュアンスに、彼女の新境地を見たような気がする。
不思議なことに、いつものようにピアノの正面で聴いていると、本来の弦の音以外の雑音がたくさん聞こえてしまうのに、今日はそれがとても少なかったように思う。パワー全開のffでは金属音と振動だけになってしまうだろうと諦めていたのに、意外に素直な音色が聞こえていたのだ。やはり上手い人が弾くと違うなあ、などと感心しながら聴いていた。あながち見当違いのことでもなさそうである。
最後に問題の裸足について。別に裸足フェチというわけではないのだが…。手だけでなく、足も大きなアリスさんだった(失礼、これじゃセクハラですね)が、見ていると、ペダルを足指で掴むように包み込み、かなり微妙なペダリングをしていた。踏み込みの深さに微細な変化を求めるため、あるいはその感触を肌で感じ取るために裸足で演奏しているのだろう。これはある程度想像が付いてことだが、かなり早いパッセージに合わせて高速でペダルを操作しているのには驚かされた次第である。靴を履いていたらできない技ではないだろうか。
今日は演奏自体のことばかりになってしまい、曲の表現については敢えて触れなかった。もともとリストのピアノ協奏曲はあまり好きな方の曲ではなかったのだが、今日のアリスさんの演奏を聴く限りは、とても素敵な曲だと気づかされたような気がする。これはホントの話し。
アンコールで弾いてくれた「ラ・カンパネラ」はこれまでとは違ったアプローチを聴かせた。スタッカートのように音を極端に切り詰め、わざと響かせない。たっぷり聴かせた協奏曲の後だけに、さっぱりとした乾いた音色が新鮮に聞こえた。アンコールの2曲目はブラームスのワルツ。これだけ弾いた後も、跳ねるようにステージから下がっていくアリスさんだった。ホントに元気な人だ。
後半は、マーラーの5番。こちらの方は協奏曲とは違い、フル・サイズのオーケストラが、輝かしい音色で音圧を感じさせるほど豪快に鳴り響く。澄んだアンサンブルで厚みのある弦楽、木管の空気感がドイツ風で心地よく、金管は晴れやかで艶やかでもあった。とくに気に入ったのは、ホルンがまことに素晴らしかったことだ。音程も正確なら潤いのある音色も見事。長く伸ばす弱音の美しさなどは涙ものである。やはりホルンが上手いとオーケストラが倍くらい上手く聞こえる。
今日の演奏はまことに素晴らしいものであった。堂々たる自信に満ちたヤルヴィさんの音楽作りは、相変わらず抜群のリズム感で切れ味鋭く音楽を構築していく。その中に、フワリと現れる大きく歌う旋律。この対比が見事で、曲の流れを単調にせず、また逆に恣意的な解釈にも陥らせない。聴いている私たちに、「これでどうだ!」といわんばかりに納得させられる構築力である。オーケストラの演奏クオリティの高さと、ヤルヴィさんの躍動的な指揮で、この名曲に相応しい素晴らしい演奏だったと思う。
アンコールはヤルヴィさんのお得意のパターンで、ハンガリー舞曲の5番と6番。彼の指揮でこの曲をいろいろなオーケストラで聴いている…。
と、後半についてはここまで。仕事が少々忙しく、コンサートも連続してしまうのでレビューを書く時間が取れないので、かなり簡略に済ませてしまわざるを得なくなってしまった。ブログ更新もコンサート後、3日以上経過してしまった(反省)。
終演後は恒例のサイン会。だが、今回はアリスさんとヤルヴィさんが別の場所で行うことになった。というわけで、アリスさんの方に並び、CDのジャケットの中ページにサインをいただいた。このリストのピアノ協奏曲のCDも、購入2枚目である^_^;。サイン会場は1階の左側奥の関係者口のドアの前。そこから続いた長蛇の列は、中央ロビーのバー・コーナーの中にとぐろを巻いていた。いったい何時に終わるのやら。一方のヤルヴィさんは地下の楽屋口の方らしい。もう午後10時近くなっていたので、こちらの方はパスさせていただいた。
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2012年6月6日(水)19:00~ サントリホール・大ホール S席 1階 1列 20番 17,000円(会員割引)
指 揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ピアノ: アリス=紗良・オット*
