Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/14(水)ウィーン・シュトラウス祝祭管+小林沙羅/笑いと手拍子がいっぱいのひたすら楽しい新年のバカ騒ぎ

2015年01月14日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラ
ニューイヤー・コンサート 2015 with 小林沙羅


2015年1月14日(水)19:00~ サントリーホール S席 1階 2列 20番 7,700円(会員割引)
指揮&ヴァイオリン: ペーター・グート
ソプラノ: 小林沙羅
管弦楽: ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラ
【曲目】
ヨハン・シュトラウスII:「トリッチ・トラッチ・ポルカ」作品214
ヨハン・シュトラウスII: ワルツ「春の声」作品410
喜歌劇『こうもり』より「侯爵様、あなたのようなお方は」*
ヨハン・シュトラウスI: ギャロップ「若人の情熱」作品90
ヨハン・シュトラウスII:「皇帝円舞曲」作品437
ヨーゼフ・シュトラウス: ポルカ・シュネル「おしゃべりなかわいい口」作品245
ヨーゼフ・シュトラウス: フランス風ポルカ「鍛冶屋」作品269 小芝居
エドゥアルト・シュトラウス: ポルカ・シュネル「急行列車」作品112 グート笛を吹く
フランツ・レハール:喜歌劇『メリー・ウィドウ』より「ヴィリアの歌」*

リヒャルト・ホイベルガー: 喜歌劇『オペラ舞踏会』序曲
ロベルト・シュトルツ:「プラター公演は花ざかり」作品247* 歌曲
ヨハン・シュトラウスII: ワルツ「美しく青きドナウ」作品314 小編成なのでイメージが違う。
ヨハン・シュトラウスII: フランス風ポルカ「クラップフェンの森で」作品336 キス フクロウ 鳥の声 小芝居
ヨハン・シュトラウスII: ポルカ・シュネル「狩り」作品373 ムチで鉄砲の音
フランツ・レハール: 喜歌劇『メリー・ウィドウ』より「メリー・ウィドウ・ワルツ」
フランツ・レハール: 喜歌劇『ジュディッタ』より「熱き口づけ」* 間奏で踊りあり
《アンコール》
 フランツ・レハール: 喜歌劇『ジュディッタ』より「熱き口づけ」* リピートはなし。急遽?
 ヨハン・シュトラウスII: ポルカ・シュネル「雷鳴と電光」作品324 手拍子
 ジーツィンスキー:「ウィーン、わが夢の街」* 二番は日本語
 ツイーラー: 「颯爽と」 手拍子 ウェーブ
 ヨハン・シュトラウスI: 「ラデツキー行進曲」作品228 手拍子 客席へ降りてくる 子供の指揮

 日本人はニューイヤー・コンサートが大好きである。そしてニューイヤー・コンサートといえば、ウィンナ・ワルツ&ポルカのパターンと、ドヴォルザークの「新世界から」のパターンとに分かれる。ウィンナ・ワルツ&ポルカのタイプは、世界の数十カ国で生中継放送されるご存じウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに端を発したものだろう。底抜けに陽気で、オメデタイ感じが、日本のお正月にもピッタリで、外来のオーケストラも、日本のオーケストラも1月の前半はここぞとばかりにワルツ&ポルカのコンサートを開く。とくに本場ウィーンから「ウィーン」の名の付くオーケストラが毎年いっぱい来日しているので、気になったのでちょこっと調べてみた。といっても手元のチラシの山の中から拾い出してみたのだが・・・・。

●ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団(1/1、1/2、1/3、サントリーホール)
●ウィンナ・ワルツ・オーケストラ(1/3、1/4〈2回〉、東京オペラシティ、1/7、相模女子大、1/18横浜みなとみらいホール)
●ウィーン・リング・アンサンブル(1/6、サントリーホール)
●ウィーン・オペラ舞踏会管弦楽団(1/7、東京オペラシティ)
●ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団(1/3、横浜みなとみらいホール、1/12〈2回〉、東京オペラシティ)
●ウィーン・オペレッタ管弦楽団/管楽器アンサンブル(1/14、ゆうぽうとホール、1/16、横浜みなとみらいホール)
●ウィーン・サロン・オーケストラ(1/10。東京オペラシティ)
●ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラ(1/14、サントリーホール)

