東京交響楽団 第585回定期演奏会
2011年1月6日(木)19:00~ サントリーホール S席 2階 LB4列 9番 7,000円
指 揮:飯森範親
ピアノ:アリス=紗良・オット*
管弦楽: 東京交響楽団
【曲目】《リスト生誕200年&マーラー没100年》
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調*
《アンコール》ショパン: ノクターン 嬰ハ短調〈遺作〉*
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調 作品92「巨人」
東京交響楽団の第585回定期演奏会は、人気の飯森範親さんがソリストにアリス=紗良・オットさんを招いてのリストのピアノ協奏曲である。アリスさんは先日のNHKニューイヤーオペラコンサートにゲスト出演したばかり。しかもちょうど1年前リリースしたCDがチャイコフスキーとリストのピアノ協奏曲だった。今日はそれがナマで聞けるということで、期待して足を運んだ。
同様の内容で、東京交響楽団の川崎定期演奏会が明日1/7にミューザ川崎であるが、こちらの方はウェーバーの歌劇「オイリアンテ」序曲がブログラムに組まれているが、今日のサイトリーホールでの定期演奏会には、序曲の設定はない。というわけで、ステージには初めからピアノが置いてあった。いきなりの協奏曲スタートで、オーケストラがピタリと合うかどうか、心配なところだ。客の入りも今ひとつ。70%くらいだろうか、空席がかなり目立っていた。
開演時間となり、アリス=紗良・オットさんが予想通りの真っ赤なドレスでにこやかに登場。注意して見てみるともやっばり裸足。昨年聴いたヴァイオリンのパトリツィア・コパチンスカヤさんもドレスに裸足だったが、そのココロはいったい何だろう…。
さて演奏の方はとしいと、結論から言えば、アリスさんのピアノの魅力が最大限に発揮された、素晴らしい演奏だったのに対して、飯森さんの指揮と東京交響楽団の演奏が重く感じられたというところ。まあ、大体予想した通りではあったのだが…。
アリスさんのピアノは、一見すると超絶技巧を売り物にしているように思えてしまう。デビューアルバムがリストの「超絶技巧練習曲集」で、技巧派で売り出されたイメージも影響しているのかもしれないが、彼女は今流行の難関コンクールの優勝組ではない。つきまとうイメージはさておき、耳を澄ませて聴けば、彼女のピアノは実に繊細で優雅なものであることがわかる。派手なカデンツァの煌びやかな技巧に耳を奪われがちだが、むしろ緩徐楽章などの抒情的な旋律の歌わせ方や、透明な音色、ごく細部まで神経の行く届いた細やかなニュアンスなどに、女性的な繊細さと美に対する憧れが描かれていてとても素晴らしい。リストのこの曲は随所に散りばめられたカデンツァがどうしても目立ってしまうが、ppの美しさもなかなかのものである。
もちろん、超絶技巧もなんのその、サラリと弾きこなす技巧面も素晴らしい。音の粒立ちがキレイで早いパッセージにもさりげない抑揚が施されているなど、技巧的であると同時に表現力の幅も広い。ただ、瞬間瞬間の技巧や表現だけでなく、曲全体の弾ききったときの印象に、独特のスケール感があることは、以前から聴くたびに感じていた。大陸的というのは大袈裟だが、ヨーロッパ的な大地に根を張ったような大らかさがある。実はアリスさんのピアノは、音量はそれほど大きい方ではない。コンクール出の若手のようにガンガン弾くタイプではないのだ。全体重を乗せたffであっても大音量ではないのに、繊細なppとの対比や、キレのあるアクセントと抑揚、転がるようなリズム感、曲全体の構造的なまとめ方など、表現の幅が広いために、器の大きい、懐の深さを感じさせるのである。
今日の演奏で言えば、第1楽章冒頭のカデンツァこそ和音が濁ってモヤーッとしていたが、これはオーケストラとのタイミングを合わせようとした結果かもしれない。音色に関しては曲が進む内に解消し、第2主題の提示以降は、まったく音の濁りはなくなった。第2楽章の主題の美しい旋律にいたっては、粒の揃ったキレイな音が紡ぎ出されて、よく歌っていた。それに寄り添うように付いてくるオーケストラが少々重い。第3楽章に至っても、オーケストラが重めで、ピアノの後から付いていく感じ。オーケストラがもっと突っ込んだ演奏をして、ピアノを煽っていくくらいの方が緊張感が高くて良いのではないだろうか。
