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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/6(火)霧島国際音楽祭2013/東京公演/一夜限りのスーパー・オーケストラが『ワルキューレ』第1幕を快演

2013年08月10日 00時51分14秒 | クラシックコンサート
第34回 霧島国際音楽祭 2013 東京公演/キリシマ祝祭管弦楽団

2013年8月6日(火)15:00~ 東京オペラシティコンサートホール 特別S席 1階 10列 2番 4,500円
指 揮: 下野竜也
ソプラノ: エカテリーナ・シマノヴィチ(ジークリンデ)*
テノール: アレクセイ・ステブリアンコ(ジークムント)*
バス: パーヴェル・シムレーヴィチ(フンディング)*
管弦楽: キリシマ祝祭管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン: 交響曲 第1番 ハ長調 作品21
ワーグナー: 歌劇『ニーベルングの指環』第1夜「ワルキューレ」より第1幕*
      〈演奏会形式/日本語字幕付き〉

「第34回 霧島国際音楽祭 2013」は7月15日から8月4日まで、鹿児島で数多くのコンサートや教育関係のプログラム等、様々なイベントが開催された。その集大成となったのが8月1日に宝山ホールで開かれたキリシマ祝祭管弦楽団によるコンサートである。音楽祭に参加した演奏家ならびに講師陣の多くが参加した一夜限りのキリシマ祝祭管弦楽団による特別コンサートだ。そしてそのメンバーの多くが東京に帰ってきて、こちらも一夜限り、同プログラムの東京公演が東京オペラシティコンサートホールで開催された。

 実は鹿児島は音楽を聴きに行くにはあまりに遠く、この音楽祭のことはまったく念頭になかった。ところがつい先日、友人のKさんがこの東京公演のことを知らせてくれ、しかも直前割引料金のチケット販売についても情報をくれた。あわててすぐにチケットを取った次第。したがって席の位置は1階10列(ステージ拡張のため実際は8列目)の左側壁寄りという、普段あまり座ることのないような席だが、お値段が相当安くなっているので、不満どころか良い席が残っていてくれて大変感謝しているといったところだ。

 教育プログラムを中心とした「霧島国際音楽祭」の主旨は、距離が離れているということと、音楽を聴くだけの立場である私たちにとっては、あまり強く意識に昇ることはなかったかもしれない。今回で34回を数える「霧島国際音楽祭」は、地元には定着して長い伝統を持つ、かなり充実した内容の音楽祭なのである。そしてその東京への引っ越し公演は、じつに14年ぶりということだ。だから私たちが見逃していたのもやむを得ないことだろう(若干のPR不足もあったかも)。
 そして今日の東京公演を行う「キリシマ祝祭管弦楽団」は、国内外の精鋭を集めた、スーパー・オーケストラなのである。コンサートマスターはローター・シュトラウスさん(ベルリン国立歌劇場第1コンサートマスター)と藤原浜雄さん(元読響ソロ・コンサートマスター)が務め、ヴァイオリンには小森谷 巧さんや鈴木理恵子さん(ふたりとも読響のコンサートマスター)らに加えて、何と川久保賜紀さんまで加わっている(川久保さんの肩書きは「チャイコフスキー国際コンクール最高位」)。他にも主要オーケストラのコンサートマスターや首席奏者がズラリと並ぶ。ヴィオラにはの店村眞積さん(元N響首席)や篠崎友美さん(新日本フィル首席)など。チェロには田中雅弘さん(都響首席)や菊地知也さん(日本フィルソロ奏者)らに加えて受講生側の上村文乃さんの姿も(終演後にちょこっとご挨拶させていただいた)。コントラバスにはお馴染みの吉田 秀さん(N響首席)。その他、木管・金管・打楽器にも、主要各オーケストラの首席クラスがズラリと並んでいる。とにかく、すごいメンバー。このメンバー表を見て、即決で聴きに行くことを決めたのである。
 で、何を演奏するの? と見たら、下野竜也さん(鹿児島出身)の指揮で、ベートーヴェンの交響曲第1番と、ワーグナーの『ワルキューレ』第1幕を演奏会形式で、となっていた。3名の歌手はゲルギエフさんが推薦したというマリインスキー劇場のソリストたち。今年はワーグナー・イヤーということで、とくに『ワルキューレ』の演奏が目白押しになっていて、ワーグナーが苦手な私でも何回かは聴くことになっている。今日が幕開けになってしまった。
 というようなわけで、このスーパー・オーケストラはいったいどのようなサウンドを聴かせてくれるのか、期待に胸を膨らませて会場に入った。

