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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/28(土)「チェロの日」遠藤真理&川久保賜紀/長谷川陽子&須関裕子/チェロの魅力がいっぱい

2015年02月28日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第5回「チェロの日」
~チェロと仲良くなる日/チェロと仲良くなるコンサート


2015年2月28日(土)15:00~ サントリーホール・ブルーローズ 自由席 最前列中央 4,000円(学生2,500円)
《第1部》
 チェロ: 松波恵子
 ピアノ: 川村文雄
【曲目】
 ポッパー: ハンガリアンラプソディ 作品68
 フォーレ: エレジー 作品24
 シューマン: 民謡風の五つの小品 作品102
 メンデルスゾーン: 無言歌 ニ長調 作品109
《第2部》
 チェロ: 遠藤真理
 ヴァイオリン: 川久保賜紀
【曲目】
 エルガー: 愛の挨拶
 グリエール: 8つの小品作品39より「ガボット」「子守唄」「練習曲」
 ラヴェル: ヴァイオリンとチェロのための二重奏より第1、2楽章
 ヘンデル/ハルヴォルセン編: パッサカリア
《第3部》
 チェロ: 長谷川陽子
 ピアノ: 須関裕子
【曲目】
 ラフマニノフ: チェロソナタ ト短調 作品19

 日本チェロ教会の主催する「チェロの日」というコンサートに初めて参加した。そのキャッチコピーがスゴイ。「世界はチェロで出来ている」というのだ。この一言にチェリストの皆さんのチェロを愛する気持ちが集約しているようだ。日本チェロ協会は、「アマを問わず広く一般のチェロ愛好家を会員とし、チェリストの親睦を図るとともに、チェロの楽器としての発展性を探ることを目的」とした団体で、会員は268名(2014年9月現在)になるという。その活動の1つに、「チェロの日」コンサートの開催というのがある。
 今回で第5回となる「チェロの日」は、今日と明日の2日間、サントリーホールのブルーローズで開催され、1日目は「チェロと仲良くなるコンサート」と題して、会員であるプロのチェリストによるリサイタル形式のコンサートが開かれる。2日目は「チェロでひとつになるコンサート」と題して、若手演奏家の無伴奏リサイタルと、総勢60名に及ぶ「チェロ・オーケストラ」の演奏がある。

 さて、チェロの音楽にはあまり詳しくはないが、今日のコンサートのお目当ては、《第2部》の遠藤真理さんと川久保賜紀さんによるデュオの演奏と、《第3部》の長谷川陽子さんと須関裕子さんによるラフマニノフである。そしてもちろん、聴くなら良い席で聴きたいので、自由席であったため開場の1時間ほど前に行ってみたら2番目であった。通常、クラシックのコンサートで自由席の場合は、開場の30分くらい前から並び始めるものだが、今日は出足が早い。実際に30分前には20名くらいに増えていて、開場時刻には50~60名にはなっていた。今日の公演は完売ではなく、当日売りもあった割りには熱心な人が多く来ていたということなのだろう。会場に入ってみると、ステージを長辺の方に設ける「横使い」の配置になっていて、2番目の入場だったから正面センターの席を確保することができた。本来は前の方の席は「学生席」になっていたのだが、「同伴1名まで可」ということだったので、偶然にも中学生の子と一緒に来ていて助かった。というわけで、実際には「一般1名」+「同伴学生」だったわけだが・・・・・。

