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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/12(月)読響サントリー名曲/コジュヒンのラフマニノフP協2番とシナイスキーの「火の鳥」

2014年05月15日 23時34分45秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 第571回サントリーホール名曲シリーズ

2014年5月12日(月)19:00~ サントリーホール S席 1階 3列 20番 4,180円(会員割引)
指 揮: ワシリー・シナイスキー
ピアノ: デニス・コジュヒン*
管弦楽: 読売日本交響楽団
ゲストコンサートマスター: 長原幸太
【曲目】
グリンカ: 歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲
ラフマニノフ: ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18*
《アンコール》
 グルック/ズガンバーティ編:『オルフェオとエウリディーチェ』から「メロディ」*
ストラヴィンスキー: 「プルチネルラ」組曲
ストラヴィンスキー: 「火の鳥」組曲(1919年版)

 読売日本交響楽団の「サントリーホール名曲シリーズ」を聴く。読響は4月からが新シーズン(2014/2015)で、本シリーズは8月を除く年間11回、12月は第九演奏会になるという、お得感のあるシリーズだが、読響は定期シリーズの種類が多すぎるため、同じ内容のコンサートがシリーズをまたがって異なる会場で行われることが多い。そのため、複数のシリーズの会員になると、かなりのコンサートがダブってしまう。コンサートの出来がいつも同じとは限らないが、それでも同じ内容のコンサートを何度も聴くというのは、特別の場合を除いては避けたいところだ。本シリーズの4月の公演は、「みなとみらいホリデー名曲シリーズ」と同じだったのでそちらを聴き、サントリーはパスした。5月の公演は、今日と一昨日の5月10日の「東京芸術劇場マチネーシリーズ」と同じ内容である。
 今回のマエストロは、ロシアの巨匠、ワシリー・シナイスキーさん。読響には2007年、2011年に続いて3度目の客演となる。実は前回の客演の時も「サントリーホール名曲シリーズ」に登場し(2011年7月25日)、半分は今日と同じ『ルスランとリュドミラ』序曲とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ソリストはアレクセイ・ゴルラッチさん)というプログラムであった。得意の曲目ということだろうか。
 ゲスト・ソリストは何かと話題のデニス・コジュヒンさん。1986年ロシアの生まれで、2010年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝、注目を集めた。今回の来日では、読響への客演だけでなくリサイタルも開かれる(5月20日/紀尾井ホール)。今のところ聴きに行く予定はないのだが、チラシには「『若きリヒテル』と称される天才ピアニスト」等と謳われていて、ちょっと気になる存在である。

 1曲目はグリンカの歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲。オペラの序曲としても、コンサート序曲としても、景気づけに最高の曲だが、オーケストラ側から見れば1曲目にはちょっとハードかもしれない。今日のシナイスキーさんはかなり高速のテンポで、楽しさを演出している。第1主題のヴァイオリンの高速の旋律は、まあアンサンブルがピタリとまでは行かなかったが、かなりノリの良い調子で飛ばしていた。第2主題はチェロが活き活きとした表情で、これも快適なイメージ。またティンパニも派手に打ち鳴らしていた。まずは快調な滑り出しと行ったところだ。