管弦楽: フランクフルト放送交響楽団
【曲目】
リスト: ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調*
《アンコール》
リスト: ラ・カンパネラ
ブラームス: ワルツ 第3番
マーラー: 交響曲 第5番 嬰ハ短調
《アンコール》
ブラームス: ハンガリー舞曲 第5番
ブラームス: ハンガリー舞曲 第6番
すっかのお馴染みのパーヴォ・ヤルヴィさんは毎年来日するが、オーケストラは彼が音楽監督を務めている団体が交替でやって来るようになっていて、今年2012年はフランクフルト放送交響楽団の日本ツアーだ。5月31日の札幌を皮切りに、6都市8講演を行う(その内ひとつは非公開)。同行するソリストはピアノのアリス=紗良・オットさんとヴァイオリンのヒラリー・ハーンさん。用意されている曲目は、協奏曲がリストのピアノ協奏曲第1番とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、管弦楽のみの交響曲としてマーラーの交響曲第5番とブルックナーの交響曲第8番。以上の組み合わせを変えて、各会場でプログラムが組まれている。ツアーも後半になり、今日の東京での公演は、リストとマーラーの組み合わせだ。
ヤルヴィさんの来日公演も毎年聴いているが、今年は協奏曲をお目当てにして、今日は最前列、明日は2列目という、いつものような席を確保した。アリスさんの協奏曲は、これまでに、2011年1月に東京交響楽団との協演でリストの1番を、2010年3月にロイヤル・ストックホルム・フィルと、2010年9月には日本フィルとの共演でチャイコフスキーの1番を聞いている。このリストとチャイコフスキーは、カップリングでCDがリリースされているのはご承知の通り。要するに彼女の得意の曲というわけだ。
1曲目。ステージ上を跳ねるような軽快に足取りで登場したアリスさんはウワサ通りの裸足だ。今日は最前列なので、目の前で裸足のペダリング…。これは後で語るとして、まずは曲の方から。
結論を先に言ってしまえば、途方もなく素晴らしい!! これはひょっとして歴史的名演かも…と思えるくらいの素晴らしい演奏だった。昨年聴いた時のリスト、あるいはCDの演奏と比べても、格段の進化を遂げている。大きな手で豪快にピアノを鳴らす時のスケールの大きさ、消え入るようなppに込められた非常に細やかな表情、分散和音の流れるようなパッセージ…。どの部分を取っても、あるいは全体を眺めてみても、なんて豊かで繊細な演奏なのだろう。アリスさんは美しい音色を聴かせるタイプのピアニストではない。スケールの大きな演奏で、曲全体をご自身の個性で膨らませて聴かせるタイプだと思う。そしてそのスケールがさらに一段と大きくなって帰ってきたようだ。
また、演奏している時の表情がとても豊かになった。とくに目立ったのは楽しそうな表情だ。鍵盤を見る目つきはキラキラと輝き、まるでそこにいる誰かと対話しているようだ。もしかすると彼女は、その時リストと音楽について議論していたのかも…。かつてはよく見られた、感情移入された緩徐楽章などで、上空を仰ぐような姿勢をとることも今日は少なかったようだ。目の前の音楽と常に向き合っているという印象だった。
アリスさんといえば、デビューCDがリストの「超絶技巧練習曲集」だったこともあって、ヴィルトゥオーソ・ピアニストというイメージが強かった。とにかく良く回る指で、ガンガン弾きまくる。また多少のミスタッチなど気にも止めずに、自由闊達に豪快に引きまくる、そんなイメージが強く、実際にスケールの大きな演奏をするという印象を持っていた。もちろん今日の演奏でも、ピアノの振動が直接身体に伝わってくるほど、強奏部分のパワーと迫力はモノスゴイものがあった。ところが、ふっと訪れる弱音の部分に、ハッとするほどナイーブな、産毛にそっと振れるような繊細で柔らかなタッチから紡ぎ出されるひとつひとつの音符に込められたニュアンスに、彼女の新境地を見たような気がする。