アンコールでアリスさんが弾いたショパンのノクターン嬰ハ短調〈遺作〉は、前述のように、彼女の繊細な面が強調された素敵な演奏だった。「ショパン ワルツ全集」のCDに収められている演奏よりも、協奏曲の後の興奮冷めやらぬといった緊張感が残っていて、素晴らしかった。
オーケストラの演奏についても一言。飯森さんの指揮は、拍をハッキリ刻む振り方をしているのに、全体的にリズム感が重く、推進力が感じられないタイプ。メリハリがあってアンサンブルも合っているのに、どこか音楽に身を委ねられないようなもどかしさを、何度聴いても感じてしまうのだ。まあ、それだ飯森さんの個性ということで…。一方の東京交響楽団だが、今日はあまり良い出来とは言えなかったようだ。弦楽は最後まで濁り気味だったし、ホルンは音程が不安定、クラリネットやオーボエは平板な印象。管と弦の音量バランスもあまり良くない(もちろん金管が大きい)。全体の印象は、音のフレーズをつないで、重ねている感じで、ひとつの音楽としてのまとまりのようなものを体感できなかった。
ということなので、後半のマーラーの「巨人」に関しては,多くを語らないようにしよう。非常な熱演だったとは思うが、1時間を長く感じたのも事実。マーラーというのは本当に演奏が難しいのだろうと思う。オーケストラの各パートも大変そうだが、指揮者もあまり気張らずに、イン・テンポでリズム良く演奏する方が良いかも…。
演奏会の後は、恒例のサイン会があった。アリスさんにはCDのジャケット中面にサインしていただいた。彼女はサインも実に大らか。演奏と同じ印象のサインです。飯森さんにしプログラムにサインしていただいた。演奏が終わったばっかりなのに、汗を拭き拭き、すぐにサイン会を始めてくれるなど、本当に真面目でイイ人です。CD買わないでスミマセン。
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2011年1月6日(木)19:00~ サントリーホール S席 2階 LB4列 9番 7,000円
指 揮:飯森範親
ピアノ:アリス=紗良・オット*
管弦楽: 東京交響楽団
【曲目】《リスト生誕200年&マーラー没100年》
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調*
《アンコール》ショパン: ノクターン 嬰ハ短調〈遺作〉*
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調 作品92「巨人」
東京交響楽団の第585回定期演奏会は、人気の飯森範親さんがソリストにアリス=紗良・オットさんを招いてのリストのピアノ協奏曲である。アリスさんは先日のNHKニューイヤーオペラコンサートにゲスト出演したばかり。しかもちょうど1年前リリースしたCDがチャイコフスキーとリストのピアノ協奏曲だった。今日はそれがナマで聞けるということで、期待して足を運んだ。
同様の内容で、東京交響楽団の川崎定期演奏会が明日1/7にミューザ川崎であるが、こちらの方はウェーバーの歌劇「オイリアンテ」序曲がブログラムに組まれているが、今日のサイトリーホールでの定期演奏会には、序曲の設定はない。というわけで、ステージには初めからピアノが置いてあった。いきなりの協奏曲スタートで、オーケストラがピタリと合うかどうか、心配なところだ。客の入りも今ひとつ。70%くらいだろうか、空席がかなり目立っていた。
開演時間となり、アリス=紗良・オットさんが予想通りの真っ赤なドレスでにこやかに登場。注意して見てみるともやっばり裸足。昨年聴いたヴァイオリンのパトリツィア・コパチンスカヤさんもドレスに裸足だったが、そのココロはいったい何だろう…。
さて演奏の方はとしいと、結論から言えば、アリスさんのピアノの魅力が最大限に発揮された、素晴らしい演奏だったのに対して、飯森さんの指揮と東京交響楽団の演奏が重く感じられたというところ。まあ、大体予想した通りではあったのだが…。
