Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/17(土)ボローニャ歌劇場「清教徒」デジレ・ランカトーレとセルソ・アルベロでベルカントの魅力爆発!

2011年09月19日 01時51分39秒 | 劇場でオペラ鑑賞
ボローニャ歌劇場 来日公演2011『清教徒』
TEATRO COMUNALE di BOLOGNA/TOURNÉE in GIAPPONE 2011 "I Puritani"


2011年9月17日(土)15:00~ 東京文化会館・大ホール S席 1階 7列 4番 54,000円
指揮: ミケーレ・マリオッティ(ボローニャ歌劇場正指揮者)
管弦楽: ボローニャ歌劇場管弦楽団
合唱: ボローニャ歌劇場合唱団
演出: ジョヴァンナ・マレスタ
照明: ダニエーレ・ナリディ
衣装・美術: ピエラッリ
【出演】
アルトゥーロ: セルソ・アルベロ(テノール)
エルヴィーラ: デジレ・ランカトーレ(ソプラノ)
リッカルド: ルカ・サルシ(バリトン)
ジョルジョ: ニコラ・ウリヴィエーリ(バス)
エンリケッタ: ジュゼッピーナ・ブリデッリ(メゾ・ソプラノ)
ヴァルトン卿: 森 雅史(バス)
ブルーノ: ガブリエーレ・マンジョーネ(テノール)

 今年期待のオペラ公演、ボローニャ歌劇場の来日公演の2演目目はベッリーニの『清教徒』だ。いわずと知れたベルカント・オペラの傑作。主役となるアルトゥーロ(テノール)とエルヴィーラ(ソプラノ)は超高音域と超絶的な技巧を要求される超難役であり、名作オペラでありながら、出演者を選ぶ、歌いきれる歌手がいなければ上演できない演目だともいえる。今回のボローニャ歌劇場の来日公演では、この『清教徒』がいわばメイン・イベントに当たるはずである。そしてこの難役を最も得意としている稀代のテノール、フアン・ディエゴ・フローレスの直前のキャンセルによって、期待感ガラガラと音を立てて崩れていった。私の場合は、デジレ・ランカトーレさんの大ファンであり、彼女を目当てに2度行くことにしていたので、ショックも2倍だった。というのも、本公演、ボローニャ歌劇場の『清教徒』は同プロダクションの2009年公演がDVD化されており、その中でのフローレスの超高音の美声が、本物がナマで聴けると楽しみだったからである。直前のキャンセルによって急遽代役となったセルソ・アルベロさんだが、結論を先に言ってしまえば、こちらはフローレスにまったく引けを取らない美声と高音域を持っていて、会場の大喝采を浴びることになった。

 そもそも今日の『清教徒』は、昨夜の『カルメン』と、これが同じ指揮者、同じ歌劇場の公演かと耳を疑うばかり、次元の違う上演だったといえる。まず、オーケストラ。音が全然違って、今日は最初からイタリア・サウンド全開。艶やかで伸び伸びとしたホルン、角のないまろやかな音色のトランペット、木漏れ日の森を吹き抜ける風のようなフルートとクラリネット、鳥や動物の息遣いのようなオーボエとファゴット。スッキリして明るい音色の弦楽。すべてが歌謡的で流れるようなレガート、人の呼吸のように旋律が歌うのである。

 指揮者のミケーレ・マリオッティさんも今日の演奏はオーケストラのコントロールがしっかりとできていて、いかにもイタリア・オペラっぽい晴れやかな演奏をする。1979年生まれの32歳という若さでこの名門歌劇場の正指揮者になるだけのことはある。やはりオペラをよくご存じのようで、勘所が素晴らしく、豊潤で躍動的、生命力に満ちた本場物の演奏を聴かせてくれた。
 またさらに、合唱も素晴らしかった。立ち上がりの鋭い瞬発力があり、もちろんハーモニーの美しさは言うに及ばず、オーケストラやソリストたちとの音量バランスが絶妙で、堂々たる存在感を示していた。皆が皆、昨夜とは大違いであった。