 東京オペラシティコンサートホールのロビーで、いきなりこの音楽祭の音楽監督、堤 剛さんとすれ違う。見れば他にも知った顔の演奏家の方たちがロビーで普通にくつろいでいる。何やらただならぬ雰囲気・・・・。
 そうこうしているうちに、今度は一緒に来ていた友人のRさんが腰が痛くて歩けなくなり、車椅子を借りてきたりして大騒ぎ。こちらは別の意味で緊張感が高く(?)、というよりは珍道中の様相を呈してきた・・・・(失礼、音楽と関係ないお話しですね)。

 さて、前半はベートーヴェンの交響曲第1番。オーケストラのメンバーが入場してくる。2管編成で弦楽も12型くらいの小編成だが、メンバーの顔ぶれがやはりすごい。コンサートマスターは藤原さんが受け持つ。第1ヴァイオリンの第3プルトが小森谷さんと川久保さんという超豪華メンバーである(鹿児島の時とはメンバーが変わっているのかもしれない)。
 下野さんが登場して曲が始まる。下野さんの指揮ぶりは、いつもの通り、明確なリズムを刻み、キレ味が鋭く、メリハリが効いている。そしてオーケストラの音が・・・・何てキレイなのだろう。弦楽の澄みきったアンサンブルは、ドイツのオーケストラなどとは方向性の違うもので、緻密で繊細かつ力感に溢れている。いわば Made in Japan というべきか。これだけ個性的な強者が集まっているのに、驚くべき集中力で完璧なアンサンブル。まさに一級品とはこういうものなのだろう。もちろん、木管・金管のクオリティも極めて高く、前半のベートーヴェンを聴いただけで、もう大満足であった。本当はS席=7,000円なのに、国内オーケストラの定期会員なみの割引金額で、このような素晴らしい演奏を聴けるなんて、今夜はツイている、としかいいようがない。
 前説が長かった割りには肝心の演奏に関するレビューが短くて申し訳ないが、とにかくオーケストラのサウンドが、スゴイすごいという感激でいっぱいで、細かいことはあまり覚えていないくらいなのである。

