Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/14(木)ベルガモ・ドニゼッティ劇場 来日公演 デジレ・ランカトーレの「愛の妙薬」

2010年01月14日 23時50分49秒 | 劇場でオペラ鑑賞
ベルガモ・ドニゼッティ劇場 来日公演「愛の妙薬」ガエターニ・ドニゼッティ作曲(都民劇場主催公演)
2010年1月14日(木)18:30~ 東京文化会館・大ホール A席 1階 1列 19番 23,000円
指 揮:ステーファノ・モンタナーリ
管弦楽:レベルガモ・ドニゼッティ劇場管弦楽団
合 唱:ベルガモ・ドニゼッティ劇場合唱団
演 出:フランチェスコ・ベロット
衣 装:クリスティーナ・アチェティ

アディーナ:デジレ・ランカトーレ
ネモリーノ:ロベルト・イウリアーノ
ベルコーレ:マリオ・カッシ
ドゥルカマーラ:マッテオ・ペイローネ
ジャンネッタ:ディアナ・ミアン

 先週に引き続き、ベルガモ・ドニゼッティ劇場の引っ越し公演。もうひとつの演目「愛の妙薬」である。「椿姫」は●●だったが、やはりご本家のドニゼッティを待ちわびていた。というのは、何といってもデジレ・ランカトーレさんの魅力に尽きる。
 実はランカトーレさんの来日公演は今のところ皆勤賞である。彼女の公演を伴う公式来日は今回で5回目となる。2007年1月、初来日のベルガモ・ドニゼッティ劇場公演「ランメルモールのルチア」のタイトル・ロール(東京文化会館大ホール)、2007年4月のスロヴェニア国立マリボール歌劇場公演「ラクメ」のタイトル・ロール(東京文化会館大ホール)、2008年4月のリサイタル・ツアー(紀尾井ホールでのリサイタルがNHK-BSで放送された/紀尾井ホール/東京文化会館大ホール)、2009年7月リサイタル・ツアー(アントニーノ・シラグーザさんが同行/東京オペラシティコンサートホール)、そして今回の「愛の妙薬」である。ちなみに、この次は2010年4月の東京・春・音楽祭でリッカルド・ムーティ指揮の「カルミナ・ブラーナ」に出演する予定(当然聴きに行きます)。東京オペラシティのリサイタルの時は終了後にサイン会があり、DVDにサインをもらい、ついでに握手していただいた(*^_^*)
 ランカトーレさんの魅力は何といっても高音の美しさ。コロラトゥーラの技巧は世界でもトップクラスの若手ソプラノさんだ。パレルモ生まれの33歳。イタリア語はネイティブなので巻き舌がチャーミングだし、ドイツ語やフランス語も美しく発音する。「ランメルモールのルチア」のタイトル・ロール、「ばらの騎士」のゾフィー、「魔笛」の夜の女王、「ホフマン物語」のオランピア、「ラクメ」のタイトル・ロールなど、彼女の得意とするレパートリーをみればわかるように、どれも高音の高い技巧が求められる難役ばかりだ。とはいえ、元気いっぱいの陽気なキャラクターは、オペラ・ブッファにびったりだろう。