・・・・ざっとこんな感じ。これらの他にもまだあるかもしれない。音楽都市ウィーンにいったい幾つのオーケスラがあるのか知らないが、この状態ではウィーンは空っぽになっているような印象を受ける。上記の内、ウィーン・リング・アンサンブルなどはウィーン・フィルのメンバーたちで構成されているので、毎年ニューイヤー・コンサートを終えると日本にやって来るのである。また、ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団はその名の通りウィーン・フォルクスオーパーのメンバーで構成されているのだが、年末から来日しているわけだから、フォルクスオーパーでは『こうもり』はやらないのかしら・・・・?。
 おそらくは、ハードなクラシック音楽マニアは、この手のコンサートにはあまり行かないと思われる。私も今まではほとんど関心もなくチラシを眺める程度だけだった。・・・・が、今年は「ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラ」のニューイヤー・コンサートに小林沙羅さんが客演するというので、行ってみることにした。沙羅さんもウィーン在住だし、そういう意味では、ウィーンのオペレッタの香りをそのまま伝えてくれそうな気がしたからである。

 「ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラ」の創設者でもあり音楽監督でもあるペーター・グートさんは、ヨハン・シュトラウスIIのようにヴァイオリンを弾きながら指揮をする。かつてはウィーン交響楽団の第1コンサートマスターを務めていたヴァイオリニストであり、「現代において、その様式を最も正統的に踏襲しているシュトラウス奏者だ」というからには、正統派のウィーン気質で、昔のヴィリー・ボスコフスキーのような颯爽とした姿をイメージしていたのだが・・・・・。

 オーケストラは、2管編成の室内オーケストラの規模でしかなく、第1ヴァイオリン7、第2ヴァイオリン3、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス2に加えて、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、トランペット2、トロンボーン1、打楽器1。グートさんを入れてわずか30名である。
 開演前、ステージ上に小編成の椅子が並んでいる。当然指揮台はないが、指揮者の立ち位置の前にパイプ椅子が1脚置いてあり、その上にはヴァイオリンが置き去りにされている。これがグートさんが弾き振りに使う楽器なのだ。普通、高価な(はずの)ヴァイオリンをステージに放り出してはおかないと思うのだが・・・・・。どことなく漂う、ユル~イ雰囲気。

 というわけで、演奏が始まったら、これは・・・・何というか、優雅なウィーン風などでは決してなく、ウィーンの場末の芝居小屋風といったイメージで、ユル~イ感じそのままなのである。「トリッチ・トラッチ・ポルカ」から始まったが、演奏は上手いとは言い難い。音量も人数なりの小ささで、管はまあまあだが、弦楽の頼りないこと。肝心のグートさんの弾き振りでも安っぽい音が聞こえてくる・・・・。想像していたウィーン風の音(ウィーン・フィルやウィーン響などみたいな)でも何でもないぞ、これは。
 ところが、一見して下手っぽいオーケストラだが、妙にユル~イところが実に人間味があって、大変よろしいのである。上手くはないけど、もの凄く慣れている。余裕で演奏しているけど、下手っぽい。ウィーンの音楽文化の底辺の広さというか、懐の深さというか、下町の俗っぽさというか・・・。どうやらウィーン・フィルだけがウィーンの顔だというわけではなさそうだ。最初は聴く方も面食らっていたが、徐々に慣れてくると、この良さが分かってくる。これは正装して聴きに行くような音楽ではなく、ほろ酔い気分で陽気に楽しむような、そんな音楽なのだ、と。日本で真面目に上演しているオペレッタなどより余程コチラの方が面白く、笑う場面が多い。これはもう、コミック・オーケストラだ。

 ヨハン・シュトラウスIIの「トリッチ・トラッチ・ポルカ」で、ヴァイオリンを持ったグートさんが客席に思わせぶりな視線を振りまきながら、弾き振り。いきなのなので聴く側が彼のテンションについていけない・・・。ワルツ「春の声」は歌はなく、オーケストラ版で。小編成のため思いの外メリハリがなく、サロン風(?)。

 続いて沙羅さんが登場し、『こうもり』の「侯爵様、あなたのようなお方は」を歌う。沙羅さんは昨年2014年2月の東京芸術劇場シアターオペラ公演でアデーレを歌ったのを聴いた。今日もオペレッタの舞台よろしく、役柄になりきって表情豊かに歌っていた。コロラトゥーラ系の装飾的な歌唱も軽やかに、楽しげに歌っている。グートさんとの相性も良さそうだ(画像は、昨年2014年7月、フィリアホールでのリサイタルの時のもの)。