 2曲目はラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番」。いよいよコジュヒンさんの登場だ。黒の詰め襟のコスチュームで、金髪を後ろで結んだスタイルで登場。背が高くスラリとしているが華奢な感じではなく、しなやかなイメージの青年である。
 曲が始まる。今日の席は3列目のセンター、鍵盤の延長線上あたり。手の動きも見えるが、ピアノの底から出てくる金属的な雑味の混ざった音が大きく聞こえてしまうのが残念。彼は若い男性らしい、キレの良い強い打鍵で、音量も大きい。馬力のある読響がどれだれ鳴らしても、ピアノの音は明瞭に聞こえてくる。いや、聞こえてきすぎるくらいだ。オーケストラの第1主題の際のピアノの分散和音も、硬質な鋼のようなサウンドで、オーケストラに溶け込むことはない。はっきりとした主張をもっている感じだ。ピアノによる第2主題は、幾分柔らかいタッチでロマンティックな旋律を歌い出す。しかし甘美な曲想に負けることなく、キリッとした音色でクールな演奏を貫いていく。やや速めのテンポに上がった展開部などは、緊張感と推進力に満ちた、力感溢れるものだった。
 第2楽章は弱音が続く緩徐楽章なので、ピアノの音もスッキリとクリアに聞こえる。そうなると、コジュヒンさんのピアノのまた別の面が見えてくる。オーケスラにしっとりと溶け込む分散和音の美しさ。主旋律を弾く右手は、フルートやオーボエと対話するようにしなやかだ。余分な感傷を交えない、クールな印象と同時に、その影から見え隠れするロマンティシズムは、男性的であり、ロシア的であるようにも思える。
 第3楽章は、主にオーケストラ側が抒情性を強く前面に出し、ピアノは冷めた頭脳で音楽を忠実に再現しているようにも感じられた。両者が合体すると、ちょうど良い具合にロマンティックな曲が仕上がるというわけだ。いずれにしても、シナイスキーさんもかなり早めのテンポで推進力のある演奏をしており、ピアノはそのままで超絶技巧的なイメージが強く出て来てしまう。音が大きく聞こえるのは聴いている席のせいもあるので、余計に技巧的なイメージが強くなってしまったのかもしれない。もちろん、機能的な意味での超絶技巧を見せているだけではなく、その中に隠し味のように細やかなニュアンスが埋め込まれている。素晴らしい演奏だったことに間違いはないだろう。
 コジュヒンさんのアンコールは、グルック/ズガンバーティ編の『オルフェオとエウリディーチェ』から「メロディ」。興奮を沈静化させるような淡々とした演奏に、会場全体が息を飲む。コジュヒンさんは単なるヴィルトゥオーソではないようだ。繊細に澄んだ音色であった。

 後半はまず、ストラヴィンスキーの「プルチネルラ」組曲。ストラヴィンスキーの、いわゆる新古典主義時代の作品で、もとはバレエ音楽として作曲された。イタリアの古いオペラ作曲家ベルゴレージ(1710~1736)の作品を素材にして、近代的な手法をもって古楽をアレンジした(後にベルゴレージの素材ではなかったことが判明した)。バレエ音楽としての初演が1920年、その後、その中から8曲の演奏会用組曲に再編成したものが、今日のプログラムである。また、さらにこの中から6曲をヴァイオリンとピアノのために編曲した「イタリア組曲」は、ヴァイオリンのリサイタルでもしばしば採り上げられるので、ヴァイオリン好きの私にとってはコチラの方が聴く回数が多い。
 管弦楽用組曲といっても、もとのバレエ音楽の時点から、室内オーケストラ規模のちょっと凝った小編成になっている。具体的にいうと、フルート2(ピッコロ持ち替え)、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット1、トロンボーン1、独奏弦五部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス各1)、弦五部(第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン4、ヴィオラ3、チェロ3、コントラバス3)。指揮者を取り巻いて弦楽4部の首席がソロをとり、2列目からが二人ずつという配置。このような小編成になると、いつもの馬力のある読響とはまったく違ったアンサンブルが聞こえてきたものである。
 演奏の方は、室内合奏団にような緻密なアンサンブルが素晴らしい。とくに弦楽は5名のトップ奏者がそれぞれソロで聴かせる際の室内楽的な緊密度になり、それでいて演奏者たちが実に楽しそうである。全体としては早めのテンポ設定になるのだろうか、軽快でリズム感がよく、バロック的な清涼感がある。クラリネットがない分だけ、オーボエとフルートが目立つことになるが、質感の高い演奏でこれに応えていた。一方、ホルンは軽快なテンポについていけずに、音程が不安定に終始したのが残念であった。また、いかにも新古典主義らしく全体の音量を抑えめにして、暖かみのある音色にまとめていたところも見事である。普段の読響のイメージとはちょっと違った、優しい演奏であった。