 さて本日の公演についてレビューしよう。ドニゼッティ劇場は2007年の「ルチア」から3年ぶりの来日で、先日の「椿姫」ではオーケスラが●●だったが、今日はどうだろうか。ちょっと心配だった。ところが…。
 今日の指揮者はステーファノ・モンタナーリさん。もちろん知らない人だ。今日は指揮者の真後ろの1列目だったので、指揮ぶりがよく見えたのだが、キレのあるタクトさばきでリズムを正確にオケに伝えるかと思えば、全身を大きく使ってフレーズを十分に歌わせる、実に素晴らしい指揮者なのである。コンマスさんも念入りに音合わせしていただけあって、序曲のアタマから澄んだ和音が響き、アンサンブルもピッタリ。強弱のメリハリも十分と、なかなか聴かせる音楽作りをしている。オペラの国の指揮者だけあって、エンターテイメント性に溢れる、楽しい演奏だ。もちろん、オーケストラの音色もイタリア風。透明でふくらみのある和音を聴かせる弦、明るく伸びやかな金管、自然の息吹のような素直な木管…。とくに「愛の妙薬」のような喜劇には、この底抜けな明るさがぴったりである。先日の「椿姫」の時と、これが同じオケかと見まがうばかりの、まったく違った素晴らしい演奏だ。それは聴衆にもすぐに伝わったようだ。第2幕が始まるとき、指揮者がピットに現れると早くもBravo!の声が飛んだくらいだ。
 そして、指揮者とオーケストラだけでなく、合唱団も実にうまい。実に楽しげに演技しながら歌っているのに、オケとのバランスも見事だった。さらにバレエの男女4名の踊りも楽しく彩りを添える。そしてもちろん、ソリストだち。
 もともとこのオペラはネモリーノ(テノール)が主役。ロベルト・イウリアーノさんというテノールも初めて聴くのだが、これがけっこう上手い。まず声質が良い。硬すぎず軟らかすぎず、芯があって伸びがある。声量も十分。第2幕の有名なアリア「人知れぬ涙」は、このオペラの最大の聴かせどころだが、しっとりと聴かせてくれた。もちろんBravo!!である。
 そして、ベルコーレ役のマリオ・カッシさん、ドゥルカマーラ役のマッテオ・ペイローネさん、この二人のバリトンもすごくいいのだ。演技なのか地なのか、実に楽しそうにオペラを作っている。ドタバタ喜劇特有の大げさな身振り手振りなのに、わざとらしさかなく自然体。このあたりは日本人には真似のできないところだ。もちろん、歌唱力も十分異常に備わっている。イタリアには、地方都市の歌劇場にも、こういう実力のある人たちがたくさんいるのだなァと痛感させられた(ただし興の乗った時の話。先日の「椿姫」も同じような人たちが出演していたのだから)。
 そして、アディーナ役のデジレ・ランカトーレさん。「愛の妙薬」は、ヒロインは出ずっぱりの割にはアリアなどの見せ場が少ない。その代わり、終始、ベル・カントの装飾の多い歌が続く。過酷で難しい役だと思う。半年ぶりに聴くランカトーレさんの歌声は、相変わらず素晴らしい。コロコロところがるような丸い声や、伸ばす高音は黄金色に輝くような晴れやかなのに力強い声、しっとりとした艶のある声など、見事に使い分ける。オーケストラや合唱の鳴り響く中でも、彼女の声は突き抜けてくる力も持っている。また演技者としても魅力的だ。「愛の妙薬」のようなドタバタ喜劇的なオペラにふさわしく、身振りや表情など、まさに「喜劇的」に演じでいる。怒ったり、嫉妬したり、あきれたり、というようなちょっとした仕草や表情が豊かで、1列目で観ていると、細やかな演技に気を使っているのがよくわかる。第2幕最後のアリア「受け取って」は切ない恋心を、しっとりと、それでいて明るく歌ってくれた。当然、Brava!!である。続くアディーナとネモリーノの二重唱の熱演が、観客の笑顔を誘う。本日一番の拍手とBravo!!の嵐に、ドラマの途中にも関わらず、観客に投げキッス!! ランカトーレさんのチャーミングなステージさばきが、皆を笑顔にしてくれるのだ。

 今日の「愛の妙薬」は、「こういう日もあるんだなァ」というくらい最高の公演だった。世界の一流劇場というわけでもなく、指揮者や出演者もほとんどが無名の人ばかり。たった一人のスター歌手で客集めをしているような状況。事実、今回が2度目の来日となるベルガモ・ドニゼッティ劇場の公演チケットはあまり売れなかったようだ(最後はダンピングもあった)。先日の「椿姫」でやっぱりねェ、と思った。ところが一転、今日の公演の素晴らしさはどうだろう。何よりも観客の反応が全然違っていた。終演後、帰途に着く観客たちが皆ニコニコしているのだ。オペラはクラシック音楽を基盤にした総合芸術である。芸術的であると同時に文化的・哲学的なものだ。一方で、オペラはヨーロッパの代表的な娯楽でもある。今日の「愛の妙薬」は、そのことを改めて知らしめてくれたように思う。観客は、高度な技巧を披露する歌手たちに喝采し、軽妙な演技に微笑み、終わってみれば皆幸せな気持ちになった。非常に楽しい一夜を過ごすことができ大満足だった。もちろん、その背景には演じている側の技量が大きく関わっているに違いない。オーケストラの音色も良かった。指揮者の力も大きい。歌手たちは皆うまかった。出演者側も皆楽しそうだった。観客も楽しかった。今日は、東京文化会館にいた人が皆楽しかった、最高のオペラだ(今日の「愛の妙薬」を芸術的でなく精神性が低いなどと批判する人がいたら、それは野暮というものですよ)。

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