 ヨハン・シュトラウスIのギャロップ「若人の情熱」は、軽快なノリで演奏され、グートさんのテンションもますます上がってきた。「皇帝円舞曲」はさすがにじっくりと聴かせてくれる。ウィンナ・ワルツの王道を行く曲だが、普段聴き慣れているフル・オーケストラとはちょっと雰囲気が違うので、これこそがサロン風のワルツ。演奏会用ではなくて、踊りの伴奏にはちょうど良いのかもしれない。
 続いてヨハンの弟のヨーゼフ・シュトラウスのポルカ・シュネル「おしゃべりなかわいい口」。日本のお正月にはワルツよりもポルカの方が肩が凝らなくて良いかもしれない。ラチェットというネジを巻くような音の出る楽器(?)が大活躍する。このあたりからグートさんの仕掛けが効果を発揮してきて、聴いている方も今日のコンサートの「聴き方」が判って来た。要するに「皆で楽しもう!」というノリなのだ。フランス風ポルカ「鍛冶屋」では、打楽器奏者のヴィルヘルム・シュルツさんがステージの正面に出て来て、エプロンを掛けて鍛冶やの小芝居をしながら演奏する。ステージ袖ではグートさんが聴衆を煽って手拍子を促す。
 続いては4番目の弟、エドゥアルト・シュトラウスのポルカ・シュネル「急行列車」。グートさんは帽子を取り出してかぶり、笛を吹きながら指揮をする。笛といっても楽器ではなくホイッスルの方だ。要するに「出発進行~!!」というわけだ。
 再び沙羅さんが登場して、『メリー・ウィドウ』の「ヴィリアの歌」。今年の東京芸術劇場シアターオペラ(2月22日予定)の『メリー・ウィドウ』にも沙羅さんは出演するが、その際はヴァラシエンヌの役なので、ハンナのアリアであるこの曲は歌わない。だからちょっと得した気分である。沙羅さんの歌唱はしっかりとしたフレージングで、情感をたっぷり込めている。高音域もキレイに伸びていた。しかもグートさんの指揮(?)で聴衆のハミング・コーラス付きである。

 休憩中、やはりグートさんのヴァイオリンはステージの椅子の上に置いたまま。ユル~イままである。ホワイエに出てみたら、CDやDVDを売っているコーナーで、何とオーケストラのメンバーが2名、ステージ衣装のままでサイン会を行っている。この緊張感のなさといったら。何ともユル~イ感じのコンサートである。

 後半は、レハールに続いてシュトラウスの後継に当たる作曲家を採り上げている。
 ホイベルガーの喜歌劇『オペラ舞踏会』序曲は、聴いたことがなかった。オペレッタの中の曲がつなぎ合わされて出てくる、まさにワクワク感いっぱいの序曲だ。
 続いては、シュトルツの歌曲「プラター公演は花ざかり」。沙羅さんが衣装を変えて登場する。プログラムの中では唯一の歌曲。ウィンナ・リートである。美しくも感傷的な、とても素敵な曲だ。オペレッタのような陽気で華やかな世界もウィーン風なら、こうしたセンチメンタルな優しさもウィーン風なのだろう。沙羅さんは、ここではしっとりと情感を込めて歌う。ウィーンに住んでみなければ判らない何かがあるのだろうか。自然体のさりげない雰囲気がとても良かった。
 ここでメイン・イベントになってしまう(?)。「美しく青きドナウ」である。やはり小編成なのでイメージが違ってしまうが、いかにも庶民のワルツになってしまっているところがとてもおかしい。ウィーン・フィルとは違って、この曲をアンコールに残しておかないということは・・・・などと余計な詮索をしてしまう。どうやら、このオーケストラにとっては「美しく青きドナウ」は特別な扱いでもないようであった。そういうところも庶民的だ。
 後半も佳境に入ってきて、いよいよグートさんの本領発揮となっていく。ヨハン・シュトラウスIIのフランス風ポルカ「クラップフェンの森で」では、打楽器のシュルツさんがカッコウの鳴き声を出す楽器(何という名だろう)で会場の笑いを誘う。すると第1ヴァイオリンの美しい女性奏者が小鳥の鳴き声でそれに応える。二人は鳥の鳴き声を合図に逢い引き貴をするというストーリーで、やがて舞台の袖で熱い抱擁・・・・という小芝居付き。
 続くポルカ・シュネル「狩り」では、グートさんはろくに指揮をしないてステージ上をウロウロと歩き回り狩りの獲物を探す。ヴァイオリンの弓を鉄砲に見立てて、ムチの音が鉄砲の音になる。なかなか命中しないが、最後には当たって鳥(のぬいぐるみ)が投げ込まれる、といった趣向である。もう完全に、コミック仕立てである。
 終盤になってまたレハールになる。『メリー・ウィドウ』より「メリー・ウィドウ・ワルツ」は、ダニロの名アリア「唇は語らずとも」を主題としたワルツ。ウィンナ・ワルツとはちょっと趣が違うが、ホロリとさせるセンチメンタルな旋律が美しい。グートさんはこの曲でも聴衆を指揮して(?)ハミング・コーラスを加え、会場が一体となって楽しんでいる。
 プログラムの最後は、沙羅さんが4度目の登場で、レハールの『ジュディッタ』より「熱き口づけ」。アデーレやヴァラシエンヌよりは色っぽくで情熱的な役柄。人気のある曲なのでソプラノさんのリサイタルではしばしば聴けるが、オペレッタそのものはまったく観たことも聴いたこともない。聴かせどころの「Meine Lippen,sie küssen so heiß(私の唇は厚い口づけをする)」を歌う沙羅さんも、いつもよりはちょっと色っぽかったかも。また間奏部分ではフラメンコ風の踊りがあり、運動神経の良い沙羅さんがくるくると回る姿は印象的だった。曲も素晴らしく盛り上がるものだし、最後の曲ということもあり、もちろん伸びのある高音が冴え渡った沙羅さんの歌唱も見事だったので、会場は大喝采であった。これはもう、間違いなくBrava!!