 さて肝心の歌手陣についてだが、まずエルヴィーラ役のランカトーレさん。イタリアのオペラ界で一番好きなソプラノさんであり、彼女の来日公演は皆勤賞を継続中である。彼女の公演を伴う公式来日は今回で7回目となる。2007年1月、初来日のベルガモ・ドニゼッティ劇場公演「ランメルモールのルチア」、2007年4月のスロヴェニア国立マリボール歌劇場公演「ラクメ」、2008年4月のリサイタル、2009年7月リサイタル、2010年1月のベルガモ・ドニゼッティ劇場公演「愛の妙薬」2010年4月の東京・春・音楽祭でリッカルド・ムーティ指揮の「カルミナ・ブラーナ」、そして今回のボローニャ歌劇場公演だ。
 ランカトーレさんの超高音域の美声とコロラトゥーラの技巧の素晴らしさは、オペラ好きの中に知らない者はいないだろう。イタリアの若手ソプラノの中では圧倒的な存在感で、世界中の一流歌劇場に、常に主役または主役級で出演している。陽気なキャラクターとチャーミングなステージ捌きで、見る者を皆笑顔にしてしまう。



 さて今日はステージに登場して歌う旅に拍手とBrava!をもらっていたが、中でも「狂乱の場」はすごかった。ベルカントのアリアには、カデンツァがあったりする。「狂乱の場」の後半のカバレッタは、高音の伸びも鋭く、ゆったりしたヴィブラートと節回しが聴かせてくれ。繰り返し後の2回目がカデンツァになり、コロラトゥーラの装飾的な歌唱、それもアドリブというか、ランカトーレさんのオリジナル装飾も付いているようだ。その輝かしい歌声、楽器のように世界国刻む半音階の上がり下がり、息を飲むような超絶技巧である。しかも彼女の場合は、ネイティブのイタリア語が明瞭で、「う~む、これぞベルカント!」という感じ。世界のトップクラスの歌唱を「どうだ!」といわんばかりに見せつけられた。他の場面でも、登場して歌うたびに最後は高音を聴かせ、万雷の喝采をあびていた。オペラの途中、どんなに悲しいシーンであっても、拍手に応え、にっこり笑って聴衆に挨拶してしまう。これができるのはランカトーレさんくらい。人気の源が彼女のこうした陽気なキャラクターにある。

 そしてフローレスの代役で登場したセルソ・アルベロさん。この人がまた素晴らしい!! ハイCどころかハイFまででるという。どちらかというと丸顔で優しそうな、人の良さそうな顔立ちで、ややポチャ系の体格。誠実そうな人柄が感じられ好感度が持てる。ノーブルで甘い歌声も、角がなく滑らかで、素敵だ。そして高音域の素晴らしさ。声量もたっぷり、技巧も抜群。超高音域連発のアルトゥーロを見事に歌いきった。この人の登場は、今回の『清教徒』にとって完全にプラスに作用したと思う。まだ若手だと思うが、これから頭角を現していくに違いない。
 もうひとりの重要人物、リッカルド役も代役で、ルカ・サルシさんが歌った。敵役になるバリトンが、なかなか艶のある良い声で、存在感を主張していた。やはりイタリア・オペラは、ソプラノ、テノール、バリトンが揃わないと面白味がなくなってしまうが、歌唱力があるだけでなく、サルシさんは目元がキリッと引き締まった端正な顔立ちで、敵役ながらとてもカッコイイのである。怖い目をして役柄に徹していたが、カーテンコールの時の笑顔は良い人そのもので、この人もいっぺんに好きになってしまった。
 ちなみに今日のカーテンコールは長かった。聴衆はこの素晴らしいオペラ上演を心から称えていたと思う。お義理や一部のマニアの人だけでない大勢の人からBravo!の声が鳴り止まなかった。何度も何度も幕が上げられ、スタンディングで称えられて、出演者たちの嬉しそうな笑顔…。今日の公演は大成功だった!

 繰り返しになるが、今日の『清教徒』は、昨夜の『カルメン』とは大違いで、ボローニャ歌劇場の底力を見せつけるカタチになった。いかにも明るく陽気な音色なのに引き締まってドラマティックな演奏をするオーケストラ、瞬発力のある合唱、そして超絶的な個人技をこれでもかとばかりに繰り出してくるソリストたち。イタリア・オペラの、ベルカントの神髄がそこにあった。スペイン出身のルカ。サルシさん以外は、ほとんどがイタリア人という、ネイティブな上演だ。今年2011年6月のメトロポリタン歌劇場来日公演でベルカントの傑作、ドニゼッティの『ランメルモールのルチア』が上演されたが、その時は指揮者のジャナンドレア・ノセダさん以外は、ソリストもオーケストラも合唱もほとんどがイタリア人ではなかった。それはそれで国際的な一級品のオペラだったが、今日の『清教徒』は完全なイタリア・ローカル。伝統的なネイティブなベルカント・オペラを心ゆくまで堪能できた。さすがのものである。おかげでフローレスのキャンセル問題なんかどこかへ吹っ飛んでしまった。これだからオペラは止められないのである。

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