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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/2(日)N響オーチャード定期/アンドリス・ポーガ+南紫音でブルッフのVn協奏曲を快演

2013年06月05日 00時51分54秒 | クラシックコンサート
NHK交響楽団 第74回 オーチャード定期

2013年6月2日(日)15:30~ Bunkamuraオーチャードホール S席 1階 7列 21番 6,000円(実質2列面)
指 揮: アンドリス・ポーガ
ヴァイオリン: 南 紫音*
管弦楽: NHK交響楽団
【曲目】
ブラームス: 悲劇的序曲 作品81
ブルッフ: ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26*
《アンコール》
 イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 作品27-2 より第1楽章*
チャイコフスキー: 交響曲 第4番 へ短調 作品36

 NHK交響楽団のオーチャード定期の2012/2013シーズンの第4回。今シーズンはチャイコフスキーの後期3大交響曲を採り上げて来て、昨年2012年10月の第71回の時はルイ・ラングレさんの指揮で「悲愴」を聴いた。今年2013年3月第73回では第5番が演奏されたがその回は都合が悪くて行けなかった。今日の第74回では第4番である。
 もうひとつの聴き所は(実はコチラが本命なのだが)、南 紫音さんの久しぶりの本格的な協奏曲、しかもブルッフの第1番である。実は南さんが本格的な演奏活動をするようになってから、初めてブルッフを弾いたのを聴いている。2009年9月、大宮ソニックシティ大ホールで、飯森範親さんの指揮、日本フィルハーモニー交響楽団のさいたま定期演奏会であった。その時の演奏も意外とリアルに覚えてはいるが…、もう4年近くも前のこと。今日の演奏では桁外れなくらい格段の進化を遂げていた、と言っておこう。

 今回の指揮者、アンドリス・ポーガさんは、1980年生まれというから33歳。写真で見るイメージと少々違って(失礼)かなり若い。巨匠ヤンソンスさんと同じラトヴィアの生まれで、2011年からパリ管弦楽団の副指揮者、2012年からはボストン交響楽団の副指揮者という地位に就いている。昨年2012年に初来日し、仙台フィル、新日本フィル、京都市響を指揮していて、今回が2度目の来日でN響。来年の4月には再び新日本フィルのサントリーホール定期シリーズに登場する予定だ。日本でも着実に実績を作ってきているようだ。

 さて1曲目はブラームスの「悲劇的序曲」。この曲は個人的にどうもうまく馴染めない。どこかつかみ所がない感じがして、昔からあまり積極的には聴かない曲なのである。したがって、ほとんど聞き流してしまった。ポーガさんの音楽はストレートで淀みなく、適度にメリハリも効いていて、いかにも若手く成長株といった元気さがある。好感度も高い。