 コンサートはフリーアナウンサーの田中裕子さんのナビゲートで進められた。
 《第1部》はチェロの松波恵子さんとピアノの川村文雄さんのデュオで、チェロの小品が演奏された。松波さんは斎藤秀雄門下生で、1975年から1992年まで新日本フィルハーモニー交響楽団の首席チェロ奏者を務めた人。現在は後進の指導の方に重きを置いているということである。
 1曲目はポッパーの「ハンガリアンラプソディ」。ホッパーはチェコのチェリストで、チェロのクライスラーとか、チェロのサラサーテとか呼ばれた名人。チェロのための楽曲を多く残した。松波さんの演奏は、とても端正で、しっかりとした造形を持っている。オーケストラや室内楽の豊富な経験が物語る、正確で揺るぎない印象の演奏だ。音色にもクセがなく、素直で透明感がある。
 フォーレの「エレジー」では、比較的抑揚の少ない淡々とした調子のチェロが、悲哀感を醸し出していた。全体を支配する抑制的な雰囲気が、ベテランの味わいである。
 シューマンの「民謡風の五つの小品」では、第1曲の変拍子の演奏などは教科書的というか、チェロを勉強中の子たちのお手本になるような演奏。第2曲の子守歌は逆に教科書的すぎるような印象で、もっと自由でロマンティックな表現も可能なような気がした。第3曲の方が抒情的に歌っていた。重音が多用される中間部などかなり技巧的な曲である。第4曲は弾むような曲想に明瞭な音色が活きていた。第5曲は最もシューマンらしさが現れているかもしれない。ロマンティックな要素と苦悩との葛藤がチェロによく現れていた。
 最後はメンデルスゾーンの「無言歌」。チェロとピアノの二重奏として書かれた曲である。明るく抒情的な主題にふっとよぎる翳りが見える辺りがメンデルスゾーンならでは。松波さんのチェロは、あくまで端正に、楽曲の性格をストレートに表現していたと思う。