 後半は『ワルキューレ』第1幕。会場が東京オペラシティコンサートホールなので、まず2階・3階のバルコニー席は一番ステージ側のブロックとPブロックには客を入れず、パイプオルガンの前に横位置の字幕装置が置かれていた。
 ステージいっぱいに展開したオーケストラは、3管編成+16型以上の弦楽5部、ホルン8+金管多数、ハーブ4、打楽器多数・・・。さすがにワーグナーの楽劇だけあって、ものすごい編成だ。この曲では、オーケストラのメンバーにはマスタークラスの受講生も含まれているようだ。コンサートマスターはローター・シュトラウスさん。ソリストは指揮者を挟んでコンサートマスターの前にテノールのアレクセイ・ステブリアンコさんが、対向側にソプラノのエカテリーナ・シマノヴィチさんが立ち、バスのパーヴェル・シムレーヴィチさんは出番近くになって上手(かみて)から登壇した。
 さて、演奏の方はというと、とにかくオーケストラのサウンドがスゴイ。異次元の素晴らしさだ。16型以上の大編成の弦楽5部は一糸乱れぬアンサンブルを聴かせ、その音色の澄みきっていることといったら、信じがたい美しさ。弱音の繊細な響きから強奏時の分厚い音圧まで、均質の音色でダイナミックレンジが広い。木管の各パートは高原の爽やかな風のごとく、楽器本来の色彩が非常の明瞭に出ている。にもかかわらず、くっきり明瞭な音がブレンドされると非常に優しくマイルドになるのである。金管はといえば、ホルン8本とトロンボーン、チューバなどが全合奏で豪快に鳴り響いたときの和音の美しさが特筆物だった。全員が、同じ音色で吹いているような素晴らしいアンサンブルは、あたかもパイプオルガンのような荘厳な響きがした。
 もちろんオペラの伴奏になるわけだから、歌唱のある部分はぐっと抑えられてしまうが、そんな弱音時の音色とアンサンブルの美しさが素敵だし、またオーケストラが全合奏で鳴る時の、これほどキレイな音による大音響は、滅多に聴けるものではない。いやはや驚愕するばかりである。
 一方で、3名のソリストによる歌唱は、ジークムント役のアレクセイ・ステブリアンコさん(テノール)がいささか不調で、歌唱がふらついていた。ステージ上で咳をしたり水を飲んでいたりしたから、風邪でもひいていたのか、ちょっと残念にことに。だが、時折聴かせる立ち上がりの鋭い厚みのあるテノールは、さすがにマリインスキー劇場仕込みで大物の片鱗を見せていた。ただ、63歳という年齢からくりイメージがジークムントの役柄にはキビシイのではないだろうか…。
 また、ジークリンデ役の エカテリーナ・シマノヴィチさん(ソプラノ)は、なかなか体格も立派で(失礼)、ワーグナーのソプラノはこうでなくっちゃ、という押し出しの強い歌唱を聴かせてくれた。まさにドラマティック・ソプラノという感じ。コンサート形式とはいえ、進行するにつれて感情が変化していく様が歌唱に込められていて、表現力も豊かである。聴いていた席位置の関係もあるが、シマノヴィチさんはちょうどこちらの方を向いて歌ってくれたので豊かな声量を真正面から受け止めることができた。対してステブリアンコさんは横を向いて歌うような位置関係にあったので、余計に物足りなさを感じたのかもしれない。
 フンディング役のパーヴェル・シムレーヴィチさんは、出番は少ないものの、足元の方から響いてくるような豊かな声量のバスが素晴らしい。かなり印象に残る存在感を発揮していた。
 このように、素晴らしいスーパー・オーケストラと充実した歌手陣(?)による『ワルキューレ』は、かなり質感の高い演奏であったことは確かだ。ただ少々気になった点もある。オーケストラの抜群のアンサンブルをまとめ上げたのはもちろん下野さんの手腕だが、あくまで抜群のリズム感と緻密な構成の音楽つくりで、とてもシンフォニックなものである。ただ、今回のように歌手が不調だったりした場合、状況に応じてオーケストラをコントロールしていく柔軟性が今ひとつという感じであった。オペラならではのしなやかさがもう少しあれば、「完璧」と言えたのだろうが・・・。おそらくこのオーケストラなら、どんな指揮者にもピタリと合わせられるに違いない。

 今回の「霧島国際音楽祭」では、参加が予定されていたソプラノのアンドレア・ロストさんが急病で来日できなくなってしまい、彼女の公演は中止になってしまった。同時に横浜で1夜限りのリサイタルが予定されていて、そちらのチケットは取っていたのに中止となってしまい残念であった。そのような経緯もあったのだが、14年ぶりの東京公演が実現して、しかもそのスーパー・オーケストラを聴くことができて幸せであった。
 このコンサートのことを教えてくれたKさんがおっしゃるには、私たちは直前割引の特別S席=4,500円で聴かせていただいたので、この秋10月に来日するルツェルン祝祭管弦楽団の公演(S席=45,000円)の10分の1。それでこんなに素晴らしい演奏が聴けるのなら、キリシマ祝祭管弦楽団を10回聴きたい、と。まったく同感である。それほどインパクトのあるコンサートであった。

 オマケの感想。キリシマ祝祭管弦楽団に参加していた川久保賜紀さん。地味な黒のお衣装でオーケストラに乗っているのは初めて見た。あまりに素晴らしい弦のアンサンブルだったので、彼女らしい音を聴くことはできなかったが、曲が終わってカーテンコールの時の立ったり座ったりするタイミングが他の人よりワンテンポ遅れる。オーケストラに慣れていないマスタークラスの受講生みたいで面白かった。何といってもヴァイオリン組では完全なソリストは川久保さんただ一人だったのだから・・・・。

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