 2曲目は南さんのブルッフ。弦楽を12型に縮小、今日のコンサートマスターはまろ様こと篠崎史紀さん。余裕たっぷりの表情でオーケストラを捌く。自らドレスのデザインもするという南さん、今日は紫のドレスで登場した。そしてそのお姫様のようなキャラから飛び出す演奏は、これがまた絶品である。
 第1楽章はやや遅めのテンポで始まった。やがてヴァイオリンが主題を提示する。久しぶりに聴く本格的な協奏曲のソリストとして、オーケストラ(しかもN響!)と完全に互角に渡り合っていた。といっても別にガチンコ勝負的な演奏だったという意味ではない。
 立ち上がりの鋭い演奏、つまり1拍目をカリッと明瞭に弾くことで、曲全体がくっきりと鮮やかな印象に包まれる。音量もたっぷり豊かで、ヴァイオリン協奏曲としてはちょうど良いバランスである。かなり大きな音を出しているはずだが、音に荒れたところがなく、例えば低音部の強奏部分でも音色はあくまでしなやかであった。
 また同時に感じられたのは、経過部分などの細かなひとつひとつのフレーズも、しっかりと解釈されたニュアンスで描き出されていたこと。歌うところは歌い、走るところは走る。オーケストラや指揮者に対しても憶することなく、また遠慮も感じられなかった。
 第2楽章の抒情的な緩徐楽章では、弱音の美しさに一段の進化を感じた。奥の深いオーチャードホールの後方の席でどう聞こえたかは知るよしもないが、2列目の目の前で聴いている限りでは、繊細なppの際の緊張感の高い音の質は見事なもので、会場が息を飲んで耳を澄ませるようになる。緩徐楽章も音を通すために強めに演奏することもあるが、今日はあえて弱音で勝負、おそらく南さんの勝ちである。
 第3楽章はテンポが上がって、ヴァイオリンがエネルギッシュに走りだす。かなり突っ込んだカリッとした音色で、明瞭でクッキリとした造形で主題を打ち出す。ポーガさんのドライブするN響も生きの良いリズム感で、けっこうダイナミックに押し出してくる。両者のやりとりがなかなかスリリングで緊張感が高い。この第3楽章は、疾走感とドラマティックな盛り上がりが大切だ。要するにキレ味が鋭くないと、もっさりした音楽になってしまうのであるが、今日の演奏はそんなマイナス要素が一切なく、若いソリストと若い指揮者が老練なオーケストラを駆り立てていくような演奏であった。とくにコーダに入ってからの緊張感と躍動感は素晴らしく、数多く聴いたブルッフの中でもトップクラスの快演であったといえる。
 南さんの演奏は4年前とは比べるべくもない素晴らしいものだ。大きく変わったのが全身の使い方。演奏中、身体を回転させる幅が90度くらいに広くなった。上げ弓のとき、下げ弓のとき、それぞれに弓と同じ方向に回転したり、逆方向に回転したりと、楽想に合わせて異なる動きを見せる。それが音色に鋭い緊張を持たせたり、優しいふくらみを持たせたりするのである。ブルッフの協奏曲は、ヴァイオリニストの皆さんは子供の時から弾いているはず。それほど難しい方の曲ではないだけに、下手をすると面白味のない演奏になってしまう(そういう演奏もたくさん聴いた)。ところが今日の南さんは、楽曲を完全に自分のものにしていたように感じられた。技巧とか、解釈とか、表現とかがどうのこうのという段階ではなく、それらが一体となって、南さんの中から迸り出てくるような感じ。音楽と音楽家がひとつになった演奏だったといって良いだろう。見た目は相変わらずチャーミングなお姫様キャラだが、音楽家としての中身は本物である。もちろんBraaava!!

 南さんのアンコールは、イザイの無伴奏ソナタ第2番の第1楽章。グレゴリオ聖歌のモチーフが多声的に構成される難曲で、ブルッフより遙かに難しそう。しかこの無伴奏、これがまた見事と言う他はない、超絶技巧的にもかかわらず、多彩な音色を使い分けた非常に豊かな演奏であった。

 後半は、チャイコフスキーの交響曲第4番。聴く側の私としては前半のブルッフで緊張感を使い果たしてしまったので、後半はまたまた聞き流す感じで終わってしまったので、簡単な記述にとどめたい。
 ポーガさんの音楽作りは、とても真っ直ぐで、嫌らしさがなく、清々しいものだ。まず、リズム感が良い。これはパリ管の上司(?)であるパーヴォ・ヤルヴィさんに似ている。ヤルヴィさんが鋭いリズム感と引き締まったアンサンブルなら、ポーガさんは躍動的なリズム感とダイナミックなアンサンブルといった感じだ。推進力がいっぱいで、前へ前へと進んでいくような音楽である。テンポの揺らし方などもクセが無く、素直。いかにも若い指揮者という感じで、屈託が無くて良い。その分、チャイコフスキーの秘めたる悲しみのようなものは希薄になってしまうが、まあ第4番だからそれでも良いのだと思う。
 N響の方も、若い指揮者に合わせて元気の良い演奏を聴かせてくれた。いつものようにちょっと気取った感じ…があまりなく、第4楽章などはイケイケドンドンで大音響を轟かしていた。最後の大太鼓の音で、2列目の座席が揺れたように感じたくらいである。いや、絶対に揺れた!
 アンドリス・ポーガさんはなかなか魅力的な指揮者だ。また聴く機会があれば、是非聴いてみたいと思う。

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