 《第2部》は、ヴァイオリンの川久保賜紀さんとチェロの遠藤真理さんによるデュオ。普通はこの順に紹介されるのだが、今日のプログラムには逆の順になっていた。もちろん今日は「チェロの日」なのだから、主役はあくまで遠藤さんの方である。賜紀さんは昨日、仲道郁代さんとのデュオ・リサイタルを聴いたばかりで、2日続けて賜紀さんのヴァイオリンが聴けるのは嬉しい限りだが、逆に2日続けてだからこそ分かる違いもある。今日は全体的に主役のチェロを引き立てるように、賜紀さんのヴァイオリンがややトーンを控え目にしていたように感じられた。何しろ、昨日も今日も最前列の正面というポジションは変わらないので、そうしたニュアンスの違いを感じたものである。
 プログラムは、ヴァイオリンとチェロのデュオということになるとお馴染みの曲ばかり。というよりは、あまりデュオの曲がないのである。もう2年近く前のことになるが、2013年7月に秦野市文化会館というところまでお二人のデュオ・リサイタルを聴きに行った際、その日の曲目に、今日の曲が全部含まれていた、というくらいである。
 エルガーの「愛の挨拶」は編曲上、低音部のチェロが伴奏になり、ヴァイオリンが主旋律を担う。お二人の演奏はいつものように息の合ったもので、阿吽の呼吸で実に和やかな室内楽の雰囲気を醸し出していた。今日の演奏では賜紀さんのヴァイオリンがやや抑えめで、伴奏でシンコペーションのリズムを刻むチェロの音が明瞭に浮かび上がっていた。美しい主旋律に耳を奪われがちに曲であっても、伴奏がはっきりとした役割を持っているのでということを教えてくれるような演奏である。
 グリエールの「8つの小品 作品39」は、ヴァイオリンとチェロの数少ない二重奏曲の名曲で、8曲からなる小品集だが、今日演奏される3曲は、とくにお二人にとっても演奏しやすい(演奏していて違和感のない)曲なのだそうだ。とはいう3曲ともまったく性格の異なる曲想である。「ガボット」はバロック時代の舞曲風の優雅な主部とトリオ部には東洋的な旋律を散りばめた曲。対位法的に構造が二重奏で形作られる。賜紀さんのヴァイオリンの角のないエレガントな音と遠藤さんの溌剌として明るい音色がうまく咬み合っていた。「子守唄」は揺りかごを揺らすようなチェロが低音を支え、その上名弱音器を付けたヴァイオリンが弾く夢見心地の旋律が浮遊感を漂わせる。遠藤さんのチェロが柔らかい音色でゆらゆらと演奏され、賜紀さんのヴァイオリンは子を慈しむ母親の微笑みのように優しい。「練習曲」はヴァイオリンもチェロも無窮動的に駆け巡ったりピツィカートが多用されたりと、技巧的な意味での「練習曲」に近い。まあ、いかなる超絶技巧の曲でもこのお二人ならなんのその、というわけでピッタリと息の合ったところを聴かせてくれた。
 ラヴェルの「ヴァイオリンとチェロのための二重奏」は、できれば全楽章を演奏していただきたかったところだが、今日は第1楽章と第2楽章のみである。ロマン派と現代の中間的な性格が強く表れていて、難解といえばかなり難解。演奏も難しそう。第1楽章は比較的演奏される機会があるようで、聴く機会も多い。チェロ・パートが高音域に及ぶとヴァイオリンと同音域に入ってきたり、不協和音も多いし豊かに響き合う部分もある。お二人の演奏は音色を近づけるように工夫しているのだろうか、音域が近づいてくるとほとんど区別がつかないくらいに音が混ざり合い響き合う。逆に音域が離れるとチェロがチェロらしく、ヴァイオリンがヴァイオリンらしい音色に戻って明瞭に分離してくる。何度も演奏していればこそできる駆け引きということなのだろう。第2楽章はピツィカートの応酬から始まる。スケルツォ楽章に相当するというものの、第1楽章よりは前衛的な曲想となる。この難曲に対してもお二人は息の合ったところを十分に発揮して、メリハリを強めに効かせた躍動的な演奏を聴かせてくれた。
 最後は、ヘンデル/ハルヴォルセン編の「パッサカリア」。ご承知のようにハルヴォルセンの編曲はヴァイオリンとヴィオラのために書かれたものだが、むしろヴァイオリンとチェロで演奏される機会の方が多いのではないだろうか。チェロはヴィオラより音域がオクターブ低いので、奥行き感が深くなり立体的に聞こえるようになる。パッサカリアという変奏曲形式のため、様々な演奏技法による超絶技巧もあり、幅広い表現力も求められる難曲である。演奏はピタリとアンサンブルを合わせた素晴らしいものであった。ヴァイオリンとチェロが織りなす和音の重厚感も見事だし、早い技巧的なパッセージの時の賜紀さんのレガートの効いた流れるようなリズム感、遠藤さんのガッチリとした構造感も素晴らしい。
 賜紀さんの演奏は、昨日のヴァイオリン・ソナタの時とは違い、今日はチェロとピタリと合わせて融合させるような感覚であるように思えた。仲良しの遠藤さんとのデュオでもあるし、「チェロの日」ということもあったのだろう。それでも素晴らしい演奏であったことに変わりはない。

