Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/20(金)新国立劇場/三島由紀夫の「鹿鳴館」再演/改めて観るクオリティの高い日本のオペラ

2014年06月23日 01時10分25秒 | 劇場でオペラ鑑賞
新国立劇場創 歌劇「鹿鳴館」(全4幕/日本語上演/字幕付)

2014年6月20日(金)18:30~ 新国立劇場・中劇場 B席 1階 18列 71番 7,560円(会員セット券)
指 揮: 飯森範親
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱: 新国立劇場合唱団
原 作: 三島由紀夫
上演台本: 鵜山 仁
演 出: 鵜山 仁
作 曲: 池辺晋一郎
企 画: 若杉 弘
【出演】
影山悠敏伯爵: 与那城 敬(バリトン)
同夫人・朝子: 腰越満美(ソプラノ)
大徳寺侯爵夫人・季子: 谷口睦美(メゾ・ソプラノ)
その娘・顕子: 幸田浩子(ソプラノ)
清原永之輔: 宮本益光(バリトン)
その息子・久雄: 鈴木 准(テノール)
女中頭・草乃: 与田朝子(メゾ・ソプラノ)
宮村陸軍大将夫人・則子: 鵜木絵里(ソプラノ)
坂崎男爵夫人・定子: 池田香織(メゾ・ソプラノ)
飛田天骨: 早坂直家(俳優)

 新国立劇場の前芸術監督であった故・若杉弘さんの発案により、新国立劇場主催で池辺晋一郎さんに作曲が委嘱され、2010年に世界初演された『鹿鳴館』が帰って来た。2013/2014シーズン・オペラとしての再演である。今回は6月19日・21日と20日・22日でダブル・キャストによる4回公演である。
 私は初演の際、2010年6月25日に鑑賞している。オペラの成り立ちは、台本も音楽も演出も美術も衣装もまったく同じプロダクションなので、作品の紹介に関しては4音構えの初演の時の記事を参照していただくと良いかもしれない。今日のキャスティングも4年前の時と同じ人が多く出演していて、その分安定感もあり、全体的なクオリティの高い上演になっていたと思う。

 今回は再演なので、観るといってもストーリーを詳細に追う必要もなかったし、演出面がどうなっているか、隅から隅まで目を凝らして見つめる必要もなかった。また、出演している方々の歌唱や演技にばかり気を取られることもなかった。では何を観ていたのか、聴いていたのかというと、オペラ『鹿鳴館』の全貌を体験的に感じ取ってみたかったのである。


第1幕から。大徳寺侯爵夫人・季子(谷口睦美さん/左)とその娘・顕子(幸田浩子さん)

 まず第一に感じたのは、作品としてのクオリティが一段と凝縮していることだ。とくに音楽が良い。序曲の時点から音楽面の緊張感は極度に高く、聴く者を一気にオペラの世界へ引き込んでいく。池辺さんの音楽が実にシャープな感覚に満ちていて素晴らしいのである。調性も曖昧で、リズムも変則的。いわゆる現代音楽のテイストだが、決して前衛的なモノではなく、適度に抒情的で、それでいて甘さがない。指揮者は飯森範親さん。2010年の初演は沼尻竜典さんだった。飯森さんの、どちらかというと剛直で堅牢な音楽作りが、本作品の現代音楽風の曲想にマッチしていて、メリハリの効いた演奏に終始した。管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団だが、オペラ演奏としてはやはり上手い。濃厚な音色でクオリティの高い演奏をするのに、歌唱に合わせる柔軟性があり、素晴らしい演奏を聴かせていた。演出面も初演と同じだが、美術・装置にもかなり費用をかけていて、質感の高い舞台を創り上げている。舞踏会などの動的なシーンにはダンサー集団が動きを体現して、登場人物(歌手)と役割を分担するところなど、いかにも最新のオペラ演出という感じがして、キレ味がよい。


第2幕から。影山悠敏伯爵夫人・朝子(腰越満美さん/左)と清原永之輔(宮本益光さん)

 次に気がついたことは、これは初演の時も感じた、いわばこの作品に対する根本的な課題にあたることになるが、戯曲の台詞をそのまま歌唱の歌詞にしていることへの違和感である。池辺さんがプログラム・ノートにハッキリと書いているので、あくまで「演劇的」なオペラ作りを目指したことは分かっている。三島由紀夫の戯曲『鹿鳴館』をオペラ化するにあたり、原作の台詞を活かす方針で、オペラ台本に翻案はしていない。ただ長いものをオペラの尺におさまるように部分的にカットしているだけだ。芝居の台詞をそのまま音楽に乗せるために、むしろ音楽の側を演劇的な時間軸の中に置いている。そのことにより、どう聴いても歌唱的ではない歌唱になったしまう。もちろんこれは狙ってしていることなので、聴く側の私たちがそれを批判したところで無意味ではある。日本人による日本語の現代語オペラにもかかわらず、字幕装置が用意されていることでも、そのこだわりは分かる。むしろこの実験的な手法に対する積極的な評価をすべき所なのだろう。聴く側が受け入れる用意さえあれば、この試みはうまくいけば、多くの戯曲作品のオペラ化を可能にする。はたして、実際の所、どうだろう・・・・。


第4幕から。影山悠敏伯爵(与那城 敬さん)と同夫人・朝子(腰越満美さん)

 今回、『鹿鳴館』の再演を観て、基本的には楽しめたと思う。私はこういう日本オペラの現代作品はけっこう好きな方なので、楽しめるが、ただしそれには「演劇的」なオペラ作りという観点をしっかりと持たないと、聴いていてちょっと辛い感じがする。オーケストラのパートは極めて音楽的(現代的な)なのに対して、オペラのメインとなる歌手たちによる歌唱の部分が音楽的とは言い難いからだ。このような作品がどんどん作られることには賛成だ。日本のオペラ制作も世界の中にあって、しっかりとした成果を上げていると思う。ただ、市場性という点ではどうであろうか。新国立劇場だから再演できるのであって、中劇場も満席にはなっていなかったようだ・・・。日本のオペラなんて所詮邪道だと思っている人、海外の高額なオペラばかりをありがたがる人、現代音楽の嫌いな人・・・・。けっこう敵は多いかも。

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