 このまま終わりはしないだろうとは思ったが、実はアンコールからがメイン・イベントだったのである。
 まず、「熱き口づけ」をもう1回(ただし繰り返しなしで)。沙羅さんの歌唱が会場の大喝采を呼んだので、おそらく急遽決めたらしい。これは嬉しかった。これこそがアンコール(もう一度)だ。
 続いてお馴染みの「雷鳴と電光」。ところが打楽器奏者が一人、しかも大太鼓がないから、「雷鳴」の部分が迫力不足になってしまう。それを補うのがグートさんの手腕であった。何と聴衆を煽って、この曲で手拍子をさせたのである。しかもそれですっかり聴衆と一緒になってまったく別のイメージの曲に作り変えてしまった。
 そして、沙羅さんをステージに呼び出し、ジーツィンスキーの「ウィーン、わが夢の街」。ウィーンのオーケストラとウィーン在住の沙羅さんならではの、独特の質感・情感が溢れていた。憧れを込めて歌う沙羅さんの声は、透き通っていてとても優しく感じられた。また2番は日本語で歌われたのも、日墺親善(?)で素敵であった。
 それでもまだ終わらず、ツイーラーの「颯爽と」が颯爽と演奏されるかと思いきや・・・・またまた手拍子で盛り上げていくと、今度はオーケストラのメンバーが演奏しながらウェーブ!! そのまま客席を煽って、聴衆までもがウェーブである。クラシックのコンサートでのウェーブは初体験であった。最前列にいた小さな女の子をステージ上に呼び上げて、今度は客席と一緒になって踊り出す。
 まだ終わらない。最後はやっぱり「ラデツキー行進曲。お馴染みの手拍子で終わらせないところがグートさんの真骨頂だ。何と子供に指揮棒を預けてしまうと、自らは手拍子を指揮しながら客席へ降りてくる。沙羅さんが続き、何とオーケストラのヴァイオリンの人たちも降りてきてしまった。客席を1周回ってステージに戻っていった。万雷の拍手の中、カーテンコールが続いた。

 もう、何が何やら・・・・でもこれほど笑ったコンサートは初めて。ウィーンから来るオーケストラのニューイヤー・コンサートとして思い描いていたものとは、まったく違う、ドタバタ喜劇のようなコンサートではあったが、ひたすら楽しく、思いっきりよく笑った。初めて聴いた「ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラ」はこんな感じであったが、他のウィーンのオーケストラはどうなのだろう。それぞれに流儀があり、特徴のあるコンサートを展開しているのだろうか。たまにはこういったコンサートに行くのも良いものだ。来年あたりからクセになったりして・・・・。

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