 最後は、ストラヴィンスキーの「火の鳥」。つい先月(2014年4月25日)、日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会では山田和樹さんの指揮で「火の鳥」全曲版を聴いたばかり。今日演奏されるのは、1919年版の組曲である。確かに「火の鳥」はもともとバレエ音楽なので、バレエの視覚的要素に伴うストーリー展開を追っていくのなら長い全曲版でも良いのだろうが、コンサート用の曲目としては、冗長に感じられる部分もある。それに対して、演奏会用組曲は、コンパクトにまとめられていて、楽曲自体の緊張感が高い。ただしオーケストラの方も2管編成に縮小されているので、カラフルな色彩感は幾分抑えられてしまう。
 シナイスキーさんの指揮は、意外にも肩の力の抜けた、全体的にまろやかなものであった。これは終盤のクライマックスの爆発的な演奏に向けて、かなり抑制的に演奏させていたのだろうと思う。「序奏」の弦楽の重々しい雰囲気も抑えめで、オーボエやフルートも抑え気味(ただし良い音は出していた)。「火の鳥の踊り」と「火の鳥のヴァリアシオン」は、リズミカルでキレの良い演奏。これはコンサートマスターの働きも大きかったように思えた。「王女たちのロンド」は何といってもオーボエの主題が情感たっぷりに歌い、ミュートを付けた弦楽のアンサンブルが優しく包み込む。木管群と弦楽のふわりとしたアンサンブルが、情景描写的で素敵だった。シナイスキーさんの采配で、読響から絵のような美しいサウンドを引き出していた。「魔王カスチェイの凶悪な踊り」では、金管が抑制から解放され吠え始めるといつもの読響らしくなるが、ここでも弦楽を始め、全体に抑制がかけられ、それによって全合奏時とのダイナミックレンジが大きくなり、エネルギー量の違いが鮮やかな対比を描いていた。3列目で聴いていると、やはり大太鼓とシンバルが鳴ると強い音圧を感じて、他の楽器が聞こえなくなってしまうほどの迫力である。「子守歌」は切れ目なく演奏された。再び抑制された音楽になり、弦楽を中心に美しいアンサンブルを聴かせる。ファゴットの怪しげな主題と、不協和な和声をキレイに響かせていた。「終曲」は読響らしい爆音が轟き、大音響で幕を閉じた。
 今日の「火の鳥」は全体の構成もバランスもしっかりしていて、とても良かったと思う。シナイスキーさんの采配はなかなか見事で、「魔王カスチェイの凶悪な踊り」と「終曲」を除いては極めて抑制的に演奏することで、弦を初めとする演奏の質感を高水準に引き上げていたと思う。木管群からも金管群からも色彩的に鮮やかな音色を出させていて、音楽を絵画的に美しく表現するのに成功していた(ホルンがちょっと・・・・)。総じて、素晴らしい演奏だったと思う。

 もうひとつ気づいたこと。今日のコンサートマスターはゲストの長原幸太さんだった。6年にわたり大阪フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを務めていたが2012年3月で退団、今年2014年の10月から読響のコンサートマスターに就任することが決まっている。その流れで今日の客演ということだが、キレの良い演奏スタイルと自信に満ちたステージ上での振る舞いが好印象。読響の弦楽セクションがぐいぐい引っ張られていく感じがよく出ていた。「プルチネルラ」では、ソロも聴かせてくれたし、第2ヴァイオリン首席(契約)の瀧村依里さんとのデュオ部分では、硬軟を対比させつつキレイなアンサンブルを聴かせてもくれた。長原さんは1981年生まれの若さだが、経験も豊富の実力派だけに、瀧村さんらと合わせて、読響に新しい風を呼び込んでくれそう。この後、5月17日の「定期演奏会」と6月30日の「大阪定期演奏会」にもゲスト出演し、正式に就任後は、10月8日の「メトロポリタン・シリーズ」、9日の「定期演奏会」、11日の「みなとみらいホリデー名曲シリーズ」に出演する予定らしい。その時の指揮はスタニラフ・スクロヴァチェフスキさんである。コンサートマスターは4人体制になるが、ダニエル・ゲーデさんと日下紗矢子さんは海外組なので出番が少なそう。長原の出演するコンサートを聴く機会は多くなりそうだ。読響は複数のシリーズの会員になっているので、今後の演奏に期待できる要素が増えたことは大変嬉しく思う。

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