 《第3部》は長谷川陽子さんと須関裕子さんによるデュオで、ラフマニノフのチェロ・ソナタ全曲。長谷川さんは、実はこれまであまり聴く機会がなかった(そもそもチェロを単独に聴くことが少ないせいもある)。昨年の「せんくら2014」では企画コンサートで、菊池洋子さんのピアノとの共演で、ベートーヴェンの「『見よ勇者は帰る』の主題による12の変奏」と、賜紀さんのヴァイオリンを加えてベートーヴェンのピアノ三重奏曲「大公」の第1楽章を聴いた。過去にも何度か聴いたことがあるような気はするが、はっきりとは覚えていない。だから今日、最前列の手が届きそうな真正面で、しかもラフマニノフのチェロ・ソナタという重量級の曲を聴くことができるのは非常に楽しみにしていた。しかもピアノはここサントリーホール館長にして日本チェロ協会会長の堤剛先生の信頼も厚い須関さんである。ますます期待が高まってくる。
 第1楽章、ゆったりとした序奏から長谷川さんのチェロが豊かな音量で、艶やかに鳴り出す。ソナタ形式の主部に入り、第1主題がが軽快なAllegroで流れ出す。その音色は基本的にはお名前の通り、陽性で翳りがない。リズム感もキレが良く、極めて躍動的。メリハリのはっきりした明瞭な演奏である。そして何より、この曲を完全に消化しきっていて、演奏を楽しんでいる様子さえ見える。全体に感じる生命力と瑞々しい質感は、さすがに日本のトップ・クラスのソリストのもので、非常にハイ・レベルという印象を受けた。また長谷川さんの背中を見る位置でピアノを弾いている須関さんも、ピリッと引き締まったリズム感と比較的柔らかいタッチの澄んだ音色、とくに和音が美しく躍動的で、長谷川さんを背中から押していく。強烈な個性を押し出すタイプではないが、むしろこの透明感が彼女の個性となっている。
 第2楽章はスケルツォ。スケルツォ主題では須関さんピアノにも一段と力感が漲り、弾むイメージも高くなっていく。長谷川さんのキレ味抜群のピツィカートとガリガリっという低音も実に活き活きとしている。トリオ部の抒情的な主題が出てくるとチェロがカンタービレを効かせて大らかに歌い出し、ピアノがキラキラと煌めきを撒き散らしながら絡まっていく。この対比がとても鮮やかだ。どちらかといえばハンサム・ウーマンっぽい長谷川さんの大らかさと、須関さんの繊細さも素晴らしいコントラストを描き出していた。
 第3楽章は緩徐楽章。ピアノによる序奏はいかにもラフマニノフらしい感傷的なもの。こぼれ落ちるロマンティシズム。そこに乗ってくるチェロが弾く主題の美しさといったらどうだろう。長谷川さんのチェロは大きく歌い、甘く切なく心を震わせる。男性が弾くときの野太い感傷とも違い、また女性的な甘ったるさというわけでもない。切ない感傷も甘いロマンティシズムも内に秘めて、オモテに出てくるのは爽やかで大らかな抒情性。陽性の色合いの中に封じ込められた感情が、曲の本質を突いているような気がした。須関さんのピアノも、チェロのバックでは控え目ながら、ソロになると煌めきを増してきて、こちらはどちらかといえば繊細なガラス細工のイメージで、また違うタイプの抒情性を描いている。
 第4楽章は、ソナタ形式の壮大な楽章。ラフマニノフの得意なパターンで、第1楽章が躍動的なソナタ形式では、第2主題は緩徐楽章のようなロマンティックな旋律が現れる。チェロによる第2主題とさの展開をオーケストラだとすれば、ピアノは協奏曲のように複雑な和声の分散和音でバックに回っている。チェロの伸びやかさとキラキラとした音がいっぱい詰まったピアノが鮮やかに絡み合っている。展開部のダイナミックなクライマックスを経て、再現部で第1主題が帰ってくる辺りの推進力と躍動感は感動ものだ。第2主題の再現は涙を誘うほどの美しさ。チェロが途切れる一瞬、ピアノが光が射すように輝く。今日はあくまで長谷川さんが主役で、脇に回った須関さんは控え目にしていたが、時折合間を縫ってパッと輝きを見せる。それも強すぎず、弱すぎずの程良い感性であるところが好ましい。テンポを上げたコーダの突進力も素晴らしく、グングンと盛り上げていってのフィニッシュ。直後にBravo!!の声が飛んだ。

 初めて聴いた「チェロの日」であったが、小ホールのブルーローズで開催する室内楽コンサートのイメージでいたら、実際には盛りだくさんな内容で2時間30分に及ぶ、とても充実したコンサートになっていた。「チェロと仲良くなるコンサート」という副題もついているように、確かにチェロの魅力を存分に楽しむことができたと思う。ヴァイオリンやピアノと同様に、チェロも置くが深そうな楽器だ。凝りだしたら止まらなくなりそうで、ちょっとコワイ感じもするが、これからはチェロを聴く機会が増えていきそうな予感が・・・・。

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