アリスさんのピアノは、一見すると超絶技巧を売り物にしているように思えてしまう。デビューアルバムがリストの「超絶技巧練習曲集」で、技巧派で売り出されたイメージも影響しているのかもしれないが、彼女は今流行の難関コンクールの優勝組ではない。つきまとうイメージはさておき、耳を澄ませて聴けば、彼女のピアノは実に繊細で優雅なものであることがわかる。派手なカデンツァの煌びやかな技巧に耳を奪われがちだが、むしろ緩徐楽章などの抒情的な旋律の歌わせ方や、透明な音色、ごく細部まで神経の行く届いた細やかなニュアンスなどに、女性的な繊細さと美に対する憧れが描かれていてとても素晴らしい。リストのこの曲は随所に散りばめられたカデンツァがどうしても目立ってしまうが、ppの美しさもなかなかのものである。
もちろん、超絶技巧もなんのその、サラリと弾きこなす技巧面も素晴らしい。音の粒立ちがキレイで早いパッセージにもさりげない抑揚が施されているなど、技巧的であると同時に表現力の幅も広い。ただ、瞬間瞬間の技巧や表現だけでなく、曲全体の弾ききったときの印象に、独特のスケール感があることは、以前から聴くたびに感じていた。大陸的というのは大袈裟だが、ヨーロッパ的な大地に根を張ったような大らかさがある。実はアリスさんのピアノは、音量はそれほど大きい方ではない。コンクール出の若手のようにガンガン弾くタイプではないのだ。全体重を乗せたffであっても大音量ではないのに、繊細なppとの対比や、キレのあるアクセントと抑揚、転がるようなリズム感、曲全体の構造的なまとめ方など、表現の幅が広いために、器の大きい、懐の深さを感じさせるのである。
今日の演奏で言えば、第1楽章冒頭のカデンツァこそ和音が濁ってモヤーッとしていたが、これはオーケストラとのタイミングを合わせようとした結果かもしれない。音色に関しては曲が進む内に解消し、第2主題の提示以降は、まったく音の濁りはなくなった。第2楽章の主題の美しい旋律にいたっては、粒の揃ったキレイな音が紡ぎ出されて、よく歌っていた。それに寄り添うように付いてくるオーケストラが少々重い。第3楽章に至っても、オーケストラが重めで、ピアノの後から付いていく感じ。オーケストラがもっと突っ込んだ演奏をして、ピアノを煽っていくくらいの方が緊張感が高くて良いのではないだろうか。
アンコールでアリスさんが弾いたショパンのノクターン嬰ハ短調〈遺作〉は、前述のように、彼女の繊細な面が強調された素敵な演奏だった。「ショパン ワルツ全集」のCDに収められている演奏よりも、協奏曲の後の興奮冷めやらぬといった緊張感が残っていて、素晴らしかった。
オーケストラの演奏についても一言。飯森さんの指揮は、拍をハッキリ刻む振り方をしているのに、全体的にリズム感が重く、推進力が感じられないタイプ。メリハリがあってアンサンブルも合っているのに、どこか音楽に身を委ねられないようなもどかしさを、何度聴いても感じてしまうのだ。まあ、それだ飯森さんの個性ということで…。一方の東京交響楽団だが、今日はあまり良い出来とは言えなかったようだ。弦楽は最後まで濁り気味だったし、ホルンは音程が不安定、クラリネットやオーボエは平板な印象。管と弦の音量バランスもあまり良くない(もちろん金管が大きい)。全体の印象は、音のフレーズをつないで、重ねている感じで、ひとつの音楽としてのまとまりのようなものを体感できなかった。
ということなので、後半のマーラーの「巨人」に関しては,多くを語らないようにしよう。非常な熱演だったとは思うが、1時間を長く感じたのも事実。マーラーというのは本当に演奏が難しいのだろうと思う。オーケストラの各パートも大変そうだが、指揮者もあまり気張らずに、イン・テンポでリズム良く演奏する方が良いかも…。
演奏会の後は、恒例のサイン会があった。アリスさんにはCDのジャケット中面にサインしていただいた。彼女はサインも実に大らか。演奏と同じ印象のサインです。飯森さんにしプログラムにサインしていただいた。演奏が終わったばっかりなのに、汗を拭き拭き、すぐにサイン会を始めてくれるなど、本当に真面目でイイ人です。CD買わないでスミマセン。
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