Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/30(金)ソヒエフ+ベルリン・ドイツ交響楽団/神尾真由子のメンデルスゾーンVn協奏曲は・・・

2015年10月30日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
2015-2016 海外オーケストラシリーズ
ベルリン・ドイツ交響楽団


2015年10月30日(金)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 16番 16,000円
指 揮: トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン: 神尾真由子*
管弦楽: ベルリン・ドイツ交響楽団
【曲目】
シューベルト: 劇音楽『ロザムンデ』序曲 D644
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64*
《アンコール》
 エルンスト: シューベルトの「魔王」による大奇想曲 作品26*
ベートーヴェン: 交響曲 第7番 イ長調 作品92
《アンコール》
 モーツァルト: 歌劇『フィガロの結婚』序曲

 東京芸術劇場の「開館25周年/芸劇フェスティバル」の一環として開催され「2015-2016 海外オーケストラシリーズ 」の内容が極めて充実している。この秋に開かれる3回のコンサートは、本日の「ベルリン・ドイツ交響楽団」(ゲスト・ソリストは神尾真由子さん)、11月12日の「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」(同、ユジャ・ワンさん)、11月19日の「フランクフルト放送交響楽団」(同、アリス=紗良・オットさん)という豪華な顔ぶれで、どれも絶対に聞き逃せないレベルの公演だ。一方サントリーホールで開催されているKAJIMOTOの「ワールド・オーケストラ・シリーズ2015」は4回の公演で、すでに終わっている6月4日の「ハンブルク北ドイツ放送交響楽団」(同、アラベラ・美歩・シュタインバッハーさん)9月28日の「ロンドン交響楽団」(同、マレイ・ペライアさん)に続いて、11月3日の「ベルリン・ドイツ交響楽団」(同、ユリアンナ・アヴデーエワさん)、11月13日の「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」(同、ユジャ・ワンさん)と、こちらも素晴らしい陣容だ。ベルリン・ドイツ響とロイヤル・コンセルトヘボウ管がダブっているが曲目が違うのでそれぞれはずせない。フランクフルト放送響はJAPAN ARTSの招聘なのでサントリーホールでもコンサートがあるし、同じ時期に11月4日には「フィンランド放送交響楽団」(同、諏訪内晶子さん)、11月26日~29日には「ラハティ交響楽団」のシベリウスの交響曲ツィクルスなんてのまである。協奏曲好きの私にとって、11月は外来オーケストラのラッシュで大忙しになりそうだ(ほとんどの公演でソリスト間近の席を確保してある)。

 さて今日は、芸劇で「ベルリン・ドイツ交響楽団」である。率いてきたのは音楽監督のトゥガン・ソヒエフさん。世界中のオーケストラからオファーがかかる若手の人気指揮者で、フランスの「トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団」の音楽監督としての来日公演(2009年2012年2015年)「NHK交響楽団」の定期公演(2013年)への客演などを聴いているが、いずれも高評価、素晴らしい演奏であったと記憶している。今回は2012年から音楽監督を務めているベルリン・ドイツ響との来日なので、これまでのフランス風の色彩感豊かな演奏に対して、ドイツのオーケストラでドイツ系の曲目をどのように指揮するのか、興味津々であった。ゲスト・ソリストはお馴染みの神尾真由子さんで曲目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲である。今日の席も協奏曲狙いで、最前列のソリスト正面。神尾さんに手が届きそうな距離感である。

 1曲目はシューベルトの『ロザムンデ』序曲。ちょっと渋めの分厚い弦楽で始まり、オーボエが優しく歌う。ヴァイオリンが息の長い歌謡的な主題を、今度は澄んだ音色のアンサンブルで聴かせる。曲が長調に転じて明るく晴れやかな曲想になると、霧が晴れたような明るい色彩の音色に変わる・・・・。聴いている席の関係で、コンサートマスターのヴァイオリンの高音が少し耳に付いたが、それ以外は極めてバランスの良い音楽だという印象だ。一昨日のチェコ・フィルも同じような位置で聴いているのに、今日はは木管の音がよく聞こえる。ホールの違いなのか、演奏の違いなのか・・・・。全体にフランスのオーケストラのような絵画的なカラフルさはないが、純音楽としての質感の高さはなかなかのものである。

 2曲目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。一昨日は庄司紗矢香さんとチェコ・フィルの演奏で同じ曲を聴いている。神尾さんはこの曲を演奏するのはもう50回くらいを数えるという。毎回違ったアブローチで取り組んでいるということだが、今日は・・・・。
 第1楽章。解釈し尽くされたこの曲は、かえって難しく感じるものらしい。冒頭の主題から・・・・先鋭的な入り方で、哀愁・感傷・浪漫といったイメージではない。ところがかつてのようなスピード感のある攻撃性があるわけでもなく、何だか音が尖っているだけのようにも感じられた。第一、音程が少し不安定で、聴いていても座りが悪いというか、居心地の良くない音楽になってしまっている。展開部からカデンツァにかけても、ギリギリと音が尖り、少々荒っぽい。全体の構成も落ち着かず、それぞれのフレーズがバラバラの印象だ。
 第2楽章は前半は落ち着きを知り戻し音程も安定してきたが、クライマックスを迎える辺りから音が荒れ出してくる。音に潤いがなく、艶もない。楽器が十分になっていないのに無理に歌わせようとしている印象だ。
 第3楽章も無理をして弾いている感じで、殺伐とした演奏に思えた。低音は尖り、高音は引きつり、乾いた音、リズムに乗りきれないもどかしさが、イライラした音楽を創り出していく。オーケストラ側が抑制的でマイルドな音色で端正に仕上げていただけに、ソロ・ヴァイオリンが荒々しく浮き上がってしまう。さすがにこれは良い演奏とはいえないのではないだろうか。曲が終わればBravo!がとびかっていたが、何でもかんでもBravo!と叫べば良いというものでもないだろう。私にはとてもBravoな演奏とは思えなかった。