不思議なことに、いつものようにピアノの正面で聴いていると、本来の弦の音以外の雑音がたくさん聞こえてしまうのに、今日はそれがとても少なかったように思う。パワー全開のffでは金属音と振動だけになってしまうだろうと諦めていたのに、意外に素直な音色が聞こえていたのだ。やはり上手い人が弾くと違うなあ、などと感心しながら聴いていた。あながち見当違いのことでもなさそうである。
最後に問題の裸足について。別に裸足フェチというわけではないのだが…。手だけでなく、足も大きなアリスさんだった(失礼、これじゃセクハラですね)が、見ていると、ペダルを足指で掴むように包み込み、かなり微妙なペダリングをしていた。踏み込みの深さに微細な変化を求めるため、あるいはその感触を肌で感じ取るために裸足で演奏しているのだろう。これはある程度想像が付いてことだが、かなり早いパッセージに合わせて高速でペダルを操作しているのには驚かされた次第である。靴を履いていたらできない技ではないだろうか。
今日は演奏自体のことばかりになってしまい、曲の表現については敢えて触れなかった。もともとリストのピアノ協奏曲はあまり好きな方の曲ではなかったのだが、今日のアリスさんの演奏を聴く限りは、とても素敵な曲だと気づかされたような気がする。これはホントの話し。
アンコールで弾いてくれた「ラ・カンパネラ」はこれまでとは違ったアプローチを聴かせた。スタッカートのように音を極端に切り詰め、わざと響かせない。たっぷり聴かせた協奏曲の後だけに、さっぱりとした乾いた音色が新鮮に聞こえた。アンコールの2曲目はブラームスのワルツ。これだけ弾いた後も、跳ねるようにステージから下がっていくアリスさんだった。ホントに元気な人だ。
後半は、マーラーの5番。こちらの方は協奏曲とは違い、フル・サイズのオーケストラが、輝かしい音色で音圧を感じさせるほど豪快に鳴り響く。澄んだアンサンブルで厚みのある弦楽、木管の空気感がドイツ風で心地よく、金管は晴れやかで艶やかでもあった。とくに気に入ったのは、ホルンがまことに素晴らしかったことだ。音程も正確なら潤いのある音色も見事。長く伸ばす弱音の美しさなどは涙ものである。やはりホルンが上手いとオーケストラが倍くらい上手く聞こえる。
今日の演奏はまことに素晴らしいものであった。堂々たる自信に満ちたヤルヴィさんの音楽作りは、相変わらず抜群のリズム感で切れ味鋭く音楽を構築していく。その中に、フワリと現れる大きく歌う旋律。この対比が見事で、曲の流れを単調にせず、また逆に恣意的な解釈にも陥らせない。聴いている私たちに、「これでどうだ!」といわんばかりに納得させられる構築力である。オーケストラの演奏クオリティの高さと、ヤルヴィさんの躍動的な指揮で、この名曲に相応しい素晴らしい演奏だったと思う。
アンコールはヤルヴィさんのお得意のパターンで、ハンガリー舞曲の5番と6番。彼の指揮でこの曲をいろいろなオーケストラで聴いている…。
と、後半についてはここまで。仕事が少々忙しく、コンサートも連続してしまうのでレビューを書く時間が取れないので、かなり簡略に済ませてしまわざるを得なくなってしまった。ブログ更新もコンサート後、3日以上経過してしまった(反省)。
終演後は恒例のサイン会。だが、今回はアリスさんとヤルヴィさんが別の場所で行うことになった。というわけで、アリスさんの方に並び、CDのジャケットの中ページにサインをいただいた。このリストのピアノ協奏曲のCDも、購入2枚目である^_^;。サイン会場は1階の左側奥の関係者口のドアの前。そこから続いた長蛇の列は、中央ロビーのバー・コーナーの中にとぐろを巻いていた。いったい何時に終わるのやら。一方のヤルヴィさんは地下の楽屋口の方らしい。もう午後10時近くなっていたので、こちらの方はパスさせていただいた。
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コメントありがとうございます。
アリスさんはご自分のCDはほとんど聴いたことがないんだそうです。録音はかこの記録でしかなく、現在または未来に向かって演奏をしているから、毎回変わっていくし、どんどん進化していくのでしょうね。秋にはリサイタルもあり「展覧会の絵」などがありますし、NHK音楽祭ではグリーグの協奏曲もあります。当分は目の離せないアリスさんです。