 神尾さんのソロ・アンコールは、エルンストの「シューベルトの『魔王』による大奇想曲」。こんな調子の時に何もこれほどの超絶技巧曲をアンコールに持ってくることはないのに・・・・。神尾さんの意地だろうか。

 神尾さんの演奏もずーっと聴き続けてきたので、その変化のプロセスもよく分かっているつもりだ。チャイコフスキー国際コンクールで優勝した前後は常に攻撃的で、オーケストラとガチンコ勝負といった勇ましい協奏曲が多かった。その後徐々にクールな音楽に変わってきて究極の美音を追求しているような、ひたすら美しい音色に収束していった。結婚されてからは音楽が優しく温かくなったが、出産後は練習不足からか調子を落としてしまった。最近はやや上り調子で、期待していたのだが、今日のように音程も不安定でフレージングにもリズム感がないと、解釈や表現以前に、やはり練習不足なのではないだろうかと思ってしまう。もちろん、お金を払って聴きに来ているからといって「いつでもどこでも名演奏を聴かせてくれなければイカン」などと言うつもりはないので、彼女を非難することは決してしない。次の演奏会で、素敵な演奏を聴かせて欲しいと思うだけである。

 後半はベートーヴェンの「交響曲 第7番」。いよいよドイツのオーケストラでのソヒエフさんのお手並み拝見というところだ。
 第1楽章。長い序奏の部分はあまりもったいを付けずに速めのテンポで快調な滑り出し。それでもダイナミックレンジは広いし、フルートやオーボエの質感の高い音色とバランス感覚で、なかなかフレッシュな出だしだ。ソナタ形式の主部に入ると中庸からやや遅めテンポを採り、あまりリズムを強調するような感じではなく、旋律のフレージングを丁寧に作りながら、端正で品良く仕上げて行くのは、いかにもソヒエフさんらしい。提示部のリピートはなく、展開部はちょっとまったりとしてしまったが、再現部に入ると造型がしっかりとしてきて、純音楽らしい佇まいとなった。若い指揮者にありがちな勢いで突っ走るようなところは微塵もなく、ひとつひとつの音符にまで丁寧でしっかりとした構造感を打ち立てている。反面、あまりドラマティックではなく、躍動感も少ない。
 第2楽章では主題をしっかりと演奏させているのが特徴的。弦楽が徐々に厚くなっていくプロセスなどは大きな山を構築していくような安定した構造感を打ち出す。オーケストラの各パートをキチンとコントロールしていて、実に自然で豊かに響くアンサンブルである。また木管群が実に質感の高い音色と演奏で、碧の森の中の風や小鳥のさえずりのような、自然な色彩感で描かれていて、基本的な演奏レベルの高さが感じられた。
 第3楽章のスケルツォは、快調なリズム感が前に出て来て。比較的メリハリを効かせるようになる。これは第4楽章への布石であろうか。ここへ来て「リズムの権化」が顔を見せだしたといった印象だ。中間部ははやる気持ちを抑えて、テンポを遅めにしていく。クライマックスへの盛り上げ方も、抑制的な雰囲気を残しつつドラマティックだ。
 第4楽章は「リズム」がいよいよ主役に躍り出る。それでもテンポはあまり早くしない。だから勢いで突っ張るような前のめりの感じではなく、アフタービートのリズムで後ろから背中を押すようなイメージで、端正で抑制的な面を崩さない。だから構造感は揺るぎない。終盤に向けてフガート風に盛りあげで行く辺りは流れるように勢いが生まれてくるが、それでもこの曲のフィナーレとしては落ち着きのある方に入ると思う。ちょっと惜しいと思ったのは、ティンパニがずっとわずかに遅れ気味であったために、躍動感が多少損なわれたところだろう。時折何やら濁音の混じったうなり声のようなものが聞こえてくるのは、ソヒエフさんだろうか。

 アンコールはモーツァルトの『フィガロの結婚』序曲。こちらは素晴らしい演奏。早めのテンポを抜群のリズム感で引っ張って行くような感じで、ヴァイオリンなども立ち上がりの鋭い演奏で、キレ味が良い。聴いている者の期待感をかき立てるような、心弾む演奏だ。これは間違いなくBravo!!である。

 今日のベルリン・ドイツ響のコンサートは、期待していた神尾さんのメンデルスゾーンはいささか難ありだったが、ソヒエフさんの指揮とオーケストラはなかなかまとまりが良かったと思う。ソヒエフさんらしい、端正で上品な音楽作りは、ドイツのオーケストラからはドイツ的な造型の堅牢さを引き出している。もちろんオーケストラ側にもともと備わっている特質もあるとは思うが、ソヒエフさんの指揮は常に抑制的でクールさを失わない。ひとつひとつの音符やフレーズを丁寧に描き、アンサンブルをしっかりと積み重ねる。気がついてみれば、オーケストラの音色は美しく澄んでいて、音楽にはフレッシュな瑞々しさ、生命力のようなものも感じられる。老成しているようで、やはり若い。なかなか魅力的な指揮者である。

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1 コメント

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神尾真由子さん (Kaz)
2015-11-11 20:41:10
私も同感です。音程が不安定でちょっと残念でした。

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